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Passionate Skiers

(White Love)

コース左端は圧雪されていないから行かない方がいいよと、一言忠告すべきだったかもしれない。
困惑の悲鳴を残し、姫の姿が新雪に消えた。きつめの斜面を、雪煙が転がり落ちていく。
あの倒れ方なら大丈夫だとは思うけど……――すぐさま後続がいないことを確認し、雪面を蹴った。

ほどなくして、姫はコース脇の比較的なだらかな場所に漂着した。
声をかけると元気な返事があったので、まずは途中で取り残された板を回収し、横滑りで姫のもとへ降りていく。
全身雪まみれの姫は僕を見るなり、仰向けのまま肩を竦め、「転んじゃったわ」と笑った。
頭は谷側。板が外れなかった右足は山側――雪だまりにしっかりと引っかかっていた。かなり滑稽……もとい、難儀な状態だ。
そんな状況にありながら、姫は僕が板を持ってきたことに気づくや、平然と感謝の言葉を口にする。
彼女の無事を確認して気が緩んでいたのだろう。不覚にも吹き出してしまった。
慌てて非礼を詫びたけれど、笑いは収まらない。二人分の笑声が静寂を打ち破り、雪景色に溶けていく。
態度を改めるのは早々に諦め、両足の板を外した。姫がややこしい体勢から復帰するのを手伝う。
二人並んで腰をおろし、ウェアやブーツから雪を落とし終える頃には、休憩ムードが漂っていた。

二泊三日、二人でのスキー旅行、中日。
今回の旅行で姫の板を拾ったのは、これが初めてだった。大抵の斜面で安定した滑りを見せる彼女が、派手に転倒すること自体、珍しかった。コブの次は新雪――僕はまたひとつ、彼女の弱点を発見したらしい。
「入った途端にズボッて沈んだのよ、びっくりしちゃった」
「慣れないうちはみんなそうだよ。曲がりにくかったでしょう?」
夕べの吹雪でできた、まっさらの雪面。誰だってシュプールを描いてみたくなるだろう。無邪気に飛びこんでいった彼女を責められるはずがない。
そして、同じような斜面を見つけたら果敢に再戦を挑むであろう、やや負けず嫌いな彼女が愛おしい。
だが怪我はしてほしくない。新雪滑走のコツを聞かれるままに説明したあとは、緩斜面で感覚を掴むことを強めに勧めて話を締めくくった。
姫は束ねていた髪を解き、再び仰向けになる。
「ふふっ……冷たい」
「大丈夫? 寒くない?」
「まだ平気。気持ちいいわ」
新雪に埋もれ、姫は満足そうだ。ずいぶんと無防備な笑みを浮かべている。
寒くないというのは、嘘や強がりではないだろう。真っ白な肌は頬の辺りだけ薄赤く、唇はさらに血色が良い。まるで湯上がりのようだ。
「……すごいわ、真っ青……」
感嘆の吐息がやけに艶めかしく聞こえる。不意に身体の奥が熱を持った。
気を紛らわそうと顔を上げれば、雲ひとつない青空が広がっていた。
遠くから微かに、雪山定番のBGMが聞こえてくる。木立の中からは鳥の囀り。
平日の昼前。見渡す限り無人の空間。
きっと誰も来やしない――キスぐらいなら構わないだろうという気になり、額に上げていたゴーグルをむしり取った。白銀に抱かれた姫へと視線を落とす。
あどけない表情はそのままに、煌めく双眸が僕を捕らえた。
誘っているように見えなくもない。けれど彼女にそんなつもりはないだろう。単なる天然。
案の定、僕が両脇に手をつけば、姫のまなざしは軽い抗議の色を帯びる。……受け流して、唇の温度を探りにかかった。
冷えきった表層……裏腹に中は温かく、そして柔らかかった。
ぴたりと唇を閉ざしていた姫が、ふっと息を漏らす。
強ばりの解けた身体を、雪から掻きだすようにして抱きしめた。
凍てつく寒さの中で見つけた尊い温もり。僕だけの宝物。
もっと触れたい――両手のグローブを鬱陶しく思いはじめたとき、背後を猛スピードで滑走音が駈けぬけていった。

姫が機嫌を損ねなかったことだけが救いだった。


―end―

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捏造の旋律

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