マスケット銃と猫の耳
「おかえりなさい、シュレディンガー准尉」
廊下で彼を待っていた、長銃を持った痩身の女性はそういって笑った。
「今度はどちらに行ってらしたの?」
「任務で、ちょっと楽しい物の撮影にねー」
猫の耳を持った少年は無邪気な笑顔で答える。
「トバルカインの最期、すごかったよー。もう僕ぞくぞくしちゃった」
そういいながら彼女の腰にそっと手をそえる。
「それでね、僕興奮しちゃったんだ。…聞きたいでしょ、彼の最期の姿」
「ええ是非聞かせてくださいな。嬉しいですわ。わたくし、あの男は嫌いだったんですもの」
そんな会話を交わしながら、二人はそっと士官個室に姿を消した。
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「さあ准尉、聞かせてくださいな彼の最期を。あの無様な伊達男の無惨な死に様を」
個室で二人っきりになった途端、そう言いながらリップヴァーンはシュレディンガーのネクタイを外す。
その目にははっきりと欲情の色が映っていた。
シャツを脱がせようとしたところで、シュレディンガーの手がそれを止める。
「いいよ。でも僕もう我慢できないんだ。先に舐めてよ、中尉殿」
「わかりましたわ、もう本当に仕方ない子猫さんね」
くすりと笑いながらリップヴァーンは彼の半ズボンのファスナーをあけ、中のものを取り出した。
「まあもうこんなに大きくなっていますわ」
そういってそっと舌をだし先端をなめる。
「ああっ、そんなにじらさないでよ中尉ぃ」
彼女のつややかな黒髪に指をかけながら少年は言葉とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべる。
「もう、本当にすごかったんだからね。辺りは血のにおいで一杯で、うぅん」
リップヴァーンは舌だけを使いながらシュレディンガーのものを舐め始めた。先を催促するように。
「ま、巻き込まれた人間達が、う、断末魔をあげていてね。んっ、本当に酷いよねえ、あの二人は、ああ」
彼女は愛おしそうに彼のものを手でささえ、舌を静かに素早く這わせていく。
「片手を失いながら、ああん、必死で逃げようとしている女リポーターなんて、うぅん、最高だったなっ」
しかしリップヴァーンは一時的に行為をやめ、じっとりとした視線でシュレディンガーを見上げた。
「わたくしが聞きたいのはどうでもいい雑魚の死に様ではありませんの。
トバルカインがどんなふうに殺されたか、それが知りたいんですのよ、准尉」
おしおきですわとばかりに亀頭にかるく歯を立てる。
「ああん、ごめんなさーい。あの二人はねえ、最初はアーカードのほうが沢山血を流してたよー」
「トバルカインのトランプに切り刻まれて? あの武器、本当に下品ですわ。
見境なく大量にばらまくだなんて、わたくしのかわいいかわいい銃とは比較になりませんわ」
そうだよねえと同意してあげてシュレディンガーはリップヴァーンの頭を引き寄せた。
「じゃあ彼がどんな風に殺されたか、説明してあげるね。だからそろそろくわえてよぉ、中尉」
彼女は素直に小さな口をあけて彼のものをくわえこむ。
「本当に中尉って淫乱で残酷でいじわるだよねぇ。僕はそんな中尉が大好きだけどさっ」
黒髪に指をからませ愛撫しながら、その実そっと頭を捕まえて前後にゆさぶる。
「まず最初にね、う、ん、あの婦警さんが銃を乱射したのさ、ぁ」
リップヴァーンはざらざらした舌の表面を彼のものにこすりつけてくる。期待に満ちて。
「トバルカインは、はぁっ、トランプで応戦したんだけどね、んん、辺りは炸薬と硝煙と埃が立ちこめてっ」
次はくるくると亀頭を舌で転がし始めた。彼女の興奮がはっきり伝わってくる。
「トバルカインはねっ、それに紛れて後ろに立ったアーカードに、はん、向かってぇ、トランプを投げたのぉ。
ああもうイキそうだよ僕っ」
それはだめですわとばかりに舌の愛撫がとまった。リップヴァーンは再びねっとりした瞳で見上げてくる。
「もう中尉のいじわるっ。じゃあ手早く説明しちゃうからねっ」
