190 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/04/26(日) 23:33:01 ID:sYus39uS

車の中でセックスするのは好きじゃない。
どんなに窓に目隠しをしてこそこそとイタシたところで、規則的に揺れる車体は中で雌雄の営みが行われていることを雄弁に語る。
壁があるからと油断をすれば案外と声は筒抜けで、自分の気付かぬうちに通りすがりの人間の好奇の視線に晒されていたりもする。
ましてや事務所の車を使おうものなら、中でガンバる人間が誰と誰かまで知らせているようなものだ。
そのうえ、煙草のニオイの染み付いた車にあって尚、行為後独特の青生臭いニオイはなかなか抜けない。
そしてふとした瞬間の違和感として居残り、後から乗る人間に「昨晩ここでイタシました」と告白するのだ。
それに、落ち着かない。
どちらかの部屋で寒いくらいに冷房を効かせ、人目憚らず裸で引っ付きあって体温を分け合って。
そして身体を絡ませたまま一枚の掛布に納まり眠る。それが彼女にとってベストだ。
なのに今の状態ときたら、下着とジーンズは片脚を抜いただけでまだ左脚に掛かったままだし、タンクトップだって胸までたくしあげただけ。
その上この男はいつだって乳房を執拗にしゃぶるから、服が唾液にまみれてべたべた。この後のことだってあるのにこれはいただけない。
そして、男はスラックスを軽く寛げただけで性器を取り出して彼女の股間に収めているから、彼が動く度にファスナーやベルトの金属部が
膚に当たって時折痛む。セックスに集中できない。

助手席の狭いシートを倒して折り重なり、車体を揺らしながら、レヴィはどうして車でするのがこんなに嫌なのかとそんなことばかり考えて
いた。
つらつらと考えはするが、どれも決定的ではない。
人目につくリスクを嫌うのであれば、事務所や船など論外だ。
行為に伴う喘ぎ声だってどうせ隣人には筒抜けだし、エアコンが壊れた時など窓を開けたままイタシたことすらある。
いずれも好んで負いたいリスクでは無いが、基本は『ムラムラした時がハメる時』と言わんばかりなのだから今更騒ぎ立てても仕方ない無い
気がする。
にも関わらず、とにかくよくわからないが、あまりいい気はしない…もっと正確に論ずるならば『不快』なのだ。

レヴィも彼女なりに気が乗らないと伝えた。
だが、相手に火が点いた以上、この男の求めに応じないなどという選択肢は彼女には存在しえない。
そういえば何で発情したのだろう、この男は。
別にあとほんの少し我慢すればベッドの上でゆっくりとコトに及べるのにわけがわからない。
そう、あと30分も車を走らせればロアナプラに着く。
その後事務所で今日の遣いの事後処理をして、軽く食事をしてから歩いてどちらかの部屋へ帰って、シャワーを浴びて――。
なんだ、正攻法ではいくつも段階を践まなければベッドに辿り着けないではないか。
それでも、別に何週間もご無沙汰というわけでもなく、昨晩だって散々抱き倒したのだからここまでがっついてくる理由があるようには思えない。

そこまで考えたところで、そういえばこの男と車でするのは初めてだと今更気付く。
そういう空気になったことはあったが、何だかんだ言ってちゃんと部屋でしてきたのだ。
なるほど。2つの疑問が一気に解決した。
この後の予定を話しながらほんの冗談で「車で」と零した男に、「車は嫌いなんだよ」と経験を前提に答えたのだ。
そう。
こんな場所でなど、レイプか思い出したくもないような男を相手の経験しかない。

――――…早く…終んねぇかな。

あまり愉快ではない結論に何と無くそう思う。

一度過去に捕われてしまった思考は現在の相手が誰であろうと構うことなく一人で歩き出す。
「ぁ……ロッ…ク……」
真っ暗闇の中、自分の耳元にしゃぶりつく相手を確認するように名前を呼び、肩に縋り付く。
大丈夫。大丈夫。大丈夫だから。心配などしなくとも、行為の相手は間違いなくロックだ。だから余計なことは言わなくていい。
中折れなんかされたらお互い気まずいだけだろう、そう言い聞かせる。
「も…イ…きそ…っ!…ぁぁ…ん」
だから、演技をした。
だって仕方ない…そう彼女は思う。
とにかく早く終わらせたかったのだ。


191 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/04/26(日) 23:37:17 ID:sYus39uS
一番思い出したくないのは、やはり経験も浅かった子供の頃だろう。10歳かそこらの頃で、ガリガリの欠食児だった。
確かクリスマスとかニューイヤーとか、そんな時期で街中が浮かれていたような気がする。多分。
ひどく曖昧で…はっきりとは覚えていないのだ。
覚えているのは何日も何も食べておらず、ひどく腹が減っていたことと寒くて寒くて堪らなかったこと。
立つのが辛いほど気力も体力も失っていたこと。
そして一日一日がやたらと長かったこと―――。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
雑居ビルの玄関でうずくまるレヴェッカに、不意に声がかかる。
始めは自分への声掛けとは気付かぬほど放心していた彼女だが、肩に手をかけられビクリと上を向く。
顎に薄く髭を生やした肥った中年男がしゃがみ込んで彼女を伺っていた。
「よかった、ぴくりとも動かんから死んでるんかと思った」
強い訛りでそう言いながら、男はレヴェッカの身体に積もる雪を手で払う。
いつから降っていたのだろう、全身雪まみれだ。
男は厚意から心配しているとでも言いたげに、けれどどこかニヤニヤと嫌らしく笑いながら一方的に話しかけてきた。
彼女だって短い人生経験ながらも理解していた。
やましいことがある人間ほどよく喋る。
男がどういうつもりで近付いているのかだって、知っていた。

「ここじゃさみぃだろ?ハンバーガーと…そうだなココア買ってやっから、はよ車に乗らんか」
一通り喋り倒した後、無反応な男はそう言ってレヴェッカの腕を引く。
彼女には抵抗する気力も体力も涌かず、理由すら頭に浮かばなかった。
何が起きているのか理解は出来ても、浮遊しているような意識の中現実として認識できない。
反応出来ずにいる間に、強引に引きずられ傍らに止まる車に押し込まれる。
暖房の効いた車内の空気にに微かに安堵の溜息を漏らしたところで、とりあえずこれでも食えとポップコーンを宛がわれた。
どうするべきかを一瞬考え、それでも激しい空腹に抗うこともできずに貪るように口に押し込むと、悔しいのか悲しいのか嬉しいのかも解ら
ないまま、ただただ涙が零れた。
動き出す車に、意識の何処かが警鐘を鳴らすも、アラートに反応が出来ない。
途中でハンバーガーも与えられたが、身体が室温に慣れるにつれ震えが止まらず、そのくせ状況だけは少しずつ認識し始め、どうにもこ
うにも手を付ける気になれずにずっとシートの隅で身体を固くしていた。

