- 204 :バカるでい:2008/04/09(水) 02:35:20 ID:Wp5nA5TD
まったく神業としか言いようが無かった。いや、むしろ悪魔のソレかもしれない。
暴力教会のクソ尼の異名取るシスター・エダは、まるで魔法でも使ったかのように
ロックのワイシャツとスラックスを剥ぎ取り、ベッドの上に押し倒していた。
ロックには金髪のエダがまるで獲物を捕えた雌ライオンのように見えた。
雌ライオンは群れで狩りをするが、この際そんなことは関係ない。
押さえ込んだ獲物をじっくりと賞味するかのような声でエダが問いかける。
「さてロックぅ〜、ルカの福音書 第六章に何とあるか知ってる?」
「オ、オレはキリスト教徒ではないので……」
「それじゃあ教えてあげるわね。」
よりにもよって、この状態で聖書の講釈を受けるハメになるとは。
「そこにはね、『汝の頬を打つ者にはほかの頬も向けてやり、………」
「そ、それなら知っているよ。でもこんな風に全身を晒せとは、か、書いて無いと思うけど。」
下着姿で必死に無駄な抵抗を試みるロック。
「なぁんだ、知っているなら話が早いじゃないのよぉ。その続きは?」
「へ? 続き?」
「そうよ、つ・づ・き。知らないのぉ?」
是非知りたくないというのが今のロックの本音だが…。
「その後はね『汝の上着を奪い取るものには下着をも拒むな。』と続くってコト。」
すでにエダの手はロックのトランクスにかかっていた。
ロックは心中で「そう書いてあったとしても、この解釈は絶対に間違っている!」と叫んでいた。
- 211 :バカるでい:2008/04/14(月) 21:35:52 ID:vYJMKTXj
なんとしてもこれ以上状況を進展、というか悪化させるわけるにはいかない。
この際、恥も外聞もない。ウソでも何でもいい、とにかくこの場を切り抜けることが最優先だ。
そう決心したロックは
「あ、あのさ、もしオレはこういうの経験が無いと言ったらど……んぐ…ぐ…」
エダは皆まで言わせず、人差し指でロックの唇を封じる。
「ロックぅ、主の御言葉は最後までお聞きなさい。
『…汝に求める者には与えてやり、汝のモノを奪う者からは取り戻そうとしてはならない。』
…ほら、アタシの言いたいコトわかるでしょ〜う。」
「な、何が?」
「とぼけてもダメよぉ。求められたら与えなさい、ア・ナ・タのモ・ノもね。」
エダはおもむろにサングラスをはずした。
美しい碧眼がロックの視線に絡みつき、逸らそうとしても射竦められて動けない。
平素の荒事を考えたら意外なくらい細く繊細なエダの指が、
ロックの唇から頬を伝い、首筋へと流れる。
へぇ、普段は気が付かなかったけど素顔は結構美人なんだ。
ロックは迂闊にも思考がアッチへ外れかかった。
今、自分の目の前にあるのは……
パツキン + 美形 + ナイスバディ + 尼僧服 …
- 212 :バカるでい:2008/04/14(月) 21:37:08 ID:vYJMKTXj
- ヤバイっ!
四肢はしびれて動かないのに、どうしてアレだけは自分の意思に反して怒張する!?
とにかく神学論争でも何でもいい。喋り続けて気を逸らし時間を稼ぐんだ。
「ちょっと待った『汝、姦淫するなかれ』って…」
「あらぁ、モーセなんて、よく知ってンじゃないの。」
「ほら、だからさ、こんなこと止めようよ。」
すーっと、エダが顔を近づけてくる。
それと同時進行でロックの全身に冷たいのか熱いのかわからない緊張が駆け回る。
耳元をくすぐる様なエダの囁きが聞こえてきた。
「もう手遅れよロック。マタイの福音書 第五章に主曰く
『情欲をいだいて女を見る者は、心の中で既に姦淫している。』
さぁどうなのォ? この色男。」
「オ、オレは別にそんなコト…」
「へェ〜それにしては随分と元気そうじゃないのォ? コレ。」
うわっ、ヘンなところを微妙な触り方しないでくれっ!
