- 934 :停電:2008/02/08(金) 01:23:54 ID:YnBMYJj6
「あ…」
「また停電かよ…ま、すぐに使えるだろ」
「だな」
事務所でそんな会話をしたのは、確か昼を過ぎた頃合
あれから9時間。
夜は深まるが、復旧の兆しは…一向に、無い。
都会と違い、絶対的盤石さを誇ることのできないこの街のライフラインは様々な理由で供給がストップしてしまう。
住民同士の諍いのとばっちりで、電線が切れたり電柱が倒れたり。
幻覚に追い回されたジャンキーが電柱によじ登って感電…そのまま貴重な電力を道連れに昇天したりも。
まぁ、このように枝がイカれただけなら今みたいには困らない。
別の枝から電気を引いたり人間自体が移動してやり過ごす。
だが、今日みたいに大元の部分がイカれると街全体がにっちもさっちも行かなくなる。
実際誰が修理しているのかもはっきりしない。盗電のための私的な電線が蜘蛛の巣のように張り巡らされては、
公式にはメンテナンスのしようもないだろう
ここは、整備された高層ビル立ち並ぶ東京でもバンコクでもないのだから、仕方ない。
そう、仕方がない。
こう達観したフリをしてみるも、生活の多くを近代技術の恩恵に預かっている身としては電力が使えないことによる
デメリットは計り知れない。
特に熱帯気候のこの国で空調が止まってしまうのは…大打撃だ。痛すぎる。
ああ、そうそう。懐中電灯の電池もそろそろ切れるだろう。
船で過ごせば灯りも涼も取れるのだが、2週間前からエアコンがイカれてる。
なんてタイミング。
冷凍庫にあった氷は、6時間前に全て使い切った(こんなに長引くとは思ってなかったんだ…)。
停電のため水道水は鉄さび臭くて、水浴びにだって使えたものではない。
安物のラジオから聞こえるノイズ交じりのヘヴィメタル。
遠くから闇に乗じて略奪に興じる音。銃声や、窓の割れる音、悲鳴、怒声etc…
癇に障る。
暑い。
兎に角暑いのだ。
さっき袖を通したばかりのラフな部屋着も、すでにじっとりと重くなった気がする。
- 935 :停電:2008/02/08(金) 01:24:36 ID:YnBMYJj6
- 一人帰宅したところで、暗闇ではすることが無い
どこに繰り出したところで愉しみがあるわけでもない。
というワケで、意見を同じくしたレヴィと二人、俺の部屋でぬるいビールをチェイサー代わりにぬるい蒸留酒を
ちびちびと舐めていたワケだが…。
手持ちの酒が尽きても尚一向に下がらない室内の湿度と温度。
レヴィは昼間からずっと「暑い暑い」と同じ悪態を繰り返している。
酒で血行が良くなれば余計に暑くなるだけなのだが、言わないでおくことにする。
いい加減業を煮やし、「海辺の方が涼しかろう」ということで、2人外へ出た。
流石に屋外の方が過ごしやすいが、それでも体温より1〜2度低い程度の気温、うんざりだ。
一歩前を歩く彼女に目を遣るとこめかみに汗の玉。
今にも滴り落ちんばかりのそれに、忘れかけていた熱が、蘇る。
2時間前。
レヴィとシた。
こうも暑いと、性欲も減退しそうなものだが、しかし。
一回達したばかりだというのに、息を乱しながらしどけなく横たわる彼女の姿態に再び身体の中心に熱が集まる。
避妊具の交換もせずに、繋がったまま2回目に持ち込もうと首筋に鼻先を押し付ける。
汗で少し濃くなった体臭を思う様吸い込むと自然と、息は荒くなり、臨戦態勢に入りかけた…のだが。
「暑苦しい、邪魔くせぇんだよ、死ね」
………床に蹴り出された。
俺が彼女の中から抜ける瞬間の、僅かに眉を寄せた引きつった顔に何とも言えずそそられた。
転げ落ちた床が背中にあたる。どことなくひんやりと気持ちいい。
形ばかりの苦情を申し立てるためにベッドを見上げると、少し上機嫌の彼女がこちらを覗き込み、ニヤリと笑う。
首筋から胸元へと流れる大粒の汗に釘付けになる。
たまらなくゾクゾクした。