郊外へと出てしばらく走ると、人目の無い脇道に入り停止する車。
今から何をされるのかは解っていた。
どうせ初めてでも無いのだから怖がることはない。
大人しく穴に突っ込ませてやればきっと殺されることも無いだろう…もっとも衰弱した彼女には抵抗する気力することなど出来なかったの
だが。
一旦外に出て後部座席へ乗り込んで来る男を暗闇の中じっと目をこらして観察する。

「いいだろ?」

何を言いたいのかなんて、考えなくても理解っていた。

192 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/04/26(日) 23:43:14 ID:sYus39uS
一時の屋根と食いかけのポップコーン、そして安物のハンバーガーとココア。
その代償がこれ。
あたしの価値なんてその程度と、幼くしてレヴェッカは諦観する。
暗闇に目が馴れたとはいえ、ほとんど何も見えない。
はぁはぁという男の吐息とベルトのバックルを外す金属音だけが車内に響く。
突然髪の毛を掴まれ、何やら独特のニオイのする生暖かくぬめったものを唇に押し付けられた。
それが男の性器であることは理解出来たが、口に含むなど考えられなくて思わず顔を背けると、口をこじ開けて無理矢理捩込んで来る。
「噛み付きやがったらてめぇの歯ぁ全部へし折るからな」
残り少ない乳歯がまた一本抜けたのはつい先日のこと。
そのせいかこれが無くなってもまた生えて来るのではないかと、そんな気がして歯を立てるべきか否かを逡巡する。
だが既に突っ込まれたものに噛み付いたからといって時間が戻るわけでなし…それにきっと、歯が折れるのは、痛い。
あんぐりと大きく口を開けたまま堪え難い現実を受け入れるが、それでも口の中に広がる先走りと不潔なアンモニアの臭いは限度を超え、
何度も吐きそうになる。
奥を突かれるたびに、「うぐ……ぇぐっ…………」とえづかずにはいられない。
男の先端から流れ出る分泌物が咽へと流れ落ちて咳込むと、歯が性器に当たる。
男は性器を一旦抜いて髪を乱暴に掴むとレヴェッカの頬を何度も殴打した。
顔中に鈍く広がる激しい痛み。
いつも父親によってもたらされる馴れた痛み。
今更何の感情も涌かない。
左の鼻の穴からたらりと液状の何かが流れ落ちる。
鼻水だと思ったそれが鼻血だと認識したのは啜り上げて鉄錆くさい血の味が口に広がってから。
小さな口での口淫を諦めた男は彼女のジーンズに手を掛ける。

………早く終らねぇかな…。

男に抗うことなく、そう思う。
レヴェッカの狭く幼い性器に侵入する男の指。
ぐちゃぐちゃと何度か中を掻き混ぜた時点で「お前、処女じゃねぇのか」と吐き捨てる。
……処女など何年も前に父親の酒代と引き換えに失った。
ぶつぶつと不満を口にしながらも男はレヴェッカの脚を大きく割り広げる。
ど汚く生きているくせに使い古しの穴には不満があるらしい。馬鹿馬鹿しいと辟易する。

間髪居れずめりめりと肉が裂けるような感触とともに進入する男。
痛い。痛い。痛い。
痛いのは初めてだけじゃないのかよ。
もう何度も男を受け入れて来たというのに侵入の痛みが軽くなることは無い。
それに加えて、力任せに突かれるたびに、はらわたが鈍く痛む。
身体の中から腹を殴られているような感触。
世間ではこれを男女の愛情表現としているだなんて絶対に嘘だ。
こんなにも暴力的で、痛みしか伴わぬ野蛮で不快な行為。
安く処女を買い叩かれた後も、ただ股間に穴を持っているという理由だけで恐ろしく嫌な目に遭ってきた。
幼くして、何で自分は女なのだろうと何度涙を堪えたろう。

べろべろと舐めるように吸い付かれて顔中唾液でベタベタだ。
顔にかかる生暖かい息だって気持ち悪い。
内臓に男の陰茎を擦りつけられるなんて、冗談のように屈辱的だ。

大人の男が幼く小さな身体にのしかかる圧迫感と恐怖は凄まじい。
狭い車内で巨漢に乗られたレヴェッカは、心身ともに押し潰されてしまいそうな恐怖に再び思考を停止させるしかできなかった。

