114 :名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 01:00:34 ID:qk1etnUe

女は目の前の光景に立ち尽くすしか出来なかった。
今日、同僚の男は非番。
定時なんか決められてもいないながらも仕事を終え、酒場で悪友と飲んだくれて。
彼の部屋で飲み直すべく酒を抱えて扉を開けた。
いつものように、無遠慮に、断りもなく。
酒場に姿を見せなかったということは自室にいるであろうという確信はあった。
どうせいつものようにTVでも眺めるか、面白くもねぇ本でも読んでいる。
そして、不躾な彼女の振る舞いに呆れた顔をしながらも、迎え入れてくれる筈。
そう思っていた。なのに。
扉の向こうにあったのは、驚いたような彼の顔。
それはいつも通り。違うのは…。
灯りが彼女の背後の廊下と、ベッド際の窓から入り込むそれのみということ。
部屋の中は真っ暗だ。
そして、男は裸だった。
裸でベッドに乗り、見も知らぬ裸の女と身体を絡ませ、キスをしていた。
掛布も掛けずに勤しんでいるため、二人がコトの真っ最中である事がよく判る。
唇を離してこちらを向く二人の間を銀の糸が繋ぐ。

…恋人だろうか…? 否。
知っている顔なら兎も角、プライベートでも一緒にいることの多い自分ですら知らない女だ。
恐らくそれは無い…と思われる。……多分。
男がこの街に居ついて一年以上。
彼だって健康な男だ、性欲くらいはあるはずだ。
今までだって、どこかで発散していたに違いない。
そんな当たり前のコトに今更気付かされる。
なのに、何故自分は身動きが取れなくなる程に動揺しているのか。
彼女は、答えなどとうに解りきっている自問自答を繰り返す。
顔の筋肉が痙攣するのがわかる。
眉間にも皺が寄っていることだろう。
目の前の光景が信じられない。信じたくない。
だが、彼女にはこの場でその憤りを発憤する理由などありはしない。
彼女と彼はただの同僚。
仕事の上でのパートナーでしかないのだから。

この絶対零度に凍りついた空気を動かしたのは…彼女が手にしていた、酒が詰まった袋が床に落ちる音。
割れはしなかったが、場の空気を動かすには十分たる威力を持っていた。
彼女は目を泳がせながら早口で捲くし立てる。
「…ぁ………その、あー…おまぇ…鍵くらい閉めとけよな、ったくよぉ…あー…悪かったな、お楽しみのところ」
「あの…レヴィ…」
男も我に返り、睦み合いの相手に密着させていた身体を起こす。
動いたことにより二人を繋ぐ箇所から聞こえる水音、女の鼻に掛かったため息。
彼女は目と耳を塞いでしまいたくて仕方ない。
「ぁ……酒、いるか?これ、終わった後に飲め、な?……女に興味の無ぇインポ野郎かと思ってりゃ、ヤる事ヤってんじゃねぇか」
彼女は後ずさりながら喋り続ける。もうこれ以上はここに居たくはなかった。
「ちょっと待って、レヴィ、その…」
彼は慌てて前を隠しながら床に放り投げられている下着へと身体を伸ばす。
彼がその布切れを掴むのと、彼女が捨て科白を吐くのとはほぼ同時。
「じゃ!明日は仕事だ、程々にしとけよ?」
「待って!!」

バタン

再び暗闇に包まれる室内。
足早に立ち去る彼女の軍靴の音。
残ったのは、自らの下着を手に呆然と言葉を失う部屋の主と、そんな彼にどう言葉を掛けるべきか考えあぐねる黒髪の女。

115 :名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 01:01:11 ID:qk1etnUe
街の外れの教会。
宿舎の自室で眠りを貪るべくベッドに入ったブロンドの尼は、外で何やらガタガタ鳴り響く音に怪訝な顔を浮かべる。
この街で、この教会に押し込み強盗に入る命知らずがいるとは思えない。
ならば余所者?それにしたって、コソコソする気も感じられない程、夜空に響き渡っている。
何だか、ガチャガチャと瓶がぶつかるような音もする。
しかも、この部屋のすぐ下で、だ。
部屋の明かりを点け、愛銃を手に窓を開けた。
音の出所を探るまでもなく、それは彼女の部屋の窓のすぐ下にあった。
納屋の横に放っておいたハシゴ。
そして、銃口を向けた先から現れたのは…彼女がよく見知った女。
女は、銃口をものともせず、何事も無いように言い放った。
「よう、エダ。飲み直すぞ」
と。

窓際での押し問答の末、まんまと部屋に入り込んだ女――レヴィは、何も言わずに酒を煽り始めた。
「おいおい、ナンだよ。人の寝入り邪魔しといて愛想も無ぇってか。大体お前ロックと飲むっつってただろうがよ」
「おい、エダ、お前も飲め」
彼女を無視して差し出されるグラス。
「暴力教会のクソ尼」として考える。
彼女が酒持参でやってきたというコトは奢りだろう、タダ酒は飲める時に飲むべし。
「彼女」の信じる神様の教えにだってあるではないか。
取りあえず、彼女の振舞いに関しての彼是は後回しにし、エダは一緒になって酒を煽ることにした。
飲みながら、目の前の招かれざる客を観察する。
まず、不機嫌であることは間違い無い。
大いにむくれた感のあるその顔は、唇が引き結ばれ、心なしか目が潤んでいる。
訪ねて行った先で何やらあったのだろう、わかり易い女だ。
偽りだらけの彼女にとっては、ある意味羨ましくもあったが。
それにしたって、お互いだんまりでは決まりが悪い。
取り敢えず有り得なさそうな冗談でも飛ばして会話の糸口くらいは見つけたいところだ。
「ヘイヘイ、どうしたよ。まさか色男が女連れ込んでたってか??」
カラカラと笑いながら冗談めかしてエダは言う。
目の前の酔っ払いは、ピクっと顔を引き攣らせ一気に酒を煽ると、乱暴に酒を注ぎ、ガンっと盛大に音を立てて瓶を置いた。
そして、グラスを手にそのまま固まる。
おいおいおいおいおい、図星ってか。
本当に、つくづくわかり易い女……。

