- 355 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:02:19 ID:G5L3Vlen
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とても静かな夜だった。
私は礼拝堂の隣棟にある自室で、ロックの部屋に仕掛けたカメラから送られてくる映像を、再生した。
数日前、私はロックの部屋に盗撮カメラを設置していた。
「盗撮」という響きは穏やかでないが、何もこれは特別な話ではない。
この街で、他に盗聴器や盗撮カメラを勝手に居候させて頂いている場所は、星の数ほどある。
私は、この街の状況をいち早く正確に把握しないといけないからだ。
最近、ラグーン商会には『暴力教会の尼』としては些か職務権限を越えた働きを提供している。
互いの腹は探らないのがこの街の暗黙のルールだが、
相手が私の素性に気づいているか否かという点を知ることは非常に重要だ。
それによって、私のとるべき行動も変わる。
特に、ロックは要注意だ。
意外と察しが良いのに加えて、この街のルールをまだ完全には把握していない傾向がある。
いや、把握しつつ、ルールに従わない恐れ、というべきか。
見極めねばならない。
常に自分以外の全ての者の弱みを握ること。
切れる手札を増やすこと。
それが重要だ。
とはいっても、私は、この盗撮カメラに過度の期待はしていなかった。
会話の端から、彼らが何をどこまで認識しているのかという空気を掴むことができれば充分。
ラグーン商会の内情も気になるが、特にダッチとレヴィはこういった機器に聡い。
電気機器、という点ではベニーだって侮れない。
事務所と車、ラグーン号、レヴィの部屋という選択肢だけは無かった。
ベニーの部屋、更にダッチの部屋など、言うまでもない。
私が仕掛けたのは、無線カメラと受信機が分離している型の盗撮カメラで、
もし見つかったとしても仕掛けた者を特定することはできないが、
盗撮カメラが発見される事、それ自体が許される事ではない。
だから、案外頭は回るようだが、まだまだその手の勘には疎いロックの部屋に、
お邪魔させて頂くことにしたのだ。
盗撮カメラを仕掛けるにあたっての主たる目的は以上のようなものだったが、私には
方々のカメラが寄越して来るその映像を定期的にチェックする気など、全く無い。
理由は簡単。
退屈だからだ。
他人の生活を覗いて面白い事など、万にひとつでもあれば良い方だ。
そればかりでなく、漫然と仕掛けた盗撮カメラから重要な情報が得られる可能性は、限りなく低い。
気が遠くなる程の根気が必要だ。
現実の必要性が生じた時に見れば充分だが、必要性が生じた時にだって出来る事なら見たくない。
そんなスタンスだった。
だから、早々にロックの部屋に仕掛けたカメラからの映像を見てみよう
などという酔狂な気を起こしたのは、単に下世話な好奇心があったからだと言わざるを得ない。
- 356 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:03:36 ID:G5L3Vlen
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私はレヴィという女を案外気に入っている。
がさつで短気だが、頭は悪くない。
家柄と品だけ上等で、頭の中身はおがくずの連中と付き合うよりも、
あの女と下品なスラングを飛び交わせている方が、ずっと気楽で愉快なことだった。
そのレヴィは、ここ暫く、自分が攫ってきた日本人、ロックに入れ込んでいる。
からかった時に見せるウブな反応や、二人が一緒にいる時の雰囲気から、
この二人の間に何も無いわけがないと思っているのだが、未だに口を割ろうとしない。
街中の人間から「あいつらはデキてる」と思われているのだから、
今更何をそんなに頑なになる必要があるのかと不思議だが、
とにかく、レヴィは、ことロックの事となると、貝のように固く口を噤む。
気が付けばいつも一緒にいて、業務後はイエロー・フラッグで並んで酒をあおり、