193 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/04/26(日) 23:51:52 ID:sYus39uS
「ごめん」
程なくして体内に吐き出したロックは、室内灯を点けるなり一番にそう告げた。
膣の中に出したことについて謝っているのだと、そう思ったから差し出されたティッシュを受け取りながら「別に。中に出すのなんざ今更だ
ろが」と男を押し退け身を起こす。
「いや、そうじゃなくて…って、それもなんだけど…その…本当は…全然カンジてなかったんだろ?気を遣わせたんだよな…?ごめん」
達したフリをしていたとバレているらしいことに少しばかり動揺する。
「…………な…んで…?」
「分かるよ。俺にバレないと思った?」
「………………車ン中でするのが……少し苦手なだけなんだ。……狭いし……ニオイが残るし……誰に見られるかわかんねぇし………。
 ……それに――――――」
やましいことがある人間ほど、聞かれていないことまでよく喋る―――子供の時分には既に気付いていた理そのままの自分に気付き、
慌てて口をつぐむ。
「…ぁ………早いトコ帰ろうぜ…。な?」
「ああ。そうだな。帰ろう。…疲れた顔してる…少し寝てろよ…」
「……うん」
レヴィはそうは言いつつ、ロックの膝に乗って首筋に顔を埋める。
「ん?」
至極優しげに頭を撫でる手に自らの手を重ねると、「どうした?」という問いと共に音を立てて耳元にキスされる。
レヴィはロックの問いに答えることなく顔を上げ、室内灯を消すと首に腕を回してそのまま彼と唇を重ねる。
深く、浅く何度も何度もキスをして、一息吐いたところで「車は嫌なんだろ?」と拗ねたように囁かれ、「当たり前だ」と髪を引っ張る。
「酷いなぁ…悪いコだ」
そう溜息を吐くロックを「だったらさっさと帰るぜ」と運転席の方へ押しやると、彼も特に抗いもせずに狭い車内を移動する。
左右に並ぶ座席に座ったままのそのそと濡れた股間を拭いて服を着ながら、間抜けな光景だよなとぼんやり考えた。
一応の準備を終えると、ハンドルを握るロックが見える位置までシートを起こして左の半身を預ける。
「なぁ…ロック。…さっき…お前嫉妬したのか?」
「え……………あぁ………………うん…悪かった……」
目の前の男が何か勘違いをしているのならばそれもまた耐え難い。
別に聞いて欲しいわけではないが、お互いに腹の底にわだかまってるであろう澱はどうにかしたい。
「……食いかけのポップコーンと2ドルのハンバーガーとココア」
「……え?なに?」
「何を対価に何を犠牲にしてきたかって話しだ。」
「……『何を得たか』じゃなく…か?」
「ああ。………今後のためにも言っといてやる、あたしの過去にゃお前が妬くに値することなんざ…何も無いんだ」
「………………………あ……その…………………………何、それって愛してるのは俺だけってコト?」
わざと道化を演じるようにおどけながら、嬉しいなぁと零す男。
暗くてわからないが、きっと顔は笑ってなどいない。
「……………寝る」
気の迷いから思わず傷痕の一部を覗かせてしまったことを後悔しつつ、特に否定も肯定もせずに目を閉じ身体を丸める。
「レヴィ……お休み」
「…うん。」
「今のうちにちゃんと寝ろよ」
「…意味わかんね」
「帰ったら寝る暇が無いほど愛してやるってこと」
「………………………………………………………………うん。」
エンジン音と共に、走り出す車。
車内に篭もる精液の匂いに耐えられずに、窓を開けた。

229 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:37:35 ID:GFbPtckk

………思い出せなかった。
レヴェッカの記憶は暗闇で男に犯されたままで霞がかかり、その次の記憶としてそれなりに思い出せるのは、若い女のソーシャル
ワーカーが彼女を抱いて泣いていたこと。
どうやらずっと、まともな問答すら出来ぬほど放心していたらしく「どこだよ、ここ」というレヴェッカの問いかけに女は飛び上がらん
ばかりに喜んだ。
『子供』であり『被害舎』のレヴェッカにコトの詳細が語られることはなかったが、部屋に備え付けのTVから流れるコマーシャルフィ
ルムからどうやらニューヨークの二つ隣の州まで来たらしいことや、「じきに迎えが来る」という女の言葉から、ホームレス同然の自
分の身元がバレる位の時間が経ったことはすぐに理解できた。
幼いとはいえ、彼女は聡明だったのだ。
幼いながらに迎えとは何のことだろうと考えた。
家には彼女の呼ぶところのクソ親父しかおらず、父親がわざわざ自分を迎えに来るはずもない。
万一、保身のためにそんなことがあったとして、誰があんなところに帰るものか。
どうせ人目が無くなった途端に手を上げてくるに決まっている。
それだけではない。金ヅルが戻って来たと言って客だって取らされるだろう、ごめん被りたい。
それでももし、娘がどんな目に遭ったかを知りほんの僅かでも心を痛めてくれたとしたら…そんなことありはしないと理解していなが
ら、ほんの僅かな奇妙な期待感。
だが、彼女の微かな希望とは裏腹に、結局のところ迎えとはニューヨークの福祉センターの職員だった。
そのことに感じる小さな失望、そしてそんな自分への怒り。
そして悟る。自分には愛情など望むべくもないのだと。
センターの職員やボランティアによって与えられるビジネスライクなニセモノの愛情を静かに受け流す。
どうしたって、イケ好かない。
ホームグラウンドへ戻った彼女が、そんなイケ好かぬセンターにいつまでも留まる理由は無かった。
監視の目をかい潜り、彼女が麗しきニューヨークの自由な糞だめへと舞い戻ったのは、季節が冬から春へと変わる頃。
その足で、父親の住む『我が家』へ戻る。
小さな掌に、硬くて重い鉄の塊を握り締めて。

おんぼろ車のエンジン音。
タバコとジャンクフードのニオイの染み付いたシートには、菓子の食い滓とよくわからない毛があちこちに落ちていた。
窓の外で雪に反射し輝く鮮やかなネオンが通り過ぎていく。
身体にのしかかる男の重み。
思い出せるのは、そんな断片的なことばかりで、自分の身に実際に起こった詳細はわからない。
解っているのは車で何日も連れ回されたことと、何度も何度も犯されたこと。
正気を取り戻した時に全身痣まみれだったこと。
ニューヨークに戻った後もしばらく、裂けるような股の痛みと血尿は止まらなかった。
今はタトゥーで隠れているナイフとタバコによる傷痕は、その間に創られたものだ。
ロックが密かに心痛めているらしい陰唇に残っているケロイドだってその時の火傷痕。
ふと、車内に放置されたマニア向けの雑誌がチャイルドポルノと性器の拡張という、倒錯にも程がある2種だったことを思い出す。
ベースボールのバットを2本咥え込んだ股の写真を思い出し、吐き気がする。
実際に何をされたかなんて知らないが、自分の生殖器が使い物にならないらしいのだってどうせ『あいつ』か父親が原因だ。
そのことで何かの不都合が生じるわけではないが、どんなことでも「望まない」のと「望めない」という二つの事実の間には大きな隔
たりがある。
たとえ結果が同じでもだ。

230 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:38:17 ID:GFbPtckk
自分の身に降りかかった出来事など思い出したところで悍ましいだけなのは解り切っているのだが、記憶が無ければそれはそれで
闇に埋もれた空白の期間が不安でたまらない。
別に気を失っていたわけではあるまい。
上等な服を着たいけ好かないソーシャルワーカー…。
金持ちの子女の「慈善」の延長だろうが、あの女は確か『ず〜っと何も喋ってくれないんだもの、言葉を忘れたのかと思ったわ?』と
か何とか言っていた。
すなわち傍目には意識があると判断し得る状態だったのだろう。なのに、何も覚えていない。
一度考え始めると、やたらと不安でたまらない。
いつもと同じはずの、おんぼろのエンジン音。
いつもと同じで、ハンドルを握るのはロックで、向かっているのはよく知ったホームグラウンド。
なのに、よく解らない焦燥感ばかりが湧いてきて、一時たりとも聞いていたくなかった。