シュレディンガーは頭を後ろにそらせて息をついた。猫の耳がぺたんと横にねてひくひくふるえている。
「切り刻まれたアーカードはぁ、すぐに姿を変化させてぇ、再生したんだよ。ん、すごいよねえぇぇ」
じらすように彼女の舌はちろちろとしか舐めてくれない。
「それで、ぅん、トバルカインを殴ったのさ。あぁん、彼の伸ばした手を縦に切り裂いて、ぁあ」
どうやら再び興奮してきたようだ、舌の動きが活発になる。
「片手を粉々にされてぇ、動揺と恐怖に震えながら、ぅ、捕まえられた彼の顔はぁん、本当に見物だったよぉ」
リップヴァーンは彼のものに舌を絡ませはじめた。顔ははっきりと欲情の色に染まっている。
「そしてっ、アーカードは、ぁん、彼ののど元に食らいついたのっ。そのまま喰い千切っちゃったぁぁ」
舌が絡みつき唇もすぼめてどんどんしごいてくる。その先へ先へ、促すように。
「そして用なし伊達男は、ああもうほんとに出すよっ、燃やされてしまいましたとさっ」
それだけ一気に言ってシュレディンガーはびくびくと白濁した液をリップヴァーンの口に吐き出した。
リップヴァーンは顔に愉悦の色を浮かべながら、満足そうにゆっくりとそれを飲み込む。
「もう、中尉ってば。これは機密情報なんだからね。ばれたら僕がお仕置きされちゃうよ」
まだ射精の余韻で耳をひくひく振るわせながらシュレディンガーは言った。
「だからね、もっといいことして欲しいな、僕」
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「本当に仕方ありませんわね、あなたも充分淫乱ですわよシュレディンガー准尉」
そう言いながらまんざらでもないようにリップヴァーンは服を脱ぎ始める。
シュレディンガーもズボンをおろし、せわしなく上着を脱ぎ捨てた。
ベットの上に横たわるとリップヴァーンが上に乗ってきた。
少女のような体の少年の上に、少年のような体の女性がまたがる。
その姿を見て早くも勢いを取り戻しているシュレディンガーのものを
ゆっくりと腰を落としながらリップヴァーンは熱く潤ったその中に収めていった。
「さっきの話を聞きながら濡らしていたんだね、ほんとうにあなたは酷い人だよ中尉」
シュレディンガーの声はまるでからかうように彼女を挑発していた。
リップヴァーンはそれに答えてゆっくりと腰を動かし始める。
「あなただって本当に楽しそうに語っていましたわよ、准尉」
「ふふっ、僕たち酷いヴェアヴォルフ仲間だねっ」
そう言ってシュレディンガーも腰を跳ねさせる。リップヴァーンの体がその上で躍った。
「ああ、いいですわ。気持ちいいですわ。本当に素敵な子猫さん」
「僕も気持ちいいよ、中尉。中尉のこと大好きだよ、僕」
心にもない言葉でも、それを承知していても、女であるリップヴァーンには気持ちを高ぶらせる言葉だった。
どんどん腰の動きが激しくなる。
「もう、わたくしすぐイッてしまいそうですわ。だってあなたはこんなに可愛くて、あん、
淫乱で、ふぅあ、悪い子でっ」
呼応するようにシュレディンガーも腰の動きを早める。
「あん、イク、イキますわっ、わたくしぃっ」
そう叫びながらリップヴァーンはがくがくと体を縦にゆらし、果てた。
力が抜けたようにがっくりと体をシュレディンガーの上に落としてくる。
それを優しく受けとめながら、シュレディンガーはもう一つのお楽しみについて考えていた。
彼女のもう一つの顔のことを。
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「ねえ、リップヴァーン中尉」
抱きしめたまま耳元でそっとささやく。
「さっき言い忘れていたんだけどさあ、アーカードが再生した時の話」
まだ達した余韻で頭のはっきりしていないリップヴァーンの耳に言葉を注ぎ込む。
「彼は三つに寸断されながら、体中に目を持っていた。見たんだよ僕」
ぶるっと彼女の体が震える。
「それでね、コウモリになってゆらーっと起きあがってきたんだ」
それは子供に怖いおとぎ話を聞かせるような口調だった。
「でもその姿はね、人型じゃなかったんだよ。体中に目のあるオオカミの口が銃を構えていたのさ!
