629 :名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 05:37:54 ID:p+z/+EE1

安くてボロい宿の一室で女は天井を見上げ、思索していた。
何で、まだ隣りで寝ている男と関係を続けているのだろうかと。
あの災難な仕事から二十日が経った。
仕事の依頼主が死亡したのと仕事自体が失敗した所為で報酬はパア。
(隣で寝ている男の話では、カウボーイ野郎の親玉が病院で射殺され、カウボーイ野郎もロアナプナ沖合で鮫に半分囓られた状態で発見されたそうな)
死ぬような思いと激痛を味わった挙げ句、こうして療養中である。
と言うか、あの腐れアマと腐れ尼。何時か尻の谷間四つに増やしてやろうと密かに誓っている。
全く世の中、思うままにならない。尤も、思うままにならないのは仕事だけではない。
彼女にとっては、隣りに眠っている男に関してもそうだ。
この街には正直相性が良いとは言えない殺し屋。
死にかけの同業者なんざ見捨てるのが普通なのに、わざわざ助けて治療を受けさせるような大馬鹿。
正直、当惑の連続だった。何か、深遠な企みがあるのか。それとも、単純に馬鹿なのか。
彼女は二十日間の付き合いで見切っていた。正真正銘、馬鹿だ。
そんな大馬鹿野郎に、やっと絶対安静から抜け出した身体を許した自分も大馬鹿だろうけど。
あちこちズキズキ痛む身体を宥め宥め、「無理をするな」「怪我をした女を抱く趣味は無い」等と抜かす馬鹿を押し倒して。
「全く、訳解らないですだよ」
闇社会での仕事は決して短くないし、殺した人間の数も2桁をとっくに超した。
まともな人間性なんてもんは、過去と言う屑籠に放り込んだ筈だった。
しかし、自分自身の心は、彼女が知るよりも深淵な場所だったらしい。
いまだ、理解出来ない部分を秘めていたようだ。それを、隣の馬鹿との交流で彼女は認識した。
「全く、馬鹿に付き合いますなんて禄でもないです。本当に割に合わないね」
割に合わないなら、さっさと縁を切るなりナイフを投げつけるなりすればいい。
少なくとも、これまではそうして来た。筈なのだが……。
「はぁ……割に合わないですだよ」
溜息と共に、激しい全身運動の為にギシギシと痛む全身を傾けて隣を見てみる。
何時の間にか、寝間着を着込んだ馬鹿は、こちらに背を向けて寝入っている。
自分が闇医者で手当てを受け、寝床で伏せている間にこの街で仕事を始めたらしい。
最初は散々だったようだが、自分のアドバイス(戦闘時の「名乗りと口上」を省略する)を聞き入れさせてからは、そこそこ成果が上がってるみたいだ。
この分なら、彼女の傷が完治し、リハビリが終われば……。
そこまで考えて、彼女は苦笑した。有り得ない事に思考が及んだからだ。
「こんな馬鹿たれと組んで仕事? 冗談きついね」
にゃははと小声で笑い、楽な姿勢に身体を戻して毛布の中に身体を押し込んだ。

それから暫くして、ロアナプラに珍奇な仕事人コンビが姿を現すのだが、それはまた、別のお話。


649 :名無しさん@ピンキー:2006/12/05(火) 19:29:50 ID:ilzYmYBc

心地よい潮騒のさざめきの中で、レガーチは意識を覚醒させた。
「あぁ〜、何で俺はこんなところに居るんだ?」
確か自分は、ピカード艦長と共にライサ星に休暇を取りに来た筈だ。
何で、水上都市のど真ん中でゴンドラに揺られて顔面ヘチャムクレな猫を抱えてるんだろ。
「何を言ってるんですかお客さん、お客さんはマンホームから観光にいらっしゃったんでしょ?」
「その通りだレガーチ、水先案内人を困らせるものではない」
向かいに居るのはゆったりと寛いでいるピカード艦長と、ゴンドラを漕いでいる赤毛の少女と彼女の上司らしい同じ格好をした娘。
「ぷいにゅ!」
彼等に同意を示すように鳴く猫。
レガーチは少しだけ考え、直ぐさま思考を放棄した。
運転をしない時は、ヤクをやるか、ぼーっとしているのがレガーチの日常である。
ヤクが手元に無いので取り敢えず、ぼーっとする事にした。
「まぁ、いいか」