空模様はずっと、怪しかった。
事務所をを出るなり振り出した雨に濡れて部屋に着いた途端、タオルを探す間も無く抱きついて来たレヴィに、ロックは途方に暮れて
いた。
いつもであればこのまま裸に剥いて素肌を貪るところだが…しかし。ずぶ濡れのまま身体を押し付けてくる女の顔はかつて無いほ
どに強張っている。
先程彼女が小さく拒絶をした時点で引いておけば良かったと後悔してもあとの祭だった。
「レヴィ、俺としては今日はシャワーを浴びてゆっくり休むのがいいかな〜、なんて思うんだけど、どう?」
「……………嘘つきめ」
このお姫様が何を言わんとしているかは理解できるし、確かに先ほどは改めて抱くつもりでいた。
が、こんなに苦しそうな青ざめた顔をされたのでは、とにかく休ませたい。
悶々と考え込み手を出す気配の全く無いロックに、レヴィはあからさまにいらつきながら「しねぇなら帰る」と言って腕から抜け出し
扉へ向かう。
「ちょっと…レヴィ!?」
思わず声を裏返しながら追い縋る。
両の腕に閉じ込めてから、耳元に問う。
「……本当に…したいの?」
「死ね」
「さっきはちゃんと寝た?」
先程の会話を思い出し、何と答えるべきかを考える。とりとめも無いことを考えて全く眠れなどしなかったがそれを言えばこの男は
改めて「おねんね」を提案するだろう。
「寝た」
明らかに嘘だと判る返答をロックは受け流さずに言葉を重ねる。
「嘘、いつも30分じゃ足りないくせに」
レヴィの嘘はいつだってバレバレなんだと微かに笑みながら、あやすように背中を二度、叩いてやる。
「…お前……シたくないのか?」
「そんなことは断じて無い。でもそれより…休ませたい。酷い顔色だ」
まずは身体を拭こうな…と、タオルを取るべくロックは抱擁を解く。身体を包む体温を失い、レヴィの濡れた身体は肌寒く心細い。
「…………お前とヤった後ならちゃんと眠れる」
消え入りそうな声で呟かれ、ロックは短く嘆息してから一番上等なタオルで彼女の身体を撫でてやる。
「……そんなこと言われたら抱かないわけにはいかないだろ」
レヴィは、男のつま先をじっと無言で睨み続けた。
「………だから、そうしろってばよ」

231 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:39:27 ID:GFbPtckk
冷房は少し寒いくらいに効かせて、部屋の明かりはベッドの横の読書灯一つ。
たったこれだけとは言え、こういう場面で相手の好むセッティングは大事だ、とても。ロックはそう思う。
何故ならば、今から抱くのは泣き出さんばかりに身体を固くした女で、とてもじゃないが今すぐ行為になだれ込めるような空気では
ない。
簡単な準備を終えたロックは、濡れたままで風邪をひかないだろうか、だが今すぐ服を脱がせてしまうのもいかがなものか…そん
なことをぼんやり考えながらベッドの上に乗った。
バスタオルに包まり膝を抱える女の身体が冷えないよう後ろから抱え込んで耳元にささやく。
「今日はどういう風にしようか」
「……好きにすりゃいいだろが」
そう言いつつも、レヴィは自らを拘束する腕を撫で、背中を男の身体をもたれさせる。
「そうだな…俺としては、これでもかって位にいちゃいちゃしたいんだけど、どう?」
レヴィはそんな彼の提案に甘やかな期待感を覚えつつ、それでも素直にそれを伝えることも出来ずに「だから、好きにしろって…」
と努めてそっけなく答えるしか出来ない。
「レヴィ。もしかして、照れてる…?」
そんな素直でないレヴィに一言そう問うと、慌てたように身体を起こし、ロックの側へと振り返る。
「なっ…誰が…っ」
そう言って腕から逃れようとする彼女を許さず、背中からぎゅっと羽交い絞めにすると耳たぶを軽く噛む、。
「…だってさ…さっきはあんなに素直に『うん』って言ってくれたのに…。」
―――――寝る暇が無いほど愛してやる―――。
つい2時間前に言われた言葉を思い出し、思わず赤面する。
「…何のことだよ、…そんなこと…言ってねぇ」
湿り気を帯びた卑猥な音を立てながら首筋にしゃぶりつく男の頭を押し返すと、少しむっとした様子で「…………あ、そ…。ま、好き
にしろって言うなら、このまま抱き枕にして寝てもいい?」
と返される。
「ざけんな、死ね」
「ならどうして欲しいのか言ってよ」
どうして欲しいのかなんて決まっているが直接口にすることができない。かといってスラングで誤魔化せてしまえる空気ではない。
「……………………………お前にさっき『うん』って返事したコトだよ」
そんな彼女にとって精一杯のおねだり。『ファックして。めちゃくちゃに犯して』とは言えても、『愛して。抱き締めて』とはどうしても言
えない。だが。
「『うん』なんて言ってないんだよね?」
「………。」
「ほら、ちゃんと言って。どうしたい?どうして欲しい?レヴィの口から聞かせてくれなきゃわからないな…」
「ほら」と恥ずかしいことこの上無い要求を突き付ける男が憎たらしくてたまらない。
レヴィにとって意地悪この上無いことを言っているのに、声音は至極穏やかで優しい。
そう、一つだけ確かなのは、彼女自身の望みを口にさえすればその期待が裏切られることがないということ。
目の前の男は彼女に求めるばかりでなく、彼女が求めるものを与えてもくれる。
とは言え…男に甘えることに慣れていないレヴィという女に言えることなど「…さっさと剥いて突っ込めよ」の一言で、ロックが彼女自
身の口から望みを聞くことは叶わない。
そうは言っても、彼女の望みがわからないなどということは決して無い。
第一、先程嫌な想いをさせてしまった分だけ、このお姫様の我が儘を何だって聞いてやるつもりでいるのだ。ここは自分が譲歩しな
ければ、彼女の希望どころか抱え込んだ「何か」を引き出すことなど出来やしない。
「んー言わないなら…、俺の好きにするからな?」
そう宣言し、やわやわと乳房を撫で始めると、その手にレヴィの手が重なる。
拒絶にも取れる反応に、おや、間違えたかなと思ったロックだが、掌が柔らかな丘に一層強く押し付けられ誘われているのだと理解
する。
「だから、好きにしろってば」
そのくせに口に乗せられるのは、あくまで「お任せ」なそれ。
もう少しだけ甘い言葉を聞きたくて、機嫌を損ねぬよう気を遣いながら問い掛ける。
「……ねぇ、俺のこと好き?」
「………………嫌いなヤツに何度も許したりはしねぇ」
そんなこともわからないのかと舌打ちせんばかりのレヴィを腕に閉じ込めたままロックは大仰にため息をつく。
「20点。嫌いじゃないなら誰でもいいの?誰にでも許しちゃう?」
「………………………………………………………………。」


