通りがかった黒装束の男は、けたたましい赤子の泣き声に足を止めた。
見やれば、物置らしき建物の影に塊。薄汚れた女が崩れ落ちていた。泣き声はその腕の中から聞こえてくる。
男は歩み寄り、つま先で女の額を小突いた。脇にしゃがんで頬を軽く叩き、首に指を当てた。
やがて男は乱暴に女の腕をほどくと、産着ごと赤子を抱いて立ちあがった。
月明かりが泣き続ける赤子を照らす。その手にある細長い棒に男は目を留め、赤子から取り上げようとした。
だが赤子はそれを手放さない。男は鼻を鳴らし、小さな手ごと、棒を傾ける。
中は空洞。おそらくは笛。側面には、記号のようなものが二つ、刻み込まれていた。
―end―