- 473 :204@玉砕覚悟:04/02/13 23:47 ID:yyEl0BAP
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タイ、ロアナプラ7月。雨季の最中、スコールが汚れた街を洗う季節となった。
スコールは一時間程度で止むが、蒸し暑い季節だ。
西日がホテル・モスクワの事務所に差し込む。
最も暑い暑気よりはましだが、太陽の光はじりじりと部屋を焦がし
ボリスは部屋のブラインドを調節して影をつくる。
「まったくやり切れない季節になったな、同志軍曹。
我々の行く場所は寒すぎるか暑すぎるかのどちらかだ。
この季節さえなければロアナプラもまあまあ良い所なのにな」
バラライカはバハマ産の葉巻に火を付ける。
「まったくです、大尉殿。それに加え乾きすぎするか、湿りすぎるかの場所しか憶えておりません」
同志軍曹とロシア語で呼ばれた壮年の男は、バラライカの机の横に立ったままで応えた。
楽な姿勢であったが、一定の緊張感を保った立ち方は彼が兵士である事を物語っている。
「戦争はそんな土地に芽生えるのかもな」
バラライカは葉巻の煙をはく。高級なタバコの葉の香りが事務所を満たした。
紫煙がゆっくりと天井扇の旋回に巻き込まれていった。
- 477 :204@玉砕覚悟:04/02/15 00:37 ID:sbxKjC7u
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「蒸すを除けば、今日は穏やかな午後のお茶という算段でもいいくらいだ軍曹。
で、個人的な話があるとか。お前が珍しいな、何事だ」
「ええ‥」
ボリスが珍しく言い淀む。肩肘をついて葉巻を吸うバラライカは不審に思う。
妙な緊張感を感じた。造反か?まさかとは思いつつ、バラライカは銃の在処を確かめる。
「これは本当の墓場まで持っていこうと思っていた事です、大尉殿。
しかし一度は申し上げておこうと決めました。私は貴方をお慕いしているのです‥」
「‥それはどういう意味か?」
「個人的にという意味です、大尉殿」
- 478 :204@玉砕覚悟:04/02/15 00:38 ID:sbxKjC7u
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この部屋は空調がきいているから、外の空気よりは格段に過ごしやすい。
しかしボリスは冷や汗が浮くのを感じていた。空気は重く、西日に照らされて濁っている。
「‥そんな感情はホテル・モスクワ、しいては戦争に必要ない種類の物だ。
忘れたまえ、同志軍曹。私も今の君の言葉は忘れる。今日は充分に休め」
「はっ!」
ボリスは軽く敬礼を返して、部屋を退室しようとした。
「男と女の絆は世界で一番脆いモノよ。
だから私と貴方がそんな絆で結ばれる訳にはいかないの。
わかって頂戴、ボリス‥」
事務所の部屋を出ようとドアノブに手をかけたボリスの背中に
バラライカの言葉がなげかけられた。
ボリスはそのまま振り向いてバラライカを見たが、彼女は椅子に座って背中を向けたままだった。
葉巻の紫煙だけが、空気の中を動いて天井にのぼっている。
「わかっております、大尉殿」
ボリスはそのまま部屋を出た。
完