自宅から程近い(つまりは中心部から程近い)浜辺は人々でごったがえしていた。
皆、考えることなど同じということか。
酒盛りをしたり、物陰でヤっていたり、あちこちから喧嘩の怒声が聞こえてきたり。
とてもじゃないが落ち着かない。
どうせならば2人きりがいいと思うのは当たり前。
人の少ない場所を探すうちに自宅からは離れ(というほどでもないか…)、各種事務所が軒を連ねるエリアへと辿り着き
ラグーンのドック脇の桟橋で涼を取ることとなった。
ダッチはとっくに帰宅したようで、周辺に人の気配は無い。
橋板に並んで腰掛け、足を海に浸からせ涼をとる。
ぽつりぽつりと、大した中身も無いとりとめの無い会話。
それ以外はただ波の音だけを聴く。
海からの風は、火照った身体に心地いい。
そして。
すぐ隣にレヴィがいる。
そんな距離も、心地いい。
- 936 :停電:2008/02/08(金) 01:25:25 ID:YnBMYJj6
- 突然。
懐中電灯の灯りが消えた。
だが、目が慣れた時に広がったのは、想像したような暗闇ではなくこぼれんばかりの星空。
普段でも都会に比べれば多く見える方だとは思うが、街に灯りの無い今夜は一際見事なものだ。
おまけに満月。
光が海面に乱反射し、眩しいくらいだ。
月の光を浴びるレヴィは、とてもとても綺麗に見えた。
反面、見透かせてしまう程に希薄になった気がして、そろそろと頬に手を伸ばす。
彼女はそんな俺に気付いてこちらに視線を寄越すも、頑是無い眠そうな目で俺を見るだけで特に何も言わない。
海風にあたった頬は、先ほどまでの上気したそれよりも心持ちひんやりしている気がする。
頬、耳、瞼、唇。
顔のパーツにゆるゆると指を這わせた後、軽く鼻をつまむと少し不機嫌な様子で息を吐き、顔を背ける。
クスクスと笑う俺に「何笑ってんだよ、てめぇ………ムカつく」と小声で漏らすも、本気で怒っていないのは一目瞭然。
身体をよせ、腕に抱きこむと鬱陶しそうな素振りを見せるも、逃げはしない。
頬に口付け、そのまま舌を這わせる。
塩辛い。
汗独特の塩味に刺激され、頭をもたげる「今すぐ貪りたい」という劣情を、なけなしの理性で必死で制御する。
するならお互い気持ちよくなりたい。
顔中にキスをしながら手は腰と背中を往復する。彼女の身体が小さく震え、切なげな吐息が口から漏れる。
「…感じてる?」
「……うっせ」
「…俺は感じてる」
「……………………。」
「ねぇ…シていい?」
「………ィ…ヤだ」
「…どうして?」
「…ぁつ…ぃんだ…ょッ」
そう言いつつも、俺の舌に応えてくる彼女に体温は更に上昇する。
彼女の表明する意思は可能な限り尊重したいが、さっきのように我慢する気もない。
キスを中断し、コツンと額と額を合わせて囁く。
「レヴィ、提案がある」
「……あ?」
「海の中でシよう」
- 937 :停電:2008/02/08(金) 01:26:11 ID:YnBMYJj6
- 「………………は?」
「イヤ?」
「……………あー。まぁ……」
「じゃあ、水浴びでもいいよ、もう限界だよ、涼みたい」
「さっきも言ったじゃねぇかよ、水着が無い。着替えもない」
「着替えは俺のを使えばいいよ、部屋に戻ればいくらでもある。でも俺は…ハダカがいいかな」
「って、結局ヤリてぇだけじゃねぇかよ、サカってんのか?このバカ」
「ああ。サカってるよ、凄く。今すぐにでもシたい。レヴィと」
そして、言い加える。
「世界一のいい女が目の前にいるの抱くことができないなんて、拷問だ」
「……ぁ………ぃいッ・・いつからそんなヌガーみたいなセリフ吐くようになりやがったよ、お前」
「大丈夫、暗くて何も見えないし波の音で声も聞こえない。人の気配も無い。ナカでは出さない。
……まぁ海水の浸透圧で種も死んじゃうような気もしないでもないけど―――」どう思う?
と尋ねる声に被さってレヴィがまくし立てる。
「かっ……会話になってねぇぞ、汗と一緒におミソも流れていっちゃったかな?
