性の快楽と血の快楽(後編)


「すいません、ごめんなさい、それだけは許してくださいっ」
後背位の姿勢のまま、腰を押さえつけられながらセラスは懇願する。
「大丈夫だ、吸血鬼だからすぐ傷はふさがる」
無情な言葉が返ってきた。
「むしろ人では味わえない経験だぞ? 吸血鬼で良かったな、婦警」
一方的な台詞を言うだけ言うと、アーカードはさっきの余韻がまだ残っている場所に再び太いものをあてがう。

一気に激しく突き上げた。
「はあっ」
セラスは押し出されるように息を吐く。その息を吸う間もなく次の攻撃がやってくる。
パシッパシッパシッ
アーカードの腰とセラスの尻がぶつかって激しい音を立てる。

体の中ではもっと激しい刺激がセラスをゆさぶっていた。
侵入され制圧され圧迫される、マスターはそう言っていた。たしかにそのとおりだ。
私は抵抗できない。この快楽に抵抗できない。
それでも逃れられず、マスターのものを包み込みただただ感じることしかできない。
でもでもそれなのに体の底からたまらない感覚がこみ上げてくる。
しびれて熱くてどうしようもない。押し流されるままに喘ぎ声をあげることしかできない。
「ああんっ、あっあっ、はあぁっ。き、気持ちいい、気持ちいいですっ」

アーカードの言ったとおり、出し入れするたびセラスの秘所からは血が少しずつ沸き出している。
けれどその中では傷はすぐふさがりむしろ前よりも瑞々しくなって再び主のものを包みこむのだ。
セラスは今、体全体でアーカードのものを受け止めていた。
細いが鍛えられた体が躍動し、大きな胸が激しくゆれる。胸の揺れの反動で体がさらに動く。
胸を中心に体全体が飛び跳ねている。その様子を後ろからアーカードは笑ってみていた。
「本当に、大変な胸だな」
そういって暴れる胸を捕まえ、容赦なくもみしだく。アーカードの指の隙間から胸の脂肪がこぼれだす。
こんなにきつく揉まれては普通なら痛みしか感じられないところだが、今のセラスにはそれすら快感だった。
「やめて、やめてください、ますたあぁぁ」
そう叫びながら再びセラスは絶頂を迎え、今度は視点が暗転した。

ふと気がつくと体がシーツで覆われていた。やっと終わったのかな、安心感がこみ上げてくる。
マスターはどこだろうと体を起こそうとして気がついた。
動けない。
シーツが体にからみついている。そんなにきつく縛られているわけでもないのに動けない。
どうなってるんだろ?

「起きたか」
「ひぃっ」
気配もなく上にまたがったマスターがのぞき込んできた。
「あの、これで終わり…じゃないんですよね?」
シーツが体にまとわりついて、どっかで縛られてるみたいだし。それでも上目遣いにそっと聞いてみる。
「吸血鬼の体力は無尽蔵だ。だが処女だったやつにこれ以上は酷だろうな」
今更なにを言っているんですかっと心の中で叫びつつ、すなおにコクコクうなずく。
「しかし私も一方的にお前に快楽を教えてやるだけだなんて、不公平だと思わんか?」
思いませんっ。心の中で叫びつつ、何も言えないセラス。
「そこでだ。舐めてくれ」
そういうとマスターはくるりと身を翻し、セラスの顔に自らのものを近づけてきた。
噛んでやろうかと心の中でつぶやくセラス。
「今、私の目の前にはお前の秘所があるんだがな」
見破られたような声が下の方から聞こえてきた。
セラスの前にはアーカードのものがあり、アーカードの顔の前にはセラスのあそこがある。
つまりはそういう状況になっているらしい。

どちらかというと身長差がある分アーカードの方が有利だ。しかもセラスはシーツに捕らわれて動けない。
仕方ないので覚悟を決めて、セラスはマスターの赤黒いものを見上げた。…赤黒い?
「さっきすり切れるまでやったからな」
ぼそっとマスターはつぶやくと、戯れるように脅すようにセラスの尖った部分を甘噛みした。
「うそでしょぉぉぉ」
思わず本音が出ると、今度はもう少し力を入れて噛まれた。
「あ、痛あっ。ごめんなさいごめんなさい…」
震えながらセラスは赤黒いものに舌を伸ばす。舌が届くとそれはゆっくりと降りてきた。
抱きとめるように舌を絡ませ、口の中に導く。必死で舐めるとマスターもセラスのそこに舌を入れてきた。
しばらく無言でお互いの傷跡を舐め合う。いや、傷を負ったのはセラスだけなのだが。
赤黒いものは生臭くあまり美味しくなかった。どうやらセラス自身の愛液でだいぶ薄まっているらしい。
素直に安心してセラスはそれに舌をからませた。やり方はよくわからないなりに一生懸命舐める。
アーカードも呼応するかのようにセラスの秘所に舌を這わせる。
さっきの傷跡もやさしく舐められると、なんだかすべてを許せるような気分になってくる。
二人はしばし激しい行為の余韻に浸っていた。

