- 125 :118:2007/03/19(月) 01:57:18 ID:wDPwZ4p7
- 日本でのあの惨事から一ヵ月がたっていた。
ロアナプラの空は夕刻から荒れ初めいつのまにか降り始めた雨は滝のようなどしゃぶりとなっていた。
ここらへんでは別に珍しくもない荒れ模様の天気だが、今日はしつこくいつまでたっても豪雨は止みはしなかった。
「止まないな」
ロックは自室の窓からロアナプラを覆う暗黒の空と雲を眺めていた。
日本から帰った後ロックはすぐさま仕事を始めた。
UPOとの武器取引は期限がせまっていてかなりの急労働だったがロックは泣き言もいわず会計、物資調達、清算、事後処理、すべてを円滑にことをすました。
もちろんメインはダッチとベニーが請け負っていたがことサポートに関してロックは最高の働きを示した。
「ロック、君が帰ってきてくれてマジに助かったよ。正直後一日君らが遅れてたらダッチは蹴ってただろうね」
仕事の後ベニーに言われてロックははにかんだ。必要とされている感覚だけが今自分を支えてくれている気がしたロックはベニーの言葉が素直に嬉しかった。
だが仕事というのは良くも悪くも終わってしまえばそれまでである。
次の仕事が待っていてくれれば話は別だが今現在仕事は無い。
日本での仕事を聞いたダッチがロックとレビィ二人に三日の窮余を与えたのだった。
「レビィの足が使い物にならん内はロック単独じゃ信用ならねぇからな。まぁ俺たちは2週間もケツあっためていたしたまにはアバンチュールでも楽しんできな」
という訳である。
レビィは怪我なんて関係ねぇよと叩いていたがやはり日本での疲労がたまっていたのであろう。二言目にはわずかばかりのホリデーを甘んじて受けた。
それをみたロックも休みたいなどと思わざるがゆえも、まだ足をさすっているレビィを見て首を縦に振った。
- 126 :2:2007/03/19(月) 01:58:28 ID:wDPwZ4p7
- 「うっとうしいな、本当」
雨はまだまだ止む気配はない。
ロックはマイルドセブンに火を付けると煙を夜景に吹き付ける。白い煙が窓で跳ね返りロックを包みこんだ。
休暇一日目はそれは死んだように眠った。日が変わる前に寝たはずなのに目が覚めるとその日が終わる2時間前に目が覚めたのである。
だが体のけだるさに勝てずロックはたまった小便を流した後また死んだように眠った。
そして休暇二日目の午後6時半に起き今にいたる。
起きた直後は鉛のように重かった頭もやっとさえてきた。
丸一日何も食べてなかったが冷やしておいた日本製のミネラルウォーターを一気飲みしただけで何故か食欲はわかなかった。
一年と二ヵ月前、サラリーマン時代では反吐を吐くぐらい仕事というものが嫌だった。
が、今はどうだ。体を動かさないことがこんなにも辛いと思えるだなんて夢にも思わなかった。
骨が擦り切れ血を吐くほど働きたい、仕事に没頭したい自分がいた。
ロックは火を消すとまだ体温がかすかに残っているベッドに転がると天井を仰いだ。
あのとき、日本を発つときにレビィに言ったことば。
「帰ろうかレビィ。俺たちの場所へ」
そう、確かに今の自分の場所は世界中さがしてもここだけだ。
だからこそこの場所にいたい。この場所で働きたい。どんな危険な任務だろうと遣り遂げたい。
死んでも本望だとさえ思っていた。
- 127 :3:2007/03/19(月) 01:59:13 ID:wDPwZ4p7
- 目蓋をゆっくり下ろす。
このまままた寝てしまおうかと思ったとき脳裏に『あのとき』の映像が浮かび上がった。
ロックは跳ね起きた。
額に手をやり頭を振る。
吐き気をもよおすようなこの感覚。
ダメだ、今夜は眠れそうにもない。
ロックは洗濯するつもりだったくしゃくしゃのワイシャツをはおり自室を後にした。
「酒をくれないか」
「あいにくここには酒以外の液体はだしてねぇよ、ロックの旦那」
ついバオの店へと来てしまったロック。時計の針は午後8時15分をまわったところだった。
「んで注文は」
「…」
「旦那!冷やかしなら帰ってもらうぜ!」
「え、ああ…酒を」
「んだからここにゃあ酒しかねぇって!何にすんだ?またバカルディ一気でもすんのか?」
「いや…何でもいいんだ。とにかく酒をくれ」
「ったく、今日の旦那は変だぜ。ついにコークでもキメちまったのか」
バオの言うとおり今日の自分はいくらかおかしい。
味わったことのない無気力感が全身を押さえ付けている。
眠りすぎたせいではない。これは心の臓からくるものだ。吐き気がおさまらない。
が、酒を飲みたい。ただ酒でごまかしたい。この変な感覚を一刻も早く吹き飛ばしたかった。
「そうだ。確か旦那日本人だったな」
「そうだけど」
「ならとっておきがある。日本の酒だ。ここじゃあ珍しいから試しに一本だけ仕入れたんだ。なんでもいいならこいつにしなよ」
バオが取り出したもの。それは日本で見慣れてる焼酎の一升瓶だった。
ロックはその一升瓶のラベルを凝視した。
「雪……月花…」
「俺も呑んでみたがなんともきれいな味がしやがる。こんなの呑んでるとは日本人はさぞきれいな舌をしてやがるんだろうな」
- 128 :3:2007/03/19(月) 02:00:19 ID:wDPwZ4p7
- ロックは全身が固まった。『あのとき』の映像が先程よりも鮮明に蘇る。
『ロック。あいつを見るな。傷になる』
白い肌の喉にに突き刺さる居合いの刄。
『見るなロック!!』
刃が頸動脈を突き破り鮮血が吹き散る。
彼女は悲しそうに、でも満足そうに微笑んでいた。
俺はただ彼女を見つめていた。
あのとき何故自分はあんなに冷静だったのだろう。
どうして自殺する彼女を止めなかったのだろう。
もう全ては終わってしまっていたのに。
「雪緒ちゃん…」
「あ?なんだって?」
「いや、なんでもない」
「そうかい、んでどうすんだよ。他のにするか?」
「…そいつをもらうよ」
ロックはグラス一杯に注ぎ込むと一気に飲み干した。
いつのまにか寝てしまっていたのか。ロックはカウンターから顔を起こした。左肩に血が通いだしたのを感じる。腕時計を確認すると11時をまわっていた。
「お目覚めかい坊や。ママが恋しくて起きちまったのかい」
声をかけられたすぐ左を振り向く。
そこには日本にいた間自分をずっと守り続けていてくれた女が酒を呑んでいた。
「レビィ、来てたのか」
「あんまり気持ち良さそうに寝てやがったから、声かけるタイミングを外しちまった」
「そうか、結構寝てたんだな」
- 129 :4:2007/03/19(月) 02:01:06 ID:wDPwZ4p7
-
レビィは透明の酒をグラスに注ぎグイッと呑み込んだ。
「それ…」
「結構良い酒じゃねぇか。喉ごしも悪くない。だがあたしには上品すぎるな。まぁたまにはバチもあたらねぇだろうけどよ」
バオは大きないびきを立ててカウンターに眠り込んでいる。まだ雨はやんでないらしくいつもはこの時間ににぎあう店も客は極端に少なかった。
「ロックも呑むか?まだ残ってるぜ」
「……いや俺はもういい。レビィが空けてくれ」
「なぁ、ロック」
再び雪月花をグラスに注ぐレビィの目付きが変わったのをロックは見逃さなかった。
「おまえ、まさか後悔してんじゃねぇだろうな」
「何をだよ」
「ばっくれてんじゃねぇ。…日本でのあいつのことだ」
グラス一杯に注がれた酒が表面張力でゆらゆら揺れていた。暗い明かりでグラスがレビィの顔を反射している。
「いきなり何言ってるんだよ」
「てめぇ、だらしなく昇天してるときに寝言いってたぜ。あいつの名前を。三回もな」
ロックは目を見開いた。まさかという思いだった。
日本から戻ったときから今日まで彼女を思い出したことは無かったからだ。自分の中で彼女は完全に過去の人間だと思っていた。
だからこそ帰ってからすぐに仕事に没頭できたと信じていたのだ。
ひどく裏切られた気分だった。
ロックはわずかに震えながら煙草に火を点けた。
「後悔なんざしてないさ」
「お手てが震えてるぜロック」
「俺は後悔なんかしていない!!」
「そうかい。ならいいんだけどよ」
しばしの沈黙が二人を包む。雨の音だけが店内に響いていた。
レビィはちらりとロックを横目でみた後席をたった。
「帰るわ」
ロックも1000バーツをカウンターに置き席をたった。
「送ってくよ」
「いらねぇよ」
「右足、まだ痛むんだろ。ほっとけるか」
「あ、そ。なら好きにしな」
二人はそろって店を後にした。
- 138 :5:2007/03/20(火) 02:28:18 ID:Fvfs899V
- レヴィの部屋の前、3分前に休暇二日目は終了している。
「じゃあな」
鍵を開け扉をくぐるレヴィ。再び扉を閉めようとしたときロックが手で遮った。
「なんだよ」
「…酔い足りないんだ」
レヴィは少し考えた後、
「たいしたもんねぇぞ」
といってロックを部屋にいれた。
部屋に入るとレヴィは簡易冷蔵庫をあさり始めた。
「ち、ビールしかねえじゃねぇか。今日買い出しいっとくんだったぜ」
「今日は何してたんだレビィ?」
「店にいく前まで寝てた」
「そうか、俺もだよ」
「聞いてねぇ」
缶ビールをロックに投げ渡すとレヴィはガンホルダーを外し枕元に放り投げ、ロックは椅子に腰掛け缶の蓋を静かに開けた。
「ビールなんかで酔えるのかよロック」
「今は酒が呑みたい。それだけさ」
「ああ、そうかい。なら好きなだけ呑みな。あたしはもう寝る」
ベッドへ向かおうとするレヴィの背後から両腕がからみついた。ロックの息がうなじにかかっている。
「レヴィ…」
静かに服を脱がしにかかるロックの右腕を力強く握り締め遮るレヴィ。
「下らねぇこと考えてるならやめときなロック」
「そんな間柄か俺たち」
