進め!? ヘル学電脳研究部「秋のシュレ君総受け祭り」
すっかり暗くなった夜の学園を電脳研の三人と文学部の部長が肩を並べて歩いていた。
心なしかハインケルと古奈美と奈夢子の足元が覚束無い。
「やり過ぎなんだよお前らは、いい加減限度というものを知れよ」
苦笑いして寺門は三人をからかう。
あれからまた三人はくんずほぐれつ、挿したり挿されたりを繰り返していた。
「それより同盟するはいいが何か当てはあるのか?」
「正直ないなあ~」
生徒会執行部対策の話である。
現シュレディンガー政権は強固な政治基盤を誇る。
圧倒的多数の女生徒と一部男子生徒の熱狂的とも言える支持を得て学園に君臨している。
これではリコール請求どころか、その為の署名集めも不可能だ。
「あのショタ会長の裏の顔を知らないから皆平気で支持出来るんだ。
この際裏の顔を大々的に宣伝してまわるのはどうだ?」
「ダメだ、肝心の証拠が無い、下手にやると奴をデスピサロ級の悲劇の主人公にしちまう」
頭を抱えてとぼとぼ歩く寺門部長とハインケル部長の目の前に突然第三の部長が現れた。
より正確には第三の部長の生首だが。
「私に必勝の策がありましてよ!! 私にお任せくださいましっ!!」
「うわっ ビックリした! なんて所から突然首だけ出してんだお前は!」
唐突に前方の生垣からリップヴァーンが首だけにょっきり出して叫び、
思わずハインケルは後ろに飛び退いてしまった。
「なんて所も何も、ここはアーチェリー部の練習場前ですわ。
首だけで失礼しますわ皆様、ワタクシ今手が離せない状況ですので。
実は私も生徒会執行部には思うところがありますの。
部費が削られまくって、このままでは他校遠征試合も出来ない始末。
せっかく部員が増えたのにこのままではいけないと思いますの。
皆様が会長と対決されるのであれば及ばずながら私もお手伝いしますわ」
アーチェリー部の主将はその必勝の策をとうとうと述べる。
最初寺門部長は埒も無い策だと思ったが、次第に存外な名案では無いかと思いだした。
「なるほど…幸いウチにも文学部にもその手の人材は揃っている。
また会長の目の敵にされてるアニ研や漫研にも協力を仰ぎやすい…」
「私もいますわ! 弓矢だけが能ではありません!」
「面白い、私は賛成だな」
「では明日から早速行動を開始する。最終目標はシュレディンガー会長の打倒!」
オーッ! とその場にいた5人は右腕を突き上げて掛け声をかけた。
4人は制服に装われた腕を、一人は何も身につけない素肌を晒した腕と肩を。
「あのォ~ リップさん!? ひょっとして今…」
「あら…」
「チキショ――――ッ!! この学校の婦女子はときめいてばっかかよ!」
驚愕の表情で古奈美に何を指摘されたリップは慌てて生垣の向こうに消える。
多分にトキメいていらっしゃる最中だったのだろう。
何にせよ、電脳研・文学部・愉駄・アーチェリー部連合軍による
生徒会執行部反抗作戦の準備が整った。
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翌日のこと、生徒会長シュレディンガー君は得意絶頂の中にいた。
「あははははッ! あのハインケルが寺門に敗北ゥ~?
