ゾーリン先生の授業


私立ヘルシング学園第三理科準備室。
別名アウシュビッツ理科準備室。
本校生徒たちからかかる物騒なあだ名で呼ばれたその一室がドク先生の本拠地であった。
この準備室がとんでもないあだ名をつけられた理由は二つ。
まずこの準備室の中自体が薄気味悪いからであった。
ホルマリン漬けの標本や怪しい液体の入ったフラスコ。
使いすぎで所々色の落ちた人体模型等々、その手の舞台装置が揃い過ぎていた。

今ひとつの理由。
それはこの部屋の主人たるドク先生にある。
薬品類で汚れた白衣に妙なオカッパ頭、度の強そうな眼鏡に甲高い声。
「マッドサイエンティストとは何か?」
という問いの、歩く答の様な彼の存在がこの準備室を生徒達から遠ざける理由になっていた。

このアウシュビッツ理科実験室でドク先生は珍しいお客さんを迎えている。
同僚教師のゾーリンブリッツ先生だった。

「で、用件はなんだったかな、ゾーリン先生」
ガスバーナーとフラスコで淹れたコーヒーをすすりながら、
ドク先生はゾーリン先生に尋ねる。
「飲みますかな?」
一応紳士を自任するドク先生はそのコーヒーをゾーリン先生にも勧めた。
「あ、いえ結構です。次の授業がありますんで」
ゾーリン先生はそう答えたが、理由は別にあった。
そのフラスコが元はどんな薬品を入れていたか分かった物ではないし、
何より妙な薬品の実験の為にモルモット代わりに使われたのではたまったものではない。
ゾーリン先生はやおらドク先生に来訪の理由を告げた。
「何、そんな難しいことじゃないんですよ。
授業で使うんで、少し大きめの試験管を40本ばかり借りたいんです」
「ほほう、試験管を?」

ドク先生は首をひねった。
それもそのはず、ゾーリン先生は体育教師であり、
ゆえに体育系であり、理系の象徴的存在たる試験管などとは縁が遠いはずであった。
本来派閥を同じくするゾーリン先生の要請に二つ返事で、
「はい分かりました。そこにありますので持って行って下さい」
で良いはずである。

ただ科学者の常とてドク先生は好奇心が強すぎた。
「試験管を一体何に使うのかね? 体育の時間に使うことは無いと思うのだが」
ゾーリン先生は実に無造作に答えた。
「保健の授業で使うんですよ」
「保健の授業? 一体また何に? 何かの実験かね」
「いえねぇ、性教育の一環でスキン、コンドームの装着演習をしたいと思いまして、試験管を男のアレに見立てて…」
「 断 る !! 君は神聖な実験器具をなんだと心得ているのかね!?」
「いや、私にそんな事言われてもね。
どうせなら性教育に注力するよう指導要綱を変えた文部科学省に言ってもらいたいですな」
「まったく! ゆとり教育だのなんだのと、文部省の役人のやることは…」
「ま、そういう訳なんで借りてきますわ」
目聡く見つけた試験管の入ったかごを抱えたゾーリン先生は、
怒り狂うドク先生を放置してアウシュビッツ理科準備室を退室した。
「あッ これ待ちたまえっ ゾーリン先生! まだ貸すとは…
ったく! あいも変わらずのゴーイング・マイ・ウェイだな…」
開けっ放しのドアを呆然と見つめながらドク先生はぼやいた。

 #

キーン〜コーン♪ カーン〜コーン♪
「起立! 礼! 着席!」
今日も眼鏡とソバカスが麗しいリップヴァーン委員長の号令で授業が始まる。
今の時間は保健体育なので、男子と女子が分かれて二つのクラスが合同で授業をする。

