849 :名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 01:14:58 ID:y7QVC7yS

 主よ、あなたはなぜ戒めにこう付け加えなかったのです?
『いちゃつくのもほどほどにしろ』と!

──ことのおこりは数時間前に遡る。
 あたしらがあの偽札娘をラグーン号で安全な場所まで運んでいるときだ。
 一眠りしようかとあたしが船室へ行くと、どこかロックが疲れたような顔で座っていた。
 心なしか顔がやや赤い。
「ヘイ、ロック。どうかしたのかい?」
「ん。ああエダ、お疲れ。実は──」
 ロックの話を要約すると、ベニーが偽札の情報を引き出すことに成功したおかげで、あの鈍感女からベニーは『お礼』を受け取っているらしい。
 見るからに純情そうなこの日本人には目の毒だったらしい。
 ほんのりと赤くなった頬をみていると、いったいいくつなのかわからないくらい幼く見える。
 こんな悪徳の町には似つかわしくない人間だ。だが、娼婦や年増にはこういう純情青年は何よりも好きだ。
 ああ、加えて凶暴な黒猫にも懐かれてるな。
「にしても、あの女。原版を持っていなかったなんてね。
 ベニーがいなけりゃ、あのカウボーイと一緒に鮫の餌になってたね」
「まあ、結果としてならなくてよかったよ」
 苦笑いしながら答えるロック。
 その人のよさそうな顔を見てると、からかいたくなった。
 そっと顔を近づけて、囁く。
「ねえ、ロック。あたしたちも一緒にイイコトし──」
 あたしが言い終わらないうちに、ロックの顔が真剣になる。
 両手があたしの顔を包み込み、彼の顔が近づいてくる。
 なぜかあたしは焦った。ロックが口を開く。
「……エダ」


851 :名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 02:04:00 ID:y7QVC7yS
声が怒りに満ちている。え? なんでだ?
「な、何さ?」
「この傷このまま放っといたの?」
「え? あ──ああ」
 視線の先をよく見てみると、あたしというより額より少し上に出来たあざに注目していた。
 さっき船が暴れたときに出来たものだ。
 どうもこの傷が怒りの原因らしい。
「エダ。ここ座って」
 パイプ椅子に強引に座らされて、どこからか持ってきた救急セットの中からシップなどを取り出す。ぶつぶつ呟くのが耳に入った。
「まったく、レヴィもそうだけどなんで女の子が顔に傷つくって放っておくんだか」
 あとでレヴィも手当てしなきゃ。などといいながら、手早くあざより少し大きめにシップを切っていく。かなり慣れた手つきだ。
 今のセリフからすると、レヴィの怪我の手当てはほとんどこいつが担当なのだろう。
「エダ、ヴェールとサングラス取ってくれる。ちょっとシップ貼るのに邪魔だから」
「あ、ああ」
 言われるままにヴェールを脱ぎ、サングラスを外す。
 サングラスを外すときには、妙に緊張した。
「へえ、エダの目って青かったんだ」
 まじまじと見つめられて、むず痒い気分になる。
「別に珍しくもないだろ? こんな色」
「そんなことないよ」
 視線を外さず続ける。ガキみたいに無邪気な笑顔だ。
「こんなキレイな青、初めてみた。晴れた日の海の青だ。すごく好きな色だよ」
 ──!!! なんでこんなセリフを恥ずかしげもなくいえるんだこいつは!!
 一瞬、自分の顔が赤くなったのがわかる。思わず床に転げたくなった。
あたしにこんな顔をさせた張本人は何事もなかったように、シップを貼り付ける作業に取り掛かっている。
ああ、もう。あのエテ公もこの天然ぶりに、さぞ苦労してるんだろう。