232 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:40:36 ID:GFbPtckk
レヴィは耳やうなじまで真っ赤に染め、ロックの視線から逃れるように俯き…それでも小さく首を横に振る。この反応だけで十分かと
も思えたが、どうせならばもう少し可愛いげのある反応が欲しい。
「…なら…やり直しだね。………………俺のこと、……好き?」
「………………………………ぅん」
「ふーん…嬉しいな。なら、俺とするのは?好き?」
「…………………………………………………………………………………………………うん」
『YES』か『NO』か。そしてそれをどんな言葉で伝えるか。いくばくかの躊躇いの後、レヴィはそう答える。
直前に彼女が返した頑是ない肯定に『嬉しい』と言った男の声は、本当に他意無く嬉しそうで、もっともっと喜ばせたかったのだ。
狙い通り、男は実に嬉しそうに抱き締めて来る。
「俺になら許していいんだ?」
耳孔に直接囁かれ、身体が震える。
「それとも…俺じゃないとダメ?」
服の裾から左の掌が差し込まれ右の乳房に直接触れられる。
頂きを小刻みに刺激され硬く立ち上がった乳首を、更に爪で掻かれて・・・溜息が漏れた。
「今からレヴィにイヤラシイこといっぱいするよ?」
右手がベルトのバックルを器用に外すと、そのままショーツに潜り込んで陰毛を撫で付ける。
核心に触れないその指が少しもどかしい。
「エッチな声聴かせてくれる?」
耳元でわざと卑猥な音を立てて耳たぶをねぶられ、聴覚を犯される。
入り口の周りでは楕円を描くようにゆっくりと指が移動する。
触れるか触れないかの微妙なタッチで狭いショーツのなかで5本の指がいやらしく蠢いている。
もっと確かな刺激が欲しくて腰を揺らめかせると、充血し始めた芯の部分に指が擦りつけられ…裏返る淫声を堪えられない。
「ここに、俺のペニスを入れてもいい?」
ジーンズごとショーツが引き摺り下ろされ、芯を撫でながら入り口をノックされる。
反射的に閉じた脚を大きく広げられ、ロックの脚で固定される。
胸をまさぐる掌は汗ばみ、耳元に掛かる呼吸も数が増えて、熱を孕み始めていた。
「レヴィのここに俺のを入れて、こうやって擦り付けて、子宮を突くんだよ?いいの?」
中指が挿し込まれ、内壁を擦る。
自らの吐息も甘やかな色を増していくのがわかった。
乳房を一際強く刺激され、痛みだか快感だかわからない痺れに呻き声が漏れる。
「レヴィのヴァギナに何度も何度も何度も何度も俺のペニスを擦り付けて、二人でキモチよくなって、レヴィの中を真っ白に汚すんだ」
身体の奥がずきりと痛み、淫液がじわりと溢れた。
ロックがどういうつもりでいるのかは知らないが、想像だけでこんなに疼く身体がその機能を完結させることは、恐らく無い。
だからこそ特に咎めることもなく、好きにさせているのだが。
視線の先では、淫液に濡れるロックの指が、大きく開かれた股間を出入りしている光景。
役立たずの身体でも、オスを受け容れる準備だけは出来ている。



233 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:41:13 ID:GFbPtckk
それにしても、と思う。
雨のように自身に降り注ぎ続ける卑猥な囁き声にただただ頷き続けたが、この男は欲しい言葉は何一つくれない。
カラダを煽られながら微かに落胆するレヴィだが、そんな彼女を両腕で一際強く抱き締めたロックは熱に浮かされた、けれども優し
い声で一言囁く。
「いっぱいキスして、いっぱいメイク・ラヴしよう?」
膣がきゅっと締まる。よかった、もう指は入っていないからからかわれることはない。
この男はあたしの考えていることが分かるのだろうか、そう思わずにいられない絶妙のタイミングだったのだ。
「ねぇ、こっち見て」
ゆっくりと真後ろの男を振り返ると、目を細めて薄く笑みながら、頬を撫でてくる。
「たくさん愛してやるからな?」
「……だきしめ、て…あいして?ろっく…ろっく!」
彼がくれた待ち望んだ言葉に、彼女の口もまた、自身でも驚くほど素直に彼が望む懇願を紬ぎだした。
「…………うん…………………いただきます…」
破顔し、レヴィを抱き締めたままシーツに倒れこむロックに身を任せつつ、しかるべき突っ込みは忘れない。
「……って、食い物か、あたしは」
「うん、俺の主食。活力だから」
嬉しそうに笑いながらタンクトップをずり上げる男の動作を両腕を上に上げ脱がせやすいように助けてやりながら「ならメインディッ
シュは別にあるのかよ」と突っ込みを重ねる。
「…考えてなかった……ま、毎日でも飽きることは無いし、絶対必要ってことで…」
どう?と脚を撫で回しながら上目遣いで尋ねるロックの言いようを嬉しく思いながら目の前の頬を撫でながらも「でもたまには別の
モン食いたくなるんだろ?」とあえて意地悪を言う。
「調理方法を変えれば色々楽しめるよ?」
音を立てて短くキスを寄越す男にああ言えばこう言うやつだと呆れつつ、自分だけだと言ってくれていることがレヴィにはたまらなく
嬉しい。
「早く…始めようぜ」
スラックスの中に狭苦しそうに収まるロックの分身を掌で撫で上げた。