ゾーリン先生は面倒くさそうに出席簿を広げた。
「出席を取るぞ、セラス・ヴィクトリア〜」「はい!」
「リップヴァーンウィンクル」「はい」
「ハインケル・ウーフー」「ウッス」
「高木由美子〜」「はーい」
「高木由美江」「へーい」
「○×△□―」「はい」「エトセトラえとせとら〜」「はい」
………
「それでは授業を始める。今日は避妊についてを教えてやるからな〜」
「うわ〜」「キャーキャーキャー」「卑猥ですわ…」
「カハッ カハッ カハッ まあ今日の授業はある意味三角関数や、
いくひとしぬよ(1914)第一次世界大戦な年号の暗記法より実生活で役に立つはずだから、
ありがたい私の話を耳をカッポじって聞くように。
ではまず教科書を読んでもらおうか。
え〜と、よし由美子、93ページを頭から読め」
「あ、は、はい。… 受胎調節にはいろいろな方法がありますが、 受胎調節の条件としては、
 1.避妊効果が高い
 2.性感をそこなわない
 3.副作用や危険がない
 4.可逆的である(やめれば、また妊娠ができる)
 5.だれにでも容易に使える
 6.男性の協力なしで女性の意思のみでも可能である
などがあります」
「よし、そこまで。さて…」
ゾーリン先生はぐるりと教室内を見回し、それから口を開いた。
「受胎調整、まあようするに避妊だわな。
それではお前らが知ってる避妊法を答えてもらおうか。
えーとそれでは、セラス! 答えろ」
「え、は、ハイ! えーと、そのぉ」
顔を真っ赤にしたセラスは勢いよく立ち上がった。目が左右に泳いでいる。
「こ、コ、コ、コン、コン、コン」
「はあぁ〜? 聞こえんなぁ。お前は鶏か狐か?」
「コンドームですっ!」
「その通りコンドームだ!! よくぞ分かったセラス・ヴィクトリア、座っていいぞ」
少し呼吸を乱してセラスは着席した。
「まあ他にもピルや基礎体温法や殺精子剤なんぞもあるが、
今日はもっとも基本的なコンドームの装着の実演演習をする。
ここに試験管とコンちゃんがあるから各自一組ずつ持っていけ」

がやがやとざわつく生徒をゾーリン先生は手を叩いて静める。
「みんな一本ずつ持ったか? あと各自コンちゃん一個ずつ持ったよな?
それではその試験管を野郎の一物に見立ててコンちゃん装着の練習をするぞ。
リップヴァーン、袋を破いて出してみろ」
「は、はい。…これでいいでしょうか」
慣れない手つきでギザギザの部分から袋を裂き、中のゴム製品を引っ張り出す委員長。
眼鏡の奥のほおが赤く染まっていた。
「よし、出したら次はその先っちょにある突起をつかめ」
「は、はい」
「そこが精液だめ。野郎がいった時、そこに液がたまる。
そいつに空気が残らないように摘まんでひねるんだ」
ゾーリン先生の言われるままにリップヴァーン委員長はひねった。
その彼女の瞳が潤んで見えたのは目の錯覚であろうか?
リップヴァーン委員長が指示どおりにしたことを確認して、
ゾーリン先生は試験管の底を委員長に突きつけ次の指示を下した。
「この先にコンちゃんをかぶせろ。
乱暴にするなよ、割ったらドク先生に私が叱られるからな」
無言でリップヴァーンはそのゴム製品を試験管の底にかぶせる。
「こ、これでいいですか!?」
「うむ。そいつを下におろせ。根元までなァ」
リップヴァーンの白い手がゴムをしごきつつ冷たい試験管をなぞる。
ドク先生曰く、神聖な実験器具はこうして薄いゴムに包まれた。
「よーしうまくいった。みんな見てたな〜各自こんな感じでやってみろ」
「ハーイ、先生質問!」
「なにかな? ハインケル」
勢いよく手を上げたハインケルにゾーリン先生が振り向く。
「男のアレが、この試験管みたく硬くなかったらどうするんですかぁ?」