しかも尻尾を巻いて図書室からも逃げ出すとはねえ~」
あくる日早朝にハインケル「部長」は数少ない部員に図書室からの撤退を指示する。
「うふふふッ! これで『愉駄』の壊滅は時間の問題だね。
これに免じて電脳研の御取つぶしは一番最後にしてあげるよ」
興奮した会長は配下の風紀委員会だけでなく美化委員会まで動員して「愉駄」討伐に全力を注いだ。
だが後世の歴史家はこれから一週間がシュレディンガー生徒会長の
権力が絶頂期であったと指摘する。つまり一週間後に彼の構想が全て瓦解したのだ。
生徒会長が薔薇色の学園生活に違和感を感じ始めたのは、文学部が図書室を放棄してから一週間後のことであった。
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その日に彼、シュレディンガー君は内心では必ずしも嫌ってはいないが、
派閥次元では怨敵ということになるインテグラ先生の英語の授業を受けていた。
「それでは120ページの三行目を訳してもらおう。
今日の出席番号順では……シュ、シュ、シュレディンガーっの順番だったな。
ああっいやすまない、ちょっと思い出し笑いを…ふ、ふふふ ハハハハッ!」
シュレディンガー君の顔をまともに見るや、
インテグラ先生は教壇に突っ伏して腹を抱え笑い始めた。
途端にクラス中の女子全員と一部の男子も遠慮なく笑い出す。
いつも謹厳実直な授業方針のインテグラ先生にしては珍しい事だった。
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「何だったんだろ…人の顔を見て笑い出すなんて酷い人だなあ」
西風が心地よい校庭を一人とぼとぼ歩いていたシュレディンガーは少し憤慨していた。
だがインテグラ先生だけではない。なぜか学園中の女生徒の視線が変なのだ。
いつも憧れと熱っぽい視線を浴びて、毎日下駄箱に恋文が2ダース以上入る彼にとって、
「見られている」のは別に珍しい事でもなんでもない。
だがその視線に好奇心と何やら歪んだ劣情が込められていれば話は別だ。
そしてその視線は時を追うごとに強まる一方であった。
そんな気になる事態の答えを抱えた運命の使者が、
たっぷんたっぷんと乳を揺らしながら大きい紙袋を大事そうに手にして向こうから走ってくる。
そはかの人か、花より花へ。今日も元気一杯なセラス・ヴィクトリアさんだった。
「コンニチワ!」
「あ、あっ コンニチワ…」
(まただ! 一体何なんだ!?)
シュレディンガーが挨拶をすると、いつもは陽光が踊る笑顔を振りまきながら挨拶を交わすセラスさんが、
何故か今日に限って狼狽していた。
どうやら彼女もインテグラ派についてしまったらしいが、
彼とて公式見解では無派閥中立公正ということになっている。
それに彼女の表情は真実を知ってしまったゆえの嫌悪感は微塵もない。
「どうしたの? 顔色が悪いよ」
「え、ええッ なんでもないよ、元気だよ。ほら!」
白々しくその場でヒンズースクワットを始めるセラスさん。紙袋を抱えたままで。
(あの紙袋が怪しい…)
そう直感したシュレディンガーはさっと手を伸ばしその紙袋の隅を掴む。
「重そうだから僕が持ってあげるよ♪」
「だ、大丈夫だからっ ホ、ホントよホント。あ、ダメェッ! 引っ張ったら…あッ!」
紙袋はシュレディンガーの掴んだところから裂けてしまい、中身が派手に散らばってしまった。
「ゴメンゴメン♪ すぐ拾うからねえ~ ところで何ナノかなあ……何これッ!!」
シュレディンガーが目にした物は小冊子の上に描かれた地獄絵図だった。
余りにもおぞましいその修羅場をあえて文章にするならば、
『地下闘技場のど真中で範馬勇次郎と愚地独歩に輪姦されるシュレディンガー』
『スタープラチナにバックからオラオラと犯されるシュレディンガー』
等の男キャラどうしが抱き合っている珍奇な本ばかりだった。
変わった点があるとすればそれは必ず生徒会長が登場する点であったろう。
シュレディンガーは猛烈な勢いでセラスさんの肩を掴んだ。
「な、な、何これ何!? これみんな君が書いたの!?」
「ち、違う、違うよっ!! これ売ってたの、体育館裏で!」
耳まで真っ赤にしながらセラスさんは必死に否定した。
やばいお下劣いやらしい略してヤオイな本を所持しているのを、
見つかっただけでも恥ずかしいのに、寄りによってネタにされた本人に見つかるとは…
「誰が! 誰がこんな物を!」
「し、知らないよ、皆変な覆面して販売していたから…あ、でも…」
思い当たることがあり一瞬口から出かけたが、何分それは他人を売ることにつながる。
セラスさんの性格でそれは難しい。
が、シュレディンガーは彼女の視線がその小冊子のある場所で止まっているのに気付く。
『 自由やおい同盟 最高評議会議長R 』
セラスさんの知り合いで「R」のイニシャル、かつこの手の本を書きそうなのは…
「あ、あいつかあああああああっっっっっっっっっっ!!!!」
全ての謎が解けた生徒会長は奇声をあげながらまっしぐらに体育館に走る。
「ああっ! 私の本返して~~~ッ」
怒り狂った生徒会長が右手に掴んでいたのはセラスさんが一番お気に入りだった、
『ミラクルさんのお小姓の座を巡ってミンツ君とキャットバトルのシュレディンガー』
のアレな冊子であった。
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「探せ! 草の根分けても探せっ!