116 :名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 01:01:31 ID:qk1etnUe
一方、今を遡ること1時間前。
真っ暗闇の男の部屋。
空調が効いたこの部屋に響くのは男女の荒い吐息。
そして。
「レヴィ、レヴィ、レヴィ…」と取り憑かれたように別の女の名前を呼び続ける男の声。

二人がこうして関係を持つのは初めてでは無かった。
プロである女は、自分が誰かの身代わりとして抱かれようと、そんなことは知ったことではない。
ただ、相手の女のコトは知っていた。
何せ有名人だ。
初めて関係を持った日、他の女が声を掛けても素っ気無かったクセに自分が声を掛けた瞬間態度が変わった。
だが正直彼女には、彼が名前を呼び続ける女と自分とが似ているとは思えない。
だから、何回目かの逢瀬の際に訊いた。
理由を。
「……髪の長さが…同じなんだ。色も暗いところでは似て見える。あと、声もどことなく…」
決まり悪そうに彼は答えた。
声か。
なるほど。
女は妙に納得し、そして彼に乞われるまま彼のことをロックと呼ぶようになった。
馬鹿な男と内心哀れみながらも少し歪んだ擬似的な関係を続けていた、そんな中での今日の出来事。

「……ま、こんなコトもあるわよ」
だから気を落とすなと女は言う。
これが落ち込まずにいられようか、彼は力無く応える。
「ごめん、放っておいてくれ…」
そんな彼に、女は確認する、…一応。答えは想定出来てはいたのだが、「一応」だ。
「続きは…どうする?」
「……No thank you…」
想定内の答えを聞き、女は立ち上がり服を着る。報酬は既に受け取っている。あとは黙って帰るのみだ。
黙って帰るのみなのだが、ドアを開け、項垂れる彼に一応言っておく。彼は一応お得意様である。
…所謂、お節介というヤツだ。
「そんなに好きなら、押し倒しちゃえばいいのよ。馬鹿ね。」
彼が彼女を押し倒してしまえばもうお得意様ではなくなるか、そんなことを考えながら女は部屋を後にした。


117 :名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 01:02:02 ID:qk1etnUe
エダは考えあぐねいていた。
どうやら、とてつもなくどデカい地雷を踏んだらしい。
目の前で目を赤くして微動だにしない酔っ払い。
少しばかり頬を膨らませ、部屋の隅の一点を睨みつけている。
下手に突ついたならば…大噴火を起こすか、泣き出すか…後者はあまりに想像がつかないが。
何にせよここで余計なコトを言って撃ち殺されたのでは、あまりにアホ臭くて死んでも死に切れない。
この凶暴な爆弾女が、あの平和ボケがイマイチ抜け切らないヘタレの日本人に、頭の天辺からつま先まで骨抜きにされているのは公然の事実なのだから。
自ら更にデカい地雷を踏みに行くことなどない。
…………だから…………。
「まぁ、レヴィ。飲め。飲め、なぁっ??」
取り敢えず、飲ませてみることにした。
レヴィ自らが何か喋れば、自分にも返す言葉がある…かもしれない。
まずはコイツの口を割ろう。エダはそう決めた。
ズビズビと音を立ててラムを啜るレヴィ。
「ん?どーしたよ、何か言いたいコトがあったからわざわざ押し込み強盗みてぇなコトして飲んでんだろ?広〜〜〜い心で聴いてやる、言ってみ?」
何となく…ハイスクールの頃を思い出し、……哀しくなる。
今時ローティーンでもこんな会話しねぇ…。
この歳で、こんなゴミ屑だらけの街で、名うての女海賊様相手に、こんな青臭い「恋の悩み相談」に乗るハメになろうとは。
だが、レヴィにお帰り頂かないことには自分が寝れない、それは困る。
「言いたいコトなんざ何もねぇよ。飲み直しに来たんだ」
しかも、この天邪鬼はこんな可愛げの無いことを抜かしやがる。
過去のクラスメイトの方が、訊きもしないコトまでベラベラ勝手に喋ってくれるだけ自分に正直だった。
それがいいか悪いかは別として。
この女にしても、基本的に欲望に忠実だ。
一つ、意中の男に関することに関しては守りに入りたがる傾向にある。
「だ〜ったらよぉ。あたしゃ眠いんだ、お帰り頂きたいところだね。明日も朝からカミサマにご奉仕しなきゃなんねぇ、一人で飲みな」
だから、「帰れ」と揺さぶりを掛ける。彼女から返ってきたのは…なんとも頓珍漢な答え。
「……あたしだって、朝から仕事だ…」
ダメだ。自分からは口を割らない。そしてどうやら帰る気も無い。
ならば、尋問していくしかないのか???
何で自分がここまでしてこの女の話を聴いてやらねばならんのか。
いや、口を割らないから「聴いている」ワケすらない、「訊いている」んだ。
エダには今の自分の境遇がとてつもなく不思議に思えてならない。
「か〜〜〜!!だから何だってんだ…ったくよぉ……。で?どうしたって?ロックが女連れ込んでたって?」
仕方なく、尋問を開始する。
「……。」
頬を膨らませるレヴィ。
そうか、これは間違い無いか。
「で、何してた?まさか仲良く酒でも飲みながら、ウォールストリートの情勢でも話し込んでたワケじゃぁあるめぇよな?」
「んなワケあるかよ」
そうか、これは違うか。
「じゃー、何か?ヨロシクやらかしてましたってか?ヤツのベッドの上でよぉ…IN&OUT…IN&OUT…IN&OUT…ハァハァハァてよ」
唇を噛むレヴィ。
「あ"ー!!!もうっ!!!面白くねぇ面白くねぇ!!!何だってんだ!!クソっ!……おら、飲むぞ」
そして、ガシガシと床を蹴りながら喚き散らし、杯を煽る。
……マジっすか。
それにしても、いっそ清々しいほどにわかり易い女だ。