ダメだダメだ。読んだことも無い聖書で太刀打ちできるはずもない。
クソ尼呼ばわりされていても、さすがは修道士(シスター)だ。
って、感心している場合ではないだろ!
ではどうする? 色即是空、空即是色、煩悩退散、般若心経で対抗するか?
んなの、輪をかけて知らないってば。
ああ、何故こんな日にかぎってオレは一人でココ(教会)に来てしまったのだろう。
ロックは今日何度目かの後悔に頭を抱えていた。
- 213 :バカるでい:2008/04/14(月) 21:38:23 ID:vYJMKTXj
- ロックがロアナプラの武器売買を一手に引き受ける通称「暴力教会」に来たのは初めてではない。
だが、一人で来たのは今日が初めてだった。
今日の用件は火器の注文と、発注済みの弾薬の受領だった。
弾薬入荷の連絡があったので、ボスのダッチに言われてロックが一人で出掛けたのである。
発注だけなら電話なりFAXなりでも済むのだが、受け取りのブツがある場合はどうせ出向く必要がある。
明日は沖で仕事の予定が入っている。空いている今日中にさっさと受け取ってしまった方が都合がよい。
普段ならレヴィが一人で行くか、さもなければ護衛役の名目でロックにくっついて行くのだが、
たまたま彼女は雑貨の買出しで留守だった。
受領の品は主として大量の9mm拳銃弾。あとはcal.50弾と40mm擲弾の補充がいくらか。
擲弾はともかく、拳銃弾くらいロアナプラの街中でも入手できないわけではない。
ところが、ラグーン商会の場合は誰かさんの弾丸消費量がケタ外れな上、
その誰かさんが使っている銃が一品モノのカスタム品で、使う弾薬に神経質という問題があった。
安価なリロード弾でも使おうものなら、たちまち送弾詰り・排莢不良とトラブル続発なのだ。
そんなわけで、どうせ量も多いからと火器類のついでに正規品の弾丸を教会からまとめ買いすることが多かった。
件のトリガーハッピーなご本人は普段からタマ代が高いと文句タラタラなのだが、自業自得である。
事務所の車で教会に出向いたロックをエダは愛想良く迎えた。
「いらっしゃぁ〜い色男。ありゃ、今日は一人? エテ公のヤツはどうしたい、生理休暇か?」
「あ? ああ、レヴィのこと? 彼女たまたま出掛けて不在だったのでね。」
「へぇー珍しいねぇ、あのイノシシ女が付いて来ないなんてさ。ヒヒヒ。」
ロックは苦笑いとともに注文書を渡す。
南国の昼下がり。
強烈な日差しの下では、荷物の積み込みはちょっとした労働だ。
拳銃弾一発当りの重さなどたかが知れているが、こう大量になるとバカにならない。
ロックが汗だくになって積み込みを終えたところへ、エダが声をかけてきた。
「よう、お疲れ。ちょっと一休みに一杯付き合わない?」
「いや、時間はまだあるけど危険物積んでこれから運転だから。」
「相変わらず真面目だねぇ。そんじゃあエアコン効いた部屋で汗引っ込めて、お茶なんてどうよ。
今日はシスター(ヨランダ)が留守だけどね、いいリーフ(茶葉)が入ったんだ。」
ロックにとってこの誘いはモロにツボを突かれた。
普段ロアナプラではロクな紅茶にお目にかかれない。
色の付いた湯を飲まされるのが関の山だ。
サータナム・ストリートにあるサンカン・パレスの喫茶店にでも行けば話は別だろうが、そういった店は客層が自分とは違う。
こうしてロックはいそいそと自ら雌ライオンの口に片足を突っ込んだのであった。
- 214 :バカるでい:2008/04/14(月) 21:41:25 ID:vYJMKTXj
- 教会の応接間。
ロックとエダが差し向かいで紅茶をやりながら世間話に花を咲かせる。
最近の商売、街の様子、そしてこれは主にエダからだが、ここに来ていない誰かさんの噂話。
迂闊に同意すると後が怖いので、ロックは冷や汗かきながら引きつった笑顔で適当に聞き流していた。
2杯目の紅茶を堪能していたロックは不意に体の変調に気づいた。
指先が痺れてティーカップをうまく支えられない。
両手を使ってかろうじて溢さずにカップを下ろしたが、段々と腕まで動かなくなってきた。
ロックの変調にエダが気づいた。
「ヘイヘイ、ロックどうした? アル中じゃあるまいし、手が震えてるぞ。」
「あ、いや、ちょっと気分が悪い…のかな?」
「何だよ何だよ、炎天下から急に体冷やして調子狂ったか? しゃーないねぇ、ベッド貸してやるから一休みしていきな。」
ところが、腕どころか足腰も立たない。
「まぁったく世話の焼ける色男だよ。」
ぶつぶつ言いながら、エダはロックを羽交い絞めにすると寝室までズルズル引きずって行った。
ソファーでかまわないというロックを無視して。
エダの寝室まで引きずり込まれたところで、ロックはイヤなことに気がついた。
日射病や熱中症にしては意識がはっきりしているし、吐き気もなければ頭痛もしない。
なんで四肢だけ痺れて自由にならないんだ?