奴らは今も何処かで僕を貶める同人誌を販売しているんだぞ!? 生死はこの際問わない!」
無茶な命令をかっ飛ばす生徒会長に生徒会役員や風紀委員達も困惑した。
「自由やおい同盟」を呼称する反乱軍は完全に生徒会側の動きを探知しているらしく、
生徒会長先頭に一斉摘発に乗り込んだ風紀委員達が目にするものといえば、
そこで大規模な商取引が行われていた跡だけだった。
だが遂に風紀委員会はこの「救学園ヤオイ会議」の尻尾を掴むことに成功した。
近隣の製本所を虱潰しに探索し、会長が悪意と偏見で目星をつけた人物が発注した商品を、
受け渡される前に押収することに成功したのである。
また風紀委員会はこの製本所によく出入りした人物の特定にも成功した。
それらや被害状況をまとめたレポートが生徒会執行部に提出されたとき、
シュレディンガーに忠実な生徒会役員達は重苦しいため息をついた。
敵対勢力の陣容が想像以上に厚いのだ。
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生徒会長室にその「自由やおい同盟」の黒幕たちが三人肩を並べた。
一人は電脳研究部の寺門部長
一人は文学部のハインケル部長
一人はアーチェリー部のリップヴァーン部長
他にもアニメ研究会や漫画研究部、
何故か剣道部に学園最大の非合法組織「愉駄」も風紀委員会から関与を指摘されていたが、
特にこの三人の主導である事が分かり彼らが喚問されたのだ。
シュレディンガー生徒会長が三人の足元に冊子とレポートを投げつける。
冊子の表紙には、
『シュレディンガー総受祭開催中!! ~かまうものか、思いついたもので手当たり次第に犯っちまえ!!~』
と書かれていた。
ハインケルの口が思わず綻ぶ。
このデンジャラスなキャッチコピーを考えたのがあの大人しい由美子なのだから。
レポートを寺門が拾い上げぺらぺらめくり、両脇の二人が覗き込む。
そこには今まで風紀委員会が掴んだ限りの「カップリング」の片割れが列記されていた。
もう一方は「シュレディンガー総受」なのだから明記する必要がない。
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<風紀委員会報告「カップリング」明細>
・蜷川新右衛門 ・フリーザ ・八神庵 ・チョコラータ ・ギース=ハワード
・神エネル ・ジャイアン ・ポルコ=ロッソ ・死神博士 ・ザビ家三兄弟
・ブラウンシュバイク公&フレーゲル男爵 ・銭形警部 ・セフィロス
・クール星人&ガッツ星人 ・坂本ジュリエッタ ・フグタマス夫 ・名犬ジョリー etc
なお複数表記はいわゆる輪姦物である。 風紀委員会
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この風紀委員会報告書と茹蛸の様に顔を真っ赤にして怒り狂う生徒会長を見比べて、
正直三人はその場でぶっ倒れて笑い転げたかった。
この報告書を作成した委員は真面目な顔をして、
「フリーザ攻め… ジャイアン攻め… 銭形攻め…」
とカウントしていたのであろうか?
それにしてもこのカップリングの選択基準は一体何なのだと寺門とハインケルは呆れた。
製作総指揮はリップヴァーンに一任、綾瀬と由美子が補佐についたので彼らは中身まで知らなかったのだ。
「言い訳があったら聞こう!」
居丈高にシュレディンガーが叫ぶ。
ハインケルとリップヴァーンと寺門はそれぞれ陳述を始めた。
「チョコラータはキツイな~ せめてポルナレフに…」
「私的には八神庵より草薙京様の方が好みですわ!!」
「ガッツ星人はともかくクール星人にち○こついてんのか?
