- 630 :看レヴィ 1/3:2007/11/07(水) 00:38:17 ID:xH3/momc
- 「ちっ…まずったな…レヴィ!早く乗れ!」
「あいよっ!」
引き際を間違えた。一応地元(ロアナプラ)でそこそこ名の知れた俺達にしちゃ大失態と言って良い。よくある積み荷強奪の仕事だった。
予想外の原因はソナーの点検を怠って、地元海上警察の襲撃に警戒しきれなかった事だ。生きて帰れりゃベニーの言う事はちゃんと聞くことにする。
操縦は俺、甲板にはロック、レヴィが居るはずだが…出すしかねぇ。上手くやるだろ。
「出すぞ!」
「ダッチ!付いて来てるのは一隻だけだ!」
甲板からレヴィのどでかい声が響いて来た。遊撃は任せた筈だったが?
「重火器がねぇ!あっちの方が少し足が速い!このままじゃドックまで来ちまう!」
「どうする!?」
「魚雷だ!あんたなら上手くやれるだろ?」
「…振り落とされるなよ!ロックはどうした?」
「僕なら大丈夫だ!」
「…よしっ!」
操縦桿を全開に回す。ウチのメンバーにこれで振り落とされる奴はいねぇ。
「ダッチ!二発とも叩き込め!」
「一発で良いだろう?」
「接近が思ったより早ぇ!機銃の射程に入られる前に確実に…」
魚雷も安くは無いんだが…レヴィも場数を踏んでる。聞き入れるべきか?
目の前のディスプレイにはロックオンの表示。これで二連射ならまず決まるだろう。
「行くぞ!」
発射音が響いた。が、着弾予定時間より早く爆音が響く。
揺れが来た。迎撃されたか?
二発目ははっきりとした着弾音だ。
数秒後にはソナー反応も消えた。
「…終わったか…」
…クルーの確認だ。
「…甲板、無事か?」
- 631 :看レヴィ 2/3:2007/11/07(水) 00:40:05 ID:xH3/momc
- …返事が無い。いつもなら憎まれ口が返ってくる筈だ。
「…ダッチ!まだ全速だ!」
「何かあったのか!」
おかしい。スクリュー音は無い。なんでレヴィは急いでやがる?
「急げ!早く!」
「ま、待てレヴィ!何があった!?」
「ロックが!出せって言ってるだろ!」
パニックになってやがる。…ロックに何かあったか?
「クルーが一人負傷してんだ!早く出せよ!」
「わ…かった!」
…
「ロック!ロック!」
さっきだ。魚雷を一発奴らが撃ち落とした時、アタシらはぶっ飛ばされた。
丁度アタシが壁に叩きつけられる、その時にロックがクッションになった。
次に鈍い音がした。金属同士がぶつかり合う歯切れの良い音じゃなく、アタシの真後ろでしたのは、頭蓋の砕ける鈍い音。
次に見たのは壁にへばりついた赤い液体と、ピクリとも動かなくなった相棒の姿だ。
ロックの頭を抱えるとぬめりがあった。体温に近い温もりの液体が流れ出て。
「しっかりしろ!おい!」
意識の無い相棒の頬を叩き続けた。
それからは闇医者のトコに担ぎ込んで、…後は上手く覚えちゃいない。気がつくと相棒の寝てるベッドの横で、両手を組ませて俯いてるアタシが居た。
自分で捨てた祈りなんか捧げながら。
背中に気配を感じた。振り向くと見慣れた大男。
「神はあっさり俺たちを見捨てちまう。お前がそう言ったんだろう?」
「…」
「俺たちの信仰が自分自身なら、ロックを信じてやれ」
「…ああ」
- 632 :看レヴィ 3/3:2007/11/07(水) 00:41:33 ID:xH3/momc
- 返事は出来てもアタシにダッチ程の余裕は…無い。
「俺はこれからクライアントの所に行く。お前は?」
「ここで待ってる…コイツが起きるまでずっとだ…」
「…解った」
部屋を出た時の、扉を閉めた音が妙に耳に残った。
前髪の隙間から覗いて見りゃ、少し熟睡し過ぎの昼寝に見えないことも無い。寝息はスヤスヤと。ガキみたいだ。
…ロックの表情とは真逆にこっちの胸の中じゃ波風が立つ。本気で自分以外の命を心配するのは滅多に無い。その分アタシは、タフじゃなかった。
何時までも、目を覚ます瞬間までコイツの顔を見ていたかった。が、仕事帰りの体はどうしようも無くダルくなって、その内に眠気を呼び込んで。
耐えを許されず視界は闇に落ちた。
瞼に違和感を感じれば、視界は自然と開けてくる。蛍光灯とは違う明かりが窓の方から差し込んだ。
慣れない消毒液と、独特の得意じゃない匂いが一気に不快な目覚めにしてくれる。
朝だ。
伸びをすると、目の前の光景がはっきり目に入った。病弱な深窓の令嬢みたいに窓を眺めて、上体を起こしてる相棒の姿。
一気に寝覚めの気分が良くなる。
くたびれ損だったと、皮肉なんか言いながら挨拶してやろうと、そう決めた。
「なんだ…心配させやがって…」
「え?」
「全く、頭の周りは早くても動きがトロいんじゃな…」
「…」
そろそろ反論を聞きたいもんだ。このままじゃ調子が狂う。目をぱちくりさせてるだけじゃ、大人しすぎだ。
「…君は…」
「おい、ヤケに他人行儀だな。ロッ…ん?」
「…君は誰なんだ?」
冗談にしちゃ、最悪のセンス。
続