133 :大神竜一朗:2009/12/01(火) 10:52:55 ID:XBYfP/6a
        BLACK LAGOON
     〜10階程度の夜景〜  大神竜一朗


「…!!!」
「ヘイッ、ロック!」
「…!!?」
 声に寝覚め、目を開けると覗き込んでくるレヴィの顔が
「大丈夫か?ひでぇ汗だぜ。」
「クッ、……。」
 どうやら、ウィスキーを飲んだ後椅子に座ったまま眠ってしまったようだ。
レヴィが言う。古いビュイックのエンジンみたいな息してうなされていたと。
悪い夢を見ていた。
「深酒はいけねェなロック。これからは慌しくなるんだからよ。」

 俺は日本に戻っていた。ミス・バラライカの通訳として。
レヴィはそんな俺のボディーガードだ。
 慌しくなる、か。鷲峰組の事もあるが、あのチャカと呼ばれていた男。
レヴィはソード・カトラスが必要になってくると言ってる。
当然あの男とのコミニュケーションで使うのだろう。
 

 銀座、ビジネスホテル10階。部屋にはシングルベットが一つ。
窓の外はギラギラとしたネオンの都会に、白い雪が降っている。
まだ降りだして間もないのか、アスファルトを白く覆ってはいない。

「……やっぱり、争いごとになるのかな。」
 低いテーブルを挟み対面に座るレヴィに、不安をこぼした。
「そりゃなるさ。ホテル・モスクワはやる気だ。」
「…………。」
 レヴィはオレを安心させるような言葉は言わない。
俺もこいつにそんなものは期待していないが。
レヴィが自分のグラスにウィスキーを入れる。
「嵐が来るぜ、ロック。鉄と血の嵐だ。」
「!!……。」
 
 窓の外で降る白い雪。
白い雪を見ながら想像した赤い血は、すぐに恐怖へと変わる。
「……………。」
 夜のこの街ではクリスマスが待ちどおしいと言わんばかりに
一足早くキャロルナイトを演出するイルミネーションで、白、緑、黄色と、
色さまざまに輝いている。

 俺はこの街に戻りたいのか……、それとも、ロアナプラに帰りたいのか。

134 :大神竜一朗:2009/12/01(火) 10:54:25 ID:XBYfP/6a


 10階のホテルから見る人々は小さい。個々の表情は遠くて見えなくても
それぞれに生活があり、人生があり幸せを求め生きている。
それは感じれるし、想像することが出来る。
 小さな命ははかない。はかなくて尊い。

「どうした、ロック。」
「いや…。」
「暗ぇぞ、お前。」

 今日、実家に帰った。帰ったがその扉を開けることが出来なかった。
普段なにげなく開けていたその扉。
「俺、死ぬのかな……?」
「鉛玉が当たればな。でもそうはさせねぇ、あたしが守ってやる。」
「………………。」
「あん?お前震えてんか?」
 寒いから?いや、怖いから。
ホテル・モスクワの恐怖、ミス・バラライカの持つ狂気を知っているから。
レヴィの言うように必ず血の嵐になるだろう。

 もうすぐ白い粉雪が真っ赤な鮮血へと変わる。クリスマスだというのに。
多分今の俺は、雷に怯える子供のような顔をしているだろう。
抱きしめてほしい、母親のように優しく。
 
 ある生物学者の言葉を思い出す。
ヒトは死を恐怖し実感した時、種を保存しようとする、生き物として。
俺は今その言葉を実感できる。こんな不安な夜は女を抱きたい、避妊もせずに。
その矛先を目の前のレヴィに向けた。
「レヴィ、外見てみろよ。」
 俺の言葉に窓の外の夜景を見る。ロマンチストでなくとも都会の夜景に
嫌気のさす女はいない。この夜景はムードを高めるのに十分だろう。
都会の夜景は女を酔わし、脱がせる。今夜はレヴィを抱きたい。
 
「東京の夜景は綺麗だろ。」
「興味ない……。」
「……。」
 ここは10階。こんな程度の夜景では脱がせれないのか。
この街には、もっと高い所はいくらでもある。
「無事今回の仕事が終わればさ、東京タワ、…?」
 話の途中にレヴィが椅子から立ち上がり、ハンガーからジャケットを取る。
「レヴィ、どこか行くの?」
「自分の部屋に戻るのにお前の許可が必要か?」
「いや……俺は。」
「慌しくなるって言ったろ…、だから寝てフルにしときな。」
「………。」
「お互い死んでもいいってんなら、お前のセックスの誘いにのってやる。
 だがな、あたしはこんな所で死ぬなんてまっぴらごめんだ。
 それでもヤリたいってんなら売女でも買ってヤりな。」
「………わかったよ…。」



135 :大神竜一朗:2009/12/01(火) 10:57:05 ID:XBYfP/6a

 レヴィがジャケットに袖を通し部屋を出ようとした時
振り返りもせずノブに手を掛けたまま、背中で言った。
「てめぇが死んでもなぁ、エルビスやジェームス・ディーンのように
 誰も思い出して涙を流したりはしないぜ。」
「………。」
「それ位の価値だ、お前の命は。」
「!!?」
 何故そこまで言われなきゃならない。命の価値まで。
じゃあ、お前はどうなんだ!お前の命の価値はどうなんだ!
他人の命の価値を勝手に決めるお前の命は!頭にきた俺はレヴィに問う。
「お前は、どうなんだ!」

「あたしぐらいは、覚えといてやるよ。」
「?」
 質問の意味を履き違えたのか、
「涙は、……さーな。」
 ドアを開け自分の部屋に戻っていく。


「…………。」
 もうそこにレヴィの姿はない。

 だが、何かが残っている気がする。

 俺しかいない、この部屋に。


               END




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