背教者の槍と魔女の釜 後編
「うくっ」
侵入してくる男の圧力に思わず声が出る。しかし悲鳴とならないよう、必死で口を噛みしめた。
男もまた、女の締め付けの強さに思わず声を出しそうになる。
熱くたぎったそれは男のものを飲み込んで、なおぬるぬるとまとわりつくように締め上げた。
「まるで、魔女の、釜だな、、」
荒い息をあげながら、マクスウェルは上下に動く。
インテグラはその下で目を閉じ歯を食いしばって、下半身に精神を集中していた。
「熱い、堕落の穴だ、煉獄の炎だ、、、」
熱にうなされるようにつぶやきながら動き続ける。
「くっ、、、んん、、、」
それでも必死で耐え続けるインテグラの姿を見て、マクスウェルははっとした顔をした。
「まさか……初めてなのか?」
「それがどうした?」
薄く目を開いて笑ってみせる女に、彼は始めて恐れを感じた。
「なぜ? どうして? 私に?」
「さあな。毒の作用だろうさ。私は魔女だから……」
目を開き、何か解放されたかのように呟くインテグラの顔を、
思わずマクスウェルはつかんでいた。
「なぜだ!? インテグラ・ヘルシング? どうして私に!?」
インテグラは笑う。
その顔は魔女そのものに見え、思わずマクスウェルはまた腰を動かしていた。
ぐいぐいと侵入し、打ち付けていく。
「んっ、、、くっ、、、」
歯を食いしばり、決して悲鳴は上げまいとする姿を見て、ますます動きは激しくなる。
「なぜだ、答えろ、ヘルシング。なぜ、私なのだ!」
「くぅっ、、、、」
結合部分から血が滴っていた。この背徳の交わりから、聖なる血が滴り落ちていく。
「くそっ、悲鳴を上げてみせろ、インテグラル・ヘルシングっ!」
「はあっ。マクス、ウェル……」
魔女の壺は熱くたぎり、背教者の槍をとろけさそうとする。
快楽に声をあげないよう、男もまた歯を食いしばった。
二人は共に、悲鳴にならない悲鳴をあげながら交わり続けた。
+
そして終わりがやってくる。
「くそッ、くそおッ」
聖職者にあるまじき言葉を発しながら、マクスウェルは自らのものを引き抜いた。
「ああッ」
その最後の動きに始めてインテグラは悲鳴を上げる。
褐色の腹の上に白い粘液がしたたり落ちた。
インテグラの頬の上にも、水滴が落ちてくる。
マクスウェルの汗だ。髪はべっとりと白い肌に張り付き、彼は悔しげに瞳をゆがめていた。
「なんだ、私を孕ませないよう配慮してくれたのか?」
彼は汗ばんだ手でインテグラの頬にまとわりついた彼女の髪をはらう。
汗の中に涙も混じっていることを知りながら、それを見ないようにして。
「存在してはならぬもの、忌むべきものは我らだけで充分だろう?」
二人は始めて同時に笑う。殺戮機関の長たるものに相応しい、冷たい微笑みを。
息を整えながら、彼らはなお言葉の刃をかわし合った。
「私は決してお前を許さない。マクスウェル」
「そうだろうな……。このことがばれたら私はお前の忠実な従僕に殺される」
「いや、彼はその前に私を殺すさ」
「そうかな? まあ、アンデルセンならばまず私を殺すことは間違いない」
「その後で私も殺そうとするだろう。課長をたぶらかした魔女をな」
マクスウェルはふっと笑って力を抜き、女の横に身を横たえた。
「そんなことはあるまい。彼がお前を殺すのは異教徒だからだ」
今度は逆にインテグラが身を起こし、マクスウェルの上に顔を近づけた。
「違う、マクスウェル……」
苦しそうに眉を寄せ、ほんの数センチの距離まで降りてくる彼女の顔を見て
何をするつもりだとばかりに彼は片方の眉を上げてみせる。
「お前は自分が思っているよりも、愛されている」