ひょっとして、ひょっとすると………
「あ、あのさ、エダ。オレの勘違いかも知れないから気を悪くして欲しくないんだけど、……」
「あーん?」
「さっきのお茶にさ、何か入れた?」
「はぁ? なぁ〜に言ってんのさ。アタシが一服盛ったとでも思ってんのぉ?」
「………ぁ…そのぉ。」
「よっこらせ(とロックをベッドに座らせ)同じティーポットから注いだの忘れたかぃ?」
そう言われればそうだ。二つあるティーカップから自分のを選んだのもロック自身だ。
「あー、そ、そうだよね。ご、ごめん。疑ったりして。本当にごめん。」
不意にエダの表情が変わった。
怒らせた? いや、これは怒っている表情ではない。
今までにも何度か見た表情、自分の仕掛けにまんまと獲物がかかった時に見せるあの表情。
「ま、自分から飲むのは止めなかったけどねぇ、ウヒヒヒ。」
????!!!
しまった、シュガーポットだ!
疲れていたロックは、糖分が欲しくて砂糖(と思われるもの)を少し多めに入れた。
エダは「あたしゃコッチ。」などと言いながらブランデーを入れていた。
この街では場所によっては粉末状の物体に注意が必要だった。
普段ならシスター・ヨランダが居て仕込みはできない。その調子ですっかり油断していた。
「まー、あの量だと一時間くらいはゆっくりできるわよン。」
かくして冒頭の事態に至るのである。
- 224 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:34:54 ID:mUKq1KUS
エダはおもむろにヴェールを外すと、目を閉じて頭を一振り。
ブロンドのロングヘアーが綺麗になびく。
あらためてロックを見据えると、本格的に圧し掛かってきた。
ロングの髪の先がロックの顔をくすぐり、彼女の両手が頬を撫でる。
首からぶら下がったロザリオが、胸に当りひんやり冷たい感触を、
そしてそのやや下に何とも形容し難い母のぬくもりが二つ、体と理性を圧迫にかかる。
まずい、まずい、いよいよ血流が下腹部に集中している感覚がロックを襲う。
この際(レヴィ評するところサムい)ジョークでも連発してエダを脱力させ、粘ってみるか?
しかし、あまり効果的な策とも思えない。
過去の経験から、エダがかなり話術に長けているのは承知している。
逆に丸め込まれるのがオチだ。
実際のところ、もう緊張のせいでロクに喋ることもできやしないのだが。
ええい、この際だ、いっそ開き直って頂戴してしまおうか?
据え膳据えられて食わぬは男の恥、満更知らない仲でもない。
しかし、この場合はどう見ても膳の上に並べられているのは自分の方だよなぁ。
そう気が付いてロックはトホホな気分になる。
よりにもよって教会で貞操の危機に見舞われるとは。
それにしても………、
ロックは、ふと自分の気持ちに疑問を感じた。
なぜこうも罪悪感が先に立つのか? 必死になって抵抗しようとするのか?
この背徳の街、ロアナプラで暮らすようになってもうそれなりに月日が経つ。
元々住んでいた世界の建前や奇麗事など、半分以上はダストシュートに落っことした気でいた。
毎日のように街のあちこちで経済行為として消費されるセックス。
げっぷが出るほど見聞きしてきたjuiceとsemenとspitの饗宴。
今更誰に対して、何に対して貞操にこだわっているんだ?