そしてその後は、どちらかの部屋に二人で消えていくことが多い。
そんな二人が、部屋で一体どんな会話をしているのか、
いや、まさか本当にお喋りをしているだけということはあるまい。
新たなからかいのネタを仕入れることが出来るかもしれないし、
ちょっとした暇つぶしにはもってこい。
そんな諸々の思惑が重なって、私はモニターを立ち上げ、再生スイッチを押すことにしたのだ。
私は、戸棚に置いてあったドメーヌ・ド・ミケのボトルを取り上げ、ブランデーグラスに注いだ。
グラスの三分の一ほどを満たした琥珀色の液体を、掌で温めてから唇へ。
荒々しくも官能的な香りが鼻腔に広がり、食道を熱が通過していった。
最高だ。
秘蔵のアルマニャック。
一日の締めくくりには相応しい。
特に、ちょっとした楽しみと共に呑むには。
私は、録画映像の頭を出し、そこからロックが帰宅するところまで早回しした。
モノクロの画面には、右手側を枕にしたベッドの全貌と、そのベッドの左側に位置する小さな木机。
部屋の四隅までは映らないが、小さな室内であるし、音声も入るので、これで充分だ。
モニターには、無人の室内の映像が続く。
窓の外の色で、夜になったのが分かる。
――帰ってきた。
私は、再生速度を元に戻した。
ロック、それに、レヴィも一緒だ。
- 357 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:04:57 ID:G5L3Vlen
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「あー、今日も疲れたぜ」
レヴィは、他人の部屋だというのに勝手に木製の椅子を引いて、どかっと乱暴に腰掛けた。
「今日はそんなに仕事入らなかったじゃないか」
ロックは、そんなレヴィを気にすることなく、腕時計を外してベッドサイドに置く。
「暇だと余計疲れんだよ」
「あぁ、まあそれはあるかもね。時間の経つのがやけに遅かったり。
……でも、暇だったのはレヴィだけで、俺は帳簿の整理とかで結構忙しかったんだけど」
「あんたの話はしてねェよ。あたしが疲れたっつってるだけだろ」
レヴィは椅子の背に片肘を乗せ、乱暴に足を組む。
――お前、何だその粗暴さは。足を組むにしても、もっと色っぽい組み方があんだろ。
私はつい、いつもレヴィと話している時の調子に戻って、画面の中の女を窘めた。
夜、男の部屋で二人っきりだというのに、イエローフラッグでの態度と全く変わらない。
こう、男の前で脚を組むならば、椅子に浅く腰掛けて、
片肘をテーブルにつくなどして、ちょっと斜めに身体を傾けて腰をしならせ、
横に揃えて投げ出した脚を片方、ゆっくりと引き上げ、逆の脚に絡ませる。
とかなんとか!
――あるだろう! やり方ってもんがよ!
あんな大股開きで脚を組むなど論外だ。
疲れて帰ってきたオヤジじゃあるまいし。
私は今すぐにでも画面の中へ押し入って、
この女に、男の部屋における脚の組み方というものを一から叩き込んでやりたくなった。
「はいはい、それはお疲れ様。――レヴィ、何飲む?」
しかしロックは慣れた調子で彼女をいなし、キッチンに向かった。
グラスを出す音がする。
「ん、水」
「分かった」
――水!?
私は思わず前のめりになって目を見開いた。
あの女、いつも「酒以外は飲み物にあらず」みたいな態度を取ってるくせに、「水」だと!?
「水」!?
――お前、それ、単純に今飲みたいもの言っただけだろ。
普通、妙齢の男女が夜に二人きりで飲むものといったら、
こう、ちょっと色気のあるスピリッツなどではないのか。
スコッチとか。
コニャックとか。
そう、それに、アルマニャックとか。
私は自分の手の中で揺れる琥珀色の液体に目を落とした。
――そうじゃなかったらせめて茶とかよォ、色々あんだろうが!
酔っ払いじゃあるまいし、何が「水」だ。
苛立つ私を余所に、レヴィは出された2リットルのペットボトルからそのままラッパ飲みしている。
――どうしてお前はラッパ飲みなんだ! グラスを使えグラスを! ロックが出してくれてんじゃねェか!