234 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:41:53 ID:GFbPtckk
こうしてレヴェッカ孃のご随意のままに始まった『メイクラヴ』であるが、ロックにとって第二の課題は彼女がこの華奢では無いが小
さな肩に背負った『何か』を軽くすること。
とは言え、浅からぬ仲の二人の間ですら詮索無用は絶対の不文律であり、どのように切り出すかは大きな悩み所だった。
シーツの中で局部と局部を深く繋げ、掌を重ね合う女に聞かせるように、卑猥に音を立てながら耳たぶをしゃぶり耳に舌を挿し入れ
る。
途端に震えてよじれる身体を自らの身体で押さえ付けつつ、彼女の子宮に自らの性器を押し付けるように体を小刻みに揺らす。
少し荒れ気味の、半開きの唇から漏れる嬌声。
もっともっと鳴かせたくて、鼓膜にまで届くよう、目の前の耳に細く鋭く吐息を吹き掛けた。
「ん…ぁ…」
内壁をいやらしくヒクつかせながら艶やかな声で鳴くレヴィの脳髄に直接響くように耳元で、低く、囁いてやる。
「もっと…たくさん声聞かせて…」
「…ぁぁ…ロック……」
平素と比べ狂おしいほどにロックを求めるレヴィを安心させるように頬をなぞる。
「うん…そうだよ、レヴィ。俺だよ」
どちらからともなく唇を合わせる。
ロックが啄むようにレヴィの下の唇を噛むと、上唇を舐められる。舌と舌とを絡ませ、唇を吸い上げ唾液を啜り合う。
呼吸の合間にふと瞼を上げたレヴィの目には至近距離で彼女を見つめるロックの目。
キスの間の顔も、行為にふやけ切った顔も、ずっと間近で見られていると思うだけでたまらなく羞恥が込み上げる。
「あんま……見んなよ…」
「どうして?俺はずっと見ていたいよ」
「………照れんだよ、ヤってる最中に見られっと」
真っ赤な顔を戸惑いがちに逸らす女に、にやける顔を隠し切れない。
「レヴィ…すげぇ可愛い」
頬を撫でつつ顔をこちらへ向ける。
「うっせぇ」
見られることを拒むように眉をしかめて目を閉じるレヴィを「だめだよ、ちゃんと俺を見なくちゃ」と言い咎める。だが…。
「やだ」
そう言って更に顔を背けるレヴィ。そんな彼女にため息をつき、「なら、こうしちゃおう」と脇に放り投げられたままのタオルを目にあ
て、ネクタイを巻き付けた。
「何…や…」
顔に巻き付けられた布を排除しようと伸ばされた手を取り身体をぴったりと密着させると、それ以上の抗議も特には無く、それどこ
ろか背中に回された掌。
たまらなく愛しく想いながら、頬と頬を擦り合わせる。
そして、意図したことではないにせよ、彼女が自分の視線から逃れた今がチャンスと、「車の中で他の男のコト考えてたんだろ」と
軽口めいて切り出した。

「……つまんねぇこと抜かすな、クソボケ」
一瞬の沈黙の末、レヴィはそう紡ぎだした。
「つまらなくないよ。だっていちゃいちゃしてるとき位俺のことだけ見て欲しいだろ」
あくまで愚かな男のやきもちを装う。気楽な空気を作らなければ…彼女の口が核心に触れることは無いだろう。
「…目隠ししたのはてめぇだろ」
「だってさ、さっきからまともに俺のこと見てくれない…」
だからお仕置き…などとうそぶく男の唇が何度も彼女の顔に降る。

235 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:43:29 ID:GFbPtckk
いやだなと、レヴィは漠然とそう思う。
不思議なもので、こうやって視界を奪われてしまうと顔を見てシたいと、そう思わずにいられない。
何より、折角思考の外に追いやった不安や焦燥感が、またにじり寄って来ている。
第一これでは誰に「犯されて」いるのかわからない。

「ロック、どうも落ち着かねぇ…」
だから目隠しを取ってくれとせがむ女を、質問に答えなければ仕置きにならないと突っ跳ねる。
何でそんなことを聞きたがるのかと呆れるばかり。
だが、首筋にかかる男の息が震えているのに気付く。背中に廻した掌をずらすと馬鹿みたいに心臓が早鐘を打っている。興味本位で尋ねて
いるわけではないと理解してはいたが、どれだけ緊張しているのかと苦笑せずにいられない。
そうまでして聞きたいのならば聞かせてやると、面白くもない昔話を端的に口に載せた。
「ケチくせぇジャンクフードと引き換えに、何日か変態の嬲り者にされたって、それだけのハナシだ」
よくあるハナシだろ?と些か攻撃的にレヴィは笑う。
そんな彼女の湿った髪を撫でながら「車の中で?」と問いを重ねるロックに短く肯定が返る。
「……いつ頃?」
「さあな。寝小便はとうに卒業しちゃいたが、歯は生え変わってなかった。つってもよ、別に生娘だったワケじゃねぇからな。その頃にゃ
親父の酒代はあたしが稼いでた」
もう一度小さく「よくあるハナシだろ?」とうそぶくレヴィを前に、ロックは言葉につまる。
彼女の視界を奪って良かった。
一体自分は今どんな顔をしているだろう。何と返せばいいだろう。
ここで同情を口にしたところで彼女は露ほども喜びはしない。目を閉じ、息を殺しながら深呼吸を一つ。
「……道理で車を嫌がるはずだ。…でもさ、今お前を抱いてるのは俺なんだから、ちゃんと俺を見ろよ」
自分の動揺は彼女に悟られていないだろうか。
「…だったら外せって、コレ」
顎をしゃくって目隠しを外せと要求するレヴィ。
「……俺を見るって約束できるか?」
「ああ…そうだな、気が乗れば…そうする………………………………頼むよ、少し、怖いんだ…」
確約は得られなかったが、縋るようなレヴィの呟きに慌てて目隠しを取ると、真っ先に頭を殴られた。
「後悔するなら最初っから聞くんじゃねぇ」
「…え?その…」
予期せぬ反撃と、自分の後悔が悟られていることにロックが目を丸くすると、レヴィはお見通しと言わんばかりににやりと笑む。
「突っ込んでるモン、萎えさせてよ。抜けかけてるぜ…って、一旦抜けよ、そんなツラじゃ当分勃たねぇだろ?」
そういえば身体を繋げたままだったことすら失念していた。
言われるままに身体を離して起き上がったロックの胸にレヴィの掌が宛てられる。
「その上、声は震えて心臓まで早鐘打ってやがる」
動揺も、後悔も全て見透かされていた。それでもレヴィは咎めることなくいつもと同じように口元を歪めて笑っている。
「覚悟して聞いたつもりだったんだ…」
「よくあるハナシだっつったろ。それともこんな腐れ穴にゃ突っ込みたくねぇか?」
肩をすくめて中折れされたのは初めてだと笑う。
彼女が空気を和ませようとしているのは理解出来る。だが、今の言いようはどうしても看過できはしなかった。
「レヴィ……軽口でも…自分を卑下するようなこと…言うな、二度とだ」
「あんたがナンと言おうと使い古しなのは事実さ。それに肝心なトコは殆ど覚えちゃいねぇんだからよ、大したコトはねぇ……」
「…?」
「前後のことは覚えてんのに、肝心なことだけすっぽり抜けてんだ……思い出せねぇんだよ。何されたか」
『思い出せない』と言ったその一瞬、些かの苦悩を滲ませたレヴィを、ただ無言で抱きしめる。
「……大したことじゃ無ぇんだ。ただ…つまんねぇコトで混乱しただけで明日になりゃいつも通りだ」
「…お前は強いな…そうやって何でも自力で乗り越えて来たんだろ?」
「……そうしねぇと、とっくに石の下さ」
「…今は独りじゃないんだから泣き言の一つでも吐き出してみろ…」
「……別に…。あんたとこうやって引っ付き合ってりゃそれでいい。」


