「偶然、必然の出会い」

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ティッシュ配りのアルバイトは年末で終わってしまった。
だからといって暇、なわけではない。
正月が開けると同時にデネブはゼロライナーの中の大掃除を始めて、中をピカ
ピカに磨きあげた。
七草がゆを作って、侑斗に食べさせると先の事を色々と考えた。
仕事を探さなければいけないと思い、雑誌やフリーペーパーなどを探してみる
が、イマジンというところが引っかかるのか、面接に行っても落とされてしま
うことが多い。
しかし、捨てる神があれば拾う神もある。

「オデブちゃん、これなんかどう」
カメタロス・・・じゃなかった、ウラタロスが探してくれたのは最近、若い子
から、そうでない女性の間で流行っている喫茶店の○○だった。
若い子から、妙齢、年寄りがお嬢様と女性に傅いて優雅な一時を提供する喫茶
店の従業員の仕事である。
勿論、執事という枠にとらわれることなく、お客さんに甘えたり、冷たい態度
を取ったりする喫茶店もあるらしい。
しかも、最近はイマジン専門の喫茶店もあるというのだ。
「オデブちゃんなら、ピッタリだと思うよ」
ウラロスの言葉に、行ってみようかとデネブが考えたのは無理もなかった。

「イマジン喫茶、何それ」
「まったり、ほっこりできる疲れた女のオアシス、最近できたらしいんだけ
ど、なかなかの人気らしいわ」
そう言って、目の前に差し出された一枚の紙を未佐緒はじっと見た。
しかも、よく見るとおまけのクーポンまでついていた。
「明日までなのよ、行って来なさいよ、そいでもって、気持ちよく発散してく
るのよ、日頃のたまったストレスをね」
別にストレスなど溜まってないわよと言いかけた未佐緒だったが、友人の言葉
に黙り込んでしまったのは手渡された一枚のカードのせいだった。
「限定特別サービス券」
これは何、不思議そうな顔で未佐緒は友人を見た。
「大人女性の為の特別サービス券、これを持っていると耳掃除やマッサージを
受けることができるのよ」
「イマジンが、そういうことをしてくれるの」
「そうよ、でも十分間だけだからね、それ以上して欲しかったから別料金。つ
まりこのお試しでよかったら顧客を掴もうというサービスね」
はあっ、感心したような驚いたような顔で未佐緒はカードと手渡されたペーパ
ーを受け取った。

仕事が終わると、未佐緒はペーパーを頼りに店を探し回った。
苦労したのは、入り口の看板が小さくて見つかりにくいことだった。
地下へと降りるようになっていた階段は狭くて、何だか、妖しい店という印象
を感じさせる。
入った瞬間。
「いらっしゃいませーっ、ゴーン」
大きなドラ、いや、鐘の音に驚いていると犬か、狼の頭をしたイマジンに席を
案内された。
「注文はなんだ」
コーヒー、紅茶、何か、お勧めがあるのだろうか。
飲み屋でないので、まさか適当にアテとビールをというのも変だ。
だが、渡されたメニューを見て未佐緒は驚いた。
「焼き鳥と生ビールのセット、680円」
という文字が目に入ったのだ。
しかも、よく見ると普通の喫茶店のようなメニューも揃っている。
いわゆる、なんでもありという感じなのだ。
「このセットをお願いします」
「よっしゃあ」
イマジンのかけ声に未佐緒はびっくりしながら周りを見まわした。
客は殆ど女性である。
高校生のような制服姿の女の子もいれば、OL、妙齢の女性も多い。
しかも、女性客によってはイマジンはべったりと寄り添うように座って肩など
を抱いている。
ホストクラブかと思ってしまうような感じだが。
大きな声で、馬鹿笑いをしている女性もいれば、くすくすと楽しそうに含み笑
いをしている女性もいる。
楽しそうな雰囲気に未佐緒はあっと溜息をもらした。
そのとき、おまたせしましたと注文した料理が運ばれてきた。

ササミには練り梅がたっぷりとのせられ、大葉で巻かれていている。
砂ずり、皮、赤ひもなど、食べてみると味はなかなかである。
外はまだ寒いというのに、暖房のきいた室内で、キンキンに冷えたビールをご
くりと飲むと未佐緒は、ぶはーっと息をはいた。
(う、うまーい)
ごくごくと中ジョッキをからにするのに数分もかからなかった。

「あの、おかわりをお持ちしましょうか」
ジョッキをテーブルに置いたとき、男の声がした。
顔をあげると黒い顔のイマジンが目の前に立っていた。
「お願いしま・・・す、んっっ」
一瞬、驚いた顔で未佐緒は、そのイマジンを見た。
見た事があると思ったのも無理はない。
ティッシュを配っていたイマジンだった。

黒いイマジンは、甲斐甲斐しく店の中を動き回っている。
他のイマジンからデネブーッと呼ばれて、はいはいと忙しそうだった。
(デネブって名前、確か星座にあったわよね、熊、蛇、いや、鳥だったかな)
気になって、ちらと視線を向けてしまう。
(話がしたいけど、忙しそうだし)
そう思ったとき、一人のイマジンが近づいてきた。
長い手足、いや触手をうねうねと動かす、その姿はまるで蛸、烏賊である。
海からやってきたのだろうか、このイマジンは。
「退屈そうだな、座ってもいいか」
断る理由もなかった。
頷いてしまったのは、そのイマジンの声があまりにも良い声だったからだ。
(弱いのよね、オヤジというか渋声って)
最後の焼き鳥に手を伸ばし、ビールに口をつけようとしたとき。
「ここに来たのは初めてだろう」
と声をかけてきた。
頷くとイマジンはぴたり、いや、ぴったりと体を密着させるように擦り寄って
きた。
「俺はクラーケンだ、よろしくな」
(なっ、何、この態度、距離感)
驚いて、隣イマジンを見ようとするが近すぎて顔が向けられずにいた。
だが、驚かされたのは次の台詞だった。
「なかなかいい女だな」

酔いがさめてしまった・・・。

もしかして、いや、そうでなくても口説いていたのか、イマジンも人間の女を
ナンパするのだろうか。
普通なら、そんな誘いに引っかかることはない。
いや、もしかしたら自分は断言できないかもしれない。
店を出た後すぐに帰ろうと思いつつ、ふと足を止めたのは漂ってくる匂いのせ
いだった。
「ラーメンの屋台か、そういえば久しぶりよね」
足が自然と向いてしまうのは無理もなかった。

「へい、ネギソバの大盛りね」
ラーメン屋の店主はイマジンだった。
しかし、注文して目の前にあっというまに出されたソバの味は抜群だった。
(う、うまい)
グルメ記事を書いてという話があったなあ、この屋台を紹介していいかな。
未佐緒は目の前のイマジンに声をかけようとした、そのとき。
こんばんわと、一人の客が入って来た。
(んっ、えっ)
ちらりと隣を見ようとしたが慌てて前を向いたのは驚いたせいだった。
黒イマジン、先ほどの店でテネブと呼ばれていたイマジンがいたのだ。
「お隣、失礼します」
「はっ、はい」
思わず顔を上げて返事をすると向こうも気づいたようだった。
寒いですねえと声をかけられ、そうですねえと頷く。
そして、未佐緒は自分がらしくもないほど、緊張していることに気づいた。

(なんか変だわ)
理由も分からないまま、そばをずるずると啜るのだが、そんな自分を黒いイマ
ジンがちらちらと見ていることに彼女は気づいてもいなかった。




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