640 :名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 22:12:59 ID:tgiiUqgE

この世には、不可避な流れ、というものがある。
それは、この世界に遍く存在する、曖昧模糊なる法則だ。
例えば、某二挺拳銃は弾雨の中を生身で駆け抜けたとしても、一発も被弾しない。
店主がどれほど悲嘆し、如何なる防犯対策を講じようとも、某イエローフラッグでは騒動が巻き起こる。
某見習い水夫は常に厄介事に見舞われ、絶えず女難の運命を背負い続ける。
これらは全て、そういった流れによる産物である。
流れからは、逃れることが出来ない。
これは人為の介在する類のものではないし、また自然法則のような明確に観測、方程式化されたものとも異なる。
形而下ではなく形而上の観点から語られるべき存在が関わる事象。
言うなれば、神。
いつかどこかに居たかもしれない神の如きモノ――あるいは作者――が、戯れにこの世界に課した中途半端な不文律。
それこそが、流れである。
故に、それからは逃れることが出来ない。
それが、アウトローたちの世界であっても同じだ。
それは、むしろダーティでハードでイリーガルな世界で顕著に現れているのかもしれない。
繰り返すが、それからは逃れることができない。

人それを――『お約束』という。

故に――


「――レヴィ危ないっ!」
「……あン?」

―――――ゴンッ―――――

「……………きゅう」
「レヴィィィィィッ!?」

――ロアナプラの暴れん坊将軍こと二挺拳銃のレヴィがそれに直撃したのは、むしろ世の道理に則った、実に自然な展開であったと言える。
ポテン、とやたらと軽い音をたてて倒れたレヴィに、後ろから歩いていたロックは泡を食って駆け寄ったのだった。





「――で、とうに潰れたサルーンのオンボロ看板が突然落ちてきてたまたま真下に居たレヴィのドタマに直撃、あっさり失神したレヴィを背負ってお前さんは戻ってきたと、そういうことだな?」
「そういうことだよ、分かり易いまとめをありがとう、ダッチ」

確認するような口調のダッチに、ロックは気の無い返事を返した。
買ってきたバドワイザーを冷蔵庫に放り込みながら、うち一本を空けて喉に流し込む。
喉がカラカラだった。
もともとは、ポーカーで負けたため、切れたビールの買出しに出ていたのだ。
ところが、同じく買出し要員であったレヴィが帰りがけに気絶してしまったので、ロックは缶ビールを満載したビニール袋二つに、成人女性一人を背負って真夏のロアナプラを練り歩くはめになったのである。
見れば、ダッチは濃いサングラスの下、視線をやれやれとばかりに歪ませている。

「全く、普段は正面から飛んでくる銃弾にもギャグみたいに当たらねえくせに、なんだって上から降ってくるだけの看板が避けられねえんだ、この阿呆は」
「あー、俺もそれは思ったよ」

呆れたように首を振りながらダッチが零した台詞に、ロックも笑いながら同意する。

641 :名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 22:14:44 ID:tgiiUqgE
「いやいや、そこは仕方の無いところさ」

と、そこに突然、先刻までずっとパソコンを弄っていたベニーが口を挟んできた。
椅子を反転させながら得意げに指を立てるベニーに、ダッチは訝しげな視線を向ける。

「何が仕方ないってんだ? ベニーボーイ」
「その看板が上から降ってきたんだろう?
上からの落下物は避けない、避けられない、避けてはいけないものなのさ」

得意げにヒョコヒョコと動いていた指が、ロックの方を向く。

「ロック、確か君の故郷じゃ、上から降ってきた金ダライはど真ん中で受け止めなきゃいけないという風習があるんだろう?
いわゆる『お約束』さ。レヴィにも、その辺を理解する情緒があったんだね」
「……金ダライって……もしかしてドリフターズ?」
「そう、ドリフターズ。アメリカに居た時にネットで見たことがあるよ。チョーサンカトチャンシムラにタカギブー、だろ?」
「……また、随分と微妙なことを知ってるな、ベニー。『シムラ、後ろ後ろー』、かい?」
「『次ーぎいってみようっ』、さ」
「……あー、ベニー、ロック。頼むから俺にも分かる言葉で会話してくれ」

ハッハッハッハッ、と乾いた笑いのこだまするラグーンオフィス。
その雰囲気は、放課後に居残って無駄話に興じている学生の如しである。

「……………ん……むぅ……」

そんな弛緩した空気を、不意に高い声が揺らした。
ロックがそちらに視線をやれば、ソファーの上に転がっていたレヴィが、大きく寝返りをうち身じろぎしている。

「お、お目覚めか」

ダッチが、くるりと体の向きを変えた。
その正面で、レヴィがゆっくりと体を起こす。
その目が、うっすらと開きだしたのを見て、ダッチは意地悪く笑いながら声をかけた。

「ヘイ、人魚姫(マーメイド)。気分はどうだ?」
「…………………………」

人の悪い笑みを浮かべたダッチの顔。
その顔をポケッとした顔で眺めたレヴィは、その視線をベニーへ、更にロックへと移し変えた。
ロックの顔を覗き込むように見つめるレヴィ。
その視線を受け、ロックはどこか妙な違和感を感じていた。
その鋭さの抜けた視線は、まるで――

「…………あの」

――――その声が誰のものだか、一瞬ロックには分からなかった。
そして、それについての理解が浸透するより早く、目の前のレヴィの口が開かれ、聞き覚えの無い声が響く。

「………ここは、どこ?
それに………貴方たち……誰、ですか?」

「「「………………は?」」」


聞き馴れたはずの声で紡がれる、聞き慣れぬ言葉。
それに、ラグーン男三人衆は、揃って気の抜けた声を漏らしたのだった。




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