- 358 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:05:50 ID:G5L3Vlen
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やきもきする私のことなど知るはずもなく、画面の中の二人は至って普通だ。
「そうだ、またエダにボラれた」
「ボラれたっていうか、カードで負けただけだろ」
私は、自分の名前が出たので、少し耳をそばだてた。
二人は、木製の小さなテーブルに向かい合って、煙草をふかしている。
「あいつ、やけに強ェんだよな。絶対何か仕込んでやがる」
「決めつけるのは良くないよ、レヴィ」
――全くその通りだ。
私はロックの言葉に、モニターの前で相槌を打った。
私には、娯楽のカードゲームでイカサマをしようなどというセコい趣味は無い。
レヴィが負けるのは、畢竟、考えている事が全て顔に出るからに他ならない。
「何だよ、ロック。あいつの味方すんのかよ」
「そうじゃないさ。でも、レヴィも楽しんでやってるんだから、いいじゃないか」
――可愛い奴め。
私は頬がにやけるのを感じながら、ドメーヌ・ド・ミケをひと舐めした。
レヴィは、決して自分からは口を割ろうとしないくせに、
こちらがちょっとロックにちょっかいをかけると、猛然と食ってかかる。
素直なんだか素直じゃないんだか分からない。
- 359 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:07:05 ID:G5L3Vlen
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それにしても、二人はそんなたわいもない会話を、いつまで経っても続けている。
これはこれで楽しいが、ちょっと期待外れだったかもしれない――。
私は煙草を一本引き抜いてくわえ、火をつけながら思った。
深く肺まで吸い込んで、煙を吐き出す。
脇に置いた灰皿に、とんとん、と軽く叩きつけ、灰を落とした。
画面の中の二人も、煙草をくゆらせている。
ぽつぽつと続いていた会話が、
二人同時に煙草を吸い込んだことで、ふと、途切れた。
煙が白く立ちこめる。
向かい合った二人の目が合った。
空気が、一瞬にして、しんと静かになったように思えた。
沈黙の後、ロックが煙草を灰皿に押しつける。
それから、レヴィの目を見ながら椅子を立ち、彼女の側に回った。
レヴィも目を逸らさない。
ロックを見上げる格好になったレヴィの唇から、ロックは二本の指でそっと煙草を外した。
その手をテーブルについたかと思うと、ゆっくりと、レヴィの方へ身を屈めた。
レヴィはロックを見上げたままだ。
タイピンをしていないロックのネクタイが垂れる。
二人の顔は近づいて、そして、唇が重なった。
二人は唇を重ねたまま、動かない。
その部屋で動くものは、ロックの指に挟まれた煙草から立ち昇る煙だけだった。
私は、知らず、息を詰めていた。
二人の唇が離れてようやく、深く息をすることを思い出した。
煙草を口元に持っていこうとして、今にも零れ落ちんばかりに長く灰が伸びているのに気づき、
私はすぐにそれを灰皿に捻り付けた。
ロックは、レヴィから奪った煙草を灰皿に押しつけて揉み消すと、黙って彼女の頭を撫でた。
頭頂部から、耳の方へ下がって、そのまま頬へ。
ロックの親指が、レヴィの唇をなぞった。
レヴィの唇が、ほんの少し、柔らかく開く。
モニターの画面はモノクロだというのに、私には、レヴィの唇の紅さが見えた。
ロックの親指はレヴィの顎を伝い、また、二人の唇は重なった。
今度は、深く。
ロックの舌を受け入れたらしいレヴィの頭が、わずかに後ろへ傾いた。
レヴィの肩が揺れる。
息を吸ったのだろう。
ロックの手はレヴィの顎をとらえたまま、放さない。
レヴィが息継ぎの時に立てた音を、カメラのマイクは鮮明に拾った。
そして、二人の舌が絡み合って、粘膜どうしが触れては離れ、口腔内で唾液が混ざり合う音も。
- 360 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:07:57 ID:G5L3Vlen