どこの学級にも、必ず一人はこの手の困った生徒がいる。
これに対する先生には通常三タイプが存在するように思われる。
1.激昂逆上タイプ
ふざけて羽目を外した生徒を叱責し、授業を通常通りに遂行する先生のタイプ。
当ヘルシング学園でその典型がインテグラ先生。
例:「うるさい!! バカ!! 知った事か!! さっさと言われた事をやれバカ!!」

2. 生真面目対応タイプ
言った生徒は面白半分の冗談なのに、言われた自分が真面目に答えるタイプ。
往々にしてからかわれやすいタイプでもある。
ヘルシング学園ではドク先生がそれに該当するであろうか?
例:「それでは皆様お手元の教科書をごらんくださーい。
勃起するときは、陰茎海綿体と尿道海綿体は別々にふくらみます。
これは性的興奮によるものと外部要因による刺激によって起こりますので…」

だが、今ハインケルの卑猥な質問の矢面に立たされているゾーリンブリッツ先生はどちらにも属さない。
彼女はこう答えたのだ。

「 く わ え ろ 」

「はっ!? 今なんと――」
「くわえるんだハインケル。そういう場合はな。知らんとは言わせんぞ」
ゾーリン先生は黒板に向って白のチョークでデカデカと大きく書き殴った。
『 フ ェ ラ チ オ 』と。
「これで可愛がってやればインポで無い限り大抵の男は問題ないはずだ。
なんだハインケル? そんな呆けた顔をして。
ははーん、さてはお前知らなかったんだな? 意外に純情だな。
よし分かったっ! 今日はまずそこから教えてやろう。
みんな試験管を手に持てぇ、底の方を口先に持っていけ」

3.セクハラ倍返しタイプ
ふざけた質問をした生徒が泣いて許しを請いそうな猛烈な勢いで、
セクハラ発言を連発し、尚且つ実演してしまう危険なタイプ。
往々にして先生自身の手で授業進行を破壊してしまう。
ゾーリン先生は、同僚のベルナドット先生と共にこのタイプの両巨頭であった。

「なんだよ〜そんなに睨むなよ、私が悪いんじゃないって。
ゾーリンがイカレてんだからよぉ、なあ由美子ォ〜」
別に由美子だけがハインケルを睨んでいたわけではない。
ほぼ全女生徒の目が非難がましい視線をハインケルに突き立てていた。
あの穏健派のリップヴァーン委員長がギラギラした目で睨んでいるのが事態の深刻さを物語っている。
ただ中には、セラスや由美江の様にまじまじと試験管を注視し、
思い詰めた表情を浮べている者もいた。

教壇で仁王立ちしたゾーリン先生の講義が始まる。
「よし、みんないいか。まずは舌でなぞって舐め回すところから始めるぞ。
由美子、お前やってみろ」
「え、えっ 私がですかぁ」
ひるんだ由美子もゾーリン先生の眉が急角度になるのを目撃して、仕方無しに赤い舌をペロッと出した。
透明な試験管の尖端を、由美子の舌がそろそろと這う。
たちまち試験管は白く曇り始めた。
「そうそう、すみずみまで舐めろ。先っぽは敏感だから注意するんだぞ。それではみんなも始めろ!」
ゾーリン先生の号令で教室に集う女生徒全員が試験管を舐めまわし始めた。

「よ〜し、始めはそんな塩梅だ。次に進むぞ。セラス、試験管を口に含めろ」
「こ、こうですかァ」
慌てたセラスは試験管を口に放り込む。
中でガラスが歯にあたり、カチッと硬質な音が彼女の口の中からした。
「おいッ! 歯をたてるんじゃない、馬鹿者が!
下手糞の分際であんまりおいたが過ぎると、相手の男をブッ殺しちゃうわよセラスちゃん」
「ご、ごめんなさい!」
「まあいい。始めは舌を使って包み込むようにしてみろ」
「はいっ」
真剣な眼差しで試験管と向かい合い、今度は慎重にそれを口に含むセラス。
「やれば出来るじゃないか。次は口から出したり入れたり、唾をつけてすするように動かしてみろ」
「んうっ もごっ んふ んくっ ぷぱっ」
「うわぁ」「す、すごいですわ…」
穴が開くような熱心さでリップヴァーンと由美江がセラスを見詰めていた。