その姿はまるで魔王!!」
「ひぃっ」
リップヴァーンの体が動いた。逃さないように強く抱きしめる。
中尉はなにかこういった話が怖いらしいということに、以前の交合で気づいていた。
その時彼女は「魔王(ザミエル)」とつぶやいた。
どうやら魔弾の射手である彼女は戯曲の中に出てくる魔王が怖いらしい。
「あああ」
リップヴァーンの顔は先ほどまでとはまるで違っていた。顔は引きつり目が見開かれている。
怯えをはっきりと浮かべた顔が可愛らしい。
シュレディンガーは目を細めて笑った。
「大丈夫だよ中尉、僕が抱きしめてあげるから」
そういいながら、体を回転させ上下を入れ替える。
彼の下になった中尉はただ震え怯える儚い少女のようだった。その姿がたまらない。
シュレディンガーは彼女の足を持ち上げその間のくぼみに自身のものを挿し入れた。
「ほら魔王のことなんて忘れちゃいなよ。楽しいお楽しみをしようよ」
そういいながら好き勝手に自分のペースで挿入を繰り返す。
怯えている姿がたまらなく扇情的で興奮する。彼女の方はそれどころではないようだが、
それでも体だけは反応して彼のものを締め付けてきた。シュレディンガーにはそれで充分だった。
「大好きだよ中尉。傲慢で残酷な君も、怯えて震える弱くて可愛い君も」
そう言いながら一方的なペースで腰を動かし続ける。
リップヴァーンはすがるようにシュレディンガーに抱きつき、ただ体の動きを合わせてきた。
彼は充分に満足したところで彼女の中に精を放った。
+
すべてが終わった後、シュレディンガーは涙すら浮かべているリップヴァーンにそっと口づけする。
「ごめんね、中尉。嘘だよ、アーカードは普通に再生しただけさ、だって彼は吸血鬼で魔王じゃないもんね。
僕、中尉を脅かしてみたかったの。怖いお話すると中尉とってもいい顔するんだもん」
「本当に?」
聞き返す声は弱々しい。シュレディンガーはにっこりと微笑んだ。
「そうだよ、僕は悪い子猫さんだから」
ベットを降りて彼女のマスケット銃を持ってくる。すがりつくようにリップヴァーンはそれを抱きしめた。
「中尉にはその魔弾があるじゃない。撃ち落とせない獲物なんていないよ」
そう言って優しく背中をなでてやるとだんだん落ち着いてきたようだ。
シュレディンガーはリップヴァーンのことなど性のはけ口としか思っていなかったが、
残酷な猟師と魔王に怯える娘、その二面性だけは本当に好きだった。
「魔弾がある限り、君に近づける敵はいない。みぃんな撃たれちゃう。そうでしょ?」
リップヴァーンは目を閉じて大きく息を吐き、ゆっくりと口を開いた。
「そうですわね。わたくしは猟師リップヴァーン・ウィンクルですもの、
有象無象の区別なく、わたくしの弾頭は許しはしない…」
「そうだよ。おどかしちゃって本当にごめんね、お詫びに今日は大サービスするよ。何でも言ってよ」
心にもないことを言いながら、シュレディンガーは目を細めて楽しそうに
リップヴァーンが自分を取り戻していくのを見つめていた。
+
そして後日。
空母の甲板の上でシュレディンガーは見ていた。
猟師が魔王にのまれていくのを。
ザミエルに怯えて逃げまどう中尉は本当に可愛らしかった。
必死で恐怖を克服し、立ち向かい、捕まえられ、無惨に串刺しにされていく様は本当に美しかった。
最期に軽蔑していたトバルカインと同じように首に噛みつかれ、
快楽に溺れていく様は本当に素敵だった。
「じゃね中尉(リップヴァーン)」
悪い子猫はにっこりと笑った。
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