レヴィの弱いところは知っている。耳の後ろの溝だ。ロックはここにやさしく語り掛けるのが約束。
レヴィが少し震えだしたのを胸に密着してる小さな背中で感じた。
「間かんだの話じゃねぇ。気分が乗らないだけだ。だからやめろロック」
「それは本当かいレヴィ?」
しつこく耳の後の溝をせめてやる。こうするとロアナプラ無敵のトゥーハンドの舵をとることなど相棒のロックにとってはたやすい、はずだった。
- 139 :6:2007/03/20(火) 02:29:56 ID:Fvfs899V
- 「やめろ……ロック。それ以上は悪戯にならねぇ」
くすっと口元をゆるます。ロックには冗談にしか思えなかった。
「何言ってるんだよ、レヴィだって好きなくせに」
次の瞬間グシャというかミシというか、そんな音が耳に乱反射した。
続いて壁に後頭部が激突し、脳が揺れるのを感じた。
レヴィに顔面を思いっきり殴られたのを理解したのは、大量の鼻血が吹き出し始めた直後だった。
鼻に激痛が走る。血が凄まじい勢いで吹き出て床を汚していく。
なかなか焦点が合わない。確認できるのは部屋の光とそれをバックにした一つの影だけ。
カチャッとした音と同時に焦点が戻った。
レヴィが床に座り込んで鼻を押さえている自分にカトラスを向けている。
ロックは今のレヴィの目をよく知っている。
彼女の目は生きる残ることを望んでいない、すなわち相手に止めをさす瞬間に向ける日本刀より鋭すぎる目だった。
「調子こくなよ、うすら馬鹿」
「何…すんだ、よ。いきなり…」
「てめぇ、今あたしを完璧に慰みものにしようとしやがったな」
鼻血が止まらない。息が苦しくなってきた。すでに足元の床は血でべったりとなっている。
そんなロックを当然とでもいうがごとくトゥーハンドは話を続けた。
「ああ、そうさ。確かに日本にいたときゃロック、てめぇとやったよ。しかも毎日盛りのついたエテ公みたいにだ」
「だったら…なんで」
レヴィは下を俯く。前髪で顔が見えなくなってしまった。だが銃口は確実にロックの脳天にむいていた。
- 140 :7:2007/03/20(火) 02:37:45 ID:Fvfs899V
- 「わからねぇのかよ」
「ああ、さっぱりだ」
カトラスが火を吹き弾丸がロックの耳をかすめ床に穴を開ける。
左耳の奥が熱い。鼓膜が破れてしまったような気がした。
「あたしを…そこらへんのビッチと一緒にしやがった」
「そんなことは」
「てめぇは『あん時』のことを思い出し辛くなってたまたま隣にいたあたしを慰みものにしようとしやがった!!」
「レヴィ!それは!」
「違うってのかよ!いや、違くねぇ!は!お笑い草だぜ!結局てめぇは後悔しちまってるんだ!あの女を助けられなかったことがよ!
後悔したいんなら腐るほどすりゃいいさ。
だけどそのはけ口をあたしにすんじゃねぇ!
けっ!反吐が出やがる!そんなにやりたきゃ汚ねぇ妄想の中であの女抱いてオナニーでもしてやがれ!」
「レヴィ!!」
二発目は右肩をかすった。シャツが破れ皮がエグれているのを痛みで痛感している。
だが、ロックにとってそんなことはどうでもよかった。ロックが目を離せなかったのはレヴィが泣いていたからだ。
こちらをこれでもかと睨み付け歯をがちがちならしている彼女をみてロックは金縛りにあってしまった。
「レヴィ…」
「でてけ!!二度とその我慢ならねぇ面みせんじゃねえ!!」
「俺は…」
「消えろ消えろ消えろ消えろ!!てめぇなぞ死んじまえ!!」
ロックは奥歯を噛み締めた。これ以上レヴィを見れない自分を心底恥じていた。
「…わかった。レヴィ……すまない」
そう言い残すとまだ止まらない鼻血を押さえながらロックは部屋から去った。
後に残されたのは壁から銃口を下ろせないレヴィだけだった。
「なんでだよ…何泣いてんだあたしは…。わけわかんねえよ。畜生……畜生…!」
ロアナプラの雨はまだ止まない。
- 155 :8:2007/03/22(木) 03:42:27 ID:ziXoELB7
- 「まったくよ、下らねぇにも程がある」
新聞の朝刊を流し目に読んでいたダッチが深いため息をついた。
まだ午前中だというのに事務所の中は薄暗い。
雨は勢いこそ弱まったがまだしとしとと降り続け、厚い雲は太陽をふさいでいた。
「ベニーボーイ。お前さんとこの大将はまたカブールに増兵を決めたとよ」
新聞を丸めダッチはベニーに放り投げた。
ベニーはそれを拾うと更にシケモクだらけのごみ箱に新聞を放り投げた。
「寂しいんだよ彼は。もはや誰も相手にしてくれないからね」
「んで自分とこのチェリーボーイを死神にくれてやるってか。たいしたマスターベーションだ。ケツからゲロが出そうだぜ」
「それは単なる腹下しだろ」
ケタケタ笑うベニーをよそにダッチは新品のアメリカンスピリットの封を開ける。
湿気が強いのだろう。
火を付けると煙はくっきりと太い糸となって天井に上っていった。
「コーヒー飲むかい?」
「ああ、いただこう。砂糖たっぷりでなベニー」
「はいはい、分かってるよ。内のボスは顔に似合わず甘党なのは皆周知の通りだからね」
「言ってろ」
ベニーはにやにやしながらガスを回し火を点け、すっと椅子に腰掛けた。
「で、ロックは目覚めたかい」
「いんや、まだ奥でおねんねさ」
ダッチのいう通りロックは奥の簡易ベッドで寝息をたてていた。血だらけのシャツのままである。
「あいつが深夜事務所の前でぐったりしてたのを見たとき、正直チビりそうだったぜ。殺られちまったのかと思ってな」
「そりゃ血だらけで事務所の前に地べたで座り込んでいたら僕だってたまげるさ。この街だけでも僕らを恨んでる連中はごまんといるからね。」
ダッチは頷く代わりに煙を勢い良く吹き出した。
- 156 :9:2007/03/22(木) 03:43:59 ID:ziXoELB7
- 「誰にやられたんだろ?そこらへんのコックジャンキーにでも絡まれたかな?」
「いや、ありゃレヴィにやられたんだろ」
ヤカンが鳴いている。湯が沸いたようだ。
ベニーは立ち上がり火を止め湿ったインスタントコーヒーの蓋をあけた。
「どうしてそう思うの」
「あいつ死んだ魚のような目をしてやがった。ヤクきめてリターンダウンしたって感じじゃねぇ。心が折れちまってた。なら原因はあいつしかいねぇさ」
「ふうん」
インスタントコーヒーと大量の砂糖を混ぜ湯をそそぐ。それをベニーはダッチに差し出した。
「お、サンキュ」
「何かあったのかな?あの二人」
ずずっとコーヒーをすするダッチは香りを鼻に入れ脳を刺激してやった。
「さあな、そこまではわからねぇ。だが男と女の間に第三者が混じるのは不粋ってもんだ」
「それにロックとレヴィのことだもんね」
「そうだ、下手したらこっちにまでカトラスが飛んでくるぜ」
「違いない」
ベニーは口元だけ釣り上げると自分もファーストコーヒーをすすった。
ガタと物音がして二人は同時に音の主に振り向く。
ロックが壁にもたりかかり立っていた。
「起きたかブラッドカラー。ガキがイタリアンスパゲティー喰い散らかしたみてぇにエプロンが汚れてるぜ」
「ダッチ、今何時だ?」
「10時を少し回ったところだよロック」
ダッチの代わりに答えたベニーに視線を変える。
ベニーはカップに手をかけたままこちらをうかがっていた。
「ロック、てめぇの血で汚した俺のベッドちゃんとクリーニングしておけよ」
「ああ、クリーニング代は給料から引いといてくれ」
「オフコースだロック」
ベニーは再びヤカンに水を足し火にかけた。
- 157 :10:2007/03/22(木) 03:45:05 ID:ziXoELB7
- 「コーヒー、飲むだろロック」
「ん、ああ…」
「まぁ、風呂でも入ってゆっくりしろや。今日が休暇最終日だぜ」
煙草を吸いなおすダッチをロックは横目で見つめた。
全身がけだるいし吐き気もおさまるどころか更に悪くなっている。足が休息を求めてロックは無気力に椅子に座り込んだ。
大の大人三人に沈黙が訪れる。響いているのは時計の秒針と雨の音だけ。
今電話がなったら心臓が止まるのでないかとロックは思った。
「できたよロック」
「あ、ありがとうベニー」「どういたしまして」
受け取ったコーヒーを一口飲んでみる。安いコーヒーだがけだるい体には最高だった。
香りが全身を駆け巡る感じがしてロックはため息をついた。
「何も、聞かないのかいダッチ」
「聞いてほしいのかい。面倒ごとは嫌いなんだけどな」
ダッチの冷めた一言にロックは身をすくめた。
カップを持った左手がわずかに震えてるのが気に入らなかった。
ばれないようにそっとカップを置く。
ここはロアナプラという裏世界だと思い出した。
自分のケツは自分で拭く、ここではそれが流儀でもあり掟だ。ギブアンドテイクじゃなきゃ生きてはいけない。ロックは心底自分を恥じた。
「ロック」
ヤカンを水に浸しているベニーの声にギョッとした。耳だけをそちらに傾ける。
「僕らに詮索は無用だってことは知ってるよね」
分かっている。だからこんなにも恥ずかしいし辛いのだ。
「でも聞き流すことぐらいは僕らでもできるよ。ね、ダッチ」
今度は右手が震えているのを感じた。視線を床に向けると血で汚れたシャツが目に入った。
「ま、一本吸えやロック」
ダッチがアメリカンスピリットをロックに差し出す。
ロックは瞳の奥から込み上げて来そうなのをこらえるとシガーを受け取り火を点けた。
- 158 :11:2007/03/22(木) 03:45:55 ID:ziXoELB7
- ロックはただ淡々と二人に話した。
日本でのこと、雪緒のこと、何故か吐き気がとまらないこと、そして晩のレヴィとのこと、すべてを洗い浚い話した。
「ふーん」
無気力に答えるベニー。
恥ずべきことかもしれなかったがロックはそれでもよかった。ただ吐き気が少し和らいだような気がした。