118 :名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 01:02:41 ID:qk1etnUe
さぁて、ここからどう突いていくべきか。彼女は考えを巡らせる。
「へぇ…トゥーハンドの目を盗んで浮気とは…命知らずだねぇ、色男も。オメー、アレだ。ガバガバなんじゃねぇの?ヒヒヒ」
取り敢えず軽口を叩いて様子を見ることにした。
レヴィは相変らず頬を膨らませたまま、何やらボソリと吐き捨てた。
「……な…じゃね…よ」
「はぁ?ぁんだって?」
「アイツとはそんなんじゃねぇよ…」
次はエダにもハッキリと聞こえた。だが、全く意味を理解出来ない。
「へ?そんなんじゃないって?」
「別にアイツはあたしの何ってワケでも無ぇからよ……誰と寝ようとアイツの勝手だ」
ようやく口を割り始めたレヴィが語るのは、全くもって予想外の言葉。
そこはかとなく嫌な予感を胸に抱きつつ、念のため確認する。
「ヘイヘイ、レヴィ。おめーよ、アイツと毎日ズッコンバッコンよろしくヤってんだよな…??」
「………………………一度もねぇよ。」
舌打ちと共にレヴィが吐き出したのは…嫌な予感を裏付ける、あまりに衝撃的な事実。
いつだか、この女に「おぼこを気取るな」などと言ったことを思い出す。
まさか、本当におぼ…いや、流石にそれはあるまい。多分。
それにしたって……ええええ???
返すべき言葉もすぐには見当たらず、エダは暫し言葉を失った。


119 :名無しさん@ピンキー:2008/03/10(月) 01:13:18 ID:qk1etnUe
渦中の男は頭を抱えていた。
最悪だ、いっそ誰か殺してくれ…。
引き攣った彼女の顔が瞼の裏から離れない。よりによってレヴィに見られるとは。
彼の部屋に断りも無く侵入する人間などレヴィ以外では空き巣や押し込み強盗くらいしかいないのだから「よりによって」も何もないのだが、
そんなことは今は棚に上げる。
何故鍵を閉めなかったのか、何故部屋を取らずに女を自室に招き入れてしまったのか、そもそも何故自分はあのような歪んだ行為に及んだのか…。
考え始めるとキリが無い。
あの時、自分は何か口走っていなかっただろうか。
彼女の名前を呼びながら別の女を抱いていたなど知られてはならない、絶対に。
ふと、先程抱いた女の去り際の台詞を思い出す。

―――押し倒してしまえばいい。

彼とて、彼女を前に善からぬことを考えなかったワケではない。
折れてしまう位に抱き締め、唇を奪って、息も出来ない位に貪って。
彼女の匂いを嗅ぎ、体中に舌を這わせて味わって、喘ぎを聴き、姿態に酔い、彼女の肌で溺れたい。
彼女を犯して、泣かして、汚して。自分のこと以外見えなくなる位に隷従させたい。
だが、自分の前でだけは害の無い笑顔を浮かべる彼女を見ると、罪悪感が前面に出てしまう。
彼女が過去に、荒んだ生活を送って来たことは想像に難くない。
性体験にもいい思い出など無いに等しいだろう。
一度、肩を抱いたことがあった。
抵抗らしきものは無かったが、身を硬くし、何をするのかと不安そうな眼で見られると何もできない。
彼女を滅茶苦茶に犯したいという想いも本当だが、二人きりの時にだけ見ることのできる「無防備な彼女」を庇護したいという想いもまた偽り無いのだ。
臆病者の詭弁だとは解っている。
けれど…。
「……出来ればこんなに悩むかよ…」


155 :暇人:2008/03/22(土) 01:59:40 ID:RpcJik57

ここは、この二人の有り得ない関係に疑問を呈するべきだろうか、それとも笑い飛ばして馬鹿にするべきか??エダは悩む。
今すぐに馬鹿にすると何が起きるか予測がつかない。それに馬鹿にするだけなら後からでも出来る。
ならば今は彼女の話を聴くのが先と判断する。
彼女は心底面倒に思いながらも、貴重な睡眠時間確保のために聞いてみた。
何せ起床時間までには4時間を切っている。
「…おめーらよ、暇さえありゃ、どっちかの部屋に入り浸ってるだろ。………何してたワケ??」
レヴィは背もたれに肘をつき、相変らず部屋の隅を睨みながら鬱陶しそうに吐き捨てる。
「………………だから、何もしてねぇっての。
 飲んで、駄弁って、テレビ見て、雑誌読んで、ハラ減ったらアイツが飯作って、あたしが銃をバラしてる時はアイツは何か読んでて、眠くなったら寝る」
………………ジーザス!!
エダは心の中で神に叫ぶ。
アスピリンは残っていただろうか。頭が痛くて仕方ない。
「ちょい待ち…寝る時はおめー、何処で寝るんだよ。まさか二人並んで仲良くお寝んねってワケでもあるめーしよ」
「……………並んでっつーか、あー…まー…ほら、壁に寄っ掛かったり…身体丸めたり…ほら、…―――。」
何やらよく解らないが、寝方をあれこれ解説するレヴィ。
そーなのか、何を言いたいのかはよく解らんが、添い寝に近いのか。
エダはまともに聞く気も起こらず、手酌で酒を煽る。
くたばれ。
死んでしまえばいい。
聖職者にあるまじき罵詈雑言を胸の内で吐き捨てながら…。