その時、不意にロックの脳裏に彼女の面影が浮かんだ。
「………レヴィ…?…」
- 225 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:36:06 ID:mUKq1KUS
- や、やばっ! うっかり声に出してしまった!
ロックはとんでもない失敗を犯してしまったと後悔したが、もはや手遅れだ。
もちろん、エダが聞き逃すはずが無い。
「あららぁ〜、ひょっとして今のは愛するハズの名前?」
ハズって、それじゃあオレの方がワイフかよ。
ロックは何となく納得したような、しないような、複雑な気持ちはとりあえず置いておいて弁解にまわる。
「…ぇ、ぇーっと…その…別にレヴィとはそういう関係ってワケではなくて…その……」
「あらぁ〜ん、あのエテ公はやっぱりアナタの好みじゃないってワケぇ?」
「そんなことは無いけど…あっ!ぃゃ、その、彼女はあくまで、何と言うか、あー、ほら、仕事仲間だし…………」
「ふんふん、仕事仲間ねぇ。んで、プライベートではどうなのよン。よろしくしっぽりヤってんでしょう?」
「いや、…だから…そういう関係は…その…一切無くて…」
エダは心の中で盛大に溜息をつく。
やれやれ、この耳まで真っ赤っ赤になった慌てっぷりから見て、コイツはあの二丁拳銃に気があるのは間違いあるまい。
しかし、このヘタレホワイトカラーは未だ”清い仲”から先に進めないらしい。
半ば以上予想していたとはいえ、
ローティーンかお前らわっ!
まあ、ヒン剥いてみたところ不能ってワケではないことはきっちり確認できた。
それならばもう一押し。
「はっきりしなさいよぉ、この色男がぁ。
せっかくアタシがイイコトしましょって誘っているってのに、さっきからえらくつれないじゃないのよぉ。
てぇことはぁ〜だ、ビジネスライクな関係だけとかなんとか言っておいてさぁ、
実のところ愛しの二丁拳銃様にペネローペの如く貞淑を守ろうとしているってコトじゃないのぉ?」
聖書の次はオデッセイですか。
しかもやっぱりオレが方が妻役なのね。
トホホな気分が上積みされたロックは、とりあえず平素からダッチに戒められている言葉を口にする。
「仕事の上でさ、個人的な感情が入り込むと色々と不都合…」
エダはちょっとイライラしてきた。
「ん〜なコト聞いているんじゃ無いっつってるでしょーがぁ。
どうなの、二丁拳銃のコト好いてんの、Yes or No !!?」
ずいぶんイロっぽい山下将軍だなぁ、なんて言ったら絞め殺されるだろうか。
ロックは返事に窮して、もはやスッとぼけたことしか頭に浮かばない。
- 226 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:37:06 ID:mUKq1KUS
- ロックがぐずぐずと返答に躊躇していると、エダの口から最後通牒が発せられた。
「返答がNoであれば、あのイノシシ女の代わりにココでアタシがたぁっぷり可愛がってあげるわよン。」
ちょっと待て。それって事実上返答に選択肢が無いのと同じではないのか。
それにYesと答えても開放される保証は無い。
「あ、あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、これって……」
…エダとどうゆう関係があるんだよ、と逆襲に転じようとしたロックだったが、
エダの視線に気づいて震え上がった。
これはマジな視線だ。
からかっているわけでも、剥き出しの好奇心でも無い。真剣に刺すような鋭い視線。
何故?
筋金入りの悪友で知られたエダとレヴィだが、
本気で彼女のことを心配して、オレをワナに嵌めてまで関係を問い正そうとしているのか?
「ロックぅ?」
「…ぁ、確かに、正直に言って……、レヴィのことは、その、好き…なんだ。………だけどさ……」
「けど? けど、何なのよ?」
「…ぁー、ぇと、うまく…言えないんだけど、……
…オレは…レヴィには不似合いって言うか……、不釣合いって言うか……、
いつも助けられてばかりだし、……オレは、その、銃を持たないから……、
何て言うか……、いつも汚れ役はレヴィにさせてしまって、オレは………、
彼女には何もしてやれなくて………」
ロックは何だか懺悔でもしているような気分になってきた。
ああ、ココは一応教会で、相手はこれでも聖職者か。
けどなぁ、素っ裸にされて懺悔てのはどうなんだ。包み隠さずって意味か?