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唇を離したロックは、レヴィの二の腕を取って、立ち上がらせた。
そして、腰に腕を回して、また口づける。
もう片方の腕は、レヴィの背中へ。
レヴィの両腕もロックの背中に伸びてゆき、ぎゅう、と力がこめられた。
ロックの手は、レヴィの腰を緩やかに撫でてから、タンクトップの背にもぐり込む。
彼女の肌の感触を確かめるように抱きしめ、それから背中の真ん中のホックを外した。
ふっ、とレヴィの胸が心もち緩む。
脇を通って、ゆっくりと胸部の方へ移動してきた手は、レヴィの乳房をすくい上げるように包んだ。
タンクトップの生地が、ロックの手の形に盛り上がる。
穏やかに沈む指は、彼女の乳房の柔らかさを伝えていた。
レヴィは、ロックの手の動きに合わせてわずかに背中を波打たせながら、時折肩を緊張させる。
彼女の胸が沈むその瞬間は、ロックの指が敏感な先端をよぎったのだと推測された。
ロックは、そろそろとレヴィのタンクトップを捲り上げた。
締まった腹部、縦に一筋通った腹筋と肋骨の陰が露わになり、
ホックを外された下着がタンクトップにつられて持ち上げられた隙間から、柔らかい曲線が覗いた。
ロックは両腕を上げたレヴィからまずタンクトップだけを抜き取り、
次に、肩の端に引っ掛かっている下着も、そっと外した。
女の私の目から見ても、レヴィの身体は美しい。
あちこちに、治癒したものしていないもの取り混ぜた傷痕が残っていても、
むしろその傷痕こそが美しさを引き立てているように見える。
豊かだが大きすぎない乳房から、ひとかけらも無駄な贅肉がないウエスト、
そして形良く張った尻が描く曲線は、野生動物のように凛として完成されていた。
ロックが自分でネクタイを引き抜くと、レヴィはロックのワイシャツのボタンに指を伸ばした。
レヴィがボタンを外し始めると、ロックは両手を彼女の後頭部に持っていった。
そして、ひとつに束ねられていた髪を解く。
髪を引っ張らないよう、結び目の根本を片手で押さえながら。
子猫のしっぽ程の量しか無いレヴィの細い髪の毛は、するんと抵抗なくほどけた。
ボタンを外し続けるレヴィを見下ろしながら、ロックはレヴィの髪を梳く。
さらりとした髪の毛が、何度も、ロックの指にまとわりついては離れていった。
レヴィがボタンを全部外し終わると、ロックは自分でワイシャツを脱ぎ捨てた。
そして、レヴィを抱き寄せる。
- 361 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:09:01 ID:G5L3Vlen
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その瞬間、レヴィの身体は女のものとなった。
ロックの身体に沿うように、やわらかく形を変える。
レヴィの肩はロックの胸の中にすっぽりと収まり、
彼の背中に腕を回して頭を少し落とすと、
それはロックの首筋にぴたりと落ち着いた。
そこが、レヴィの為の定位置であるかのように。
ロックの身体もまた、レヴィ一人を抱き込むのに丁度だった。
何の過不足も無く。
ロックの腕は、レヴィの腰のくびれに隙間無く巻き付き、
もう片方の腕は浮き出た肩胛骨の間で収まった。
私には、二人がまるで、最初からひとつのものだったかのように、
パズルのピースがぴたりとはまったかのように、見えた。
たかが、上半身裸の男女が微動だにせずただ抱き合っているだけだというのに、
私は息を潜めて画面を見つめていた。
目が離せなかった。
二人は下着一枚になると、部屋の灯りを消し、枕元の読書灯だけをともした。
画面が暗くなったが、高感度のカメラは問題無く二人を映し続ける。
ロックが上掛けを捲りあげると、その隙間にレヴィが滑りこんだ。
そして、ロックもレヴィの上に覆い被さるように入り込み、腰のあたりまで上掛けをかけた。
ロックは、両肘の間にレヴィを囲う。
レヴィが見上げる。
二人の目が合う。
長いのか短いのかもよく分からない、息詰まるような静止の後、
ロックの頭はゆっくりと落とされ、二人の唇が重なった。
レヴィの腕がロックの背中に伸び、しっとりと絡みついた。
すべてが流れるような動作だった。
二人は、煙草を消してから、一言も言葉を交わしてはいなかった。
