「まるで、映画のワンシーン」

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体の水分が蒸発しそうな、じりじりと照らす太陽の光は眩しすぎるほどで、ジ
ョーンズは思わず目を細めた。
昼間の太陽は苦手だった。
ぎらぎらと刺すように光り、その熱で自分たちの体の水気を奪ってしまうので
はないかと思うからだ、

いつもなら、行き先を、進む方向黙って見ているだけだった。
ところが、今の彼は違う。
船尾に立ち、とっくに見えなくなった筈の陸へ、彼は視線を向けていた。
そんな彼の様子を、乗組員達は遠巻きにして眺めていたが誰も声をかけようと
する者はいない。
一人の船員が声をかけたが、ジョーンズは不機嫌そうに睨んだだけで、返事さ
えしなかったのだ。
理由は、わかっているのだ。

「買い物って、何が必要なの」
今朝方、港の近くに船を停船させると、ジョーンズは女に買い物をしてくるよ
うに言いつけた。
「食い物だ、何でもいい、好きなものでも買ってこい」
そう言って、女を船から降ろしたのだ。

金も、少し多めに渡しておいた。
これで、後はどうなろうと知るものかという気分だった。
死のうが、生きようが、自分には関係ない。
女は疑いもせず船を降りた。
港に向けてボートがゆっくりと動き出すと、自分に向かって手を振っていた。
何かを叫んでいるようだった。
よく聞き取れなかったが、煙も買ってくると言っていたような気がした。

置き去りにされたと知ったら、女はどう思うだろうか。
自由になったと喜ぶだろうか、それならばいい。
珍しく、自分にも人間の心が残っていたのだと実感できる。
海賊には珍しく、化け物には似合わない偽善者のようなことをしたのだと笑い
話ですませることができるのだ。

夕食がわりにラムを一杯飲み、ジョーンズはオルガンを弾いていた
以前は、永遠に会えなくなった女のことを思い出して、弾いていた筈だった。
それなのに、今は置き去りにした異国の女のことを考えていた。
妙な気分だった。
気にする必要はない、あの女はもうこの船には戻ってこないのだから。

その夜、夢の中で彼はディビィ・ジョーンズと自分を呼ぶ女の声を聞いた。
カリプソではないと、彼は思った。
何故なら、声が泣いているよう思えたからだった。


夜明けと共に船員達の驚きの声で目を覚ました彼は驚いた。
甲板に出ると、ダッチマン号の後ろに見えるのはブラック・パール号だった。
「若造めが」
忌々しいといわんばかりに呟き、ジョーンズは望遠鏡を取るとパール号の甲板
にジャック・スパロウの姿を探した。
「奴め、何しに来たんだ。借りを返すつもりか、いや」
そんな殊勝な男じゃないとジョーンズは頭をを振った。
再び望遠鏡を覗くが、このとき、彼は驚くべきものを見た
女が、ジャックの隣には見覚えのある女がいたのである。
そして、その女の反対皮にはヘクター・バルボッサが立っていて、女に話しか
けていた。
どういうことだ、何故、置き去りにしてきた女がパール号に乗っている。
理由がわからず、頭が混乱した。
女は、ジャックに話しかけている。
しばらくしてボートが降ろされ、バルボッサと女が乗り込んだ。
そして、こちらへ向かってきた。


「ただ今」
そう言って女はダッチマン号に戻って来た。
しかも、出て行ったときとは違う、異国の着物を着ていた。
その格好は、どうしたんだとジョーンズが尋ねると、ヘクター・バルボッサと
いう男に買って貰ったのだという。
「大変な目に遭ったのよ、もう少しで、後ろの穴まで犯されるところだったん
だから」
あまりにも、あっけらかんとした、その言い方にジョーンズは言葉を呑み込ん
だ。
荒くれ男達から見れば、こんな女でも構わないらしい。
「酷い目に遭ったのか」
「囲まれてね、服は破られるし、怖かったけど、必殺技を使ったわ」
ジョーンズは驚いた。
「あたしに何かあったらダッチマンのディヴィ・ジョーンズが黙っちゃいない
わよ、サメの泳ぐ海に投げ込まれる事を覚悟するのねって」
ジョーンズは思わず口をあんぐりと開けた。
「でもね、皆、信用しないのよ。嘘つき呼ばわりされそうになったの、そのと
きね、偶然にも運命の女神が微笑んだの、彼、ジャックが通りかかって、その
女は嘘なんかついてないって男達に言ってくれたの」
嘘が倍に膨らんだ、ジョーンズは、ぎりりと歯ぎしりをした。
そんな様子を女はじっと見ていたが、ぼそりと呟いた。
「いいじゃない、人を置いてきぼりにしようとしたくせに」
ジョーンズは驚いたように女を見た。
知っていたのかと聞くと、当然でしょうと女は答えた。
好きなものを買えなんて、気前の良すぎる台詞は怪しすぎるし、それに様子が
変だったわと、笑いながらジョーンズを見た。
「ボートに乗ったあたしを見てた顔、らしくなかったから、もしかしてって思
ったけど、正直・・・」
背中を向けたので、言葉は最後まで聞こえなかった。
酷いことをしたような気分の悪さにジョーンズは黙り込んだ。
ところが、彼女のはと言えば、そんな彼の胸中を知るよしもなく。
あのときは映画のタイタニックのシーンを思い浮かべてしまったわ、これは小
説のネタになるなどと、暢気なことを考えていた。




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