レガーチは、何時までも何時までもゴンドラに揺られていた。


732 :629_その後の2人のお仕事:2006/12/08(金) 04:46:09 ID:7eqPhMry
ロアナプラのとある廃ビルで、武器の取引があった。
勿論密売である。何せ、反三合会派に抗争用の武器を手渡す取引なのだから。
無事、取引が終了し、両者の間の空気が僅かに緩む。
その瞬間。

「―――が!」
窓硝子が割れると同時に、窓際で表を見張ってた三下が倒れる。
各々が自分の獲物を手にし、窓際に駆け寄ると。

「―――もう少し、見張りを厳重にした方がいい。監視が緩いからこの様に不覚を取る」

三日月をバックにし、向かいのビルの屋上に立つ人影が1つ。

「尤も、今宵で貴様等の命運は尽き果てる。故あって、貴様等の命、貰い受けに来た」

手にしたストック付きモーゼルC96を交差させ、コートを夜風に靡かせながら男は謳う。

「俺の名は"ウx「馬鹿に気を取られてますると、死ぬですだよ?」」

名乗りを上げる男に向かって一斉に銃撃を浴びせようとした男達の背筋が凍る。
振り向く暇など与えられ無かった。
振り向きかけた所で、側頭部に深々とナイフが突き刺さった。
半数が戦闘不能になった時点で、シェンホアはグルカナイフを抜き払い縦横無尽に振るいまくる。
たちまち、真桑瓜のように首がゴロリゴロリと床に落ちる。
最後に、生き残っていた武器商人が、手にしたMP5をシェンホアの背中に向けた。
引き金を引く前に、後ろから飛んできた7.63mmモーゼル弾が男の後頭部を吹き飛ばす。

「仕事、オワタね。ベストな仕事です。よかたねロットン」
「…………」

嬉々とした表情で死んだ男達の生首に向かって、証明用の写真を撮りまくるシェンホアと。
それとは対照的に窓際で無表情にふて腐れるロットン・ザ・ウィザード。
仕事自体は完璧に終わらせた。取引を失敗させ、関係者を全滅させた。
が、ご機嫌なシェンホアと引き替えに、ロットン・ザ・ウィザードの表情は曇っていた。

「……久し振りに、名乗っても良いと言ったじゃないか」
「名乗れますたですよ? 半分だけだったのはご愛敬ということでよろしね」
「……それはそうだが……むぅ?」

尚も無表情に不満を述べようとしたロットンの口が、朱く引かれた唇に塞がれる。
粘着質な音と共に開かれた唇と唇の間で舌が絡み合う。
押しつけるように紅く長い舌で、ロットンの口中を蹂躙したシェンホアが微笑する。

「そう、ふて腐れるのよろしくないね。充分、穴埋めしまするから……ね?」
「し、シェンホア……ここでは」
「死体と血糊気にするなんて野暮よ? 細かい事気にせず今を楽しむ。これ大事ね」
「それは何時も言われている事だから解った。解ったから……」

尚も身体を絡ませようと迫るシェンホアを軽く押しのけ、扉の方を指さすロットン。
そこには、

「お二人さん、盛り上がってるところ悪いが……そろそろ片付けさせてくれないか?」

三合会の下っぱ達が、呆れたように殺戮現場でのアバンチュールを眺めていた。

「あいや」
「……締まりの悪い仕事だ」

こうして、新しいロアナプラ仕事人コンビの日常は過ぎ去っていくのであった。





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