51 :名無しさん@ピンキー:2008/02/25(月) 14:58:11 ID:NORpPAnt

海が…綺麗だ。
どうしてだ?もう見慣れた南国の、ロアナプラの海じゃないか。
静かだ…波の音、風、ここは日陰のおかげで、風がとても気持ちいい。よく眠れそうだ。
なんでこんな所に…?

「すぅ…」
「…うん?」
僕の体の上で平然と寝息を立てていた。
小さな体、白い肌、この南国の景色にはとても似合わない黒の服。
人形のような、それでいて人間らしい幼さと無邪気さを感じる顔。
「ん…」
「君は…」
「…先に起きたの?お兄さん…」
思い出した。約束を果たしに来てたんだ。ランチを持って、二人だけでどこかに行こうと。硝煙や血のにおいのしない、静かな所に行こうと、約束を果たしに来たんだった。

「退屈じゃないかい?」
「いいの。お兄さんと一緒にこうしてられるだけで、幸せ」
「そうか…」
「ね?お兄さん?」
「ん?」
「もっとぎゅっとしてて。せっかく怖いあの人達も居ないんだもの…」
「…ああ。解った」
彼女の前の方まで、手は簡単に届いた。柔らかい手応え。
「きゃっ!」
「え?」
「お、お兄さん…そこ触っちゃだめ…」
「ご、ごめん…」

武器が無かったら、ただの少女と変わらない。もしかしたら僕でも組み伏せられるかも知れない。
少なくとも今の彼女は、僕から見てそういう風にしか映っていない。

「…お兄さん?」
「うん?」
「お腹空いちゃった…」
「…ああ、そうだった」

52 :名無しさん@ピンキー:2008/02/25(月) 15:00:05 ID:NORpPAnt
「いい匂いがするわ」
僕は今、フライパンと向き合っている。ソテーしているパスタと具材。思いつく料理はこれくらいしか無かった。
「…もしかして何かリクエストがあったのかい?」
「ううん。お兄さんが作る物なら何でも良いわ」
約束を守る事に意味があると、彼女はそう言っている気がした。無邪気な顔が、僕の手元を覗く。
「お兄さん、いい旦那さんに慣れるわね?」
「はは…良い人がいたらね…」
「居るわよ。居なかったら私がなるわ」
「そしたら捕まっちゃうな」
「もうしてるじゃない。捕まっちゃうような悪い事」
「…それもそうだ」
この笑顔が心の底からなのか、どうなのかが解らない。とにかく綺麗な顔だと、このまま行くと将来はとてつもない美人になると思うだけだった。

「おいしい…」
「良かった」

不意にフォークが止まった。もう半分は平らげられている。


そろそろだとは、思っていた。

「…お兄さん」
「うん?」
「…気づいてるの?」
「…うん」
大きな瞳の雰囲気が、もう違っていた。無邪気さが、何も、ない。
「…そう」

解っていて思ってしまった。将来、なんて言葉は生まれてはいけなかった。
彼女の時は、約束は、永遠に止まったままで進む事は無い。
本当に生を得ていた時、彼女達は暗闇を走りつづけていた。信頼したのは自分だけ。自分にとてもよく似た、自分だけ。末路は、彼女達では無く僕に見えていた。
酷い言い方をすれば「ロクな死に方をしない」

その、最後の瞬間を僕は見ている。


「っ…」
彼女は静かに泣いていた。生前聞けなかった声で。泣き顔を隠す様に、伏せていた。




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