852 :名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 02:16:33 ID:y7QVC7yS
そっと視線を上に向けると、ロックの真剣な顔が見える。
あたしあざを見て、少し顔をしかめる。シップを貼り、その上にテープを重ねていく。
こうしてみると整った顔立ちだ。あ、まつげ長い。
これに加えて頭が良くて、肝が据わってりゃ、まあ大抵の女は落とせそうだな。
そんなどうでもいいことを考えていると、手当ての終わったロックが声を掛けてきた。
「エダ。こっちは終わったけど他は大丈夫? 痛いとことかない?」
 痛いとこって……ガキかあたしは。
「そーいや、あの中国女に首絞めかけられたけど」
「みせて」
 有無を言わさず襟をめくられ、首の辺りを丁寧に指がなぞりその跡を視線が辿っていく。
 吐息が首筋に掛かる。
 ゾクゾクする。奇妙な感覚に声が漏れそうになる。
「ちょ、ロック。やめ、ん──」
 聞こえていないのか、構わず指を滑らせてくる。
「動かないで。ん、どこにも異常はないみたいだね」
 思わずほっとした──のもつかの間だった。顔が引きつりそうになる。
 何故かって?
 ドアをあけたまま鬼の形相で、こちらを睨むレヴィがいたからだ。
 その上、いつでもカトラスをぶっ放す用意が出来ているときている。
 ──ハイスクールのときに、好きな男とあたしが寝たという噂が広まったときも先輩にあんな顔されたな。
そのあとのことは……あんまり思い出したくない。 
 ──ていうよりこの危機を回避できるのか?

855 :名無しさん@ピンキー:2008/01/08(火) 23:55:54 ID:y7QVC7yS

 相手はハイスクールの先輩ではなく、ロアナプラでも上位の腕を持つ二挺拳銃。
 命にかかわる問題だ。
 あたしだって任務が任務だから、様々な死を想像したことはある。
 だからといってこの町で、嫉妬に駆られた女に撃ち殺される、という結果は想像の範疇を超えていた。
 嫉妬に駆られた女は恐ろしい。過去の体験から良く知っている。
 いつもなら軽くいなすが、なぜかそうすることも出来ずあたしは固まったままだった。
 一秒が永遠にも感じられる。
 沈黙を破ったのは──というより本当に気づいてなかったのか──ロックが振り向き、レヴィに笑いかけた。
「あ、レヴィ。ちょうど良かった。今探しに行こうかと思ってたんだ。あれ、どうしたの?」
 カトラスを見ながら、不思議そうな顔で問う。
 つーか、なんで気づかないんだこいつは。
「……何してやがった?」
「え、何って?手当てだけど。
レヴィも傷、結構深かったんだからちゃんと手当てしないと」
 ロックのまったく裏のないその顔を見て、特に何かあったわけではないと判断したのか、レヴィがカトラスを納める。
 これであたしの命も繋がったわけだ。
 張り詰めていた空気が緩む。
 さっさとこの場から退散しようと、腰を上げる。
 ヴェールを被り、サングラスをかけるとようやくいつもの『暴力教会のくそ尼』が戻ってきた。ロックに軽く一つ投げキスをして、出て行く。軽口も叩いた。
「じゃあ、ロック手当てありがと。お礼に今度あたしとイイコトしようね」
「とっとと出てけ、このくそ尼!」
 バタン、と音がして扉が閉まる。
 が、しっかりとは閉めていなかった。もちろんわざとだ。
 二人が向き直るくらいの時間を置いてから、ほんの少し隙間をあける。
 あたしをあんなに焦らせたんだから、このぐらいは許されるんじゃない?
──とおもったんだが、この選択をあたしは後悔することになる……。