一方のこれでも聖職者なヒトは、ようやくゲロさせた自白を分析する。
ははぁ、なるほど、愛しの姫君に対してちょっと後ろめたいところがあるのか。
まぁ、気持ちはわかるけどね。
けどなぁ、その理屈で言うとあの破壊魔の二丁拳銃と釣り合う相手っていったい誰だよ。
フン族アッチラ大王でも連れて来いってか?
せめてジョージ・ケリーあたりにしといてくれ。
- 227 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:38:04 ID:mUKq1KUS
- ちょっと沈黙して何やら考えていたエダが口を開く。
「ヨハネの福音書 第八章にこんな話があってねぇ…」
あちゃー、また講釈が始まっちゃったよ。
とりあえず時間は稼げるな、ロックは前向きに捉えることにする。
「…
『捕えられた罪人の女がイエスの前に引き出された。
律法に基づき石で打ち殺そうと主張する人々にイエスは言われた
”あなたがたの中で罪の無い者が、まずこの女に石を投げつけるがよい”
人々は一人、二人と去って行き、結局イエスと女だけが残された。
イエスは女に言われた”あなたを罰するものはなかったのか。”
女は言った”主よ、だれもございません。”
イエスは言われた”わたしもあなたを罰しない。お帰りなさい。”』
…
さてロックぅ、このオリブ山ならぬロアナプラで石を投げられるヤツは果たして居るかしらぁ?」
「ぁと、えーと…?」
「ふふん、罪を被せているなんてカッコつけてないで、
むしろ身近に居て罪を分かち合ってやったらどうよ?
ルカによる福音書 第六章に主曰く
『罪人でさえ、自分を愛してくれる者を愛している。』
ヒヒヒ、結局ね、自分からアプローチかけなきゃ何事も始まらないのよ。」
「はぁ。」
そこまで言うと、エダはひょいっとベットから飛び降り、ベールを被りなおした。
サングラスをかけ、いつもの暴力教会のクソ尼スタイルに戻ると、
「あたしゃこれから神様にオツトメの時間なんでね、ちょっと中座するよ。
アタシとイイコトの続きがしたかったら、ココで待っててねン。」
あっけに取られているロックに投げキスすると、エダはさっさと部屋から出て行ってしまった。
- 228 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:39:03 ID:mUKq1KUS
- 何なんだ、いったい?
とにかく脱出のチャンスだ。手足の感覚も少し戻ってきている。
ロックは数分間の悪戦苦闘の末、ベッドの上から床への転落に成功する。
その代償として額と肩に痣をこさえてしまった。
痛みをこらえて、床の上を匍匐前進で机の下まで移動すると、まだフラフラな手足を駆使してどうにか立ち上がった。
衣服は机の上に綺麗に畳んで置いてある。
やれやれ、エダもヘンなところで丁寧だな。
その時、廊下からバタバタと派手な足音が響いてきた。
げ! エダがもう戻ってきたか? とロックが身構えると、バーン! と勢いよく扉が開いた。
「おいロック! 大丈b ……ぁ?え゛!っ!」
闖入者は途中まで言いかけて固まった。
一方、素っ裸に痣までつけてフラフラ状態のロックも相手の正体を認識して唖然となった。
永遠とも思える、わずか数秒間の沈黙。
「こ、こ、このバカ野郎!!! さっさとその貧相なモノしまえっ!!」
「レヴィ!? 何でココに……」
ロックが言い終わる前に扉がバターン! と閉められた。
「外の車で待ってる! さっさとしねえと、その格好のまんま街ンなか引き摺り回すぞ!」
扉の向こうから怒鳴り声が聞こえ、またバタバタと遠ざかる足音が続いた。
数分後、どうにか服を着てヨロヨロと外に出たロックを、車に寄りかかってタバコを咥えたレヴィが待ち構えていた。
車のキーはロックが持っている。車の外で待つしかなかったのだ。
「暑いんだから、さっさとキー寄こせ!」
レヴィはキーを取り上げると無造作に車に乗り込み、さっさとスタートさせる。
慌ててロックは助手席に飛び込み、かろうじて置いてけぼりにさけることは避けられた。