「まぁ僕からは何も言えないけど少しは楽になったかいロック?」
「ああ、楽になった気がするよ。ありがとうベニー、ダッチ。独り言に付き合わせてしまって」
ロックはベニーに微笑むとベニーもにやりと笑った。
「…なるほどな」
ソファの背もたれに後頭部を乗せ天井を仰いでいたダッチが二人をよそにつぶやいた。
「何がだいダッチ?」
代わりに理由を聞くベニーにダッチはそのまま仰ぎながら答える。
「なんであのレヴィがあんなに我儘いったのかってな」
「我…儘、レヴィが?」
いつもひどい悪態や愚痴をついても仕事やプライベートで我儘など言ったことなかったレヴィに、ロックはダッチが言ったことがどういうことか想像もつかなった。
それを知ってか知らずかダッチはゆっくりと煙草を吹かしながら続けた。
「あれはおめぇがバラライカから仕事をもらったその日の夜だ。あいつ、俺にあたしも絶対にいくだなんて言いだしたんだ」
「それは僕もロックも知ってるよ」
「ここからはロック、おめぇさんには言わないでくれってレヴィに頼まれたんだが、まぁいいだろ。もう時効だ」
ダッチは冷めて残ったコーヒーを一気に飲み干すとゆっくりベニーにカップを渡した。
- 159 :12:2007/03/22(木) 03:47:08 ID:ziXoELB7
- 「あんとき俺は反対したんだよ。まぁ今でこそレヴィを日本に送って良かったと思ってるが、はっきり言ってあいつを日本に送るのはどうしても避けたかったんだ」
「それはまた何で?」
首を起こしダッチは二人を眺めおおげさに両手の手の平を上に向け肩をあげた。
「考えてもみやがれ。あの超ド級のジャジャ馬ガンマン娘を日本なんかに送ってみろ。俺たちインターポールから共産ゲリラのテロ組織と同じ扱いをうけるぜ」
「ハハハ、まったく同感だ。あ、ロック今笑ったのはレヴィに内緒だよ。殺されちゃうから」
ロックは日本でのことを思い出して苦笑せざるをえなかったが聞きたいことはそんなことではない。
全神経を耳に集中させる。
「それにロックの身を守るならホテル・モスクワの連中だけでこと足りる。つまり、俺たちにとってレヴィを日本に送るメリットはたいしてなかったのさ」
頷きながらベニーは椅子に座りなおす。足が外れかけのこの椅子の寿命も長くはないだろう。ミシミシと音をたてて揺れている。
「確かにそうだね。それでもよくレヴィを許したねダッチ」
「許さざるをえなかったのさ。あいつのあの横顔を見ちまったからな」
一瞬だけロックは壁の時計を目にやった。
11時34分。休暇最終日の午前はもうすぐ終わりを告げようとしていた。
「あいつ、甲板で俺にこう言ったのさ。
『今あいつが日本で殺されたらあたしは日本中の人間をぶっ殺して絶滅させちまうかもしれない。だから頼むビッグボス、あたしをロックのそばにいさせてくれ』ってな」
ロックはソニックブームを全身で受けてしまったような衝撃を覚えていた。
体がバラバラになるほどの衝撃だった。
- 160 :13:2007/03/22(木) 03:48:21 ID:ziXoELB7
- 「笑っちまうだろ?んなこと大統領とファックしたってできっこねぇさ。だがな、今のあいつならやりかねねぇって思っちまったのさ。まったく情けねぇ」
『帰れる価値はあるんじゃねぇか?あたいらから見りゃ、普通の家だ』
何故、あの時彼女は哀しい顔をしたのだろう。
『あたしの役目はあんたの命を護ることで、あんたのライフを邪魔することじゃねぇものな。だから、ついていくよマスター』
何故、あの時彼女は自分についてきてくれたんだろう。
『大変な勘違いさ、あたしたちは歩く死人なんだぜ、ロック』
何故、あの時彼女はそこまで闘うことにこだわっていたのだろう。
『ロック!見るな!』
何故、あの時彼女は……
「そうか…そうだったのか」
体中が熱い。細胞の一つ一つが燃えているようだ。
馬鹿らしい、本当に全てが馬鹿らしく思えて仕方なかった。
吐き気が吹き飛んだ瞬間だった。
「く……くく…」
「ロック?」
「くははははは!!あーはっははははっは!!!」
突如大声をあげて笑いだすロックにダッチとベニーはそれはもう大きく目を見開いた。
「ロック…?大丈夫か?」
「くふふふはは……!俺はねベニー…。今日ほど自分が滑稽だと思ったことはねえ!!!!」
ロックは目の前にあるテーブルを正拳でぶちかました。ヒビが入り正拳の形にテーブルはへこんだ。
「おいロック…」
制しようとするダッチをよそに何度も何度も正拳をぶち込むロック。だんだんとテーブルはへこみ正拳からにじみ出た血がへこんだテーブルに付着していく。
「俺は!!何も!わかっちゃ、いなかったんだ!!否!!わかってる、わかっていたんだ!!ただ!!それを、受けとめないで!逃げてた!!」
「やめろ!落ち着けロック!」
ベニーが後ろからはがい締めロックを止める、がロックはそれでも正拳を打ち付けることをやめない。すでに右手の間接は大きく腫れ血で真っ赤に染まっていた。
- 161 :14:2007/03/22(木) 03:50:39 ID:ziXoELB7
- 「ロック!!」
ダッチの拳がロックの左頬にクリーンヒットしロックとベニーは後方に吹っ飛んだ。
「ったく…どうしちまったんだ。脳に寄生虫でも入っちまったか」
「いてて…ロック、大丈夫?」
「へへへ、許せねぇ……自分が許せねぇ」
ベニーとダッチはまたも驚嘆した。ロックが泣いて笑っている。二人にとってこれほど奇可怪なことはなかった。
「くくく、笑ってくれよ二人共。俺は、最低だ」
「いや、とてもじゃないけど笑えないよ」
ベニーは吹っ飛んだ眼鏡拾いつけなおすとロックに手をかした。
だがロックはそれを手で遮るとごしごしとシャツの裾で涙を吹き、勢い良くすくっと立ち上がった。
「だけど、これでハッピーになれるぜ」
「ハッピーってお前…」
「ダッチ。聞かせてくれて感謝してる。それと最高の休暇をありがとう」
意味もわからず困惑してるダッチにロック背をむけ扉へと向かう。行きざまにポンとベニーの肩を叩いた。
「それとベニー。コーヒー最高に美味かった。ありがとう、またいれてくれ」
「う、うん」
「明日の昼には出勤するから!じゃ!」
そういうとロックは血だらけのシャツのまま一目散に外へと駆け出した。
後に残ったのは茫然とするダッチとベニーだけだった。
「何だろうロック…。何かに取り付かれでもしたかな?」
「さあな…」
- 162 :15:2007/03/22(木) 03:51:28 ID:ziXoELB7
- ダッチは何回目かの煙草に火をつけボコボコにへこんで使い道のないテーブルに灰皿を置いた。
「なぁベニーボーイ。俺は今まで色んな野郎と死線くぐってきたが、あんなイカれた野郎は見たことねぇ」
「僕もだよダッチ。ありゃレヴィ以上のフィーバーだ」
一気に煙を吸うと煙草は半分近くまで灰になって床へと落下してしまった。
「あんときのロックが俺は一番恐ろしいぜ。目的のためなら核でも打っちまいそうな勢いだな」
「以外とこのロアナプラでNo.1の大悪党かもしれないよ」
「ったくレヴィとロック。地球史上最悪最狂のカップルだな。ベニー、火星にでも逃げるか?」
「ああ、まったく違いない」
午後0時00分。ロアナプラの長い雨はようやくやみ、太陽が明るい顔を覗かせていた。
- 180 :16:2007/03/24(土) 23:04:36 ID:rqS/I5Cc
- 太陽がゆっくりと西の海へと沈んでいく。
赤く、そして強い夕日がレヴィの顔を照らしている。
くわえている煙草の煙も太陽の動きにあわせてゆっくりと天に上り、そして消えていった。
ある一角のビルの屋上。そのど真ん中にレヴィはあぐらをかいてたたずんでいた。
ここはロアナプラの街が一度に見渡せる唯一の場所だ。
世界中の悪党を一ヶ所にまとめたようなこの汚れた街も、ここからは何故か綺麗に見えてしまう、そんな場所だった。
だがレヴィの表情に覇気は無く、いつから自分がここにいたのか、それすらも忘れてしまっていた。
束ねたポニーテールがやさしい潮風で弱々しく揺れている。
そばにある煙草の吸い殻の数だけが時間を物語っていた。
ここにくるのも久しぶりだった。ナチ狂の船に乗り込んでカトラスを散々ぶっぱなしたあの夜以来だ。
もう半年前以上のことである。
だがあの時も今も、思う人物は同じである。それは仲間で相棒であるロックのことだった。
目蓋を下げるたびにあの糞野郎の姿が浮かんできてうっとうしいことこの上ない。
いっそのこと、この手で殺せたらどんなに楽になるだろう。
レヴィは、脳内の中でカトラスの銃口をロックに向ける。
照準は頭にあわせて一つ深呼吸をする。
これでさよならだ。
逝ってしまえロック。
ゆっくりと引き金を引くレヴィ。
だがいざ殺そうとすると指に力が入らない。
何度も何度も、銃口を向けなおすレヴィ。
しかし引き金をひくことはとうとう適わなかった。
自分がとてつもなく愚かに思え、くわえている煙草をグッと噛み締める。
たまらなく苦い味がした。
- 181 :17:2007/03/24(土) 23:05:28 ID:rqS/I5Cc
- 「何だってんだよ、クソったれ…」
いつからだろうか。妄想の中のあいつが自分に背中を向けるようになっていたのは。
半年前まではそんなことはなかった。
あの時のレヴィの中のロックは、ただ黙ってこちらを見つめていたのだ。
それが今は、そのムカつく顔も見せようともしない。
それどころかその背中が、どんどん遠ざかっているような気がした。
本当に腹が立つ。
手前なんか死ねばいい。
そのままどっか行っちまえ。
二度とあたしに近づくな。
嫌だ。
やめろ。
置いて行くなロック。
あたしを見ろ。
頼む、お願いだ。
あたしを見てくれロック!