856 :名無しさん@ピンキー:2008/01/09(水) 00:14:28 ID:yHB1RODp
「レヴィ。椅子に座ってくれなきゃ手当て出来ないんだけど」
 困ったようなロックの声。
 二人とも幸い扉の方には注意を向けていない。
 レヴィは突っ立ったままむくれている。
「レヴィ、座って」
 再び声を掛けると、しぶしぶといった感じでレヴィがさっきまであたしが座っていたいパイプ椅子に乱暴に座った。
 その動作に耐え切れなかったのか、椅子が鈍い音を立てる。
「腕みせて」
 黙ってレヴィが腕を差し出すと、そっとその腕に適当に巻いてあった布を外す。
 その傷をみて、少しロックが困った顔をする。
 何も言わず、消毒用アルコールを脱脂綿に染み込ませて傷口を拭いていく。
 さらに薬を塗ってから、清潔な包帯を巻いていく。
 かなり不器用だと聞いていたが、包帯を巻く手つきはなれたものだ。
 それまで互いに何も喋らなかったが、包帯を巻き終わってからロックが口を開いた。
「レヴィ、何でそんなに不機嫌なんだ?」
 ……気づけよ。あたしがいうのもなんだけど。
「……別になんでもねえよ」
 不機嫌丸出しで、答えてもまるで説得力がない。
 それにしてもなんつーかこいつらの関係って、『近所のお兄さんとほのかに恋心を抱く少女』みたいなもんなんだろうか?
 つまんねえなあ。
 眉根を寄せて少し考えたのか、再びロックが問う。
「レヴィ、もしかして妬いてるのか?」

861 :名無しさん@ピンキー:2008/01/13(日) 01:28:27 ID:4L4BlsMS

 瞬間、レヴィの顔がこれ以上なく赤く染まる。
音を立てて椅子から立ち上がる。勢いで椅子が倒れた。
「な、んであたしが妬かなきゃなんないんだ!!」
 怒鳴るとそのまま踵を返し、ドアのほうへ歩き出す。
 あ、ヤバい。
「ちょっとレヴィ、顔の傷の手当てがまだ終わってないよ!」
「うるせえ! こんなもの舐めときゃ治る──」
 最後までレヴィはセリフを言い切れなかった。
 ロックがレヴィの腕を掴み、抱き寄せたのだ。
 咄嗟のことで対応できず、レヴィはロックの腕の中に納まった。
 そのときあたしに神が神託を寄越した。
 ──これ以上ここにいてはいけない!と……
 このときあたしは従うべきだった。神様に。
 しかし、このときのあたしは好奇心という小悪魔にかなわなかった。
 ──やめときゃよかった……。
 レヴィはもがくが、ロックも絶対に離そうとしない。
「まだ治療中だっていってるだろ!」
「うるせえ! 離せ!」
「この──そうか、わかった」
 そのセリフに何かを感じ取ったのか、レヴィも怪訝そうに顔を上げる。
 その顔をロックの手が挟み込み固定される。
「なめとけば治るんだよな?」
 ──ってオイ。まさか?
 そのまま顔を近付け、レヴィの傷口に舌を這わせていく。
 まぢでやりやがった……
 あ、レヴィが理解不能の表情で固まってる。
 現実を処理することが無理だったようだ。
 ピチャ、ピチャとなめる音がときどき聞こえるのが妙にいやらしい。
 ぼけっとしたままのレヴィの頬にすっと指を滑らす。
 その動きでようやくレヴィの瞳に意思の光が戻った。
 だが口がぱくぱくと動くだけで言葉は発せられない。
「レヴィ?」
 首を傾げるロック。

872 :名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 04:02:00 ID:sVhCHoVp

「──な、にしやがるっ!!」
 赤く染まった顔でぶるぶる震えながらレヴィが怒鳴った。
 それに対してロックはにっこりと笑った。
 どっちかってゆーと小悪魔のような笑顔で。
「だってレヴィが治療しないままでいようとするから」
「あ、あほかっ! だからってお前が──」
 することないだろ、と続ける声がだんだん小さくなっていく。
 うつむいてしまったレヴィの頭をロックが撫でる。
 それはもう優しく。かわいい子猫を撫でるようにヨシヨシと。
 子供を宥めるようにぎゅっと抱きしめたまま。
 ──この時点であたしが脱力していたのはいうまでもない。
 ビデオでもとっときゃよかったよな。
 いざとなったら精神兵器として使えるぞ、これ。
 ロアナプラの住人とかに見せたらどうなるんだろうか?
 その日一日は静かになりそうだよな……。ショックが大きすぎて。
 物理的に砂とか吐いてたら、このままラグーン号は海の底だ。
「レヴィはかわいいなあ」
「……うるせえ……」
 いいながら、頭にキスを落とすロック。
 まだ精神攻撃は続いていた。
 誰かが昔、『バカップルは公害だ。』といっていたけど、今なら心の底から同意できる。
 あああああああああもう! 誰だこいつらをこんな状況にしたのは!!
 あたしだよ! 
 ああ神様。
 三日前、シスターヨランダが出かけていたので、ちょっと礼拝さぼったのは、そんなに許しがたかったのですか?
 それの罰がこんなんなんてあんまりです!
 神託寄越すなら、もっとはっきりしてください!!
 あたしが神に文句を言う間にも、まだ隣のバカップルは続けるらしい。


