彼女と刃(後編)


私はそれから1年間、この長靴型の国を転々としたわ。
いろんな刃を手にした。そして人を切り裂いたり突き刺したりして血をすすったわ。

どうして1年も生き延びられたのかしら。
そうね、まず私は最後まで牙を使わなかったの。
ただ刃を振るって血を求めた。だって好きだったんですもの、刃が。
でもね、刃って繊細なのね。すぐに使い物にならなくなってしまう。
私が吸血鬼だからかしら。力を入れすぎて曲がったり折れたり、
血ならまだいいんだけど脂でべとべとになっちゃったり。あげくに錆びたり。
それも愛おしかったんだけど。まるで生きているみたいでね。私とは違うわ。
私、あまり手入れして長続きさせようとは何故か思わなかったわね。
切れなくなった刃は捨てて、また別の刃を求めた。使い捨て、まるで私みたいに。
もちろん買ったわけじゃないわよ。そういうお店でもらってきたのね。タダでね。
ついでにお店の人でお試しもさせてもらったりして。ふふ。
新聞や警察には「刃物殺人鬼」って言われたの。
でも吸血鬼とは言われなかったわ。私は牙を使わなかったからでしょうね。
だから1年生き延びられた。

ある日、私はやっぱりせっかくの刃を台無しにしてしまって、新しい刃を探していた。
それで一つの刃物に出会ったの。
最初は大振りのナイフみたいって思った。
でもあまりこっち風じゃなかった。東洋っぽかったの。それに惹かれたわ。
それから、これを言ったら笑われるかもしれないけれど、母の包丁みたいでもあった。
刃はほとんどまっすぐで、持ち手がちょっと曲がっていてね。
これを振り下ろしたらさくって刺さるんだろうなって思ったわ。もちろん人体によ。
だから私は手を伸ばした。展示用のガラスを突き破って、その刃を掴みだした。
アラームは鳴ったわね。だから何?
刃はしっくり手になじんだ。
新品じゃないわね。誰かが持っていた骨董品って感じ。持ち手がすり減っている。
でもしっかり研がれていたわ。それくらいは分かるのよ。もう何十本も使ったから。
前の持ち主は大切にしていたのね。飛び出してきた店主さんののど元を切り裂いて思った。
こんなにすっぱり切れるんですもの。ああ、素敵。
ついでに集まってきた何人かも切って、最後の一人は突き刺して。
たっぷり血を浴びて満足したの。きっとこのコとは楽しい事が出来るって予感がした。

私は街を駆け抜けて、ここ数日ねぐらにしていた郊外の廃屋に戻ったわ。
そして手に入れたばかりの刃を舐めた。血に金属の味がいいアクセント。
そうしながらGパンのファスナーをおろして、自分のあそこに手を入れた。
「うふ。ふぅん、、はぁ、、」
敏感な部分をはじいて、蜜壺に指を入れてかきまわして。
いい気持ち。幸せだわ。
誰かを引っ張り込んでもいいんだけど、なかなか一緒に刃を楽しんでくれる人っていないのよ。
自分で慰める方がいいって、最近はそう思うようになっていた。
……私は牙で血を吸わなかったから。あれって気持ちいいんですってね。
どんな吸血鬼の本を読んでも書いてあるわ。でもしなかった。私には刃物があったから。
「はぁ、ああ、んっ、あああっんん」
刃が血と脂と唾液でべとべとになっていく。私のパンティの中ももうぐちゃぐちゃ。
どんどん深くかき回していく。刃の血はもうなくなって、てろてろと輝いている。
それを見ながら私は達した。
「ああんっ」
私は後ろに倒れ込んで、大きく呼吸しながら余韻に浸った。
上にかざしていた刃が、手の力が抜けたからすとんと体の上に落ちてくる。
「はぁんっ」
さくって私に刺さったわ。おかげでもう一回いっちゃった。
そのまま満足して眠ったの。
もう本当にはしたないわよね。でもはしたない生き物なのよ、吸血鬼って。

