197 :名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 23:54:31 ID:lRj3wTHH
いつものようにロックのヤサの廊下を歩く。
ゴツいブーツを踏み鳴らしながら、ロックを迎えにレヴィは歩く。
今日は何を飲んで、何を話そうか考えながら、足取り軽やかに、歩く。

今日のメンツは、彼女と、ロック。そして、エダ、ベニーに、リコ。
元は、いつの間に知り合ったのか知ったことではないが…リコとロックとベニーの三人が顔を突き合わせて飲むという話だった。
それを聞き付け、エダとレヴィも半ば強引に加わった。
今からロックを連れて、イエローフラッグへ向かう約束。
今日は二人じゃないけれど、エダと飲むのは勿論楽しい。リコとエダの会話を聞くのは愉快だ。
それを他人事のように眺めるベニーになみなみ注いだラムを押し付けるのも、そんな自分に呆れ顔のロックに絡んで、ますます嫌な顔をさせるのも、きっときっと楽しい。
初めての顔合わせなのに、これからきっとそうなるだろうと、何となくだがそう思う。
賑やかなのは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
楽しくてたまらない。


そんな彼女の耳に、銃声。
そして、窓ガラスの割れる音。
何のことはない。この街では有り触れたBGM。
問題は、それがロックの部屋から聞こえて来たという、ただ一点のみだった。

ノックをしないのはいつものこと。いつもと違うのは、ドアノブをひねるための彼女の手には、二挺の銃が握られていて、安普請の木のドアは、穴があくほど強く蹴り破られたということ。
室内に武装した何者かがいるかもしれぬ部屋に、こんな真正面から侵入するなど馬鹿にも程があるが、一秒でも早くロックの無事を確認したかった。
というか、それが最優先。
それしか考えていなかった。
きっと部屋で映画でも見ているのだ。そして、ドアをブチ壊した自分を見て迷惑そうに溜息を吐くのだ。
そうに決まっている。


だが、目の前の光景は彼女に無情だった。
割れた窓ガラスと、床に残る、…真新しい血痕。
部屋から人の気配は、しない。
「ロック!?ヘイ!ロック!」
誰もいない部屋の壁に、レヴィの声が吸い込まれていく。


無人の部屋で存在を主張するように割れた窓。
駆け寄って下を覗き込み、絶句する。
ガラスの散らばるアスファルトの地面に倒れ込むロックの身体。腹と頭から流れる血が周囲を赤く染めていた。


198 :名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 23:56:10 ID:lRj3wTHH
「ロック!!」

悲鳴のように叫んで、身体を乗り出し、思いとどまる。ここは三階。下には割れたガラス。自分の怪我などこの際どうだっていいが、ロックに衝突せずに落下する自信までは、無い。
ここは、走った方が確実だ。
それだけを判断し、猛然と走り出したレヴィに、彼女を見つめる硬いレンズがあったことなど知る由もない。


転げ落ちんばかりに階段を駆け降り、ロックの倒れていた場所へ急いだレヴィだが、そこにあったのは赤い血だまりと、身体を引きずったような血痕と、タイヤの跡。
彼の姿は忽然と消えていた。

悪あがきのように微かにのこるタイヤの跡を辿るが、10メートルほどで跡形も無く消えていて、右に曲がったのか、それとも左なのか、皆目見当もつかなかった。


頭が真っ白になる。
次に何をするべきか、全く頭が働かず、タイヤ跡の消えた場所にへたりこむ。
そんな馬鹿なと何度も否定するが、見間違えるはずがない。
あの時倒れていたのは確かにロックだった。
腹を撃たれて、きっと三階から落下した。
頭を打っていたようだ。
きっと、助からない。
いや、だが、ここで諦めては後で後悔してもしきれない。
今だって、無茶を承知で飛び降りれば良かったと、そう思っている。