これはどっちが悪いのか、その判断はいまだ出来ない。
だが、色男はこの生殺しの状態に魔がさしたのではないかと当たりをつける。
彼がどこまで生殺しなのか、何となく気になり探りを入れた。
「おめーらよ、その…、あー…その状況で今まで何も無ぇって異常だろ、明らかに。まさか手を握ったこともチューしたコトも無ぇとか言わねぇよな?」
「…………うっせぇ。」
どうやら無いらしい。
もういい。
笑う。
嗤ってやる。
彼女は決めた。
「ふ…ふふ…ふはははは………」
…駄目だ!笑えない。
哄笑すら出来ない、アホ臭過ぎて……。
力の抜けたエダに対し、補足するようにレヴィは重ねる。
「……デ…デコになら…一回だけ…あと、アタシが寝てる時とかにはよく…………」
口ごもって、黙り込む。
おめーは寝てるのに何で知ってんだよ…とか、結局何されてるんだよ、とか。彼女の胸の内に突っ込みは絶えない…。
だがどうせ聞いても聞かなくても大したことはない。
想像はつく。
どう考えても狸寝入りだ、そして軽〜いキスがいいトコだろう。
それ以上はレヴィが起きるリスクを伴う。
それにしても言うに事欠いてデコちゅーと寝込み…。
盛大かつこれ見よがしにため息を吐いてやると、レヴィは居づらそうにグラスを揺らした。
あーあー、溢すなよ…。

156 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:01:15 ID:RpcJik57
ただ、エダにはこの補足で判ったことがあった。
取りあえず、相手の男は目の前の女をコマしたがっていると判断して間違いないのだろう、多分。
それにしたってアイツは今まで何をしていた、ヘタレにも程がある。
コイツが起きてる時にゃデコちゅー一回かましただけ。
街中からデキてると思われている二人が、何を考えて「清い関係」とやらを保っているのだか、今に到ってもさっぱり理解できなかった。
別の女とファックかましてたってことはインポってワケでもあるまい。
……その、起きている時にデコちゅーしかしたコトないというのなら、逆にその時に何かあったのではないか。
あくまで彼女の勘だが、そんな気がした。
「……レヴィ、そのデコちゅー、どんな状況だったか言ってみろよ」
まずは、引き続き尋問するエダ。
『言わなければ良かった』と苦虫を噛み潰したが如き表情のレヴィは、ぶつぶつと悪態を垂れながらも説明した。
いわく、二人で並んでテレビを見ていたところ、突然肩を抱き込まれ、顔が近づいてきたが、至近距離での暫しの睨み合いの末にデコに口付けられたとか何とか。
彼女の言う睨み合いがどんなモノかは不明だ。
だが、…それであのヘタレが怯んだ可能性は大いにある。
胆が据わってるんだか据わってないんだか解らない男である。
レヴィもレヴィで、心底どうしようも無い。
エダは次第にイライラしてくる。
「一つ聞きたいんだがよ、お前アイツとどうしたい?アイツが盛れば睨み付けてるクセに寝たフリしてまでキスされんの待ってんだろ?」
「……別に待ってねぇよ……!!」
やっぱキスで正解か。
エダは、予想の正解に内心ほくそ笑む。
「じゃあ、何で寝ねぇで『寝たフリ』なんだよ」
「………寝たフリなんかしてねぇ……。」
上目遣いでエダを睨みつけるレヴィ。
真っ赤な顔では迫力の欠片も無い。
「あのよーアイツがインポじゃねぇのは既に証明済なんだわ。コソコソおめーにキスするってコトはどうにかしたいとも思ってんだろーよ、多分。」
「でも…」
「聞け。要はお前がアイツの前で股ぁ開いて腰振る覚悟あるかどうかだと思うんだがよ。つーか、おめーがそんなんだから寝取られんだよ」
レヴィは考えるかのように暫し黙り込む。そして、ポツリポツリと喋り始めた。
「………ぁー………別に嫌なワケじゃ…ない。…その…ファック…は……あんま好きじゃねぇっつーか…。
 …でも、あいつとするのが嫌なワケじゃなくだな…あいつとなら、多分我慢できる…つーか…してみるのも悪くねぇっつーか…
 それに…あいつは『睨むな』っつったけどよ……あたしとしては予想外だっただけで別に睨んでるつもりも拒否するつもりも無かったんだ。」
ようやく素直になって来たレヴィ。
多分これは本当なのだろうとエダは思う。
何せ『我慢する』と来たモンだ。いままで余程ロクでも無い経験しかないのだろう。
それにしても、真っ赤になってモジモジするこの女のこの様を、あの男に見せてやりたい。
そんな、『好きで好きでたまらねーアイツと今すぐヤリてぇ!』みてぇなツラで何が『我慢する』だ。死ねばいい。
「あー、イライラする!埒があかねーから、もうおめーから誘え。
 男なんてなぁ、今のお前みてーな物欲しそうな顔で跨って身体こすりつければ簡単に誘いに乗って来るぜ??」
『物欲しそうな顔』に反応したのか、レヴィは急に表情を引き締め、不服そうに呟く。
「……それじゃ…淫売と一緒じゃねぇか。……………1年前な…らデキただろーけどよ…」

157 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:02:01 ID:RpcJik57
…可愛いヤツ。
エダは不覚にも思う。
近くなりすぎて身動きが取れなくなっている。
「よぉ、おめー自分でどう思う?あの時目ェ潤ませて抱きついて唇吸ってりゃ、今こんなコトにならなかったとか思わねぇか?」
「……しるかよ…もしものハナシなんざイミねぇ…」
ため息と共に突っ伏し、「あー」とか「うー」とか言葉にならない呻き声を発した後に更にぼやき始めるレヴィ。
「…イヤだなんて言ってねぇ…シなくてもたのしかっただけだ……アイツはアタシんだ…アイツにさわっていいのはアタシだけだ…となりにいていいのもアタシだけだ…
 ……なのに………ちくしょ…くそジャップ………………」
そろそろ酔いが回っているようだ、口調が怪しい上に訊いていないことまでベラベラ喋り始めている。
それも、独占欲の塊だ。
…そんなに好きか、あの日本人が…。
確かに今まで彼女の周囲に居なかったタイプであるのは間違いないだろうが。
それにしても……こんな風に男に振り回され悶絶している姿を見ると、この殺人マシーンも歳相応の娘なのだと思う。
まともな環境に生まれてさえいれば、皆に好かれる、明るく好い娘になったことだろう。
こんな街ですら、年長者にはそこそこ可愛がられている。
まぁ、それこそ…こんな「もしも」は、考えても詮無いのだが。