海水云々のことなんざ私が知るか、知っての通りアタシにゃ学が無いモンでな!!」
「心配ありがとう。でも俺がレヴィを世界一だと思ってるのは本当だし、こんな風に必死になって口説くのもレヴィだけだ。
海水の件は――」俺もよく知らない…そう言いながらこめかみにキスを一つ。
暗くて表情は判らないが俯いて黙り込んだところを見ると相当可愛い顔をしているに違いない。
ああ、惜しいことをした。想像するだに顔が緩んで仕方ない。
「………クソったれ」
レヴィが徐に立ち上がり、服を脱ぎ始める。
元々多くを身に着けていない彼女は次の瞬間には全裸となって目の前に立っていた。
青白い光に浮かぶ引き締まった身体はまるで一枚の絵画のよう。
彼女が「水浴びだからな…」と不機嫌に言い放ち、水中へと消えたあとも木偶の坊ように固まってしまった。
「ヘイ、ロック!いつまでそこで鼻の下伸ばしてるつもりだ?来るならさっさと来い、こっちはふやけちまう」
水深1メートルくらいの辺りでレヴィが俺を急かす。
「海の中じゃ水分が抜けて萎びるんだよ」と笑いながら慌てて俺も服を脱ぐ。
自分の服と共に、無造作に放り出された彼女の服と愛銃を畳んで並べると水の中へ。
沸騰寸前の身体が急速に冷やされていくのが判る。何でもっと早くこうしなかったのかと、少々の後悔。
レヴィの元に向かうと、彼女が上機嫌に「最初からこうしていればよかったな」と笑う。
同じコトを考えていたことを伝え、抱き寄せようとすると、俺の腕をするりとすり抜け、あっという間に3メートル先で笑っている。
「『水浴び』だって言ったろ?」
ナニヲイッテイルノダロウ…。
「あの………。冗談ですよね、レヴェッカさん?」
「どうだか。何だってお前の思い通りにはなるワケじゃねぇんだよ、なぁ?ハニー」
うわぁ、すっげぇ楽しそうだぁ…。
「…………レヴィ…鬼だ…悪魔だ…」
前屈みになりながら水中へと沈む。きっと涙目だったに違いない。
…………………………………ああ、水中から見る月も、綺麗だ。
たまには2人でこんな風に他愛無くじゃれる時間を持つのも悪くはない。
悪くはないと頭では思うのだが、如何せん、一度昂ぶった欲望を沈めるのは生半可では無く。
コレ、何て罰ゲーム?
- 938 :停電:2008/02/08(金) 01:26:36 ID:YnBMYJj6
- どの位沈んでいただろう。
流石に息苦しさの限界を迎えて水面に顔を出すと、そこにはレヴィの顔。
何とも言えない…苦々しいような、困ったような、呆れたような、面白そうな。そんな顔。
「あ。」
「ロック、お前…ガキみてぇにむくれてるのかよ、…ったくよぉ…やれやれだな」
「お前が悪いんだぜ、レヴィ。生殺しだ、こんなの」
「プッ…何だそれ、超だっせw」
楽しそうにレヴィは笑う。肩におろしたずぶ濡れの髪が肌にはり付いてひどく扇情的なのに、無邪気に笑う様が子供っぽくて。
肌を流れ落ちるしずくがアクセサリーのように彼女を飾り立てる。
可愛い。その上、色っぽい。
正直、堪らない。
「まぁ…ダサいかもね…。」
そんな彼女から目を逸らしながら自嘲する。
これ以上は目の毒だ。耐えられない。
「そう落ち込むなよ、ベイビー。今のお前は確かにダサい。無茶苦茶ダサい。ダサいが、今更だろ、そんなの」
サラっと酷いことを言って俺の首に腕を回し身体を密着させる。弾力のある太腿で既に硬くなったモノを擦り上げながら上目遣いで
「んで、どうする?ボーイ?それとも海の中で縮んじゃったかな?ん?」
そう言って笑う。
答えなんて決まってる。こんな風に焦らされ煽られ、余裕なんて残っていよう筈はない。
「星も綺麗だし、水浴びするのもそう悪くないんだけど、まずは…レヴィとシたい」
そう言って彼女に口付ける。
抵抗は無かった。
「…はぁッ…………ん」
ぴちゃぴちゃという舌を絡める音と、鼻にかかったレヴィの甘い声。
それだけで正直イケそうだ。
左手で胸を、右手で尻を揉みしだくとビクっと身体を震わせ、しがみ付いて来た。
口付けを唇から首筋へと移動する。
耳元でダイレクトに聞こえる生々しい彼女の息遣いに自然とこちらの息も荒くなる。
脚の間へ指を進ませると、水中でもわかるほど、熱くぬらついていた。