873 :名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 04:04:38 ID:sVhCHoVp
 レヴィが顔を上げる。
 少し頬を膨らませ、赤らめたまま。
 どこの少女だよ、おまえは!!
「お前、バカだろ……」
「かもね──」
 噛み付くようにレヴィが口付け、ロックを船の椅子に押し倒す。
「った。レヴィ痛いよ」
「うるせえ」
 黙れといわんばかりに、唇を重ねる。
 深く口付けたまま、レヴィの手がロックのネクタイにかかり、それを緩める。
 やっと離れた二人を銀糸の糸がつないでいた。レヴィが唇を赤い舌で舐める。
 こんな光景、見慣れているはずだ。
 ……なのに、なんであたしはこんなに動揺してるんだろう。
 これが商売ではなく、お互い本気だからだろうか?
 ロアナプラの住人で、その中でも絶対にありえそうもない奴だからか?
 二挺拳銃がこんなバカみたいに幸せそうな女の顔をしているからか?
 ロックが腕を伸ばし、レヴィの頭を撫でる。
 まるで猫のようにレヴィは心地良さそうに目を細めた。
 そのまま頬に添えられた手に、顔を擦り付ける。
 ロックのもう片方の手が、肩に添えられそのまま包帯を巻かれた腕を滑っていく。
 ──そのとき、レヴィの表情が微妙に変わった。
 寸前で抑えたようだったが、ロックが気づかない訳がない。
 腕を引っ込めて、レヴィに告げた。
「……レヴィ。今日はやめよう」
 そのセリフにレヴィの機嫌がみるみる悪くなる。
 せっかくご馳走を食べれると思ったのに、寸前でおあずけをくらったんだから仕方がない。
「……なんでだよ」
 理由は明らかだが、認めたくないのだろう。
 宥めるようにロックが撫でるが、今度は簡単にはいかないらしい。
「腕、痛いんだろう? 無理したら治るの遅くなるぞ」
「……じゃねえか」
「え?」
 ロックの胸に顔を押し付けたまま、何か呟いた。
 くぐもっていて聞こえなかったのはロックも同じらしい。
 レヴィが顔を上げる。憮然とした表情で叫んだ。
「あの時は、もっとひどくてもしたじゃねえか!」


874 :名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 04:05:59 ID:sVhCHoVp
 ロックの顔が赤くなり、言葉を探すように視線が宙を彷徨った。
「……あの時は……その……余裕がなかったから……」
 切れ切れに紡がれた言葉にレヴィは不満そうなままだったが、少しだけ雰囲気が和らいだ気がした。
 ──にしても、あの時ってやっぱ日本のときか?
「じゃあ、今は平気なのかよ?」
「……少なくとも、無理をさせるほど切羽詰まってはいないよ」
 その答えに、レヴィは不満そうに鼻を鳴らした。
 再び拗ねた黒猫の耳に、ロックが囁いた。
「だから、今度の非番にしよう。あのときみたいに」
「……朝までか?」
 その言葉にロックが悪戯っぽく笑う。
「昼まででもいい?」
 さすがにそう返されるとは思わなかったらしく、顔を赤くするレヴィ。
 ……部屋の糖度がまた上がりやがった。
 未だに怒りの表情ではあるが、本当は緩むのを我慢しているのがみえみえだ。
 ブーツを脱ぎ捨て、嬉しそうに笑っているロックの上にレヴィが覆いかぶさった。
「っわ! ちょっとレヴィ?」
「うるせえ、黙れ。人間ベッド」
 どうやらロックの上でそのまま眠ることにしたらしい。
「……レヴィ。これからダッチの手伝いしに行かなきゃならないんだけど……」
「知るか」
 すっぱりと言い切られて、ロックが諦めたように笑った。
 それにはどこか幸せそうなものも混じっていて。
「おやすみ、レヴィ」
 そっと自分の上で眠る黒猫を抱きしめて、ロックもまた目を閉じた。

