838 :名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 21:10:48 ID:CVGPVypM
「…おい」
「うん?」
「付き合え。出るぞ」

空からは寒さの象徴が下り、地面を同じ色に染め上げていた。ロアナプラには無い気候。彼女が苦手とする天気。
しかし、連れ出したのは彼女に他ならない。珍しく彼女の、好奇心が勝っていた。

慣れない温度のせいで猫背になり、体を自分で抱く様にして、歩く。彼の方は防寒を心得ていて、しっかりとした着衣で寒さから身を守っていた。少々を彼女を可哀想に思いながら。
「さみぃ…」
「それで、ドコに行くんだ?」
「適当に飲みだ。せっかくこんなトコまで来たんだからな」
「…ふーん」
そろそろ彼女の辛さが目について来ていた。
「…コート貸そうか?」
「直に慣れる…気にすんな」
強がりにしか見えなかったが、彼はそれ以上言わない事にした。変にしつこくすると彼女の機嫌を損ねる事を解っていた。

耳に聞こえるのが足音だけでなくなって来た頃、二人は繁華街では無い場所に来ていた。少々趣向が、違った場所。
彼女が引っ張っていたばかりに、道を間違えた結果だった。
周りに居るのは、男女の組ばかり。

「…ったく、カップルて言うのはどの国も同じか…周りが見えちゃいねぇ…」
「寒くなると…ね」
「あん?」
「温かいから、を口実にできるし、実際に温かいんだよ」
「…経験豊富な奴が言うセリフだ。お前には似合わねえよ。それとも国際派のロック様は実はプレイボーイだったってオチか?」
「どうだろうね?」
「…っ」
一番やってはいけないと自覚しておきながら、彼は彼女の機嫌を損ねてしまった。何が一番彼女の機嫌を損ねる原因になったのかが解らずに。
「…さっさと行くぞ」
「え?」
急に歩みが早くなった背中を、彼は追いかけた。

それから彼は、当分口を聞いてもらえなかった。やっと口を開いたのは、何処の店も混雑していると気付いた時だった。

839 :名無しさん@ピンキー:2008/01/01(火) 21:12:06 ID:CVGPVypM
「…なんでドコも空いてねぇんだ?」
「今、そういうシーズンなんだ。多分一年で一番混雑する時期じゃないかな?」
「聞いてねぇ…」
「帰る?」
「…取りあえず脚が疲れた。椅子さえありゃ良い。休ませろ」
慣れない雪道とブーツが、思った以上の負担になっていたらしい。

結局彼が先導して見つけたのは、寂れた公園だった。自販機が一つある位の、ホームレスすら住んでいない程小さな公園。
ベンチは冷えきり雪を薄くかぶって居たが、彼女は手で払い、その上に腰掛けた。彼は、並んだ。
「何やってんだアタシ達は…わざわざ繰り出したってのに…」
「ドコも大体混んでるよ」
独り言に近い愚痴を彼女は続けていた。
それより彼が気になっていたのは、やはり彼女の寒がり方だった。
もう当分、震えていた。
「…レヴィ」
「…?」
「帰ろう」
「…解ったよ」
文句は尽きない感じだが、彼女は渋々了承した。

ベンチから立ち上がって公園を抜ける頃、彼女の肩は急に重くなった。
予想外の温もりが、彼女の体を守っていた。
「?」
「…見てるこっちが寒くなるよ…」
すっぽりと彼女の肩を包むように、彼女の体はコートの中に入れられていた。
同じコートの中に、彼の体は在った。
「…寒くないだろ?」
「…ああ」
やっと一息つける温もりに触れた事で、彼女の緊張は溶けた。無意識の内に、彼にもたれかかっていた。
「周りから見ると…」
「カップルだろうな…」
「いいのか?」
「…嫌だと言った覚えはねぇよ…」

少し踏み出し所で、彼女が言った。
「…早く帰ろうぜ」
「え?」
「帰ったら…な?」
「…」
服ごしの膨らみを、彼女は強く押し付けた。




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