- 715 :697とは別のバラライカと軍曹1:2007/02/17(土) 17:37:50 ID:vW8n1stJ
- 「さて、今日の仕事はこれで終わりだな、同志軍曹。」
「はい。」
「そ、じゃもう休んでいいわね。」
大尉はふっと息をついて、それから少し伸びをした。
「はい、お疲れ様です。」
「ご苦労様、あなたも早く帰りなさい。」
引き出しから煙草を取り出し口に咥える。
火を差し出すと「ありがとう。」という穏やかな返事が返ってきた。
夜も更けかけているというのに窓の外は常に違わず騒々しい。
銃声、パトカーのサイレン、怒鳴り声
荒んだ町が立てる不協和音が防弾ガラスを超えて響いてくる。
「外がどうかした?」
「いえ、なんでもありません。」
呼びかけられてふと視線を戻すとソファにくたっと身を委ね、
投げ出すように靴を脱ぐ姿が目に入った。
右足、左足、床に転がった靴がコトン、と倒れる。
それから髪に手をかけると、鮮やかな金髪がほどけて広がった。
その様子はお行儀の悪い子供のように無邪気だった。
大尉はたまに二人だけになるとこういう無防備な仕草をする。
自分はそれを見るのがとても気に入っている。
若いときには逆に見せてくれなかった表情なのだ。
この人とは長い付き合いになるのだということを実感する。
- 716 :バラライカと軍曹2:2007/02/17(土) 17:40:13 ID:vW8n1stJ
- そういえば十年近く前、写真を見せてもらったことがある。
ちょっとした会話の流れで、銃の取り扱いについて話していたとき
「私は子供の頃から射撃の手ほどきを受けていたんだ。大会に出たこともある。」
と言って表彰式の時のものを持ち出してきたのだ。
そこでは幼い少女が無垢な眼差しで微笑んでいた。
ほんの一瞬ではあるものの、思わず顔を見返してしまった。
「別人としか思えないか?」
からかうように笑う視線に突き当たり、さすがに軽率だったことに気がつく。
「すみません。」
「確かに・・自分でもずいぶん遠いところに来てしまったな、とは思うさ。」
大尉はふと真顔になってそうつぶやいた。
顔半分を覆う傷跡が目に付いた。
この傷を負ったとき大尉は少しの動揺も見せなかった。
「大丈夫だ。心配するな。」
たった一言そう言っただけで後は平常どおりの物腰を貫き通した。
軍人としては確かにごく当たり前の態度なのかもしれないが
あの時以来何かが少し変わってしまった気がする。
おそらく大尉の生きてきた平和な日常はあそこで完全に息の根を止められたのだ。
目的の為に障害となる全てをなぎ払うこと、そのために戦場でより冷酷に振舞うこと、
それが誰の目にもはっきりとわかるほど確かな意思として示されるようになったのだから。
振り返るとあれからの運命もあまりにも過酷だった。
自分達は軍籍を剥奪され貧困に喘ぎ祖国を追われた。
最後にはソ連という国家そのものが崩壊した。
大尉のことを好戦的だと言う者も多いが、そうならなければ生きてこられなかったのだ。
同志の葬儀会場でやるせなさに打ちひしがれていた自分達にとって
軍服で現れた大尉がどれほど頼もしく感じられたか。
思えば自分達も不思議な信仰を持ち合わせるようになったものだ。
この人の後につき従えば、どんな困難な局面も切り抜けていける、といつから思うようになったのか。
そうして気がついたときには憧れと慕わしさが日常になっていたのだ。
- 717 :バラライカと軍曹3:2007/02/17(土) 17:42:23 ID:vW8n1stJ
- 自分はもう十何年も大尉の手足のように働いてきた。
それで満足だったし、これからもそれ以上を望もうとは思っていなかった。
しかし今目の前でくつろいでいるこの人を、誰が「娘」でも「軍人」でもなく
一人の女性として愛しただろうかと考えると、物狂おしい思いがこみ上げてくるようだった。
ふとこの思いを伝えてみようかという気分になる。
しかしすぐに「なんて馬鹿馬鹿しいんだ」と考え直した。
ラグーン商会の若者が脳裏に浮かぶ。
趣味?あまりにも愚かしい。
勢い任せに行動するには自分は年を取り過ぎている。
年齢相応に分別を持たねばなるまい。
しかし・・・
自分はソファの傍らに膝立ちになった。
手を伸ばして頬を押し包みそれから首筋を撫でる。
何年も自分の中で禁じていた行為を実行に移すのには、とてつもない背徳感が伴った。
大尉は驚いて目を見開き、すぐにキッと鋭い表情になった。
その目に射竦められ、自分が取り返しのつかないしくじりをしでかしたことに気がついてはっとなる。
「軍曹、ちょっといいか?」
声が凍りついたように冷たい。
「何でしょう。」
返事をしながらも、自分は彼女の意に沿わぬ言動をした連中が、どのように処理されたかを思い出していた。
そういうときの大尉はどこまでも残忍だ。
「服が焦げる。」