考え込んで会話が途切れる。
ふと視線を上げると、椅子の上で眠りを貪るべく頭の置き場所を探っているレヴィが眼に入る。
ていうか、寝るな、帰れ!!
叩き起こすべくエダが立ち上がると、突然頭を上げ、呂律の回らない口調で捲くし立てた。
「でもよぉ…アイツは…もーべつのおんなのほぉがいいんだろぉ?アタシなんざよぉ〜いろけもねぇしよ、かわいげもねぇしぃ、きんにくばっかでカラダもかてぇしぃ、
 ヤニくせぇしぃ…ひとごろししかとりえがねぇ……あいつだってよぉ、ほそくてよぉ、いいにおいのするやさしいおんなのほぉがぁぁぁいい〜んだろぉっ??」
駄目だ、完全に暴走し始めた。
「……アホかてめーは。そうやってむくれて欲しいもんが手に入るワケでもねぇだろうが。」
「……わかってんだよ、タコ!タ〜コ!!!」
取り敢えず、あのヘタレはレヴィにとって『欲しいもの』ではあるらしい。
彼女自身に再確認させるため、問いかける。
「欲しいか?あいつが」
「……………………ほしい」
「なら、本人にそう言えばいい」
「………ん〜…………やだ」
「何でだよ」
「…………………きらわれたくな…い…」
「おぼこ気取んなつっただろ、おめーがそんなタマかよ、ロックだってお前にそんなしおらしさは期待してねぇ筈だ」
「…………………………………ん〜…」
「それによ、アイツだって案外お前に嫌われたくねぇだけカモしれねぇぜ?」
「…………………ん…」
「レヴィ?聴いてっか?」
「……………………ん?……………」
「起きてっか〜〜〜?」
「……………………………………………………」
返事の代わりに健やかな寝息。
コイツ、ホントに寝やがった、死ね。
実際のところレヴィがここで寝ようと起きて帰ろうと彼女の知ったことではないが、夜中に椅子からひっくり返られたのでは堪らない。
これ以上安眠妨害されてたまるか。
「ほ〜ら、レヴィ〜?こんなトコで寝たら危ねぇだろ〜?さっさと立ちな、このスカタン!!」
そう言ってレヴィを後ろから羽交い絞めにし、椅子から引き摺り下ろすと、そのまま床に放り投げる。
ドスっという鈍い音と共に板張りの床に転がるレヴィを確認し、彼女自身も自らのベッドに入る。
起床時間まであと3時間。
本業柄、睡眠を取らずとも、数日間は活動出来るだけの訓練は受けている。
だが、それとこれとはハナシが別だ。
「眠らなくても平気」というだけの話で、彼女だって、眠りを貪ることに人並みの幸せは感じている。
ああ、やっと眠れる、今日はナンだかロクでもない。


158 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:02:47 ID:RpcJik57
目が醒めた彼女の眼に入ったのは、見慣れないベッドの脚とひっくり返った酒瓶。
起き上がると身体が痛い。
床で寝ていたようだ。
ここはどこだと昨晩のことに思いを巡らせ、蘇るあの男の睦み合いとエダとの酒盛り。
気分は最低最悪。
「…チッ…」
そういえば今何時だ、そう思い時計を探すと昼近い。
「やっべ!!」
確か、午前中に積荷を載せて正午には出発だ。
窓から外を覗くと確かに日は高い。そしてハシゴは昨晩のままだった。
それを使って慌てて車に向かう。
ドアを開けると身体に纏わりつく熱気。
只でさえ憂鬱であるのに、輪をかけて気分は急降下。
顔をしかめて運転席に座ろうとすると、そこに鎮座するパンパンに膨れた大き目の紙袋。
エダのものと思われる整った字で『コレやるから二度と来るな』と書かれているそれ。
何はともあれ、最優先事項は出勤である。キーを回してボロ車を発車。
運転しながら窓を全開にし、件の袋の中身をのぞき…絶句する。
中身は、大きく2つ。
まずは2組の下着。
小花柄にアクセント程度にレースのついたシンプルなデザインと、黒地に赤レースのケバケバしいデザイン。
後者に到ってはショーツは透けている上に殆ど紐。

『ヤツにどっちがいいか選ばせろ。どっち選んだかも教えろよ』

とのメモ付きだ。
あの尼、何でこんな両極端なモン持ってんだよ…相手によって使い分けてんのか?と頭痛がする。
まぁ、それはいい。…いや、良くはないが。
問題なのは、何年分だよ、と思わず突っ込まずにはいられない……………大量の……スキン。
何でアイツ、袋一杯になるほどこんなモン持ってんだ…??
感染症予防と知識啓蒙のためにNGOが置いて行ったものなのだが、レヴィがそんなコト知る由もなく。
「どんだけ男漁ってんだか…。」
誤解とため息と共に、エダのお節介が詰まった紙袋は助手席へと放り出された。
ドックまではあと5分。


出航時刻が近づいても現れない女に、男は焦燥感と安堵という相反する感情を同時に持て余していた。
事務所の車が無いということは、近くにはいないのかもしれない。
大男のボスに命じられるまま、念のために彼女の部屋へ赴くも、不在。
彼女の不在にどこか安堵する自分が情けない。
けれど、彼女の顔をまともに見ることが出来る自信はない。
…あれからずっと考えたが、今更どんな顔をして彼女と過ごせばいい。
想いを遂げるなど、更に出来ようはずもない。
今彼女を抱こうとすれば、それはただ無節操なだけではないか。
ドックへ戻るため、市場を抜ける。
昼が近いため、方々の屋台からそれぞれの惣菜の匂いが漂う。
香草と香辛料、そしてこの国独特の様々な調味料の香りが立ち込めている。
最初は臭くて堪らなかったこの匂いも、生活の匂いとしてすっかり馴れたもの。
そして、自分を誘拐し、殺害しようとまでした女と二人、並んで食事をするのも日常で。
そう云えば。
一癖も二癖もある市場の面々に自分をそれとなく紹介し、顔を通してくれたのも彼女だった。
そう思い出す。
文字通り、彼女に生かされて来た。
そして、この先も彼女無しで生きていくことなど出来はしないのだろう。
そんなことは無いと解っているが、このまま彼女が現れなかったら…。
……耐えられない。
遠からず命を落とすことになるだろうが、そんなことよりもまず…彼女の不在など自分自身が耐えられそうに無い。
彼女がどう思っていようと、彼は彼女の隣に在り続けたかった。
……少しずつでいい、彼女に触れられるように。
身動きが取れなくなってしまった関係を解きほぐして行こう。
彼女との日常が詰まったこの通りで、彼は彼女との関係の前進を人知れず決意する。