236 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:44:03 ID:GFbPtckk
…昔は理解出来なかったことが今は理解できる。
相手と体温を分け合い同じ温度になる事で得られる安堵であるとか、最も無防備な自分を安心して晒すことのできる信頼である
とか、互いの身体に快楽を与え合うことの愉悦であるとか、身体を繋げてキスを交わすことで沸き上がる多幸感であるとか、男女
の繋がりを解く瞬間の寂しさであるとか、求めても求めてもまだまだ欲しくなる飢餓感であるとか。
色々なことを全てひっくるめて、ロックとのセックスは最高にキモチがいい。
こうやって腕の中にいるだけでも妙に満たされ安心する。

「……そりゃよ、思い出せないモンがあるともやもやして気分ワリぃけど、だからって思い出す方法があったところで、どうせ…そう…
 胸糞悪いだけのロクなモンじゃねぇ、そうだろ?だから…」

――――だから、あたしをいじめるコワぃおじちゃんがどっか行くまで匿って?
      オバケはキライなの。
      コワイモノからあたしを守って?
      …お願い…ダーリン…

まるで子供のような声音を作り、ロックの耳元で囁いたレヴィの顔は…今にも茹で上がってしまいそうなほどに真っ赤で、余程恥ず
かしい発言だったのだと思われる。
そんな様が可愛くて可愛くて、思わずつついてみたい気もしたが、こんなに照れているところをからかうのも何だか酷く趣味が悪い。
だが、一つだけ、引っかったことをどうしても聞かずにいられない。
「…怖いおじちゃん……ああ、オバケだっけ?……やっつけなくていいの?」
「あんたにそこまで期待してない」
ぐさりと胸に突き刺さるレヴィの一言。しかも即答。
俺はナイトにはなれないのかとどんより落ち込みかけるロックに「けど……おっかねぇ『オバケ』からあたしを守れるのは世界中探し
たってあんた一人さ」とレヴィの声。
「目に見えるモンからはあたしが守ってやるんだから、これで貸し借り無し、実にフェアじゃねぇか。」
そう照れ笑いを浮かべてキスをねだる女を労るように何度も口付ける。
自分の腕の中が、この寂しがりやの天邪鬼の逃げ場になるというのであれば、何度でも抱き締めてやろう。
幼いレヴェッカを追い回す『怖いおじちゃんのオバケ』がいつ消えてなくなるかは解らないが、逃げ場所だけなら用意出来る。
「……………………これでもかってほど……甘やかしてやる」
「そりゃどーも。」
そう照れたように呟くレヴィがたまらなく可愛い…と思ったのもつかの間。彼女は実に楽しそうにこう言った。
「………豪語したからにゃぁさっさと勃てな。手伝ってやろうか、インポくん?」
「………………………………………………………………………。」

237 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:44:45 ID:GFbPtckk
キスをして、冷房で冷えた身体を温め合うように肌を合わせて、撫で合って…。
レヴィに不能を心配されるまでもなく、ロックのオスはたちまちに交歓の準備を整える。
「仕切直しだ、早く突っ込みな」
ロックの首に抱き着き、そのまま彼を引き寄せたレヴィは、自ら大きく脚を開く。
ロックは割れ目に自らを擦りつけ、レヴィ自身から溢れ続ける潤滑液を纏わせると入口に宛がう。
入口を刺激されただけでレヴィの背筋はぞくぞくと震え、早く身体を重ねたいとココロとカラダが訴える。
「早く…一番奥まで…。欲しくてヨダレ垂らしてるだろ?」
レヴィの訴えと同時に、うち込まれる楔。
女の肉の感触をじっくり味わうように、ゆっくりとゆっくりと奥に進む。
肩から二の腕へと滑り落ちるレヴィの右の掌が彼女の顔の横に置かれたロックの左の掌を捉えるのと、杭が最奥に到達するのとはほぼ
同時。
弾かれるように左腕でロックの頭を抱え込み、貪るようにキスを交わす。
局部を繋げて、舌を絡めるだけで沸き上がる、よく知った多幸感。
すっかりこのハッピーな脳内麻薬の中毒だ。
よくも飽きないものと自身でも呆れるほどに時間をかけて唾液を交換し、名残惜しく唇を離す頃には二人の境目を忘れてしまうほどに結合部の
肉はぴったりと密度を増していて、そのこともまた、彼女の頭を酩酊させる。
「レヴィ、動く?…このままがいい?」
そんな彼女を見透かすかのようにロックは問う。
レヴィは、問かけに僅かばかり思考して「何もしねぇで硬くしてるのも辛ぇだろ?」と微かに笑う。
本当は、もうしばらくは心地よい多幸感のプールを漂っていたかったが、それは後半のお楽しみでいい。
まずは二人で快楽の波に溺れよう。

「ごめん、ありがとう」

ロックはおもむろにそう謝ったと思うと、律動を開始する。
不意の謝罪に、辛いのに自分の意向を最大限尊重してくれるつもりなのだと、やたらと嬉しくなる。
きっと、「このまま何もせず容れたまま抱き合いたい」と言えば…限界まで我慢したに違いない。