「…もうこんなに濡れてる。レヴィもその気だったんじゃないか」
「……うるせぇ…オトコがべらべらしゃべってんじゃねぇよ」
そう言うと「喋るな」、とでもいうかのように、一層深く口付けてきた。
彼女がとてつもなく照れているということは解っている。
少々からかいたい気もしたが、機嫌を損ねてまたお預けを食らうのは何としても避けなければならない。
何より、俺が限界だ。
深くなる口付けに応えつつ、腰を落とし、浮力に任せて彼女の腰を少し浮かせる。
自らを入り口に宛がうと、彼女の脚が俺の腰に巻きついてきた。
了承の意と受け取り、そのまま一気に侵入した。
- 939 :停電:2008/02/08(金) 01:27:01 ID:YnBMYJj6
- 「ぁッ……」
口を塞がれているため声にならない呻きがレヴィの喉から漏れる。
冷たい水中から、急に熱い肉の中に入り、俺自身も一気に達してしまいそうだ。
それだけは避けたい。また馬鹿にされるに違いない。
まずは、全身で彼女の感触を存分に味わうべく、収めた状態で抱きしめる。
いやらしく蠢く彼女の内壁が俺を奥へと誘い込むようだ。
それにしてもナマの感触って、いつぶりだっけか…。
彼女の頭を肩口に乗せ頭を何度か撫で付けると、強張っていた四肢から余計な力が抜ける。
そのまままったりとキスを交わし、収めた瞬間の暴発という危機を何とか脱した頃、一応の確認を取る。
「動いていい?」
「……満足させやがらねぇとタダじゃおかねぇ」
おぅ、次はそうきたか。
「……善処致します」
下から突き上げる。
「ぁあぁっ……!!!」
しがみ付く彼女の腕に再び力が篭り、水面が音を立てて大きく波立つ。
そのまま腰を大きく回して奥をかき回す。
「ふ…ん…はぁ……っ……ぅ……ゃぁっ…イィッ!」
喉から零れ出る呻きとも喘ぎともつかない声。
腰の律動を強めながら耳に舌を挿しいれると、反射的に身体を逸らし逃れるような素振りを見せる。
それを許さず頭を固定し、「レヴィ…レヴィ…レヴィ…――」と盛った犬のように息を荒げ、囁きながら耳を貪った。
「ぁ…ゃめ…はぁ……あ………あぁ…ロック……あああっ…」
レヴィの口から漏れる声量がだんだんと大きくなる。
それと共に互いの興奮も高まるのだが、こうも声が大きいと…。
「レヴィ…声ぇ、遠くまで…ハァ…聞こえちゃうよっ…誰かが…覗きに来たり…して」
彼女の身体がビクっと震え、首に巻かれた腕の力が苦しい程強くなったと同時に声が止まる。
…………というよりも息を止めている。
どうやら唇をかみ締めているようだ。
こんな風に恥らう様を見るにつけ、口とは裏腹に初心なところもあるのだと思ってしまう。
言ったら殺されるけど。
そんな彼女を可愛いと思う反面、このままでは少し可哀想だ。
少し動きを緩めて宥めるように背中を叩く。
顔を上げた彼女にキスを落とす。
微かに血の味がした。
啄ばむように口付けて、堅く噛み締められた唇を解してやると、荒い息の合間に聞こえるか聞こえないかの
微かな声で「お前って性格悪い」との恨み節。
「ん…ごめん。でもさ、もう止められないんだ。解ってくれる?」
「……ぁぁ。」
「………………口塞げば声も漏れないかな…?」
そう言って唇を合わせ、彼女の口腔を舐めまわしながら行為を再開した。
- 940 :停電:2008/02/08(金) 01:27:23 ID:YnBMYJj6
- 多少声が抑えられたって、バシャバシャという水面を乱す音と、時折響く控えめで何かを耐えるような嬌声は、
誰が聞いてもイタシている音だ。
だが、もう今更そんなコトを気にするつもりもない。
唇を合わせたまま、彼女の唇に直接注ぎ込むようにひたすら彼女の名前を呼ぶ。
それはまともな音声にはなっていないけれども。
応えるように彼女の口からも断片的に俺の名前が紡がれているのが解る。
「く…ふぅ…ぁあ!」
口の端からくぐもった叫びが漏れ、腕の中で彼女の身体が大きく跳ねた。
吸い上げるような内壁の動きに身体を離そうとすると、レヴィは腰に廻した脚に力をこめ、頭を大きく横に振る。
このままでは中で達してしまう。
真意を推し量るべく慌ててレヴィの顔を見ると、見たことも無いような綺麗な笑みを浮かべ、俺を見つめる女がそこにいた。