「もういい」
マスターの声と共にそれが引き抜かれた。
「よく頑張ったな、セラス」
頭をなでられて体を縛っていたシーツが引き裂かれる。ほどくより切り裂く方が楽らしい。
マスターらしいなあとその姿をぼんやり見ていると、体を引き起こされた。
アーカードはあぐらをかいた姿勢で座る。
「乗れ」
「へ?」
もうあきらめたように腰を掴まれ、その上に座らされた。
マスターのものがふたたびゆっくりと入ってくる。
「性の快楽はよかったか、セラス?」
「あ、はい、気持ちよかったです」
真っ赤になってうつむきながらセラスは答えた。もう気分はだいぶ落ち着いているが、
あそこに入っているもののことを考えるとまだ腰がうずく。
「では血の快楽はどうだ?」

そう言うとアーカードはセラスの首筋にそっと牙を立てた。柔らかく血を吸う。
「あ、あ、あああああ」
体ががくがく震える。快感だ。たまらない快感だ。体中すべてを投げ出してしまいたくなる。
溶け出して拡散し消えてしまいたいほどの快感だ。もう下腹部にはまっているもののことなど忘れていた。
「血の快楽と性の快楽、どちらがいい?」
牙を立てたまま、アーカードは静かに尋ねた。わからない。わかっている。ダメだ。そう答えてはいけない。
セラスの理性は吸血鬼の本能に対して必死で抵抗した。…その目の前に、マスターの肩があった。
「あ、あ、」
セラスの赤い瞳が首筋の動脈に引き寄せられる。
これを吸えば私は拡散しなくて済む。溶けないで済む。自分で居られる。いや自分以上のものになれる。
戦いの中で血に酔い狂っていたときとはまた別の、静かな誘惑だった。
静かであるだけにそれはセラスを追いつめた。…でも、でもダメだ。絶対にダメだ。
思わずセラスは自ら腰を振った。性の快楽に逃げようとした。
自ら下腹部の筋肉を締め付け、まだ怒張したままのマスターのものを上下にしごく。体が大きくはねる。
いつしかセラスの目からは涙が溢れていた。涙を流しながらセラスはただただ腰を振り続ける。

「もういい、婦警」
アーカードは頭を振ってセラスを抱き止めた。
「局長には無理だったと報告しておく」
「はい?」
涙に濡れた目でマスターを見上げる。
「なんとしてでも血を吸わせろという命令だったが、無理なようだな」
アーカードの感情を映さない目の底にいつもと違う色があった、感嘆。この娘はまったく奇跡だ。
「お前はそれでいい」
アーカードはセラスの腰を軽々とつかんで優しくゆっくりと引き抜いた。
そして素早く立ち上がり服を身にまとう。
「お前はそれでいい」
背を向けたまま再び同じ台詞を口にしたマスターは、振り向いてニヤッと笑った。
「しかしお前の体はなかなかよかったぞ。せっかく処女をやめたんだ、性の快楽をこれからも楽しむといい」
それだけ言うとさっさと部屋から出て行った。
あとに残されたセラスは呆然として、引き裂かれたシーツをかき集めて自分の体を覆い…
頬に残る涙の後もそのままに、いつしか眠っていた。
子猫のように体を丸めて。快楽の余韻と心地よい疲れに包まれながら。

「あいつが血を飲むように、精一杯試してみたが無理だった」
いつものように音もなくインテグラの執務室に入ってきたアーカードは、主にそう報告した。
「そうか」
葉巻を加えながらいつも通り不機嫌そうに朝一番の書類をめくっていた局長はアーカードの服に目をやる。
「珍しいな、タイをしていないとは」
何か女の勘が働いたらしい。眉がつり上がる。
「それで、具体的にどういう手段を取ったんだ、おまえは?」
「抱いた」
「抱いたぁっ?」
葉巻も書類も放り出してヘルシングの局長はデスクを叩き、下僕を睨みつける。下僕は平然と見返した。
「吸血鬼にとって血の快楽は性の快楽などよりはるかに大きい、それを教えてやろうと思ってな」
「セラスは処女だろうがっ!」
「だった、だ。それに手段は選ばなくていいといったのはお前だ、マイマスター」
その言葉にがっくりとインテグラは頭を抱える。想定外だったらしい。
「ちゃんと優しくしてやったし、あいつも悦んでいたぞ。いいじゃないか、処女なんてどうでも」
「どうでもよくはないっ! よりによってこんな男が初めてだなんて…」
「なんだインテグラ。もしかして嫉妬しているのか?」
馬鹿野郎!と叫びながら投げてきた大理石の灰皿をひょいとかわし、顔を近づける。
「処女を捨てたくなった時はいつでもこの下僕に命じておくれ、我が主」
耳元でささやくと、今度は素手で殴られた。

はあはあと肩で息をしつつ、インテグラは体勢を立て直す。
「それで、本当にセラスは傷ついたりはしていないんだろうな」
「あいつはそんなにやわじゃない」
「そうか。ならいいんだ。私が馬鹿な命令をしたということだ」
憤然としながらインテグラはそう言って、落ち着くために新しい葉巻を取り出した。手がかすかに震えている。
「だがもうその命令は取り消しだ。今後一切彼女に血を飲ませようとはするな。…対策は私が考える」
「了解したよ、我が主。ただ生まれた土地の土の入った棺桶で寝かせるくらいはしたほうがいいだろうな」
そうれだけ言って吸血鬼は静かに部屋を出て行った。彼にとってはもう寝る時間だ。
インテグラは下僕の消えたあとをしばらく睨んでいたが、深く溜息を一つついて葉巻に火をつけた。
彼女にとって1日はこれから始まる。


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