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Passionate Skiers

(Desire)

「あっ……はっ……ぅうんっ……あぁああっ……」
それまでくぐもった声しか漏らさなかった姫が、途端に苦しげに呻きはじめた。
やっぱりここか――下肢に這わせた手のひらから、少し力を抜く。肉の感触を確かめながら擦りあげる。
「ぃやっ、あっ、ぁんっ、くっ、ぃた、いた、いたっ……」
「これは酷いね。ずいぶん張ってるよ」
「ぅっ、あっ……わか、るの? そういうのっ、ぅうっ」
「うん。これ以上、無理はしない方がいい」
「そんな……ぁ……はぁっ……」
「もっと滑りたい?」
「……っ……」
うつ伏せの姫は、うなだれるようにベッドに顔を埋めた。
二人きりの室内。ベッドサイドのライトが、温泉上がりでほんのり色づいた肌を柔らかく照らしだす。
露わになっているのが足だけというのは実に惜しい……などという雑念は、早々に追い出す。この部屋、今は僕らに明け渡されているが、一応、女部屋だ。
マッサージを再開した。悲鳴に耳を傾けながら、腿の筋肉を揉みほぐしていく。両足の裏側が済めば、次は表側だ。
促され仰向けになった姫は、ライトが眩しいのか、あるいは涙を堪えているのか、両腕で目元を覆い隠す。半開きの唇は、僕が手を動かすたびに荒い息を吐く。
可哀想なことをしてしまった――こっそりと溜息をついた。
右の腿が特に酷い。かなり長い間、コブ斜面の左端でターンできずに立ち往生していたから、その時の疲れかもしれない。
姫とて好きこのんでそんな場所へ上がっていったわけではあるまい。団体行動を乱さないため、必死についていったのだ。
グループでのスキー旅行。今回、初心者はいなかった。どちらかというと技術に自信がある者、無謀な者が多く、ペースは上がりがちだった。
それでも姫は、楽しそうにしていた。
大抵の斜面で堅実な滑りを見せていたし、転倒も一度きりだ。
今日は快晴で山頂からの眺めには恵まれたし、携帯で撮った集合写真を拡大すれば、自然な笑顔の姫がいた。
だがどうやらコブだけは苦手らしい――知っていたら、止めたのに。
あのとき、時刻は午後二時をまわっていた。一人が音を上げればもう一人二人くらい脱落したかもしれない。姫のためなら僕は喜んでその『きっかけ』になったし、あそこなら中級もしくは上級の迂回ルートで合流するという手もあった――後悔してもあとの祭りだ。
姫の足を割り開き、腿の内側に手をかける。シャツの裾から覗く、光沢のある生地の正体は、努めて認識しないようにする。
「明日……街を散歩してみたかったんだけど、この足じゃそれも無理かな?」
「さん、ぽ?」
「うん。お土産も探したいし」
「滑りたいんじゃ、なくて?」
「今日で疲れたから、もういいんだ。どのみち夕方には引きあげるんだし、最終日くらい、君と二人っきりになりたいなって……」
腕の下から僕を見る姫と、視線が絡んだのは一瞬。
「歩く。歩けるわ」
その即答に安堵して、手元に目を戻した。
「嬉しいな。でも辛かったら言ってね。その時はゆっくりお茶にしよう」
「大丈夫。こんなにして、もらって、いるんだもの。きっと明日には治って、る、わ」
「だといいのだけど。……ほかに痛むところはない?」
「ううん、もう十分。本当にありがとう、すごく楽になったみたい」
「それは良かった」
仕上げに数回、ほぐした場所を擦ってから、抱えていた足を降ろした。
さて……どうしたものか。
「ごめんなさいね、こんなことさせてしまって。リオウだって疲れているのに」
「僕はそんなに疲れてないから大丈夫」
「でもさっきは疲れたって……」
「あれとこれは別。姫にとっての甘いものみたいなものだから、心配しないで」
つかのま笑い合う。
だめだ……今ひとつ、収まらない。
マッサージを始めて間もない頃から、あまり堂々と立ち上がれる状態ではなかった。
か細く切ない声は、苦痛からくるものだとわかっていたのに、甘く響いて腹の底がぐらついた。
開かれた足の間。そんな微妙な位置からなかなか出られない。このままのしかかりたいとさえ思ってしまう。
両の手が、間近にある柔肌を名残惜しんでいる。腿から腰へ、そして白いシャツの下へ。こんなときでなければ、触れたいのに。
沈黙を不審に思ったのか、姫が物憂げな目を向けてくる。表情は心なしか不安そうだ。僕の無様な状態は、見抜かれているのかもしれない。
落ち着け――深い呼吸を繰りかえす。
この部屋で、というのはまずい。姫だって嫌だろう。
『用意』もない。女部屋にそんなもの、持参するほど節操なしではないつもりだ。そうだ、この部屋でというのは、まずい。
だいたい、もう無理すべきではないと、さっき僕が言ったのだ。実際に姫の身体はボロボロで、これ以上の無茶は肉離れを引き起こしかねない。なるべく負担のかからない体勢で……などと考えてはいけない。
「次は、二人だけで来たいな」
平静を装って、欲求の解放を先送りにした。救いだったのは、姫が柔らかい笑顔で賛成してくれたこと。
そうだ。次は二人で来よう。晴天率高めで上級斜面少なめのスキー場、設備と食事がしっかりしている宿、できれば温泉つき。林間コースをメインにのんびりと姫のペースで滑って、夜は……。
「……ほかの部屋の様子を見てくるよ」
せっかく鎮まりはじめた欲望が、再燃しかねない想像はしまいこむ。ベッドから降りて、室内履きを引っかける。
「私も行く」と言いかけて苦悶の声をあげた姫を、ベッドに留めて額に口づけて。
「夕食まで一時間はあるから、休めるときにゆっくりお休みよ。……食堂で会おう」
細い肩が隠れるまで毛布を引きあげた。


―end―

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捏造の旋律

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