異様な熱気が教室を満たし始める。
そんな中ゾーリン先生はハインケルの名前を呼んだ。
「よしハインケル、次はお前の番だ。
試験管を激しくピストンさせろ、尖端を舌で上下左右に転がすのも忘れずにな。
試験管を手でしごくようにこするともっとよい」
「な、なんで私がそんなことしなくちゃ…」
「言いだしっぺはウーフーでしょ!? 責任とってやりなさいよ」
ひるむハインケルを由美子が釘をさす。
恥ずかしい思いをするものは一人でも多いほうがいい。
汗ばむ両手をそえて、ハインケルは試験管をくわえる。

「うぐっ おごっ んも はぐっ ふあっ ふぐっ」
ハインケルのくちびるの間をガラスの試験管が素早く行ったり来たりする。
透明なため注意してみれば、彼女の口の中で舌が複雑にうごめき、
上に下に、右に左にと動き回っているのが見て取れる。
そんな彼女をクラスメートや隣のインテグラ組の女生徒がジッと観察している。
ハインケルはかかる仕打ちに自分の発言を後悔し、少し涙ぐんだ。

「よおし、これで最後だ。由美江、試験管と口の中を間が空かないくらいに強く吸い込め。
舌を強くあてながらどんどん吸い込むんだ」
「こ、こうか!?」
由美江はやおら試験管をくわえると口をすぼめ、
舌を冷たい試験管に貼りつかせて激しくピストン運動させる。
瞬く間に試験管が由美江の透明な唾液にまみれててらてらと光りだした。
「よしよし、そんな感じ。みんなもこの要領で始めろ!」
ゾーリン先生の号令のもと、可憐な40人のセーラー服の乙女達(一部例外あり)は、
一心不乱に試験管を舐めたり、しごいたり、吸ったりした。

 #

「一体全体、あいつはどういう性格してんだっ まったく!」
机の上にふんぞり返り、ハインケルは一人憤慨していた。
傍らにいる由美江がなだめる。
「しょうがないだろ。ああいう豪快な性格してんのは分かりきってたんだから。
そんな猪突猛進教師にあんなネタ振る奴が悪い」
「何だよ由美江ぇ〜えらくゾーリンの肩を持つじゃないかァー」
「そ、そうか!? 気のせいだろ、きっと。ところであいつら何やってんだ?」

きな臭い方向に話が向き始めたので由美江が話の流れを変える。
彼女の視線の先で、由美子とリップヴァーンとセラスが何やら作業をしていた。
「何やってんだ、お前ら?」
「あら、ハインケルさん。ドク先生に返却するために、
試験管からその、このゴムを外して洗おうとしているところですのよ」
代表してリップヴァーン委員長が答える。
「みんなで舐めちゃったし、そのまま返すのも問題だから」
由美子もそう付け加える。
「ゾーリンがそうしろって言ったのか?」
「ゾーリン先生は大雑把な人だから、ただアウシュビッツ理科準備室に返して来いって」
「ならそんなことする必要なんかないじゃんかセラスよう」
「そんな訳にはいかないと…」
「ああもうッ! お前ら真面目すぎるんだよ、私と由美江で返してくるから、それをこっちに渡しな」
「でも…いいのかなぁ、そんなんで」
なにやら渋るセラスをリップヴァーンが制した。
「せっかくハインケルさんが片付けてくださるとおっしゃっているのだから、お任せしていいのでは?」
「ううん、委員長がそう言うなら…でもいいのかなホントに」
なにやら嵐の前触れの予感を感じるセラスであった。