「あああああああああああああああっ!」




悲鳴のような雄叫びを上げ、レヴィは走り出す。
車で移動しては、わずかな手掛かりを見落とすかもしれない。
どうせアテが無いのなら少しの手掛かりだって見落とせない。
やるだけやらなければ。
まずは頭数が欲しい。幸いイエローフラッグには暇なヤツらが3人集まっている。
まだ来ていなくたって酒場には人と情報が集まるものだ。バオの人脈だって役に立つかもしれない。
息が切れるのも構わず、レヴィは走った。


そんな彼女を見つめる目が8つ。
(ヘイヘイ、どうすんだよ、あの馬鹿マジだぜ?誰だよ、こんなの始めたヤツ)
(姐さんっすよ)
(だから僕はいやだったんだ、レヴィはロックが絡むと冗談が通じない)
(ノリノリで盗撮の準備整えたのは誰だい?)
(それを言うならロック、君だって随分楽しそうにしてたじゃないか)
(まさか、こんな不自然な状況で気付かないなんて思わなかったんだ。で、どうする?…多分全員ただじゃ済まないよ?)
(((……………………)))
(何でこっち見るのさ)

199 :名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 00:03:34 ID:lRj3wTHH
「バオ!」
店主が最近誂えたばかりの鉄板入りの重いドアに体当たりし、飛び込んで来る二挺拳銃。
道中何の手掛かりも無かったことで、またしても自分の判断を後悔し、その顔は紅潮しているにも関わらず、どこか青ざめて見える。
その場には、既に今日のメンツが顔を揃えていた。
歩み寄るのももどかしく、息も切れ切れに大声で叫ぶ。
「お前ら暢気に飲んでる場合じゃねぇ!ロックが…ロックがやべぇんだ!!」
もう一秒たりとも無駄にしたくないレヴィは、目の前の男女の困ったようなにやけ顔に気付かなかった。
「まー、ヤベぇといえば、ヤベぇカッコしてっけどよ…」
どこか勿体つけたエダのリアクション。その意味を考える余裕は今のレヴィには無い。
何から説明していいのか。こうしている間にもロックに許されているかもしれない時間は減ってしまう。
「詳しい話は後だ!!いいから行くぞ!!」
バタバタと歩み寄ってエダの腕を攫んで踵を返すと、そのまま固まる。
目指す方向、ドアの前に立っていたのは、全身を血に染めた…ロックその人だった。
「…や、やあ…」

彼女が騙されていたことに気付いたのは、その血まみれの胸に縋りついたその時だった。
胸に抱きついた瞬間鼻を抜ける甘酸っぱい…ベリーソースの香り。
「ヘイヘイ、おっぱじめるならおうちに帰んな!」
「まだ早いからな、上のベッドは空いてるぜ」
外野からの野次に、彼女は一気に沸点を超える。
まずは、遠慮がちに肩を抱きしめ返そうとする男の脛に蹴りをお見舞いし、前かがみになった腹に膝を入れてやる。
足元でうめき声を上げてのたうつ男を足蹴にし、レヴィは問いかける。
「誰から先に死ぬ?」
愛銃に手を掛け、笑う彼女の目はしかし、微塵も笑っていなかった。

「騙される方が悪ぃんだよ、これ見よがしにスピーカー置いてたし、床に蒔いたのもソースだしよ、地面に散らばってたのだってプラスティックだぜ?」
レヴィの威嚇射撃で、酒瓶が数本お釈迦になった。
勿論、彼女に弁済するつもりはない。馬鹿をやらかした4人が持てばいいと言ってビールを煽る。
走ってきたからやたらうまい。
「どの時点で気付くか賭けてたんだけどよ、全員負けだ。気付かないなんざ誰も考えやしなかった」

他にも、隠す気の無い盗撮カメラや、彼の部屋のものではないダミーの窓枠など、
冷静になれば気付かないはずのないヒントが多々あったらしい。
聞けば聞くほど腹が立つ。
ここに来るまでの間泣いていたことなど死んでも知られたくない。
「ま、最大の落ち度は今日が何の日か気付かなかったてめぇだけどな」
そう言って隣で馬鹿笑いするエダの足を思い切り踏みつけてやる。
今日もロアナプラは平和そのものだ。




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