それなのに、これからどうすべきかという事など、互いに分かり切っている滑らかさだった。
- 362 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:09:47 ID:G5L3Vlen
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舌を絡ませながら、ロックはレヴィの全身をなぞってゆく。
頬、髪、耳、こめかみ。
顎、喉、項、くびすじ。
ロックの手はゆっくりとレヴィの肌の上を滑り、
喉元を通り過ぎたかと思うと、ゆるやかに盛り上がる曲線を這いのぼり、
その全体を掌の中に収めた。
彼の手には、ほとんど力が入っていないように見えた。
それなのに、――いや、それだから、か――レヴィの身体は甘く沈んで、肩が内に入った。
ロックはレヴィの乳房を包み込んだまま、手首からやんわりと揺らす。
レヴィの呼吸が僅かに乱れる。
彼の手の熱で中身を溶かされてしまったように、レヴィの乳房は柔らかさを増していた。
ロックの指先が、彼女の乳房の先端に触れ、
レヴィが重なった口の中でくぐもった声を漏らした。
ロックは、唇も、柔らかくこねる先端も、解放しない。
レヴィの背中が小さくうねる。
口腔中の声が高まる。
上掛けの下で、片方だけ立てられた彼女の膝が、かすかに揺れた。
やっと唇のみを解放したロックは、指で刺激し続けていた突起を、今度は自分の唇で包み込んだ。
レヴィの息が震える。
「んっ」と空気を揺らしたレヴィの声は、引き結ばれた唇からは漏れず、彼女の鼻の奥で響いた。
眉根が、きゅっと寄せられた。
ロックは、レヴィの呼吸が大きな溜息となって漏れ出しても、唇と舌での刺激をやめず、
彼女の手がロックの背中をはい上がって、うなじを登り、髪に指が差し込まれてようやく、
ちゅ、と小さく音を立てて唇を離した。
そして、今度は逆の乳房の先端を、唇の中に取り込む。
指は、今まで彼自身の口によって濡らされ、とがっている突起へ。
両方の先端をこねられたレヴィの背中が反った。
- 363 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:10:50 ID:G5L3Vlen
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ロックの手は、段々と腹の方へ下がっていく。
みぞおちを通り、臍のあたりに到達したところで、
二人を包む上掛けによって、彼の手を直接目視することは出来なくなった。
しかし、薄い上掛けは、ロックの手がレヴィの脇腹を撫で、腰骨をなぞり、太ももの外側をさすり、
そして太ももの内側にたどり着くまでを、鮮明に伝えていた。
ロックの指は焦らすように腿の内側を這いのぼる。
指がいつレヴィの芯に触れたのかは、彼女が全身をぴくりと震わせたことで知れた。
上掛けの下に突き出たロックの肘が、小さく動く。
その下で、レヴィの腰もむずかっているのが分かった。
レヴィはまだ下着をつけているはずだった。
その下着を取り去ることなく、ロックは指を休めない。
レヴィの眉が、快楽に耐えるようにきつく寄せられた。
彼女の身体がねだるように波うち始めると、
ロックは彼女の胸元から顔を上げ、彼女の下着をさげた。
用済みとなった布きれを上掛けの隙間からベッドの隅に追いやって、
ロックの指は、今度は直接、レヴィの脚のつけ根に触れたようだった。
指先がとろけた粘膜に触れて、ほんの少し沈みこみ、浅いところでうごめき、襞の間を撫で上げる。
上掛けの下で行われているであろうロックの指の動きは、レヴィの表情が全部伝えていた。
指は、繊細な襞を何度もなぞるが、
レヴィが一番触れて欲しいところには、なかなか到達しないようだった。
耐えられない、といった様子でレヴィの瞼が震えるのを、ロックはじっと見つめていた。
見られていることに気づいたレヴィは、見るな、というように自分の腕で顔を隠したが、
ロックはその手首を取って、シーツの上に縫いとめた。
その直後、彼女の顎が反った。
ロックの指が欲していた芯に触れたのだろう。
レヴィの身体が強ばって、震える。
息をつめ、そして開いた唇から、深く透明な溜息が漏れた。