確かに煙草の灰が今にも落ちそうになっていた。
大尉は灰皿を手にとり、押さえつける様にギュっと火をもみ消した。必要以上に念入りに。
ぐずぐずとわざと時間をかけて言葉を探しているようでもあった。
それからこちらに背中を向けたままで話し始める。
「規律を重んじる集団の中で特別な関係を持つ事は大問題だ、それはわかるな。」
「わかります。」
「わかっていて耐えられなかったのか?」
「はい。」
「ならお前はとびきり弱い人間だということだな。」
はっきりと断言されると心が後悔でおかしくなりそうだった。
長年かけて築いた信頼が音を立てて崩れていくのが目に見えるようだ。
「そして私も、とびきり弱くて、どうしようもなく馬鹿な人間の一人ね・・・。」
言葉を合図としたように大尉の体が力なくもたれかかってきた。
何が起こったのかすぐには理解できなかった。
- 718 :バラライカと軍曹4:2007/02/17(土) 17:44:45 ID:vW8n1stJ
- 自分に投げかけられた言葉と、腕の中に倒れこんできた体の意味を何度か反芻する。
状況を飲み込んだとたん顔面が一気に紅潮するのを感じた。
いい年して自分は何を動揺しているのか。
それからは理性も何もなく大尉を抱き締めていた。
「ずっと、こうしたい、と思っていました。」
「うん、そうね。私もそうよ。」
大尉はこちらに向き直りしっかりと抱き締め返してきた。
思いがけない展開に心底驚かされる。
自分の思いは殺されない程度に受け止めてもらえれば十分だったのに。
「どうしたの?ここから先もしていいのに。自分から誘っておいて。」
手が柔らかな胸元に導かれる。
そんなふうにされても咄嗟に反応できない自分の不器用さ加減に腹が立った。
何をしているんだ。お互い初めてでもあるまいに。
とは言うものの自分が最後にこういったことをしたのは随分前になる。
醜態をさらさないだろうかという不安が脳裏をよぎった。
かといってここで何もしないというのも嘘だ。
求められるままにゆっくりと胸を揉みしだいていく。
そうやって触れた手からは、呼吸が乱れて胸が波打つのも、
心臓が激しく動悸を躍らせているのも感じ取ることができた。
ああ、大尉も緊張しているし感じているんだな、と思った。
上着を脱がせシャツのボタンをひとつひとつ外していく。
童貞男のように手が震えそうになるのには我ながら笑った。
それと同時に爪先が赤く彩られた優雅な指が自分の衣服を緩めていった。
頬に瞼に額に互いに口づけていく。
それから一度顔を離して唇と唇を触れ合わそうとしたところで
大尉が「あ、」とうっかりしていたという感じの声をあげた。
「口紅がついたわ。」
くすくす笑いながら指でこすり取ってくれる。
この人がこんな顔をするなんて想像したこともなかった。
これはいったいどうしたことだろう。自分は夢でも見ているのではないだろうか。
もし夢でもこれは良い夢だ。醒めないで欲しい。
- 719 :バラライカと軍曹5:2007/02/17(土) 17:46:24 ID:vW8n1stJ
- それから深い深いキスを交わした。舌が何度も絡み合い唾液が混ざり合って
互いの境界が曖昧になる程ずっと離れずにいた。
「は・・・く・・ふぁっ・・」
息を継ぐ合間に甘い声がこぼれおちる。
なんてこった、意外に可愛い声だ。しかも耳に優しく響く。
その声が聞こえる度に体の中心部が熱くたぎって仕方がなかった。
できることならもっと声を上げさせて、もっと激しく乱れさせたい。
はだけた服の隙間から手を差し入れて直に乳首を刺激すると体がひくっと震える。
当たり前といえば当たり前だが服の上から触るよりもずっと敏感だった。
「軍曹・・・」
大尉の体が快感をこらえて小刻みに震えている。胸を撫で上げるたびに嬌声が上がった。
シャツも下着も邪魔だった。少しの時間も惜しく感じながらそれらをすっかり取り去ってしまうと
乳首を口に含んで舌で舐めあげる。
「んっ・・」
大尉の上げる声がますます熱を帯びた。
このまま下も脱がせてしまおうと、ストッキングに包まれた足に手を伸ばす。
スルスルとすべる感触が心地よく太ももに何度も手を這わせた。
そうして感触をじっくりと楽しんだ後、タイトスカートの中に手を差し入れて
ストッキングをゆっくりと脱がせていく。
「あんまり・・乱暴にしないでね。伝線するから。」
自分の手によってあらわになっていく足が艶かしい。
手の中に残ったストッキングには大尉の汗や体液の湿り気が残っていて、
辛抱できず顔に押し付けて匂いを嗅いでしまった。
大尉の匂い・・・
もう嫌という程いきり立っていたというのにますます激しく勃起するのがわかった。
欲望というのはどうしてこう底なしの大間抜けなのだろう。
「軍曹、そうするのがいいの?」
目の前の相手は「仕方がないな」という感じの笑い方をしている。