そのらしからぬ雰囲気に、一瞬誰か知らない女を抱いているような錯覚を覚える。
目の前のその映像を脳内で処理し、理解した瞬間、不覚にもそのまま射精してしまった。
「……あー。ごめん…な…さい…」
息を整え、何よりもまずは謝る。
「……別に。気にすんな。どうせそろそろアノ日だ、出来っこねぇよ。
それにしても、何だよロック、イク瞬間の間抜け面。アホみてぇに目と口おっ広げてよ。
額に入れて飾っておきゃ、一生笑いには不自由しねぇなwヒャヒャww」
「…そんな酷い顔してた?」
鼻先にキスを一つ。
「ああ、下手なTVショウよりよっぽど笑えるアホヅラだった」
彼女からも顎にキスを貰う。
「そっか。あー……嫌いになった?」
顔に頬ずりをすると、くすぐったそうに首をすくめる。
「ぁあ?あんたの間の抜けたツラは今に始まったコトじゃないからな、コレも今更のハナシだ」
そう言って、「くすぐってぇ」とクスクス笑って逃げるように水中へ消え…そして俺は水中へ引きずり込まれた。
「ぇ、うわ、何、する、んだよ!!!」
もがく俺。当然と言えば当然だ。
だが、抗いきれずに頭まで水に浸かったところで、両頬に暖かい手のひらの感触。
レヴィの顔が降ってきて唇が塞がれる。
浮力に必死に抗いながら交わすキスというのも滑稽な気がしたが、彼女となら何だって楽しい。
彼女の肩を抱き、お互いの唇を貪りあった。
浮上した後も抱き合ったまま至福の時間を過ごす俺たちを、月明かりが照らす。
- 941 :停電:2008/02/08(金) 01:27:55 ID:YnBMYJj6
- そして、今のうちにさっきからずっと考えていたコトを話してみることにする。
「なぁ、レヴィ?」
「……ぁんだよ?」
「いや、何ていうかさ。思ったんだけど。もしも今度休暇でも取れたら1週間位プーケットにでも行くのもいいかな、と。」
「んな暇ねぇよ、いつ仕事が入るかなんて解んねぇんだからよ」
「うん。だからさ。『もしも』のハナシ」
「………………2人でか?」
「もちろん。昼は海やプールで遊んで、夕陽眺めて、旨い酒飲んで、夜は星を眺めて、その後寝ないで愉しんで――」
「おい、いつ寝るんだよ」
「ん?眠くなったらその時に寝るんだ、ああ、一緒に昼寝するのもいいね。んで、昼寝の合間に抱き合ったりね。
そして腹が減ったらメシ食って、眠くなったら並んで寝る。…2人だけで自堕落に過ごすんだ」
「退屈だ、そんな生活」
「うん。だから1週間だけ」
「……お前が払うんだよな?」
「はは。じゃあ贅沢しないで今から貯めておかないと。その代わり、水着は俺に選ばせてくれな。ああ、それと下着も」
「…………お前って実はかなりムッツリだよな」
「あれ?知らなかった?」
「最近気づいた。『そんなコトには興味ありません』みてぇなツラぁしてよ、頭んナカではアレのことばっか考えてやがる」
「言ったろ、不特定多数じゃなく、レヴィにだけだよ。それより、旅行には一緒に来てくれる?」
「……『もしも』。暇ができたら…『いつか』、な。」
「うん。きっとね―――約束だ」
言いながらキスを交わす。
この街じゃ、こんな口だけの約束、何の意味も持たないけれど。
今だけなら、そんな妄想にも似た旅行プランだって叶いそうな気がする。
+++おまけ+++
「この後どうする?」
「この調子じゃまだ復旧しねぇよ、どうせ明日の定時にならねぇと作業再開されねぇ」
「ははは…」
確かに。ここは東京ではない。夜を徹しての復旧作業なんか、している筈もない。
「このまま乾いたってベタベタするだけだ、一度部屋に戻って着替え取って、ま・と・も・に・水浴びしようぜ。
それと……のど渇いた」
「海水飲んじゃったからね。事務所の鍵あるし、水取って来ようか?」
「……アタシも行く…」
濡れたまま服を着こむのも気が進まず、俺は下だけを穿き、レヴィはサイズの大きい俺のシャツだけを羽織って
暗闇の中階段を上る。
無人の筈の事務所のドアを開けた瞬間、半裸の俺たちを懐中電灯の光が照らした。
咄嗟に銃を構えるレヴィ。
逆光の中から、聴きなれた雇用主のあきれ果てた声が俺たちに死刑を宣告する。
「……物盗りが大手を振るう日に、事務所空けると思うか?お前ら……丸聞こえだ…」
END