捏造物語 > リオウ×姫



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Broken-Hearted

断れば殺されるかもしれないと、あのときの私は確かに思っていた。
完全な優位に立っているという自信――リオウの声は、嘲りに満ち満ちていた。
いつも穏やかに微笑んでいた優しい宮廷楽士――こんな顔もできる人だったなんて、にわかには信じられなかった。
月が冷たく輝く夜、アーデンで出会った、あの男の人だった。
『君が欲しいから』――その言葉に続いた『信じてくれますか』という問いは、柔らかい風のようで、それが余計に私を打ちのめした。
涙を堪えるのに精一杯で、いつのまにか、『できるわけがない』などと口走っていた。
揺れる視界の中、リオウの笑みは深まった。どこまでも、どこまでも冷たく。

私の記憶は、一度そこで途切れている。

暗殺の指示は翌日。だから断ったところで、どのみちリオウは私を殺せなかったのだ――そう気づいたのはずっとあとになってから。あのときの私は、恨めしいほどに命知らずだった。
結果だけを見るなら、無難な選択だったのかもしれない。――でも。
リオウがいない、どこにもいない。ただの衝動で、私が遠ざけてしまったから。
それどころか、カインの命を危険に晒してしまった――救いようのない愚か者。
もし取引に応じていたら、どうなっていたのかしら。あなたは今でも、ここにいてくれた? カインと二人で訪ねていけば、笑って迎えてくれた?
色褪せた毎日が、ただ流れていく。



『君が僕のものになってくれれば』――そう告げると姫は、ただでさえ強ばっていた顔を、いっそう歪めた。
『君が欲しいから』――下卑た物言いで本音を吐露したのは、単なる自己満足。
脅迫する輩にふさわしい笑みを保ったまま、僕は彼女に選択を委ねた。
結果は拒絶。薄汚い脅しに屈するには、彼女の魂は気高すぎたのだろう。
緊張の糸が切れてしまえば、作りものの表情は崩れ去った。
気づくと僕は、腹の底から笑っていた。

拒絶されても驚きはしなかった。
もともと結果は、断られるか断られないか、ふたつにひとつだったのだから。
だけど僕は、わずかながら期待してしまっていた。
手応えを感じていたから――上手く取り入っていると。
憎からず思っている相手となら、大切な弟君のためと割りきり、取引に応じるかもしれないと。
あの拒絶は、思いあがっていた僕に下された鉄槌だった。
優しい光を恐怖で汚した無頼漢に、これ以上、似つかわしい結末はない。

指示は翌日、建国祭の場で、派手に――口封じの殺害を仄めかしはしたが、あのときの僕に、姫を殺すという選択肢はなかった。
もしかして、聡明な彼女は気づいていたのだろうか。自身の変死は王宮内に警鐘を響かせ、式典の中止につながるかもしれないと。
その上で拒絶したのだとしたら――。
弟君を、捨て身で守るつもりだったのだとしたら――。
永遠に続くことはないと、わかっていた日々。
築きあげた信頼も、彼女が僕に向けてくれていた好意も、すべて自分で打ち砕いた。
彼女は決して僕のものにはならない――眠らせた姫を彼女の部屋に運んだあとは、朝がくるまでぼんやりと、自室の床に座りこんでいた。
なにをするでもなく、ただぼんやりと。


―end―

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