896 :1/3:2007/06/27(水) 22:16:49 ID:n8vT9lDX
朝は…だるい。ロアナプラに来てから、俺も夜型になったのかも知れない。仕事が絡むとロクな睡眠は取れないし、いつ揺れないベッドの上に帰って来られるかもわからないし…
かと言って、昨日一週間ぶりに陸に帰ってきて、ゆっくり休めるかとおもったら…
「…ぐー」
隣で寝てたりするんだよな。

「レヴィ」
「…ふあ?」
「言っても無駄だと思うけど…朝だよ」
「…わかってんなら起こすな。お前が激しかったせいで疲れが…」
「仕事の疲れもあるだろ?わざわざそんな日に来なくても…」
「…ぐー」
寝息が帰って来た。やっぱりレヴィはこんなものかと、ため息が出た。俺は飲み物を取ろうと、体を起こそうとした。

腰に手応えがあって、ベッドの中に再び引きずり込まれた。
「…出んな」
寝起きの不機嫌な顔の割に、言っている事が逆で苦笑してしまう。
「何笑ってやがる」
「いや…別に?」
「…二度寝出来る位疲れさせてやろうか?」
「はは…は」
俺の苦笑いが終わらない内に、レヴィの手は俺の体を伝っていた。

煙草の煙で薄汚れてしまったカーテンの隙間から、新しい陽が覗いた。海の照り返しがあるのか、この部屋にはカーテン越しの優しい光が充満していた。
潮の満ち引きが微かに聞こえたかと思うと、港を走るスクーターの音も聞こえてくる。
吹き込む潮風が窓際のベッドを通り抜けて部屋で遊び、テーブルの端にぶら下がっている俺達の服を揺らした。今日は風が少し強いのかも知れない。
規則正しく部屋に響く時計の秒針。良い朝、絵に描いた様な爽やかな朝だろう。でも、

その中で俺は、俺とレヴィはシーツのシワをもっと増やしたり、ベッドを軋ませたりしていた。
俺達の耳に届くのは秒針の音なんかじゃなく、
「ん…あっ…ん…っ」
「っ…うっ」
お互いの声だけで、身体を絡ませて、そこそこの幸福感と快感を得て。
部屋に満ちた爽快な空気を台無しにしていた。


897 :2/3:2007/06/27(水) 22:18:14 ID:n8vT9lDX
「…あの時起きとくべきだったかな…」
二度目の起床の時には、時計の針が昼時を表していた。痛い腰を引きずりながらベッドから上半身を乗り出して、棚の上の時計を確認する。隣からは一度目の起床と同じ寝息が聞こえていた。
「レヴィもホントは疲れてるんじゃないのか?」
何となく思考を止めて、今度は起こさずにその寝顔を眺めてみた。

実際に近くで見てみると、細かい手入れをしていない筈なのにレヴィの髪は傷んでいない。髪の長さは…多分女性としては短い部類だ。
いつもは海の上で陽にあたってるせいか茶髪にも赤髪にも見えるけど、この距離だと黒みが少し抜けたくらいにしか感じられない。窓から入る陽に差されて、今は金色に輝いていた。
鼻、目、眉のラインは全てシャープで、本当は美人の部類なのに近寄りがたい印象を受ける…中身はさておいて。こんな事を言える俺は贅沢かも知れない。

レヴィが頭の横においている手を、手に取って見た。いつもグローブをしてるせいか此処だけ日焼けの度合いが少ない。指を絡めると柔らかな手触りと対照的に、俺の手のひらに手応えがあった。

火傷、切り傷、修復と破壊が繰り返された皮膚があった。
言うまでもなく仕事のせいだ。レヴィが俺の使わない武器を使っている、何よりの証拠だ。

その手を両手で包み込んだのと、レヴィが目を覚ましたのは同時だった。

「ん…」
「言っても無駄だと思うけど…昼だよ」
「…関係ねぇ…赤ん坊みてぇに何握ってやがる?ママでも恋しくなったか?」
「良い手だと…ね」
「あまり笑えねぇ」
手を引き抜こうとレヴィが片手をもがかせた。けど、俺は握ったままだ。
「…離せ。面白くもなんともねぇシロモノだ」
「離すさ。もう少ししたら」
「…何考えてやがる」
「言ったら怒られる様な事」
「…はぁ?」

レヴィに言えば怒られる様な事を考えながら、俺は少しの間その手を離さなかった。

898 :3/3:2007/06/27(水) 22:19:39 ID:n8vT9lDX


「腹減った…」
「何か頼むか?」
「このカッコじゃ受け取れねぇ…」
遠回しに俺に作れと命令する。冷蔵庫にそこそこの材料を入れていたのを思い出した。
「シャワー上がりなんて見られた日には目も当てられねぇし…」
「わかった。何か作っておくから行ってきなよ」
「はいよ…」
俺の横から這い出し、器用にベッド近くの床に着地した。勿論布は着けてなく、全裸のまま下着だけ手に取り、脱衣所に向かっていった。
細いラインの際立つ背中姿だけで、また下半身が反応しそうなのを押し殺して、俺は疑問を聞いた。

「レヴィ」
「ん…?」
「本当に疲れてなかったのか?」
「いや、めちゃくちゃ疲れてた」
脱衣所に向かう足を止めて事も無く、むしろ当然のように言う。
「じゃあなんでだ?」
「そーだな…慣れちまったのもあるけど…」
珍しくレヴィが頭を掻いていた。

「お前の隣だとよく眠れるんだよ。二度寝でも三度寝でもしたくなるし…それにわざわざ朝起こしにこなくたって済むだろ?」
「…」
「アタシなりに手間を省いてやろうって話だ。おまけに夜の相手もしてやってる」
「まあ…そうだね」
「わかったら妙な質問すんな。お前はご主人様の帰りをじっと待ってりゃ良いんだよ」
軽く手を払う動きをして、レヴィは脱衣所の扉を閉めた。
「…俺はペットか何かかよ」
俺も体を起こし、シャツを着て台所に立った。

外からの風だけが涼しさの頼りで、俺は汗ばみながら昼食に近い朝食を作る。額に風があたる瞬間だけが暑さを忘れられる時だった。
フライパンに乗せたソーセージからは香ばしい薫りが始まり、視界の端に捉えると食欲をそそる焦げ目と滲み出す肉汁が見える。俺はそれを時折確認しながら卵を割って、もう一つのフライパンでかき回していた。
テーブルの上に野菜を置いた時、レヴィは下着だけ着けた姿で席についた。
「ロック」
「うん?」
「お前、良い嫁になるんだろうな」
「貰い手がいない世界だからね。残念だよ」
鼻を甘い臭いがついた。点け始めの煙草の臭いだ。
「お前はラグーン商会に買われてるんだ。勝手に嫁に行けねぇようになってる」
「じゃあずっと奉公人みたいに、ご主人様の帰りを待つ暮らしかな」
レヴィは煙を大きく吐いた。

「…アタシに嫁げ。死ぬほど可愛がってやる」







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