159 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:03:50 ID:RpcJik57
ドックまでは直線であと500メートルというところ。
前方をフラフラと歩く間抜けな後姿が眼に入る。
どうしようかと一瞬逡巡し、避けるのも不自然であろうと、ピックアップすべくクラクションを鳴らす。
振り返り、驚いた顔を浮かべる男。
額の汗を拭いながらこちらを見つめる男のすぐ横に車をつけると、「よぉ、昨日は楽しんだか?」などと軽口をたたき、顎をしゃくって助手席へ乗るように促す。
「どこ行ってたんだよ」
そう言ってドアを開け、乗り込もうとする男の動きが止まる。
座席に鎮座する袋。
開いたままの口から覗く、下着の紐と、売るほど詰まった大量の避妊具。
「ぃっ!!!!」
それに気付いたレヴィは、一瞬のうちに袋を掻っ攫い、口を閉じ、自らの座席脇に押しやる。
「……あー…ボサっとしてねぇでさっさと乗れっ!」
「ぁ、あぁ………レヴィ、今のな…」
「あー、コレなー?エダんとこ行ってよぉ、おめーのコト話したら、『ビョーキ伝染されんなよぉ』って、おめーにって預かって来た!!」
よし、咄嗟についたとはいえ、いい言い訳だ、これで取り敢えずコイツに渡せる、グッジョブ自分!
レヴィは内心でガッツポーズをとり、そして渡せることを喜ぶ自分に「まるで彼とヤリたくて仕方ないようではないか」と、異様なまでの羞恥を覚える。
だが。
「え?あ…そう。……ぁ…あ…あり…が…とう…??…あー…じゃあ、その……それ以外は…?」
下着のことだ。咄嗟に言い訳が浮かばない。苦し紛れに吐いた言葉は…。
「……ぁあ?……プレイにでも使えってコトじゃね?」
車はもうドックについている。
エンジンを切り、ドアを開ける。
そして…思い出した。
袋には彼女のメッセージが書き込まれ、中には別途メモも入っている。
ああは言ったものの、このまま渡すワケにはいかない。
自分の大間抜けっぷりに反吐が出る。
ていうか、エダのヤツ余計なコトしやがって!!
彼女の怒りは自分のみならずエダへも向かった。
そもそも、これを渡して本当にヤツが別の女と使ったらどうすればいい。
本末転倒である、そうなれば自分は相手共々アイツを殺してしまうかもしれない。

いつまでも車を降りずに何やら考え込む彼女に気付き、ロックは怪訝な顔を浮かべ、問いかける。
「レヴィ?すぐ出航するけど…どうかした?」
「…先に行けよ、すぐ行くからよ」
そう鋭く睨みつけられる。
時間も無いし、今は反論しない方が得策だ。
そう思い、早く来るようにとだけ伝え、彼女に背を向け歩き出す。
一方レヴィは、昨夜の悪友との会話を反芻していた。
あたしはアイツが欲しい。
アレを渡したってあたしから誘わなければ、きっと何も起こらない。
それどころか、このままでは別の女に盗られてしまう。
そんなのはイヤだ。
だから。
先を歩く男を小走りで追いかけ、シャツの裾を掴む。
「なに?」
そう振り返る彼の腕を掴み、周辺からの死角に引っ張り込むと、彼の首に腕を廻し口付けた。
拒絶されたらどうしよう、そう思わないでは無かったが、このままむざむざと盗られてしまうのは更に耐えられない。
瞳を閉じていても眩しい、真上から降り注ぐ陽光。
正に真昼間。
何やってんだか、これから仕事だってのに…。
彼の唇を舌でこじ開けながら自嘲する。
舌を侵入させると、それまで木偶の坊のように呆然と突っ立っていたロックが腰と肩に両腕を廻し、痛い程に抱き寄せて来た。
互いの意思を以って、互いの口腔を貪る。歓喜で背中にぞくりと快感が走った。
ロックの少し汗ばんだ掌が、露出した腰を這い回る。
ピチャピチャという湿った音と、次第に荒くなる呼気、高まる熱、汗ばむ肌。
何も考えられなくなりそうだ。
「レ…ヴィ………レヴィ……」
呼吸の合間にロックの口から紡がれる彼女の名前。
今はあたしのことだけを見ている。
彼女にはそれだけで十分だった。

160 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:04:36 ID:RpcJik57
空気を震わす船のエンジン音に二人同時に我に返り、合わせた唇を離す。
ハァハァと重なる二つの吐息。
お互いの口の端から伝う唾液。
二人とも、何を言えばいいのかの皆目見当がつかなかった。
今の行為に到るまでに、想いを口にしたワケでも、何らかの意思の確認があったワケでもない。
「ぇ…と……、ほら、さっさと行くぞ!」
件の紙袋を手にレヴィが走り去る。
ロックには何が起こったのか解らなかった。
自らの唇に手を当て、彼女の唾液で湿ったそこを指の腹でなぞる。
天から降って来たかのような幸運に、思わず夢中になってしまったが…。
現実的な話として、今から仕事だ。
なのに、夢から醒めても尚臨戦態勢に入ったままの自分の身体。
どうしようかと考えたところでどうしようもない。
言葉に出来ない情けなさを噛締めながら、彼もまたヨロヨロと船へと向かった。