はっと目を覚ました。
どうやら心地よい潮風に、意識をとられたらしい。
吸っていた煙草は自分の足の間に落ちて灰になっていた。
レヴィは自分の両頬をパンパンと叩いて鳴らした。
「何夢見てたんだかな、あたしは」
レヴィは立ち上がりゆっくりと伸びをする。
ずっと座って固まっていた体に血が戻るのを感じていた。
なんてことはない。
今までだってそうだったのだ。
それが少しずれて絡まっていただけだ。
なんの問題もない。
自分自身に修正すればいいだけのこと。
それでめでたしめでたしってやつだ。
「そうさ。あたしは歩く死人なんだからな」
太陽はその役目を終え、今日という日に別れを告げようとしていた。
燃え上がる最後の一光が、レヴィの顔を激しく照らし、そして西の海へと静かに沈んでいった。
- 182 :18:2007/03/24(土) 23:06:37 ID:rqS/I5Cc
- 家の前の扉、そのドアノブに手を掛けた瞬間、レヴィの体は硬直した。
何かがいつもと違う。
長年の勘がレヴィに危険を知らせていた。
緊張が走り、殺気が全身を駆け巡る。
しまった、ビルに入る前に自分の部屋の明かりが着いているかどうか確認していなかった。
レヴィは小さく舌打ちすると、時計の短針のようにゆっくりとカトラスを握り締め抜いた。
頭の中でカウントを開始する。
3…2…1……
Go!!
勢い良く扉を開け、中へ転がり込む。
ベッドの横に立っている人影が目に入り、カトラスを向ける。
勝った。
自分の方が圧倒的に早い。
後はありったけの弾をくれてやるだけだ。
あばよ、クソ野郎。
(待て!!)
脳が急いで引き金を引き掛けている指に司令を送る。
間一髪間に合った。
殺気付いて両目から脳への情報が少し遅れてしまった。
その人影は紛れもなく、今日散々自分が思い患っていた日本人。
ロックだった。
「おかえり。まったく、鍵ぐらいかけろよな。不用心だぞレヴィ」
意味がわからない。何故ロックが自分の部屋にいる。
しかも血だらけのシャツのまま。
レヴィはカトラスをロックに向けたまま、ただ困惑していた。
- 183 :19:2007/03/24(土) 23:07:34 ID:rqS/I5Cc
- 「何…してんだ。あたしの部屋で…」
「何って、掃除してたんだよ。レヴィの部屋、あんまりだったからね。すぐ汚してしまう性格直したほうがいいよ」
ロックは固まって自分から銃口を外さないレヴィを尻目に、部屋を見渡した。
「ほら、綺麗になっただろう?時間かかってやっとここまで片付いたんだ」
ますます意味がわからない。
掃除?あたしの部屋で?何故だ?
いや、そもそも何でこいつはあたしの部屋なんかに来たんだ?昨日、あんなことがあったばかりなのに。
レヴィは自問自答するが、到底答えなどでるわけはない。
ロックはそんなレヴィに目もくれず、嬉しそうに腰に手をやっている。
「結構苦労したんだぜ。床、窓、たまった洗濯物、ゴミの山、あと便所と風呂も掃除しといてやったぜ。なんなら今から風呂入りなよ。気持ちいいと思うよ」
レヴィの殺気が再び力をこめろと、指に命令している。
レヴィはそれを堪えるのに必死だった。
「うるせぇ……何でここにいるって聞いてんだ…」
「だから掃除に」
「んなこと聞いてんじゃねぇ!!二度と面見せんなっていっただろ!」
ロックは深いため息を付いた後、窓に肘をかけレヴィに向き直った。
「それじゃ仕事にならないだろ」
「ブラックラグーンをおりなロック」
「俺は辞める気は毛頭ないよ」
「じゃあ、あたしがおりる。だから今すぐ失せろ」
にやりとしながらロックは、雨でしわくちゃになってしまった煙草に火を付けた。
「あまり我儘は可愛くないよレヴィ」
ロックのこの一言にレヴィのヴォルテージが一気に膨れ上がった。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」
胸ぐらを掴み銃口を痛いほど顎に突き付ける。
「今あたしは最高にムカついてんだ。この距離なら絶対外さねぇぞロック。あんときの市場のような奇跡は起こらねぇ」
ロックは微動だにしない。それどころか煙草を吸い直す始末だ。
その全てがレヴィは気に入らなかった。
さらにグッと銃口を押しあて鬼も逃げ出す表情で睨み付けた。
- 184 :20:2007/03/24(土) 23:11:13 ID:rqS/I5Cc
- 「掃除をしにきたって言うのは本当だ。だけどそれだけって言うなら嘘になる。謝りたかったんだ。レヴィ、お前に」
ロックの言葉にレヴィは目を丸くした。
右手のカトラスから力が抜けないように気を付けながら聞き返す。
「謝るだと?いったい何を謝るっていうんだよ?」
「すまない。レヴィ、お前を傷つけた」
このジャップは本当に笑かしてくれる。
謝りにきただって?
一体何の冗談だ。
このまま何も言わず、顎から脳を吹っ飛ばしてやろうと思った。
「気色悪ぃ。あたしがいつてめぇに傷つけられたって言うんだよロック?」
煙草を口に運び、くわえたままレヴィに答える。
「昨日の晩、酒場でレヴィ、おまえ俺に聞いただろ?後悔してんじゃないかって。あの時、俺は嘘をついた。俺はやっぱり後悔してたんだ」
口元が緩みレヴィは卑しく笑った。
カトラスをロックから離し背を向ける。
白いうなじも淋しく笑っていた。
「それ見たことか。てめぇは結局あっち側の人間だったてことだ。中途半端に棺桶に足突っ込みやがって。糞偽善者が…」
レヴィはロックと顔をあわせず天井にむかって叫んだ。
「反吐がでらぁ!てめぇみたいな半端野郎が一番仲間を死に追いやるんだ!涼しい顔してな!
ダッチには黙っておいてやるよ。
だから消えろロック。目障りにも程がある。日本に帰ってあの女の墓の前で手を合わせてな!」
言いおわってレヴィは息を整えた。
熱くなってる自分がダサい。
が、これでいい。一時だけでも仲間で、夜をともにしたことのある男を殺すよりかはいくらかましだった。
- 185 :21:2007/03/24(土) 23:12:05 ID:rqS/I5Cc
- 「違うよレヴィ。そうじゃないんだ」
「もういいよ…。てめぇにはマジに愛想がつきた。頼むから消えてくれ」
煙草が燃えつきフィルターまで火が来ている。だがロックはかまわず続けた。
レヴィの背中を見つめながら。
「レヴィ、俺はね、雪緒ちゃんが死んだことなんて後悔しちゃいないんだ。それを後悔してない自分に後悔してたんだ、俺は」
それを聞きレヴィは首だけをこちらに向けた。
「何だって…?」
だがロックはレヴィに目を合わさずただ床を眺めてるだけだった。
「お前に誘われて以来、たくさんの人間の死を見てきた。その度に俺は心底恐かったし、また悲しかった。だがあの日本の時から俺は何かが変わっちまったのさ」
すでにフィルターまで燃えている煙草を、灰皿に放り投げ新たな一本を取出し、ロックはしごく丁寧に吸い直した。
「雪緒ちゃんは可哀想な娘だった。できたら助けてあげたかった。でも彼女が自ら刄を首に突き刺した時、俺は本当に素直に受けとめてしまっていた。
俺はそんな自分が恐かったんだよ。後悔してない自分に。
だからおまえに逃げようとしたんだ」
黙って聞いているレヴィにロックは頭を垂れた。
「それを謝りたかった。だから今俺はここにいる。
すまないレヴィ。俺はお前を傷つけてしまった」
- 186 :22:2007/03/24(土) 23:14:20 ID:rqS/I5Cc
- 気に食わない。
そう、こいつの全てが。
そうやって頭を垂れるのが日本式か。
馬鹿らしい。
本当に、馬鹿らしくて死にたくなる。
次の瞬間。レヴィは割れんばかりの空な声で笑った。
「あははははは!!ったく!てめぇは本当にどうしようもない馬鹿だぜロック!」
黙って見つめるロックに、レヴィは勢い良く振り返り罵った。
「後悔してないことに後悔だって?腐ってるにも程があらぁ!
いいか?あの女は地球がひっくり返っても勝てないロシアのウォークレイジーに喧嘩売ったんだ。その時点でThe Endなんだよ!
あたしたちに殺されるか、姉御に殺されるかの違いだった!歩く死人になっちまったって言っただろう?