ロックの指は、レヴィのなかから溢れ出す体液を絡めて、何度も芯を責めあげているようだった。
レヴィの胸が、ロックの指の動きに合わせて上下する。
「――ん…………っ」
レヴィの喉が震え、眉間に皺が寄ったとき、せわしなく動いていたロックの指が静まった。
おそらく、レヴィのなかで。
閉じられていたレヴィの瞳が開いてから、またロックは動きを再開する。
探るように。かき出すように。
レヴィの膝が締まったが、最初からレヴィの脚の間にあったロックの片脚のせいで、
それ以上閉じることは出来なかった。
レヴィの呼吸が荒くなる。
薄く開いた唇から吐き出される空気に、小さく声が混じる。
私の背筋までをもぞくぞくさせる、甘く掠れた声。
声が出てしまう度に、レヴィは唇を閉じるのだが、すぐに鼻呼吸だけではままならなくなり、
また、吐息混じりの震えた声を漏らすのだった。
ロックの手が上掛けの外に出た時、彼の中指だけがとろりと濡れ、
黄みがかったほのかな灯りを受けてつやつやと光っているのが、見えるようだった。
- 364 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:11:23 ID:G5L3Vlen
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ロックはレヴィの脚の間に身を置くと、「いい?」というように、合わせた目で訊いた。
レヴィの顎が小さく引かれる。
それを確認してから、ロックの腰が沈んでいった。
ゆっくりと。
レヴィの頭が揺れ、睫が震えた。
ロックの腰が沈みきると、レヴィの大きな溜息に、ロックの短い吐息が重なった。
二人は浅い呼吸を繰り返しながら、ただお互いの顔を見つめる。
痛いくらい真剣な、表情で。
そして、引き寄せられるように口づけをした。
重なり合ったまま口づけを交わしていた二人の身体は、少しずつ波うち始めた。
最初のうちは、ほんの僅かに。
段々と、激しく。
唇が離れた時、二人の息は窓ガラスを曇らせる程に乱れて湿っていたが、
合わせた双眸は、酷く苦しそうだった。
ロックは、抑えたいのに身体が勝手に動いてしまう、
そう言いたげに、背中を震わせ、シーツを握り締めた。
項垂れた額に、前髪がはらりと落ちた。
レヴィも、抑えたいのに身体が求めてしまう、
それを彼女自身がどうにもできずに、
眉を寄せ、ただロックの背中を抱きしめているようだった。
そんな本人たちの思惑に反し、
ロックの身体はレヴィを貫き、
レヴィの身体はロックを誘い込んだ。
上掛けの下では、ロックの腰が、浅く、深く、上下し、
レヴィの立てられた両膝に、力が入っては、抜ける。
二人の吐息が室内を満たす。
そこに、ベッドの歪んだ軋みが加わった。
- 365 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:12:17 ID:G5L3Vlen
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瞬間、レヴィの顔が美しく歪んだかと思うと、ロックの肩口に埋められた。
そして、たまらない、というように、吐息混じりの声が絞り出された。
「――――――あぁ……っ」
私は反射的に、口元を片手で覆っていた。
息を吸ったまま、暫く吐き出すことが出来なかった。
心臓が一瞬、大きく跳ね、それから思い出したようにどくどくと鳴動した。
――レヴィ、お前、なんて声……。
それは、淫欲に溺れている声ではなかった。
自分の中からあふれる何かを抑えきれなくなった悲痛さを伴っていた。
――レヴィ、なんで抑える必要があるんだ。
柄にもなく、私の眉までもがつられて歪んだ。
誰かを「欲しい」と思うことは、人間の本能だ。
何もおかしなことではない。
誰も、そんなことでお前を淫売だなどとは思わない。
下らない自制心や見栄などドブに捨て去って、素直にそのままのお前をぶつければ良い。
お前のその少し掠れたアルトで、甘い喘ぎを存分に聞かせてやれば良いのだ。
それを嗤ったりなどしない。
少なくとも、今お前の目の前にいるその男は。
画面の中の二人は、いよいよ大きな流れに抗えなくなっているようだった。
ロックの腕がレヴィの腰を引き寄せ、激しく打ちつける。