「はい、そうです。」とも言い難い状況だ。どうしたものか。
すると大尉は「私の方は私の方でもう・・きて・・ほしいのよね・・・」
と呟いてから下着に手をかけ、そうっと引き下ろした。
- 720 :バラライカと軍曹6:2007/02/17(土) 17:48:44 ID:vW8n1stJ
- 何も身に着けない大尉の裸体が目の前にあった。
自分は少しの間大尉の体をじっと見つめていた。とにかく感動したのだ。
「心底好きな女の裸を初めて見たときの気持ち」としか表現できないが、最高の気分だった。
年齢を重ねて緩みかけてはいたがそれもいいと思う自分がいた。ある意味救えない。
そして体中いたるところに無残に引き裂かれた傷跡があった。
「大尉の体を見てると戦場を思い出します。この傷がついたときも、
この傷がつけられたときも自分はそこに居合わせましたから。」
「そうなの?」
「お嫌でしたか。」
「んー喜んでいいのか悪いのかよくわからないわね。」
「少なくとも自分にとっては好ましいです。」
「ならいいわ。それなら私も戦い甲斐があったというものね。」
生涯消えない戦争の名残は共に戦った絆を感じさせた。
「私が軍に入った理由を聞いたことがある?」
「いえ」
「軽々しく話したりはしなかったから知るはずないわね。」
相手の語調からこれは大事な話だと感じ取り、大尉の言葉にじっと耳を傾けた。
「最初はね、父の名誉を挽回するためだったのよ。軍で出世することがその近道だって信じて疑わずにいたわ。
でもね、何にもならなかった。恐怖心を押し殺して命を懸けて戦ったのに本当に何にもならなかったのよ。
あれが私の人生のどん底ね。私を頼る部下がいなかったら正直すっかり絶望して野垂れ死んでいたかもしれないわ。
それから流れ流れて今は汚れ稼業に精を出しているけれどとにかく生きてる。
だから私は幸運なのね。」
何と答えて良いかわからなかった。
自分はこんなときまで無口で気の利いた言葉が出てこない。
だからとにかく抱き締めた。これで思いが伝わるといい。
こんなにも深い感情は軽々しく言葉にできない。
- 721 :バラライカと軍曹7:2007/02/17(土) 17:49:41 ID:vW8n1stJ
- そうしてしばらくじっと抱きあってから、そっと聞いてみる。
「入れても、いいですか?」
「野暮ね、そんなこと聞かなくてもいいのよ。」
指で濡れているのを確認してから、敏感な部分に腰を進めると難なく挿入することができた。
膣壁が熱く絡み付いて自分の物を締め付けてくる。
「軍曹・・・軍曹・・・」
切羽詰ったような切ない声で何度も自分を呼ばれるのはひどく刺激的だった。
本当に何年も何年もずっとお互いに求め合っていたのに
どうしてもっと早くこうしなかったのか。
年を取るとしがらみが増えて困る。
自分はこれまでこらえてきた思いを吐き出すように
繰り返し激しく欲望を叩きつけた。
「あっ・・・いいっ・・ふあ・・あ。」
体が揺さぶられるのに合わせて絶え間なく声が溢れ出る。
「奥に・・・あたってるっ・・・。」
こらえきれずに体をがくがくと震わせながら高く嬌声を上げる。
こちらも相手に快楽を与えようと努めていたがもう限界が近づいていた。
「あ・・もう・・いく・・あ・・あぁっ・・・!!」
大尉の体を抱え込み、最奥に思う様精を吐き出して
積年の思いがやっと満たされた気がした。
いざ事が終わってみると全身の節々が痛かった。おまけにひどく眠い。
ただくたびれきった身体とは裏腹に気分はとても良かった。
「軍曹」
大尉が声をかけてくる。
「私もそうしたいのはやまやまなんだけど・・・いくらなんでも
ここで仲良く眠り込むわけにはいかないんじゃないかしら。」
「確かに、その通りです。」
明日の朝事務所で二人で伸びているところを見つかりでもしたら・・・
どう考えても恐ろしいゴシップだ。
自分は急いで起き上がった。
- 722 :バラライカと軍曹8:2007/02/17(土) 17:50:53 ID:vW8n1stJ
- 煙草から紫煙が天井へと立ち上る。
優雅に足を組む大尉はもうきっちりとスーツを着込んでいた。
「この煙草、結構気に入ってるのよ、あなたもどう?」
「ではお言葉に甘えて。」
箱の中から一本拝借し、火をつける。
自分もこういう味は嫌いではない。
むしろ好きだ。
大尉と趣味が合うことが無意味に嬉しく思えた。
「明日も仕事ね。」
「はい。」
「いつもと変わらぬ仕事ぶりを期待している。いいか、いつもと変わってはいけないぞ。」
「はい。」
自分は煙草の煙をよく味わい、それからふっと吐き出した。
他の生き方は知らない。
運命に翻弄されるようにここまで来たが、自分はせいぜい良い悪党になろう。
「互いを生かすために生きている。」
自分達にはシンプルな存在理由があって幸運だと思った。