「ん…んっ…んぁ…もっ…と…奥に……ぁ…ん…」
ロックの頭を掻き抱いたレヴィは、しなやかな脚を更に大きく拡げてもっともっとと彼を求める、
そんな訴えに、ロックは繋いだままのレヴィの手を自分の首に廻すよう促すと、彼女の背中に腕を挿し込みそのまま抱き起こした。
不安定な座位にぐらつくレヴィの身体をお互いに引き寄せ合うことで支える。
レヴィ自身の重みで深さを増す結合。
上へと押し上げられた子宮が鈍く痛むが、レヴィにとってそれすらも快楽へと変換される。
無言でひたすらお互いの身体をなぞり、性感帯を煽り続ける。
夢中になるたびに崩れる身体のバランス。
何度目か数えてもいなかったが、脚をロックの腰に廻して引き寄せバランスを取ったレヴィの首筋に彼の溜息が掛かり、「今…締めてくれた?」
と問う声。
…単に性的な興奮で締まっただけだというのに。
「そんな…余裕、無ぇ…」
だが、口でそう言いながらも気持ちがいいと言われて悪い気はしない。腹に力を込めて、忙しなく子宮を突き上げる彼を締め上げる。
「ほら…やっぱ、り、締めて…くれて…る…」
「今は・・・な」
「キモチ…いいよ、ありがとう…けど、無理して、そんなことしなくて…いい…。…な?」
だが、どうせ一緒にするならば少しでも気持ちよくなって欲しい…そう反論する前に激しく責め立てられ、そのままシーツに押し付けられる。
レヴィの口からひっきりなしに零れる嬌声。
ロックが耳の後ろのあたりに吸い付くと、一際大きな声で鳴き声を上げる。
「ん…ぁああぁ…あ、痕…んっ…」
痕がつくと抗議しようとしたレヴィの唇が言葉を紡ぐことなく塞がれる。キスの合間に唇を触れ合わせたまま「お守り…」と聞きなれぬ単語を呟くロックに
「オマ…モリ…?」と鸚鵡返しに問う。
彼女のWhat?という疑問符に、ロックは「魔よけ…の…ような、ものだよ…」と余裕なく答えた。
「…俺の…女を…いつまでも…いじめ、るんじゃ…ねぇ…って…」
何とかそれだけを伝えると、絶頂へ向け彼女をきつく抱き締める。
瑣末なことはどうでも良かった。今はこの男のことしか考えられない。
「あっ…ぁ…ロッ…ク………出し…て…!!!」
身体中に、この男のモノだと刻まれたかった。この男によるマーキングで幼い頃からの無数のスティグマを上書きしていけば、いつか心底から「大した
ことではない」と言い切ることが出来るかもしれない。
子宮に向け迸る他人の体液の感触。
湧き上がる満足感に口元が緩んだ。

238 : ◆SDCdfJbTOQ :2009/05/28(木) 03:46:53 ID:GFbPtckk
怖いお化けの姿を知ったのはそれから数年後だ。
いつものように食事をしながら眺めたTVショウ。画面は世界の猟奇殺人の特集をしていた。
「タイの連中ってのは好きだよな…こういうエグいの」
画面には無残にバラバラにされた死体が血溜りと共に映し出されている。
ロックは日本ではこんなのありえないなぁなどと思いつつも「メシ食いながらそれを見てる俺達もどんなモンかと思うけどね」などと適当に相槌をうつ。
食事の好き嫌いを言うレヴィにロックが小言を垂れて彼女が渋々従う…。
いつもと同じ食事風景。
その映像が始まるまではいつもと同じだったのだ。もとよりタイ語の番組をそれほど真剣になど見てはいなかったのだが、ある男の写真が画面に映し出さ
れた瞬間からレヴィの目が画面に釘付けとなる。
画面にはペドフィリアのサディストが車で全米を移動しながら何人もの幼い少女をレイプし惨殺したというエピソードが映し出されていた。
それが意味するところを悟り慌ててテレビを消そうとするロックに「消さなくてもいい」というレヴィの声。
今の彼女にストレスを与えることは避けたいが、仕方が無い。床に三角マットを敷いて腰を下ろすと、膝に乗るように促した。

決して得意ではないタイ語を必死で聞き取る。
コトの発覚は、最後の被害者である『10歳の華僑の少女』が保護されたことから。
ニューヨークに住んでいたという少女は、保護された時には言葉も喋れぬほどに放心していたという。
画面には、保護された直後の彼女の写真が映しだされた。
何も映さぬ力無く空ろな目。ガリガリの身体のあらゆる箇所に打撲痕。右の腕の深い切り傷は何度も同じ場所を切り付けた痕だという。
切り傷を更に焼くように付けられた煙草による火傷。
……………………………………彼女の身体の傷跡は彼女本人よりも知り尽くしている。
ナレーションの細かなニュアンスまでは解らないが、それでも大まかな内容は理解できた。連れまわされたのは8日間。その間少女が小さな身体に受け
たのは…この享楽と背徳の街に居て尚滅多にお目にかかれぬ下衆な仕打ち。無言で画面を見つめるレヴィの姿を見えざる「何か」から隠すように抱き締める。
『少女』の保護と犯人の逮捕から次々と発覚するおぞましい事件。下は7歳から上は19歳まで。無残に犯され、苦痛のうちに弄ばれ、生きたまま刻まれた6人
の少女たち。
気付かれるのが少し遅ければ、腕の中のこの女も……自分に出会うことなく殺されていたのだと思うだけでなんとも落ち着かない。彼女が死と隣り合っているの
は今も同じだというのに。

惨劇の実行犯は、累積200年を超える懲役の途中。塀の中で生きている。

エピソードが終わった後も無言のレヴィの頭を撫でてやると、「運のいいガキだ」と呟き身体をもたせ掛けてきた。
「そうだな」
「あーアホくさ。何かメシ食う気無くした」
「だな。………………………………何か思い出した?」
「んぁ?ナニをだよ、どっかの他人のハナシだろ」
明らかに嘘と解っても、それを暴いたとこころで何の意味も成さないから…。
「そう。………………………………ああ、そうだ、レヴィ。……今日はシーツに隠れて寝ような」
「………………ナンだ、それ」
「オバケが来てもやっつけてやるから」
「…………はっ…………随分と大きく出たな」
「パパは強いんだ」
「………………そうかい。……けど……このくれぇ、大したコトねぇよ」
だって、次はあたしがオバケから守ってやらなきゃなんねぇだろ。
「強いのはオヤジだけじゃねぇんだよ、馬鹿め」
そう吐き捨て、重い腹を両手で抱えてのっそりと立ち上がった。








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