レヴィの身体が反って、胸郭が浮かび上がるのを美しいと思いながら、
私は、さっき見たレヴィの引き締まった腰が、ロックの腕の中でしなる様を想像した。
引き寄せられたレヴィの膝につられて上掛けが少し乱れ、その裾から二人のつま先が覗く。
荒い呼吸が声帯を掠めてしまう。レヴィはそんな声を時折漏らした。
レヴィのつま先が、ぎゅっとシーツを巻き込む。
いかにも安物のベッドが悲鳴を上げた。
二人は、まっしぐらに駆け昇ってゆく。
ロックは、レヴィの呼吸が止まるほどに突き立てる。
レヴィの腕が、強くロックを抱きしめる。
彼女が達したと分かったのは、ロックの背中で強く力がこめられた指先と、
指を内側に折り込んでぴんと伸ばされたつま先で、だった。
硬直した彼女を二、三度行き来してから、ロックの動きも止まった。
私は、小さく息を吐き出した。
ひどく、息苦しかった。
ロックは、横向きになってくったりとしているレヴィの首に出来た空間に手を寄せた。
レヴィが軽く頭を上げると、ロックの腕はその隙間にするりと入っていく。
レヴィの頭がロックの肩口近くに収まったのと、
ロックの腕がレヴィの肩を抱き寄せたのは、ほぼ同時。
やはり、流れるような動作だった。
ロックが上掛けを引っ張ってレヴィの肩まで掛けると、レヴィは目元を緩ませた。
ロックの顔はカメラに頭を向けてしまっていて見えないが、
レヴィの表情で、彼がどんな顔をしたのかは大体想像がついた。
ロックの手が読書灯に伸びて、灯りが消される。
今度は、本当の暗闇となった。
- 366 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:13:30 ID:G5L3Vlen
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私は、のろのろと映像の停止ボタンを押した。
暗い画面に、私の渋面が映っていた。
酷く、重苦しい気分だった。
解せなかった。
なぜ、あの二人があんなに苦しそうに交わっていたのか、全く解せなかった。
あの二人の行為は、遊びでも、ましてや性欲の解消でもなく、「本気」だった。
そう、所謂「愛し合っている」と言われるような状態。
私の目には、そんな状態に見えた。
それが、どうしてあんなに苦しそうな顔をしないといけないのか。
レヴィは色恋沙汰に関してはからっきしであるし、
特にセックスに関しては嫌悪しているきらいがある。
山猿娘のくせに意外と奥手なところがあることも分かった。
どうせ、淫乱な女だと思われたくない、などと阿呆な事を考えているのだろう。
ロックの方も、大体想像がつく。
私がレヴィに関して想像している事ぐらい、あの男だって当然考え及んでいるだろう。
存外に繊細なあの女を毀したくないという想いが先立っているに決まっている。
しかし、だとしても、なぜ……?
それならば、砂糖菓子のように甘く幸せに乳繰り合えばいいだけの話だ。
こんな破壊と狂乱の街には似つかわしくないが、
別に誰が見ているわけでもないのだから、好きにやればいい。
まあ、正確に言えば、今こうして私が見ていたわけだが、
それはこの問題に関して重要なファクターではないので、すぐに頭から追い出す。
私は、置き去りになっていたドメーヌ・ド・ミケの存在を思い出し、グラスを手に取って傾けた。
しかし、芳醇な液体は妙にどぎつく鼻について喉を焼き、
すぐさま、グラスをデスクの端へと押しやった。
私は思考を戻す。
あの二人の様子は、まるで、相手を欲することが罪悪であるとでもいうかのようだった。
しかし、抑えきれずにあふれ出てしまったものは、どこまでも透明な愛おしさにしか見えなかった。
――なぜ、それを抑える必要がある?
何度目かの堂々巡りを終えた時、もしかしたら、という閃きが私の頭の隅で弾けた。
- 367 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:14:28 ID:G5L3Vlen
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――気づいていない、のか?
――お互い、想いを伝え合っていないばかりでなく、相手が自分のことをどう想っているのか、気づいて、いない?