彼が船に乗り込むとすぐに陸を離れた。
船内で仕事の打ち合わせを終え、ダッチの小言を聞いたレヴィがデッキに出ると、すでにロックがタバコを燻らせていた。
彼のすぐ隣に腰を下ろし自らもタバコに火をつける。
さて、何を言うべきか。改めて考える。
先程の熱も激情も、既に過ぎ去った。
今思うと、あの行為に意味はあったのか、そんな気すらして来る。
昨夜彼女が部屋を訪れた時、あの女とも唇が滑る程に深く口付けていたではないか。
考える程悲観的になる。
先程の多幸感を少しでも繋ぎとめたい。レヴィはロックの指に自らの指を絡める。
ロックもそれに応えて、彼女の手を確かめるように指の一本一本を何度もなぞった。
掌だけで互いの交感をし、二人無言で空を眺めて風を浴びる。
タバコはとっくに灰になっていた。
「レヴィ?」
エンジン音にかき消されてしまいそうな声で、ロックが呼びかけた。
「ぁあ?」
「あの…あんなところを見られた後で言葉を弄しても…うそ臭いのは解ってるんだけどさ…」
無意識か否か。彼女は絡めた手をぎゅうっと握る。
何を言われるのかと不安で鼓動が高鳴る。
「今幸せなんだ。ずっとこうしたかった、レヴィと。」
そう言いながら彼女の手を引き寄せ、手袋を脱がすと掌と手の甲、指の先まで口付ける。
レヴィは、浮かれそうになる心を制し、男の真意を推し量る。
このまま流されるには昨夜の情景は強烈過ぎた。あの女にも同じコトを抜かしてたのではないか?
暫し考え込んだ後に愛撫される掌を振り払い、ロックを睨みつける。
「……ぁ、あたしと?ナメんなファッカー。てめーは穴さえ開いてりゃ誰でもいいんだろ?」
「信じられないのは解るよ、全く以ってうそ臭い。けど本当なんだ、レヴィ以外じゃだめだ。空しいだけで。
 けど、今は…指を絡ませるだけで幸せだ」
「だったら…だったら何であたしにシたいって言わねぇでわざわざ別の穴使ってんだよ、言えばいつだって使わせてやるんだよ」
ロックの襟元を掴み上げ、眼光鋭く低い声で吐き捨てる。
脅しているようで、その実言っていることは独占欲剥き出しの告白であることに当の本人のみ気付かない。


161 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:05:13 ID:RpcJik57
「ごめん……レヴィが不安そうな目で俺を見るから…。けど一度触れたら我慢ができない。………好きじゃないだろ?セックス」
でなければ、身体の一部を切り離して『穴』だの『使う』だの、そんな道具のような言い方はしない。
大事にしたかった筈の彼女にそんなことを言わせてしまったことが、とてつもなく悲しい。
ロックが自身を掴み上げる手を愛しげに撫でると、レヴィは俯き手を離す。
彼女は、彼が自分に変な気を遣っているのには薄々気付いてた。
気付いていたが、そんな優しさなど望んではいない。
「ファックなんか大嫌いだ。けど、……お前には一度もイヤだなんて言ってねぇ」
またしても彼女の口から告げられる遠まわしな好意。
恐らく自分の言葉の威力に気付いていないあたり、実に彼女らしいと思う。
「……そうだったね」
特に否定するべきことも無いから肯定する。寧ろ彼女の言う通りだ。
だが。
「…お前はあたしのモノだ」
予想外にストレートな物言いに、ロックは目を見開く。
だめだ、目の前の女が欲しくて堪らない。
自分が彼女の所有物になることで彼女を抱き締められるならば…自分は彼女の望むままに。
彼は目を細め、薄く笑みすら浮かべてそれを伝える。
「レヴィがそう望んでくれるなら…。……ねぇ、抱き締めてもいいかな、そろそろ我慢できない」
思わず頬が緩みそうになるのを諌める。寧ろ自分から男に抱きつきたくて仕方ない。
だが、残念ながらそんな可愛げなど持ち合わせてはいないから、男に倣ってこう言ってやる。
「………お前が望むなら……」
ロックは目の前にあるレヴィの肩を引き寄せ、膝に座らせると両腕ごと強く抱きすくめる。
彼女の髪に顔を埋め、息を吸い込む。
甘やかな香水の香りなんかしない。
昨日から蓄積された潮と、雑踏の食べ物と、排ガスと、煙草と、酒と……皮脂と汗の匂い。
女性としての色気なんか微塵もない筈なのに、もっと欲しいと望む。
無造作に髪を束ねるゴムを外し、髪を掬い上げ口付けていると、大人しく身を寄せていた彼女が顔を上げこちらを見つめている。
頬に触れると閉じられる瞳。半開きの唇。誘うように傾げられる首。
二度目のキスは、まるで何年も前からそうして来たかのように自然に出来た。

果たして船が陸に戻るまでの3日間、生殺しもいいところであった。
一度感情の堰を切ってしまうと、今まで我慢出来ていたのが不思議な位に相手を欲してしまう一方。
だが狭い船内でボスと同僚の目を盗んでコトに及ぶ程に開き直ることも出来ず、高揚し過ぎない程度のじゃれ合いで飢餓感を誤魔化した。
特にロックからしてみれば拷問のような時間であったのだが、
自らを穴と称し、使うの使わないので語ってしまうような彼女を、処理するかのような方法では抱くのは避けたかった。
それならば、一人で処理した方がマシだということで、侘しさを感じながらもそれなりにコントロールした。
だから、久々に陸に戻って来た日、まだ陽も落ちていないというのに二人は彼女の部屋のベッドにいた。
彼女の部屋にいる理由だって至極単純だ。こちらの方が近かった。