- 229 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:39:57 ID:mUKq1KUS
- そろそろ日が傾きはじめた中、ひたすら走る車。
車中は紫煙とともに、ヒジョぉーに気まずい空気で充満していた。
ステアリングを握ったまま、既に火の消えたシケモクを咥えたまま、ムスッと前方を凝視しているレヴィ。
エダの色気責めから開放されたのもつかの間、今度は針の筵のロック。
ロックはチラチラと横目でレヴィの様子を伺う。
そうとうご立腹なのは間違いない。
何ともみっともない格好を見せたのだから無理もないが、この雰囲気には耐えられない。
だいたいオレのせいじゃないぞ……と、言ってみても無駄だろう。
とにかく会話の取っ掛かりが欲しい。
確実に反応が得られるのは、………こちらから何か尋ねて返事を待つ手でいくか。
「…ぁ、あのさ、レヴィ? …今日は何で教会まで迎えに来てくれたんだい?」
「……………」
やっぱり無視か。
さらにトホホに磨きがかかったロックだったが、ワンテンポ遅れて反応が返ってきた。
「……エダのヤツから電話があったんだよ。オメエがダウンしちまったから引取りに来てくれってな。」
???
エダが電話したぁ? ロックは何がどうなっているのか理解できずに混乱する。
ま、ここはとりあえず礼を言っておこう。
「あ、そうだったんだ、ありが……」
「教会までかかったタクシー代はテメエのペイから差っぴくからな、そのつもりでいろよ!」
レヴィはロックに皆まで言わせず怒鳴り返してきた。
どうやら電話を受けてすぐにスッとんで来てくれたらしい。それについてはロックは涙が出るほど嬉しい。
しかし素っ裸見せられたからってそんなに噛み付かなくてもいいではないかと思う。お互いの立場が逆ならまだわかるけど。
ひょっとして照れ隠しで怒っているのかな?
- 230 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:40:49 ID:mUKq1KUS
- 「なぁレヴィ、何をそんなに怒ってんだい?」
ロックはわりと軽い調子で聞いてみた。
この一言が致命傷になるとも知らずに。
「ふざけんな!
ヒトが心配して駆け付けてみりゃあ、よりにもよってあの色魔とよろしくヤってやがっんだろうが!
何がダウンしただ! 足腰ヨタヨタになるまで可愛がってもらったんだろうが!!」
「な!、ちょっと、それは誤解だよ!」
「誤解だぁ? ベッドルームでスッポンポン、ご丁寧にデコにしっかり刻印まで押してもらって、
それで何もございませんてか!?
どのツラ下げてヌかしてやがる!!
デタラメ吐くなら、ちっとはテレーズ・ドリニャックでも見習いやがれ!」
「いゃ、だから額のコレは……」
「うるせぇ! 黙ってろ!
これ以上何か喋りやがったら、あのクソ尼と二度と離れずに済むように十字架で串刺しにしてやっぞ!!」
これはだめだ。何を言っても無駄だろう。
ロックとしても、たとえ真実を話しても信じてもらえるとは思えない。
いったいエダは何が目的でレヴィとの関係を問い質したのか?
あの最後の謎かけには何の意味があるのか?
レヴィを呼び出した理由は?
さっぱりワケがわからない。
「恨むよ、エダ……」
ロックはボソッと呟いた。
- 231 :バカるでい:2008/04/21(月) 01:41:45 ID:mUKq1KUS
- さて、そのエダは走り去る車を見送っていた。
二丁拳銃を呼び出して、色男のホワイトカラーと二人っきりにしたんだから、
いくらヘタレでも後はなんとかするだろう。
あそこまでゲロさせて、けしかけてやったんだし。
なんだったら、あのまま寝室を貸してやってもよかったのだが。
(その場合は当然盗撮対象となる。)
結局、エダが苦心の仕込が全くの逆効果にしかならなかったと知ったのは、
数日後のイエローフラッグだった。
さぞノロケが聞けると期待して出掛けて行ったエダは、
レヴィから猛烈な殺気を浴びて、失敗を悟ったのだった。
「もう知らん! 勝手にしろ!!」
終