後悔する必要なんてそもそもねぇんだよ。なのに後悔しないことに後悔するなんて、んなのただのてめぇのオナニーだろうが。
そんなこともわからねぇなんて、てめぇは馬鹿だ。カスだ。蛆虫だぜロック!!」
言い放つレヴィにロックは、眼を剃刀のようにとがらせレヴィを睨み付けた。
「訂正しろ、レヴィ…」
「何を訂正するってんだ?てめぇは馬鹿馬鹿大馬鹿野郎なんだよ!!」
「違う、彼女を死人扱いしたことを訂正しろって言ってんだ」
「何だと…?」
一触即発の空気がロックの吸っている煙草の煙とともに、二人を包み込んだ。
自然にカトラスに力が入っているレヴィ。
それを、怒りを込めて睨み殺しているロック。
地球で今一番危ない男と女がロアナプラの一室で相対していた。
- 192 :23:2007/03/26(月) 03:07:16 ID:1LHtq4uu
- ロックとレヴィ、二人の束の間の休日は今日が最終日である。
今二人は互いを見つめ合っている。
否、今にも戦争が始まりそうなほど睨み合っているというべきか。
まるでガスが充満している部屋で、ライターを点火しようとしているような危ない雰囲気だ。
静寂を先に切り裂いたのは声に怒り込めたロックだった。
「訂正するんだレヴィ。彼女、雪緒ちゃんを歩く死人扱いしたことにな」
鼻につくような物言いをされてレヴィはすぐさま言い返す。
「覚悟を決めた時点であたしたちと同じなんだよロック。死に損ないの仲間入りってね」
「違う、彼女は生きようとしていた。死ぬことなんて望んじゃなかった」
それを聞いてレヴィは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
その微笑みは相手に止めを差すときの顔と、一分にも違いはなかった。
「だから死んだんだよ。あのジャンボもそうだったじゃねぇか。見ただろ?生きようとすれば遅れちまうんだよ。すぐさま昇天。はい、それまでよさ」
「そうだな。銀さんは雪緒ちゃんが生きることを諦めたと勘違いしてた。だから、お前に負けたな」
上目遣いにレヴィを見やると、ロックは言いおわった後に口元をにやりと釣り上げた。
それをレヴィは見逃さなかった。見逃すわけにはいかなかった。
- 193 :24:2007/03/26(月) 03:09:18 ID:1LHtq4uu
- 「何がいいてぇ……ロック」
煙草の煙を深く吸い込む。肺いっぱいまで広げて、さらに一気に煙を吹いた後で、ロックはレヴィに鋭く言い放った。
「おまえに雪緒ちゃんは殺せなかったさレヴィ」
「は…?」
言ったことに理解を示さないレヴィに、ロックはネクタイを外し更に語尾を強めて言い放った。
「死人なんかが生者に勝てるわけねぇっていったんだよレヴィ」
馬鹿にされてるのか、コケにされてるのか、わからない。
が、いずれにしてもこの男に対して、レヴィはもう我慢の限界だった。
何かが音をたてて崩れていくのを感じてしまった。
「あたしがあの女を殺せないだと…。確かにそういったなロック…」
「ああ。ついでに言っといてやるよ。お前は俺を絶対に殺せない。糞にも劣る死人が生きてる者を殺せるはずがない」
レヴィは絶叫した。
そして狂ったようにロックに襲い掛かった。
激しく、もつれ合うロックとレヴィ。
だが下になってしまったのはロックだった。
そのロックの額に、レヴィはあざが残るほどカトラスの銃口を押しつけた。
これを引いたら全てが終わる。
歓喜か狂気か。
カトラスを握っている右手が激しく震えていた。
「し……しし、死ぬか、死ぬかロック」
「雪緒ちゃんは生きようと闘っていた。だけどほんの少しだけ弱かったんだ。逃げることをしなかっただけだ。生者であることに代わりはない」
- 194 :25:2007/03/26(月) 03:10:04 ID:1LHtq4uu
- この男は状況をわかっているのか?
脅しではない。
本当に殺すつもりなんだ。
なのに何故こんなに冷静でいられる。
何故命乞いをしない。
わからない、わからないからレヴィはロックの話を聞いていた。
「それなのにさ、レヴィ、お前は彼女を歩く死人だなんて抜かしやがった。歩く…死人。くくくくく」
何がおかしい。
笑ってんじゃねえ。
そうだ、撃っちまおう。
それで自分は元に戻れる。
このイカれた日本人に患わずにすむ。
それだけのことだ。
だが、レヴィが引き金を引くよりも先にロックはレヴィに叫んだ。
「歩く死人だと!?かっこつけてんじゃねえ!いいか?お前は何のためにブラックラグーンにいる、レヴィ!!」
「そいつは金の」
「何のために金を使う!!」
「それは…」
「生きるためだろうが!!違うかレヴィ!!」
「う…」
ロックの真っすぐ過ぎる純粋な瞳に、レヴィは思わず狼狽してしまった。
ロックはなおもレヴィにまくしたてる。
「そうだ!どんな仕事であれ人間は生きるため働いている。金なんてのは生きるための道具にしかすぎねえんだよ!
それをなんだ…!あっちとか、こっちとか意味のわからない世界で俺を区別しやがって。どこにいようが皆一緒だ。
人間は生きるために生きているんだ!!そんなこともわからないなんて、失望したぜレヴィ!!
もし本当にこのロアナプラで自分のこと死人だなんて、気取って格好つけてる奴がいたら俺が全員修正してやる!ふざけんじゃねえ!!!」
- 195 :26:2007/03/26(月) 03:10:53 ID:1LHtq4uu
- それはいとも簡単に行なわれた。
ロックがカトラスを握っているレヴィの右手を、信じられないような力で思いっきし引いた。
逆転するロックとレヴィ。
ロックは急いで両手で、同じくレヴィの両手を床へと押しつけた。
カトラスが虚しく音をたてて床へと転がる。
「見ろよ。ひ弱な俺だってこんなに接近したら、お前に勝つことなんて造作もないんだぜ?レヴィ」
レヴィは地球が終わってしまうほどのショックを受けた。
今自分を押さえ付けてるのはいつも守ってやっているロックだったからだ。
まさか自分がロックに手も足もだせないなんて信じられなかった。
レヴィはこの一年と少し、ロックがずいぶんたくましくなってしまったと痛感してしまった。
「レヴィ。自分が誰か言ってみろ」
やめろ。
それ以上あたしの中に入ってくるな。
壊れちまう。
あたしが駄目になってしまう。
「離せえぇ!!離しやがれロックウウゥゥ!!!」
レヴィは体がバラバラになりそうな程激しく暴れるが、それも虚しい抵抗だった。
ロックの両手は楔のようにレヴィの両手を床に張り付けていた。
「自分を認めるのがそんなに嫌かレヴィ?なら俺が言ってやる」
「言うな!!言うんじゃねぇ!やめろロック!!」
「お前は女なんだよレヴィ。生きて、生きたくて仕方がない女なんだ」
「あぅあああぁぁ…」
- 196 :27:2007/03/26(月) 03:13:53 ID:1LHtq4uu
- 言われてしまった。
同時に認められてしまった。
レヴィを支えてるものをロックは叩き壊した。
両目から熱すぎるものが流れてくる。
それはこめかみを伝い、床へと落下していった。
「どうして………どうしててめぇはいつもいつもあたしを否定しやがる……」
「お前は俺がブラックラグーンに乗った時からずっと守ってくれた。日本にいたときは俺の我儘に付き合ってくれた。
そんなお前が自分のことを死人だなんて言ったことが俺には許せなかったんだ」
レヴィは濡れた目で恐る恐るロックを見た。
ロックの黒い瞳はいつのまにかレヴィを哀しく、そして優しく見つめていた。
「お前が銀さんを撃った時、俺は正直安心してしまったよ。レヴィが殺されなくてよかったってな。
だから、だから雪緒ちゃんが自殺するのも静かに受けとめられたかもしれない」
レヴィは震える唇でロックに尋ねた。
「もし、あたしが殺られてたらどうしていたロック…?」
「俺も恐らく、雪緒ちゃんと同じことをしたと思う」
レヴィは再びロックから目線を外そうとするが、ロックの瞳がそうはさせなかった。
ロックの黒い瞳はレヴィの目を、光を吸収するように吸い取っていた。
- 198 :28:2007/03/26(月) 03:16:47 ID:1LHtq4uu
- 「馬鹿だぜロック…大馬鹿すぎる」
「馬鹿でも大馬鹿でもかまいはしない。レヴィ、お前を一人になんかしないさ」
弾丸よりも確かなものをロックから撃ち込まれてしまった。
それはレヴィの全身の血が騒ぎだし、体中を熱くさせるには十分すぎるほどだった。
「だから、もう自分のことを歩く死人だなんて言うな。生きてくれレヴィ。俺にはお前が必要なんだ。レヴィ、お前が生きててくれなきゃ俺は死人同然なんだよ」
撃ち込まれたところから何かがうまれるのを感じた。
心が熱い。とんでもなく熱い。
激しく燃えているが、決して燃え尽きることがないものにレヴィは動揺した。
「ロック…あたしはそれじゃ駄目なんだ…。この世界であんたみたいに生きてはいけない。弱く…なっちまう…」
ゆっくりと首を横に振るロック。
レヴィの手を押さえていた自分の手を解き放ち、そっと美しいレヴィの頬に添えてやる。
涙の後を拭い、ロックは優しく微笑んだ。
「弱くなんてならないよレヴィ。強くなるんだ。それこそ誰にも負けない女になれる。
一人で無理なら俺がずっと傍にいてやる。いや、居さしてくれ、レヴィ。二人ならなんとかなるさ。」
動揺がなくなった。
ロックの言うこと全てが信じられる。
それはこの思いからくるものなのか。
熱くて火傷してしまいそうなこの思い。
これだけは手放してはいけない。
レヴィの中の何かがそう呟いた。
ゆっくりとロックが顔を近付けてくる。
両頬はロックの手で温かい。