次に起きたらまた夜。
もう日の光なんて何ヶ月も見ていない。見たくもなかったけれど。
今日はもっとこの刃を試してみようってそう思って、ねぐらから外に出ようとした。

その時、私の体に刃が刺さったのよ。別の刃。私の刃じゃない。
焼け付くように痛かった。こんなの刃の痛みじゃない。こんなの普通の刃じゃない。
「塵は塵に、ゴミはゴミに還れ」
そんな声が聞こえてきた。顔を上げた私の前に、大柄な男が立っていたわ。
両手に銃剣を持って。首から大きな十字架をさげて。
うふ、うふ、あははははっ。神父様ってわけ。悪魔祓いのエクソシストってわけ?
どうして今更来るのよ。1年遅いじゃない。
私は後ろに飛んだ。また一本刃が私を貫く。
痛いわ、とても痛い。ひりひりする。こんなの自分で切った時にはなかったわ。
どうして、どうして。でも、でも、そうね、これも気持ちいいわね。
「あははははっ」
私は笑った。笑いながら左手をはだけたままのGパンからあそこに突っ込んだ。
体に突き刺さった刃のせいでバランスを崩して地面に激突して、
のたうち回りながら、左手はあそこをかき回し続けた。
そうしながら右手で体に刺さった刃を抜いた。
「汚らわしい淫売め」
神父様は激怒したみたい。いい気味だわ。
あなたにはわからないんでしょうね、この快感。神父様って自慰も禁止だったかしら? ふふ。
好きよ、私は刃が大好き。この刃は私への憎しみに満ちていて、固くて太くて大きくて、
とっても気持ちいいわよ! 神父様。

もっと刺してご覧なさいな。私は立ち上がりながら、右手で上着を引きちぎった。
シャツもブラも破り捨てて、裸身をあらわにする。
さあ、どこにでも突き刺して。心臓じゃないほうがいいわね。まだまだ楽しみたいもの。
私、まだ20年も生きてないのよ。
何本も何本も刃が飛んできたわ。それを交わしながら、床に落ちたままの私の刃を取り上げた。
避けきれず刺さったものもあったんだけどね、いいのよ心臓じゃなければ。
右の乳房や脇腹や、そんなのいいの。もう人じゃないんですもの。
気持ちいいだけ。もっともっと私を突いて、どこもまでも突き上げてよ。あはははは。

ふう。でも、体が重い。そうね、こんなに刃が刺さって、こんなに血を流していたんじゃね。
死ぬのかしら。死ぬのね。なら、その前に楽しまないとね。
「神を冒涜する汚らわしい化物め」
そんな言葉、私には聞こえない。意味がない。神様がいるなら1年前に来ないとね。
私は窓枠に腰掛けて神父さまに向き合って、さらにGパンをずりさげた。パンティごとね。
そして大きく足を広げて、秘密のあそこを見せてあげた。
「うふ、うふふ」
そっと左手でしたたり落ちる蜜をかきまわす。
ねえ、ここにも突き刺してくれる? 神父様。

神父様は怒りの声をあげて両手の刃を振りかざし、こちらに向かってきたわ。
窓枠に腰掛けて、足を広げた私が逃げられるわけはない。
でもただ一つ。右手には私の刃があった。
左手の蜜を自分の血と絡めて、精一杯伸ばした舌で舐めながら、
私は神父様の目を見て笑った。さあ、刺してご覧なさいなって思いながら。
そして寸前で右手を突き出した。

左の乳房に刃が刺さる。何かがぷつんと切れる音が聞こえた。命の切れる音ね。
いえ、私はもう死んでいた。1年前に。でも何故か存在し続けた。その理由が切れる音。
もう一本は私の額に刺さったわ。面白い体験ね、見えるんですもの。
自分の目の上に深々と突き刺さった刃が。自分じゃ出来ないわ。
最後に、私の刃は神父様の胸に刺さっていた。ざまあみろ。

私の体はゆっくりと傾いて、人形の様に地に落ちる。
人形だったのよ。1年前からずっと。刃の好きなお人形。
私の刃はどうなったのかしら。薄れゆく意識の中でそれだけが気になった。
多分それだけが私をつなぎ止める何かだったのね。
最後の未練をあざ笑うかのように、かたんと投げ捨てられるものがあった。私の刃。
……錆びている。たった1日で錆びちゃうコだったのね。私みたいね。
神父様の血にまみれて鈍く光っている。錆びていたんじゃ仕方ないわね。
道理ですっとは神父様の体の中に入ってくれなかったわけだわ。
すっと、ねえ、その感覚が好きだったのにねえ。最後まで吸血鬼の力ずくだなんて。
ふふ。本当にもう、仕方ないわね。ごめんね。

あとはもう、何も無かった。
朝になると吸血鬼の少女は塵に還り、朝になる前にアンデルセン神父の傷はふさがっていた。
ただ、ほんの少し彼女の刃の錆びが彼の体内に残った。本当に、それだけ。


*このSS作成にあたっては、某刃物な方から多大な助言をいただきました。

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