まさか、という思いと、それだったら全て説明がつく、という納得が同時に頭を満たしていった。
レヴィの場合は、身体だけではなく心までもを求めずにはいられない苦しさ。
ロックの場合は、欲情をぶつけたいわけではないのに、求めてしまう苦しさ。
――お前ら、二人揃って大馬鹿だ。
レヴィ、手を伸ばせば、目の前の男は、お前がずっと欲しかったものを与えてくれる。
お前が気づいていない――いや、気づこうとしていない、のか――だけで、本当は、今だって。
今こそ掴み取れ。
そんな泣きそうな顔をするぐらいなら、なりふり構わず奪えばいい。
お前はずっと、その手で、明日の生を奪い取ってきたんだろう?
ロックもロックだ。
欲しかったら、躊躇せずに今すぐ捕まえろ。
この女を毀れやすいガラス細工のように扱うぐらいだったら、
いっそ毀れるほどに抱きしめて、嵐のごとく攫ってしまえばいい。
お前の中途半端な優しさが、この欠損した女を余計に苦しめていることが分からないのか。
『求めよ、さらば与えられん』
マタイ伝第26章64節。
神もそう言っているではないか。
――尤も、神は彼女には優しくなかったようだが。
全く気づいていない、ということでは無いのかもしれない。
特にロックの方は。
けれど、頭だけが先走り、それが視界を曇らせ、身動きを取れなくさせている。
――そんなに、失うのが怖いか。
求め、そして拒絶される可能性の前に、立ち竦んでいるのか。
それとも、その臆病で優しい躊躇いこそが、惹き合うのか。
私には分からない。
セックスは駆け引きの道具、もしくは、目的達成の為の手段。
そんな割り切った無機質な認識しか持たない私には、この二人の本心は分からない。
けれど、そんな私に間違いなく言えることが、ひとつだけ、ある。
- 368 :ロック×レヴィ エダ視点 ◆JU6DOSMJRE :2010/01/21(木) 21:19:06 ID:G5L3Vlen
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――楔を打ち込むとしたら、ここだ。
ラグーン商会の弱点。
この、薄皮の中に、今にもあふれてしまいそうな中身を抱えて寄り添う二人。
薄い皮膜の間にナイフを差し入れ、ほんの少し手首を捻ってやれば、
簡単に二人まとめて崩壊させることが出来るだろう。
そう、例えば、レヴィにこんなことを囁いてやれば良い。
「ロックって、なかなか床上手じゃねェの。優しいし、ちょっと見直したわ」と。
レヴィは、ロックに真偽を確認することもなく、身を翻すだろう。
もしロックを問い詰めたとしたって、構わない。
いくらロックが否定しようと、レヴィはいつも最悪の状況を想定してそれに備える。
あの女の回路は、そういう風に出来ている。
レヴィのあの薄茶の大きな瞳が、一瞬驚愕で無防備になり、そしてみるみる傷ついていく様が、
私の脳裏にはっきりと浮かび上がった。
しかし。
――出来ない。
一番の大馬鹿者は、私かもしれなかった。
私にとって他人は、「使えるか使えないか」、そして「仕えるか仕えさせるか」、
そのいずれかだった。
それ以外の基準で考えはしないし、また、考えることは許されない。
なのに、誰かに対して出来ないことがある、
しかも、その理由が個人的感情によるものであるということは、致命的だった。
そうは言っても、私には、あの愚かな女の心が
私の手によって砕け散る様を平然と見届ける自信など、全く無かった。
――知らない内に情が移ったか……。
私は、片手で両のこめかみを押さえ、溜息をついた。
しかし、致し方あるまい。
私は録画映像を消去し、早いうちにロックの部屋からカメラを引き上げようと決め、頭を切り換える。
あの二人は、お互いが相手の安全弁の役割も担っている。
その安全弁が飛んだら、どんなモンスターが顔を出すか分からない。
二人の間に楔を入れるということは、
人食い虎を二匹、生み出す可能性を高めるということだ。
――そんな危険なことは出来ない。そうだろう?
私は誰にともなく問いかけ、今夜の私の記憶もまた、ダストボックスへ放り込んだ。
了