ロック、あんたは不思議だ。
銃も持てないくせに、そんなことどうでもいいくらい一生懸命この糞蓄で生きてやがる。
不思議だ、ロック。
でも、それでも構わないんだよな。
二人なら何とかなる、か…。
わかった、あたしはあんたを信じるよ。
『ありがとう』ロック。
重なるロックとレヴィの唇。
レヴィもロックの頬を両手で優しく挟んでいた。
- 229 :29:2007/03/29(木) 01:38:38 ID:s1cmAhr+
- 長いキス、互いに互いの唾液を舌で混ぜ合わせる。
舌の表面の感触の違いを確かめあうレヴィとロック。
混ざった二人の唾液がレヴィの口からあふれ、細い筋となって落ちていった。
歯の裏、舌の付け根、頬の内肉、ロックはレヴィの口内ありとあらゆる場所を激しく味わう。
いつのまにかロックの一方的なディープキスに変わってしまい、レヴィはただ従うしかなかった。
ロックが舌で舐め暴れるたびに、痺れるような快感に襲われる。
それだけで、股の間が湿っていくのを認めざるをえなかった。
「あ……」
急にロックがレヴィから口を離した。
切ない思いにかられ、レヴィはつい声をだしてしまった。
そんなレヴィをロックはじっと見つめている。
ブン殴ってやりたくなってレヴィはついと顔を横に向けた。
「見てんじゃねえよ」
「駄目か?俺は見てたいよ。ずっとね」
顔が赤くなってレヴィはムーッと口をつぐんだ。
「玉潰して鳥に喰わせてやる」
「ハハハ、俺のあれは雑穀クラスかよ」
「うるせえ。馬鹿ロック」
ロックはまた一つ笑うとレヴィを抱き、そのまますくっと立ち上がった。
急に立たされたレヴィは足がもつれロックに体重をあずける。
真っ赤に血がついたシャツが頬に触れた。
昨日ロックの顔面を殴ってできた、大量の鼻血の後だった事をレヴィは思い出した。
- 230 :30:2007/03/29(木) 01:39:40 ID:s1cmAhr+
- 「汚い」
「それはひどいよレヴィ。お前が殴ってできた血の池だぜ」
「そいつはあんたが悪い」
痛いところをつかれてロックは苦虫を噛み潰したような顔をする。
それをレヴィは抱かれたまま上目遣いで見上げた。
「鼻、大丈夫かよ」
「まぁまぁかな。折れてはいないから安心してくれ」
「心配なんかしてねぇよ」
そうかい、とため息をつきさらに力をこめてレヴィを抱き締める。
男の力で抱き締められたレヴィはロックの激しい鼓動を直に感じた。
自分の高まっている心臓も察知されているだろう。
合図はそれだけで充分だった。
ロックはするりとレヴィの短ズボンの中に手を這わせた。
形がよく柔らかい尻を、直に大きく揉みしだいていく。
息が自然に漏れていくレヴィは、たまらずロックのシャツにしがみついた。
「これ、最高にやらしくないかレヴィ?」
「何が…やらしいんだよ…」
「電車の痴漢みたいじゃないかな?」
「知ら…ねえよ。んなことされんの…日本だけだろ…」
今度は少し力をこめて揉んでいく。
指先が肉に食い込み、レヴィの息をさらに熱くさせた。
「感じるか?」
「うる…せぇ…」
「じゃあ、ここは?」
「ひゃう!」
さらに手を奥へと突き進み、ロックはいきなりレヴィの膣口に中指を差し込む。
不意打ちをくらい、レヴィは甲高い声をあげてしまった。
とろとろとズボンの裾の間から液が漏れ、足を伝っていく。
ロックはそれを確認した後、満足そうな顔をした。
「すごいな。もう、こんなになってる。下着、ぐしゃぐしゃだよレヴィ」
「い、いきなり、何、しやがる」
「油断大敵だよ、レヴィ」
- 231 :31:2007/03/29(木) 01:41:03 ID:s1cmAhr+
- そう言って中指を中でぐるぐる回してやる。
膣の裏側のざらざらした触感を指でじっくりと堪能するロック。
「あ、あ、あ、くぅ!ロ、ロックゥ!て、てめぇ!ああ!」
必死に抵抗を見せるレヴィだがロックの耳には入らない。
かき回すようにぐるぐると抉り続ける。
ロックは捜し物をしていたのだった。
「確か…この辺に…。あれ…?」
「ぐ!ぅぐ!あ、ぁ!はぁ、あ!」
「ああ!!わかんねぇ!」
一気に右手をレヴィの後ろから引き抜くと、また一気に今度は前からレヴィのズボンの中に右手を突っ込んだ。
そして前からまた中指を突き上げ先程より激しく掻き回す。
膣の中を2周ぐらいしたところで、少し上の方で窪んでるところをロックは発見した。
「レヴィ、見つけたよ」
「ロ、ロック!やめ」
「それ」
「うあああぁぁぁ!!」
窪んでるところに中指の先端を押し込む。そして器用に、振動させて触れているものを刺激してやる。
言うまでもなくGスポットを攻められてしまったレヴィは、ただもう喘ぐしかなかった。
「ああ!!くうぅぅ!ん!ん!やぁ!あ、ぐか!ひぃ!」
「レヴィ、いいよいっても。ズボンとパンツ、洗濯しとくからさ」
液漏れがとまらない。両足を伝い靴を伝い、床に染みていく。
水溜まりができやしないかと、ロックは少し心配した。
そこでロックは一回ぐるっと膣壁が剥がれ落ちるぐらい激しく回した後、小さな窪みを鋭く抉ってやった。
それがとどめとなった。
- 232 :32:2007/03/29(木) 01:42:23 ID:s1cmAhr+
- 「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
ズボンの中で下着とロックの右手に潮をぶちまける。
その水圧のせいで一瞬、滝のように愛液が足から流れ落ちた。
ロックは右手をそっと抜き、レヴィを抱き支えてやる。
すでにレヴィの全身から力が抜けていて、ロックに身をあずけるしかなかったのだ。
まだ潮はわずかに吹いているみたいで、吹き出すたびにカクカクと痙攣するレヴィを、ロックは優しくベッドに寝かせた。
「大丈夫?」
「んな…わけねえだろ。てめぇ、ちゃんと…洗えよ…」
「わかってるよ。汚しついでに…レヴィ、いいかな?俺、もう我慢できそうにない」
「ったく。ここまでいじくり回しやがって何を今更…。ヘタレロック」
「それこそ今更の話だ。俺は昔からヘタレでどうしようもない馬鹿だよ。でも、今だけは……。ごめんレヴィ、お前を犯す」
ガッとレヴィの服を強引に脱がして放り投げる。
あっという間に全裸にされてしまい思わずレヴィは驚いてしまった。
だが本当に驚いたのはロックの眼光にあった。
飢えた獣のようならまだマシだ。
ロックの黒い瞳は大きく見開いていて、吐く息はまるで何かの発作のように激しかった。
フスー、フスーと歯の間から吐音を撒き散らすロックにレヴィは息を飲んだ。
ロックと体を重ねた日は、もう両指では数えられないくらいあったが、今の餓鬼のようなロックを見るのは初めてであった。
- 233 :33:2007/03/29(木) 01:43:30 ID:s1cmAhr+
- ロックの右手が弾丸のような速さで、レヴィの左胸をギュッと絞り揉む。
痛いと思った瞬間、今度は左手で膣の上の突起物を撫でられた。
そして、最後にロックの舌がレヴィの耳の裏を激しく舐めまわす。
三ヶ所同時に責められて、まだイッたばかりのレヴィの体に、否が応にも反応してしまう。
爪痕が残るほど強く揉まれてる胸は、痛いがそれが快感へと繋がっている。
押し潰されるほどいじくられている突起物からは、強烈な電気を発し全身を駆け巡る。
そしてまるで犬のように舐められている耳の後ろは、刺激されたらそれだけで濡れてしまうほど、レヴィにとっては最悪の弱点だった。
「うわあ!!あ、あ、あ、あ、ぁぁぁあああういい!」
腰が自然に持ち上がりたまらず二回目の絶頂を迎えてしまうレヴィ。
愛液の噴水がベッドを汚していく。
一分程痙攣し、力が抜けドサッと腰をつくレヴィを見て、ロックは血のついたシャツとズボン、そしてトランクスを思いっきり脱ぎ捨てた。
虚ろな目でレヴィはロックを見つめている。
固く、そして痛いほど孤立して脈打っているものが目に入って股間がまた更に熱くなるのを感じた。
レヴィの足を力強く広げそのまま、腹のくびれを両手でがっしりと固定したのち、ロックはレヴィに告げた。
「入れるからな。止めないでくれよレヴィ」
「勝手に……しやがれ」
一気に、しかも最奥へ。
ロックとレヴィは繋がった。
「ひぎぃ!!」
レヴィの悲鳴が狭い室内に響く。
脳に直接電流を流し込まれた感覚がしてレヴィはロックを強く強く抱き締めた。
男の本能にまかせ、ロックはそのまま容赦ないピストンをはじめる。
すでに愛液で満たされているレヴィの中を、それでも摩擦で火傷をしそうな程擦りあげまくった。
もはや気持ちいい等という範疇を超えている。
レヴィの膣内もまたロックに最高の快感を与えていた。
- 234 :34:2007/03/29(木) 01:44:51 ID:s1cmAhr+
- ヤクをキメてラリってる連中が、ロックには心底馬鹿らしく思えた。
世の中には、クスリなんかに手を出さなくても最高の快感を味わえるモノがあることをロックはしみじみ感じた。
その快感を独り占めできるというまた違う快感にロックは感激していた。
「レヴィ、お前は、俺の、モノだ」
もはや悪態もつけない程感じているレヴィは、目をギュッと瞑りただロックを抱き締め何回も首を縦に振った。
「あ!あ!あ!あぁ!ロックロックロック!」
抉り上げられる度に、自分を犯している男の名を呼ぶレヴィ。
それに応えるかのようにロックは更に速度を増した。
「く、くる!きちまう!ぐうぅぅぁあ!!」
挿入されて一回目の絶頂。だがかまわず尚腰を降り続けるロック。
「ひ、ひぐ!が!うぅう!!」
すぐさま二回目の波がレヴィを襲う。