 そこでやっとあたしは扉を閉めた。


875 :名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 04:08:03 ID:sVhCHoVp
 無人の廊下を歩き、やっとあのバカップル丸出しの空気から離れて、少しは頭が働いてきた気がする。
 冷静に分析することも。
 あの様子では、レヴィはもう絶対にロックを手放すことは出来ないだろう。
 あいつが幼い頃から求め続けてきたものを、彼は惜しみなく与えてしまっているのだから。
 ──無償の愛情というものを。
 あの二挺拳銃の過去はひどいものだった。
 この町の人間にはほとんど言えることだが。
 愛情なんていうものからは一番離れた場所がロアナプラだ。
 それをあいつはこの背徳の町で手に入れた。
 これこそ奇跡としかいいようがない。
 そしてあの幸せそうな顔を見て、私は動揺した。
 ──なぜなら、私はそれを羨ましいと思ったからだ。
 この職に就いている限り、私は相手を信頼し、愛することなど出来ないからだ。
 そんな感情はどこかに捨て去ったものだと思っていたが、まだどこかに残っていたらしい。
 思わず苦笑した。
 あの日本人の平和そうな穏やかな雰囲気に、何かが触発されたらしい。
 まだまだだな。私も。
 頭を振って感情を切り替え、『暴力教会のくそ尼』に戻る。
 ──さて、ダッチに伝えなければ。
 「お宅の社員はただいま使い物になりません」、と。


876 :名無しさん@ピンキー:2008/01/20(日) 04:16:42 ID:sVhCHoVp
 操舵室で一人操縦しているダッチに、あたしは今の状況を伝えた。
 それを聞いても、ダッチは広い肩を竦めただけだった。
 本当に心の広いボスだ。どっかの上司も見習って欲しい。
「ダッチ。ラグーン商会じゃ職場恋愛は禁じてないのかい?」
「ああ。まあ今のところ実害は出ていないしな」
 ……この状況は害には入っていないのか?
「まあ、どちらかというとレヴィが物に当たることがなくなって、被害は軽減されたほうだしな」
「なるほどな」
 確かにあたしのところで飲むことも、前より格段に少なくなっているしな。
「それに──」
「それに?」
「レヴィがあんなに生き生きしているのははじめてみるからな」
 ……本当にイイ雇用人だこと。
「あたしもレヴィみたいに、自分の好みの男さらってくるかな」
 あたしのそのセリフにダッチは肩を震わせて笑った。
「そうだな。確かにロックはレヴィの最大の戦利品だな」
 ……今じゃどっちが戦利品かわからないけどな。
 こっそり心の中で付け加えた。
 ダッチが冷えたビールをこちらに放り、自分の缶も取り出す。
「そーいや、ダッチ。職場恋愛はともかく職場結婚はいいのか?」
 ダッチが飲みかけたビールを吹き出す。
 さすがにこれは予想していなかったらしい。
 甘いぞ。その可能性は十分考慮したほうがいい。
 あのバカップル、特にロックはやりかねない。
 本気で考え込むダッチに声を掛ける。
「もしやるようなら、ウチでやってやるよ。しかもタダで」
「……どういう風の吹き回しだ? タダなんて」
「別に。気まぐれだよ」
 あたしの味わった気分を、町中の奴らに味合わせてやりたいだけさ。
 より深く考え込んでしまったダッチを横目に、あたしはさっきのレヴィの表情を思い出していた。
 ──あの蕩けそうなくらいに幸せそうな女の顔。
 そりゃあ『言いたくねえ』だろうな。
 口が裂けても言えないだろう。
 
『死ぬほど幸せ』なんて。 




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