空想生物学の必要を感じさせる奥の深い話…」
「誰が内容やカップリングについて語れと言ったっ!!」
拳を机に何度も激しく叩きつけ、シュレディンガーはこれ以上の彼らの発言を制した。
「お前らが僕の名誉を著しく傷つけたのは分かっているんだ!
廃部! 廃部! 廃部! 廃部! 廃部! 廃部! お前らの部は廃部だッ!!」
猛り狂う生徒会長をにやにやして冷やかしながら、寺門部長が静かに話し始めた。
「実は今度うちの親戚が来年夏コミのブースを確保したらしい」
「それがどうした!」
「で、その親戚がいうには『シュレディンガー総受祭』がいたく気に入り、ぜひ参加してくれと要請が来てー」
「おい、まさか… おいぃっ!!」
狼狽する会長にハインケルとリップヴァーンが追い討ちをかけた。
「部が無くなったら、部員はコミケに集中できてちょうどいいってさ」
「アーチェリーが無くなったら私同人誌を書くことしか他にすることがありませんわ」
「全国デビューおめでとうシュレディンガー会長」
「おめでとう」「おめでとうございます」
「や、やめてくれえええええええええええっっっ!!!!」
悲痛な絶叫をあげる生徒会長にさらなる追撃。
「え~でも部室無くなっちゃったしー」
「ブタさん部費がないから同人売って部費ッ 部費ッ!」
「俺様ちゃんは部のパソがもうぼっこいの~買い換えたいなー」
どさくさに紛れて寺門部長とリップヴァーン部長は当初の図書室奪還だけでなく
部費の増額まで無心してきた。これはもう立派な脅迫といってよい。
「部費の増額も部室の新設も僕の一存では………」
もはや完全に意気消沈したシュレディンガー会長に、
寺門部長は机の上の内線電話を掴んで差し出し言い切った。
「なら話は早い。ちゃっちゃと白豚に一本電話入れて、
適当なこと言って泣きをいれろやショタ会長。ものの10分とかかんねえだろ?」
こうして文学部は無事に新しくなった図書室を奪還し、
電脳研究部とアーチェリー部は潤沢な部費を分捕ることに成功した。
生徒会長は何とか「全国デビュー」だけは阻止できたが、
既に流通したブツをせっせと風紀委員会が押収するのに
精一杯でとても報復戦に訴える余裕はなかった。
オマケ:進むな!! ヘル学以下略。「ヤオイスキーの野望全国版」
生徒会執行部相手に縦横無尽の活躍をした「自由やおい同盟」は、
双方の陣営がこれ以上の戦禍を押さえる為と称して、
生徒会が造反した部活を不問にする交換条件として解散した。
そう、解散したはずだった…
薄暗い地下の一室、もはや一部の人間以外誰もその存在を知らないはずのその一室に彼女らは参集していた。
「Z先生…… 今日の議題はなんですか…」
「うむ、Rよ、もはや我らは完全に非合法な存在となってしまった…
そこで摘発を逃れる為の名案が無い物かと諸君らに集まってもらった…」
「提案、コスプレによる偽装」
「流石はコスプレメ~ニアのAだ。ところでどんなのが考えられる?」
「…セフィロス寺門部長…」「…クラウド司…」
「ステッキー、KもNもセフィロス党代表を称するだけはありますわ」
「…ありがとうR部長殿、ところでR部長は何かある?」
「…ハインケルと由美江の強制男体化」
「あ、ハイはともかく由美江は勘弁…」
「カハッ カハッ 顔が同じYにはきついな」
彼女らは超党派で同じ趣味の愛好家として参集し、互いの萌えを語らいあい、
その結果を表の世界に少し流して楽しむ新しい組織を結成した。
その名も「最後のヘル学ジュネ系同人サークル」
代表には同僚の英語女教師の机に平気で読みかけの同人誌を置きっ放しに出来る
Z先生が就任、今日も彼ら本人達の与り知らない場所で彼女らは赤黒く萌え盛っていた。
―― ギャフンEND ――
ときヘルindex
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