それに耐えるにはただロックにしがみつくしかなかった。
そのレヴィの腰を持ち上げ宙に浮かせた状態にロックは持っていく。
そうすることで更に、奥へと進入させることに成功する。
子宮口の存在を先端で触れ、確認した。
「レヴィ、レヴィレヴィレヴィ!!」
ロックもまた、犯されている女の名を連呼する。
パンパンと、肉と肉がぶつかり合う音がこだましていた。
- 235 :35:2007/03/29(木) 01:46:09 ID:s1cmAhr+
- 「ぐ!?ぐあ!」
解き放ちそうになるのをグッと堪える。
が、腰はもう止まらない。
最後の時まで一直線である。
それを感じ取ったレヴィは両足でロックの腰を固定した。
「レ、レヴィ!?」
「お…お願いだロック。あ…あたしの中に、くれ、くれ!あたしを、と…飛ばせて、くれ!!」
懇願してる。あのレヴィがこんなにも。
可愛いとか、綺麗だとかで言い表わせないこの感覚。
愛しい。愛しすぎる。
そうか、自分はこんなにもレヴィを。
この街じゃあダサくて格好悪くて鼠の餌にもなりゃしないがそれでもいい。
素直に認めよう。
俺は俺だ。
誰にも文句は言わせない。
ロックの気持ちは決まった。
「わかった。レヴィ、最高のやつをぶち込んでやる。孕ませてあげるよ」
「た、頼むロック!!早く!!」
フィナーレは一瞬にも永遠にも感じられた。
二人は同時に飛んだ。
「う!ぐあぁ!!」
「ああああああーーーー!!!!」
レヴィの子宮に向かって流れだすロックの精液。
すさまじい量と憤りを、レヴィは薄れてる意識の中、己の腹でしっかりと味わっていた。
- 236 :36:2007/03/29(木) 01:51:04 ID:s1cmAhr+
- ようやく長い射精が終わり、ロックは心底満足そうにレヴィにキスをした。
お互い舌をからめあうが先程のキスとは違い、何かを讃えあうような、そんな優しいキスだった。
ロックが口を離すとレヴィは、とろんとした目でロックを見つめた。
ロックが微笑んでこちらを見ている。
急に恥ずかしくなり、レヴィはあわててロックから視線を外した。
「見てんじゃねえ!」
「だからさっきもいったろ?俺はレヴィを見てたいってさ」
「う!うるせえうるせえぞ!見んなつったら見んな!ぶっ殺すぞてめぇ!て、いい!?」
下半身が盛り上がるような感触がして、レヴィはまだロックとつながっていることを思い出した。
「ロック、てめえ…」
「はぁ〜〜。レヴィがそんな可愛い反応するからさ……ほら、わかるだろ?」
「こ、この絶倫ファック野郎!!さっさと抜いちまえ!!」
ロックはにかっと笑うと目付が変わった。
それは先程、自分を犯している時の危ない目に違いはなかった。
「これだけじゃさ…つまらなくないかレヴィ?」
「べ…別に…」
「嘘つきだなレヴィは」
そう言って再びレヴィにキスをするロック。
今度はベッドに入る前の激しいディープキスをされ、レヴィにもスイッチが入ってしまった。
ロックの首に両腕を回し、下半身で男性器を受けとめたまま激しく舌を求める。
時計は短針が調度8を回ったところ。
二人の夜はまだまだこれからだだった。
- 277 :37:2007/04/04(水) 02:50:26 ID:yBDb9n9Z
- 明るい朝日が顔に直射しているのを感じ、ロックは目を覚ました。
ぼんやりした頭を掻き壁の時計を確認する。
午前7時15分を過ぎたところだった。
はっと意識を戻し、直ぐ様レヴィがどこにいるか確認する。
彼女は自分のすぐ隣で、赤ん坊のような寝息をたてていた。
安心した。
何故かはわからないが、騒ぎだした心臓が急激に落ち着くのを痛いほど実感してしまった。
彼女のその柔らかい頬にそっと手をやる。
たまらない何かがロックの背筋を走った。
もし今彼女が殺されてしまったら。
そんな想いが一瞬よぎり、胸が破裂してしまいそうなぐらい切なくなる。
その時、自分はどうするのだろう。
レヴィを殺した相手に、これ以上ない苦痛を与えて復讐するのか?
もしくは、彼女を追って頭を吹っ飛ばすのか?
否、どちらも『現実的』ではない。
おそらく何もできず、ただ植物のように息をしてるだろう。
そう、今までの自分ならば。
決めたのだ。
もう恐れることは無い。
レヴィに誘われたあの日に自分は死んだ。
だが今いる自分は死人などではなくちゃんと生きている。
物を食べ、眠り、弾丸の中を歩き生きている。
恐れることなどあるはずなかったのだ。
あえて言うならただ一つ。
人を殺すことをためらいもせず実行し、後悔など微塵も見せないこの悪党中の悪党、レヴィ。
死体に反吐を吐くこの女は、どれほどの屈辱を受け、なぶられ、痛め付けられて殺されてもまったく仕方がない程の罪を重ねている。
どんなに強い悪党も、最後はみじめなものだ。
いつか脳髄とハラワタを、ドブの中にぶちまけられるだろう。
因果とはそういうものと、ロックはいつからか無意識に覚悟していた。
- 278 :38:2007/04/04(水) 02:52:54 ID:yBDb9n9Z
- 「ふざけろよ」
鼻で笑うロック。
「仕方ないだって?」
レヴィの頬を何度も撫でる。
直に彼女の温もりが伝わってくる。
まるで猫のように。
「一生仕方ない、仕方ないってほざいてろ」
つい力が入ってしまったのか。
頬を撫でてる自分の手を違和感と感じたらしく、レヴィは重たい目蓋をゆっくり開いてロックを見た。
それにあわせてロックも彼女から手を離した。
「ロック〜…。今、何時だー…」
ノンレム睡眠中に起きてしまったのか、レヴィは体を起こそうともせず、呂律が回ってない舌で時間を尋ねた。
「もうすぐ7時半だよ。おはようレヴィ」
はいよ、と言うとレヴィは体を90度回して天井を仰いだ。
ほどけた髪をうざったそうに退かして、レヴィはまた目を瞑りかける。
2度寝するのかと、ロックが思った瞬間、レヴィが質問してきた。
「なぁ…ロック。結局あたしら何回した?」
少し以外な質問に、ロックはしごく冷静に答えた。
「ベッドに入って3回、その後風呂に入ってから1回、出てからまた3回したから合計7回かな」
「け!このエテ公!てめえの玉は永久機関かよ」
「レヴィだけだよ。こんなに燃えるのはさ」
掛け布団で顔の半分を隠しているレヴィ。
寒いわけではないのであろうが。
「マジな顔して言うんじゃねえよ馬鹿野郎」
「ハハ、ごめんごめん。でも最高の夜だったよ。俺にとってはね」
「…まーな。エテ公の割りにはよく頑張ったじゃねえかロック」
「それはどういたしまして」
言いおわるとロックはおもむろに煙草をとりだして火を着けた。
煙は数秒だけ姿を見せて空中に無散して消えていく。
それをゆっくり眺めてるとレヴィのうらめしそうな視線を感じた。
- 279 :39:2007/04/04(水) 02:53:38 ID:yBDb9n9Z
- 「一本くれ、ロック」
「ラッキーストライク、きらしたのかい?」
「いや、あるにはあるんだが…」
「これマイルドセブンの6ミリだぜ。そんなもんガキの煙草だって言ってなかったっけ?」
「いいからよこせ!!」
何故か頭を叩かれてロックは不思議そうにマイルドセブンを一本差し出した。
「火!」
「あ、はい」
ライターをひょいと差し出す。
が、レヴィは受け取らない。
代わりにジトーとした視線をロックに向ける。
ロックは訝しげながらも数秒考えた。
「あ、なるほど」
言ってロックは煙草をくわえたままレヴィに顔を近付けてやる。
その燃えている先端をレヴィのくわえてる煙草に押しつけて、火を灯してやった。
「これでいいかい?」
「ったく…」
「ごめん」
同じ煙草を、同じ火で味わうレヴィとロック。
二人が出す煙は途中空中で絡み合い、そして上っていった。
「なつかしいな、これ。一年ぶりぐらいか」
言ってロックはレヴィの反応をうかがった。
うまそうに煙草を吸うレヴィが微笑ましかった。
「べつに…。忘れた」
明らかな嘘とわかっててもロックは追求しない。
する理由などなかった。
「じゃあ、これは覚えてるか?その日の夜のこと」
「し、知らね」
「俺は覚えてるよ。俺たち、初めてやったよな」
「昔話なんかすんじゃねえよ」
ロックに背を向けるレヴィ、急に目に日光があたり眩しそうに目を閉じる。
そんなレヴィを、ロックは後ろから優しく抱き締め耳元で力強く囁いた。
- 280 :40:2007/04/04(水) 02:54:39 ID:yBDb9n9Z
- 「レヴィ、おまえは俺が守る」
ロックの腕の中でレヴィは鼻で笑った。
「銃も持てないあんたが?頼りないにも程があるぜ」
「確かに俺はお前みたいに銃ももてないし、人も殺せない。だけど冗談なんかじゃないよ。俺はレヴィを守りたいんだ」
彼女の髪に顔を埋める。
レヴィの香をロックは鼻いっぱいに吸い込んだ。
「ロック、あんた死ぬよ」
「死にはしないさ。俺もお前も。絶対に生き抜いてレヴィを守る。そしてこの街で起こること、その全てを見届ける。俺はそう決めたんだ」
ロックの手に力が入るのを感じてレヴィは息を止めた。
このまま永遠に時が止まってしまえばいい。
月並みで下らないが、そう思ってしまった自分が確かにここにいた。
「ま、好きにしな。期待しないで守られてやるよ、ハニー」
「ありがとう、レヴィ」
ロックは抱き締めたまま、レヴィを仰向けにし、自分は俯せにして彼女を覆った。
そして何も言わずレヴィの両足を肩にのせ、すでに硬くなった性器をレヴィの下の口にあてがった。
「あ…」
レヴィは一瞬息をもらしたが、ただ黙ってロックを見つめた。
じんわりと股間がまた濡れてくるのがわかった。
「レヴィは何もしなくていいよ。俺が全部するから」