162 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:05:57 ID:RpcJik57
レヴィは自分でも信じられない程に緊張していた。
命の獲り合いをしているときよりも心臓がうるさい。
彼女の肌を隠すのはエダに押し付けられた下着のみ。
どっちがいいと訊くレヴィに真顔で「両方」と応えたロック。どうにか選ばせた小花柄のそれ。
エダのものであるためワンサイズ大きい。目の前でシャツを肌蹴て心底嬉しそうに自分を見下ろす男。
どこを見ていいのか解らず顔ごと視線を逸らすと、手を取り指を絡められ逆の手では宥めるように髪を撫でられた。
反射的にヤツの手を握ると、名前が呼ばれ、首筋のタトゥーを舌が這う。
ヤバぃ、今更だが…こういう時どうすればいいのかが解らない。
今まではただ寝転がって股開いてりゃ勝手に突っ込んで勝手に動いて勝手に出して終わり。
男の捌け口。穴以外を求められたことがない。
こんな風に指を絡めたことも髪を撫でられたこともない。
彼女という人格を求められたことも無ければ、彼女自身も相手に人格を求めたことなど無い。
彼女に覆いかぶさる男は下着の上から彼女の胸を揉み、息を荒げてアホのように彼女の名前を繰り返しながら耳やら髪やら瞼やらに口付けている。
何ヶ月か前、夜中に見た映画のワンシーンを思い出してみる。
女は確か男の首に腕を廻して愛の言葉を囁いていた。
そう思い、取り敢えずあいている方の腕でロックの首にしがみ付く。
あとは愛の言葉…?愛…???……つーか、そもそもあたしはコイツのコト愛してんのか?わかんね。
一つ確かなのは、映画の男は初っ端からこんな風にハァハァ言って無かったということだ。
ナンだ、いきなりイレギュラーじゃねぇか。まぁ、あの映画が普通なのかどうかは知ったコトではないが。
ならば、こっちも思うさま振舞おう。
「おい」
口を尖らせ、自分の上で一人で勝手に盛り上がっている男に声をかける。
それはもう…剣呑に。
「…ん?…何?」
ロックは少し身体を起こして顔を覗き込み、首を傾げる。
彼女の不機嫌な様子に、内心は怒らせたかと戦々恐々である。
「一人でサカってんじゃねーよ、タコ」
レヴィはそう言い、絡める手を振り払い両腕で抱きつくと、頭を起こし男に口付ける。
ずっとこうして欲しかった。

彼女が不機嫌な理由が『キスして欲しかった』からだと気付き、ロックは身の内が熱くなる。
無理だ、もうこれ以上の我慢なんて出来っこない。左手を彼女の背中に、右手を脚の付け根に差し入れる。
真新しい下着の上から形をなぞるように何度も何度も撫で回すと、じわりと湿り気が広がった。
下着の脇から指を挿し入れると、とろりとした液が指にまとわりつく。
彼の指から逃れるように脚を摺り合わせ後ずさろうとする彼女を許さず、クチャクチャとかき混ぜると合わせられた唇から漏れる甘やかな吐息。
彼女の挙動の全てによって熱を注ぎ込まれる気がした。
唇を離し、情けなくも我慢の限界であることを告げる。
彼女からの注文は一つだった。
曰く、「だったらさっさとお前も脱げ」と。

163 :名無しさん@ピンキー:2008/03/22(土) 02:08:48 ID:RpcJik57
だが、いざ中に入ろうというとき、彼女は耐えるように眉根を寄せ、眼を固く閉じ、息を止めていた。
全身こんなにガチガチになっていたのでは辛いだろうに…いつもこうなのかと少々哀れに思う。
逸る心を押さえ、あれやこれやとリラックスさせてようやく身体を重ねた時、ため息と共に彼女の口から聞かれたのは「あれ、あんま痛くねぇ…」という台詞。
やっぱりなぁいつも痛かったのか、と思いながら彼が頬擦りすると、「濡れてたからかな?」と問う声。
緩やかに律動を開始しながら「いつも濡れてなかったの?」と問うと、「ローションがあれば使ってたけど、大抵は無理矢理捩じ込んでた」とのことで。
「濡れてないのに、あんなに…ガチガチになってたら…辛く、なかった?」キスをしながら問う。
彼女の手がロックの手を握る。今日の彼女が異様に可愛いのは、ベッドの上での錯覚だろうか。とにかく何をしてもツボにハマる。
「ん?すっげー痛かっ…た…ハァ…初めてでも、無いのに…何でだろっていつも思ってた…ぁ……ぁ……!!」
じわじわと高まっているのか、一際強く握られる掌。少し鼻にかかった、控えめな嬌声。こちらを見つめる潤んだ双眸…。
そして。
「ロッ…ク…!!…ロック…!!!」
求めるように呼ばれる自分の名前。

あとはあっという間だった。
元々限界に近かったのだ、という言い訳をするのもアホ臭くなる位に。
彼女に奉仕しようとか、気持ちよくなって貰おうとか、思っていた筈なのに。
自分を呼ぶ彼女の声に一気に臨界を越えた。
情けない顔で彼女を伺うと、盛大に笑われた。
気にするなと言われたが、言われる程に情けない。
「笑うなよ」と彼女に抱きつき、甘えるように肩に顔を埋めると、クスクスと笑いながらも背中に回される腕。
繋がったまま狭いベッドを器用に転がり、彼女を上に乗せると、そのままぴったりと抱き合う。
そのまま他愛も無い話で笑い合い、もう一度抱き合いリベンジを果たし、ハダカでごろごろとTVを見て、眠って。
その間ベッドの中で見せられた彼女の顔は、彼が何を賭しても手放し難かった、どこまでも無防備なそれだった。

その後、レヴィはエダにしつこく経過を詰問されることとなったのだが、のらりくらりとはぐらかした。
「吐かないなら、くれてやったものを返せ」と抜かすエダ。
そして、「OK」と即答出来なかった時点で使ったことの肯定になることに気付き、コイツ相当の策士であることを確認。眩暈がした。
そう言えば、押しかけた時も何だかんだと上手いこと情報を引き出してやがった、このクソ尼は。
エダが尋問のプロフェッショナルであることを知らぬレヴィは、今後エダと話す時は常にトラップを意識しなければ…と、無駄な決意を胸に抱く。
結局その後も、彼女の誘導尋問に地団太を踏むこととなったのだが……。
…エダの尋問スキルは大きな問題ではなく、単にレヴィの反応が解りやすく、カマをかけやすいだけであることに当の本人のみ気付かない。

end



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