「侮辱だな」
「そう、侮辱だ。お前は神に愛され、部下に愛されているのさ」
「異教徒に我が神の意志を語られるとは、この上ない侮辱だ」
だがその顔は楽しげに笑っていた。
悲しげに瞳を寄せるインテグラの頬を、マクスウェルの手がなぞる。
「魔女め。お前は私が殺してやろう。だがその前にまずお前の従僕を殺す」
手は肩をすべりおち、乳房を撫でる。柔らかく揉んだ。
「全てを失ったヘルシング卿を私の前にひざまずかせてやるのさ」
+
「そうはいかない」
インテグラはまた力を取り戻しつつある男のものをつかみ、ゆっくりと自分のものへあてがった。
驚きに硬直するマクスウェルに向かって笑いながら、腰を落としていく。
「ひざまずくのはお前だ、マクスウェル」
痛みに顔をしかめながら、口元だけは笑みの形に固定して
彼女は最後まで彼のものを飲み込んだ。そしてゆっくりと動き出す。
「ん、、、」
マクスウェルは思わずインテグラの腰を掴むが、それは止めようとしているのか定かではなく……。
ただこの暗い快楽だけが彼の心に、かつてない何かを芽生えさせようとしていた。
「はあっ、、、ああっ、、、」
インテグラは今度は悲鳴を隠すことなく、痛み苦しみながら腰を動かしていく。
自らを罰するようにも、下にいる男を征服しようとしているようにも見えた。
彼女の戦いは、いつでも痛みを伴うものだった。彼の戦いもまた、そうなのだろうと思う。
我々はこうしてでないと生きられない、そして愛せない。
そんなことを考えながら、インテグラは自らの意志で腰を動かし続けた。
「うぐっ、、、はああ、、、、」
マクスウェルは涙すら流しながら顔をしかめ、それでもなお動き続ける女の姿を見ていた。
この女を誰にも渡しはしない、渡したくない、インテグラル・ヘルシングこそ私の……。
宿敵、仇敵、魔女、罪の証、消すべきもの、存在してはならないもの。
無数の言葉が浮かびそして消えていった。すべては快楽の中に。
彼女が痛みと引き替えにもたらすこの快楽の中に。
腰に添えていた手に力を込め、激しく上下に揺すった。
「あんっ、、、、ああああっ」
「くぅっ、、、くそぉっ、、、」
女の腰を動かすだけではなく、自らの腰も振って打ち付ける。
「はああっ、、、」
インテグラは涙を流しながら喘いだ。そして唐突に終わりがやってくる。
すっと下半身を圧迫していたものは消え、後には痛みだけが残った。
そして彼女の身体はどさりとベットの上に投げ出される。
眼鏡のないぼんやりとした視界の中で、乳房の上に熱いものが落ちてくるのを感じた。
「はあ、、、はああ、、、」
男の荒い息づかいが聞こえる。
「お前は本当に魔女だな、インテグラ」
始めて名前だけを呼ばれたことに気付いたのは、ずっと後になってからだった。
彼女は力を使い果たし、ゆっくりと目を閉じ眠りへと落ちていく。
その姿をマクスウェルはじっと見ていた。
そしてシーツで彼女の身体を丁寧にぬぐい、枕に頭を乗せて寝かせる。
新しいシーツを取り出してかぶせた。褐色の肌を白いシーツがおおっていく。
マクスウェルは立ち上がり、自分の服をかき集めると部屋を出て行った。
+
翌朝、彼らは何事もなかったかのように条約の内容を確認し、互いにサインをした。
目を合わせることもなく、必要最低限の会話だけを交わして。
当然のことだが、条約確認が終わった後も握手はしなかった。
彼らは永遠に敵同士であるから。過去も今も、これからも。
2004.1.8
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