ゆっくりと中へと入っていくロック。
舌を抜かれるような感覚がレヴィを襲う。
ロックはそのままさらにゆっくりと、腰を動かしはじめた。
先の行為では考えられないくらいスローな動き。
膣が痺れてヒクついている。
だがそれよりもレヴィを感じさせたのはロックの瞳にあった。
黒く熱い目がまっすぐレヴィを貫いていた。
まるで目の奥に性感体があるみたいに、レヴィはロックの目の光に感じてしまった。
- 281 :41:2007/04/04(水) 02:55:29 ID:yBDb9n9Z
- ゆっくりとゆっくりと腰を動かすロック。
粘膜が絡みつき、いやらしく、それでいて優しく切ない音が部屋に響く。
その音を聞くたびにロックは静かなる興奮が高まっていき、抑えることはできなかった。
スピードを変えずに深さを深めていく。
だんだん往復の距離が伸びてきて二人の息も荒くなっていく。
感度が最高にまで高まってレヴィが達しそうになった時、急にロックは腰を止めた。
「…なんで、とめんだよ…」
「もっと、もっとレヴィの中にいたいんだ…」
そういうとロックはレヴィの腰を掴み、万力のような力で自分の腰に引き付けた。
「あ゙…あ゙ぁあ…あが…」
グニュウと限界まで容赦なく押しつけられた感触に、レヴィは口をぱくぱくさせて全身を震わせた。
「ーーーーー!!」
声無く昇りつめてしまい、ロックを強く抱き締めてがたがた痙攣を引き起こすレヴィ。
その振動はロックの性器に直に伝わり、ロックもまた静かに果てた。
「一日でこんなにヤッたのは生まれて初めてだぜ…」
レヴィに心底ダルそうに言い放たれて、ロックは少し胸が締め付けられる思いがした。
「なぁ、レヴィ…」
「ん?」
「その……いや、なんていうか」
「昔どれだけ男と寝たか…ってか?」
「あ!いや!その…」
読み取られてロックは面食らってしまった。
慌てて取り繕うとするが、図星だったので否定も肯定もできなかった。
そんなロックをよそに、窓の外をぼんやり眺めながらレヴィはつぶやいた。
「聞きたいか?」
言葉がでない。
それはレヴィの過去に触れるということだ。
互いの過去の詮索なんて必要ないとロアナプラに来てからロックはそう信じてきた。
が、何故かざわつくようなこの感じにロックは耐えられそうもなかった。
かと言ってそのままレヴィの過去を知る覚悟などできてるはずもなかった。
ロックは弱い自分を嘆いた。
- 282 :42:2007/04/04(水) 02:56:35 ID:yBDb9n9Z
- レヴィはちらりと横目でロックを見た後
「誰が教えるかバーカ」
と悪態をついた。
救われた。
だが情けなくなる。
ロックは心の中で何度もレヴィに謝った。
掛けシーツの中の右手が急に熱くなるのをロックは感じた。
レヴィが窓を向いたままロックの右手を、左手で握り締めていた。
レヴィを見るロック。
決してこちらに目を合わせはしないが、確かにレヴィはロックを握り締めていた。
いつか、そう遠くないいつかのある日に、レヴィは話してくれるかもしれない。
自分の過去を。
おもしろくないと言ったあの日々のことを。
それは自分には想像もできないことだろう。
聞いたら耳を塞いでしまいたいことなのかもしれない。
だからその時までもっと強くなってやろう。
彼女の全てを受けとめられように、直視できるようにひたすら強くなろう。
ロックは、その黒い瞳と胸にレヴィを刻み付けた。 今は、それでよかった。
握られている手をロックは優しく握り返し、そして笑った。
それを見たレヴィも、ロックを見てクスっと笑った。
「さぁ、そろそろ準備しようか。もうすぐ日も高くなるし」
ロックはベッドから下り、転がっていたトランクスをはき、次に放り投げたシャツを拾いあげた。
「ロック…」
「何?」
呼ばれてロックはレヴィに振り返る。
こころなしかレヴィの表情が少し赤い。
ロックは不思議に思いながらも血だらけのままのシャツを着ようとした。
「腰が…ってか下半身が……動かねぇんだ」
一瞬目を丸くするロック。
数秒たってぷっと吹き出したロックの頭に、レヴィが投げ付けたカトラスが見事にクリーンヒットした。
- 283 :43:2007/04/04(水) 02:57:36 ID:yBDb9n9Z
- ガシャンと乱暴に受話器を置きダッチはドサッと椅子にもたれた。
昨日ロックが殴りまくってへこんだテーブルに足を掛け煙草に火を点けた。
「ロックからかい?」
ノートパソコンでシューティングゲームをやっていたベニーがダッチに声をかける。
が、ダッチは答えずただ煙を吐いていた。
「もしかして今日も休むとか?」
敵の大群は無残にもベニーが操る戦闘機にハイスコアを叩かれている。
「あの野郎。次会った時首をへし折ってやる。有休なんてねぇんだぞ」
「まぁいいじゃん。どうせ今日も暇だろうし」
「暇だから仕事しねぇのはどっかの軍の豚どもぐらいだ」
ベニーは苦い笑いをした後クリアしたゲームを尻目にパソコンを閉じた。
「それでロックはなんて休むって?」
「レヴィの調子が悪いから看病するだと。大方昨晩ヤリすぎて腰いわしちまったんだろうよ」
「信憑性ありありだね、それ」
言ってベニーはソファから立ち上がった。
「でもロック、うまいことやったみたいじゃないか。その調子じゃ」
「あいつがレヴィにどう上手く腰使ったなんて興味ねえよ。1ドルにもなりゃしねぇ」
「まぁまぁ、いいじゃないか。あの二人が元気なら仕事も上手くいくって」
「大トラブルを巻き起こした後にな」
ベニーは笑いながら、コーヒーを飲むために湯を沸かしはじめた。
「ったく、あいつらブラックラグーン号をガキの揺りかごにする気じゃねえだろうな」
「ハハハ、それおもしろくないけど笑えるね」
「ヘヘヘ、そうだな。笑えるぜまったく」
二人分なので湯が沸くのも早いのだろう。
やかんが鳴いている。 湯気が昇って換気扇に吸い込まれていった。
「「笑えねぇ」」
二人は同時に大きなため息をついた。
- 284 :44:2007/04/04(水) 02:59:21 ID:yBDb9n9Z
- 「早くこいよ!ウスノロ!」
レヴィがいち早くビルの屋上へと壁からかけ登り、ロックを待っている。
ロックはレヴィの後をおそるおそる付いていくので精一杯だった。
「まったく…何でこんなとこに…。うわ!落ちる!」
「何やってんだよ!!早くこねぇとそっから打ち落とすぞ!」
「何言ってんだよ!ここから落ちたら怪我じゃすまないって!」
必死に壁にへばりつくロックにレヴィは頭をかかえた。
「ったく。そんなんであたしのナイト気取りかよ。情けねぇにも程があらぁ」
「何だって!」
カチンときたロックはそのまま排水溝のパイプを伝って屋上へとジャンプした。
「おい!!」
レヴィが慌てて下をのぞく。
ギリギリ手が届き、ロックは何とか屋上へはい上がることに成功した。
「ったく…無茶しやがる」
「へへ…」
ロックはレヴィの手を借り、足をたたせた。
すると眩しい夕日が目を照らし、ロックは手で目を隠した。
やがて除々に目をならしてロックは夕日に広がるロアナプラを一望した。
「綺麗だ」
「だろ?糞溜のこの街も、ここからじゃ綺麗に見えちまう。不思議だろロック」
「ああ……そうだなレヴィ」
自分が初めてこの街に来たときはそれは恐ろしい街だと思った。
銃は飛びかい、堂々と麻薬はさばいていて、ギャングやマフィアが縄張りを散らしているそんな最低な場所としか思えなかった。
が、いつのまにかそんな街に慣れてしまった自分がいた。
だからこそ、今レヴィが見せているこの街の美しいところに触れた時、ロックは言い表わせないような新たな感情が沸きでて、ロックは素直に感動してしまった。
- 285 :45:2007/04/04(水) 03:01:29 ID:yBDb9n9Z
- 「レヴィ、どうして俺をここへ?」
レヴィはロックと同じ方向を見て言った。
「さぁな。よくわかんねぇけどあんたにも見せておきたかったんだよ、ロック」
「そうか、ありがとう」
燃えている夕日が街を照らしている。
誰一人別け隔て無く注がれる太陽の光。
それはロアナプラを包み、やがて暗黒の夜になることを告げていた。
今、自分が立っている場所からロアナプラが見渡せる。
この街のどこかで今日も誰かが傷つき、怒り、そして死んでいく。
だが、今のロックにはそんなことなどどうでもよく、ただ自分がいるこの場所を痛いほど実感していた。
やはり、夕闇は心地よい。
そして同じ場所にレヴィは立っている。
ロックにとってそれ以外はまさにどうでもよかったのだ。
「もうすぐ、太陽が海に沈むな」
「ああ、沈んでいく。あたしが一番好きな太陽がこれさ」
ロックは少しうつむいた後、顔を太陽が沈む方向とは逆に顔を向ける。
すでに視界には闇が広がりつつあった。
「レヴィ、カトラスを貸してくれ」
不審に思いつつもレヴィはロックに愛用のカトラスを渡した。
ロックはまじまじとカトラスを見つめ、ゆっくりと東の空へと銃口を向けた。
そして迷わず引き金を引いた。
BAN!
BAN!
BAN!
銃弾が空へと消えていく。闇が訪れかけている空は、紫色で美しかった。
「これでロンググッドバイだ」
言い放ってロックはレヴィに振り返り、ニカッと微笑んだ。
それを見たレヴィもにやりと微笑みロックに歩み寄った。
「格好つけすぎてダサダサだな。……けど悪くねぇ」
ロックの目の前にまで近寄るレヴィ。
顔をよせロックにウィンクをする。
「ご褒美だぜロック」
そしてそのままロックに優しく口付けをした。
沈みかける太陽はその光が消えてなくなるまで、ロックとレヴィの影を一つにして長く永く照らしていた。
END