 #

「おい、どうするよ」
「どうするって言われても由美江、どうしようもないじゃないか」
「あら、扉に鍵がかかっているのでは仕方ありませんわ。
入り口前に置いておけばドク先生も気付かれるでしょう」
「えらく捨て鉢なこと言うようになったなあ、インテグラ組の委員長」
「えらくおしとやかになったマクスウェル組の木刀小町には負けますわ。
それより早くしないと、次の授業が始まりましてよ。私、それまでに戻らないと」
是非もなしと、リップヴァーンとハインケルと由美江は、
ゾーリン先生がドク先生から借りた試験管40本を理科準備室の前に置き去りにして足早にその場を立ち去った。

ドク先生にとっての惨劇はこうして準備されたのだった。

授業が終わり、少佐教頭のところにも詣でてご機嫌伺いもすんだ後、
アウシュビッツ理科準備室に戻ったドク先生の眼前にとんでもないものが転がっていた。
「なんじゃこりゃぁッ!」
思わず手にしていた書類全てを落とし、準備室の扉の前に置かれたかごに駆け寄る。
そこには何やらべとついて、コンドームが装着されたままの試験管40本がそのまま安置されていた。
「お、おのれゾーリン! なんたる仕打ち!」
ドク先生は両手に一本ずつその試験管を握り締め、不埒な体育女教師を問い詰めんと後先を考えずに突っ走った。

「き、君たち! ここらでゾーリンを見なかったか!?」
肩で息をしながらドク先生はたまたま通りがかった女生徒に
怨敵ゾーリンの居場所を尋ねる。
だが求める答えの代わりに、廊下一杯に響き渡る悲鳴が返事として帰ってきた。

 #

その日ペンウッド校長は文部科学省の偉いお役人を連れて学園内を案内していた。
広大な敷地に最新鋭の設備と華麗な建築物群に、
そのお役人様はペンウッド校長に学園を褒めちぎっていた。
別に自身が褒められているわけでもないにもかかわらず、校長は実にご機嫌だった。
だが、その爽快な気分も長くは続かなかった。

「キャァァァァァァァァッ!!!!!」
耳をつんざく悲鳴が廊下を走り、校長とお役人が振り向いたそこには、
泡を食って真っ青になりながら走り逃げる女生徒が走りこんできた。
「い、一体何事かね!?」
ペンウッド校長の背後に隠れた女生徒にお役人が声をかける。
「あれ、あれ! あれー!」
指差すその先に、両手にコンドームを装着した試験管を握り締めた、
白衣の眼鏡男が内股で息を切らしながら走って来るではないか!!
「どこから入り込んだのだ、この変質者めっ!!」
この発言はペンウッド校長一世一代の大芝居と褒められてよい。
「ウォルター君! 至急あの不審者を取り押さえたまえ!」
傍らに控えて校長のサポートをしていたウォルター
(というのは校長の主観で、実際に学園を案内していたのは彼だ)
は、ペンウッド校長の命令が下るや否や行動に移った。

「あ、用務員君! ゾーリンを見なかったかね!? って何をするのだ無礼なっ!」
するするとドク先生の背後に回りこんだウォルターは先生の右手をひねり、床に引き倒した。
「あだー 痛い痛い、やめたまえぇぇぇッ!」
無様な叫び声をあげてドク先生は廊下をのた打ち回った。

 #

少佐教頭先生にとって今日ほど不快で腹立たしい日は無いはずだった。
それにしては彼はいつものほおの肉皮をわずかに歪ませあげる、例の笑いを絶やすことはなかった。
「大変な目にあったねぇ、ドク君」
『屈辱の極み! なにゆえ無実の私がかかる仕打ちに!
これは何者かの陰謀としか申し上げようがございません、教頭!』
「そうは言っても、あんな卑猥なものを掴んで女子高生に迫れば普通誰でもそう思うものさ。
よくペンウッド校長が外部犯だと文部省に言いくるめたものだと歓心してしまったものだよ。
いや、あの人もなかなかやるもんだね」
『そんな呑気なぁ〜 私は一体いつまで謹慎させられるのでしょうか!?』
「まあ当分は無理だね、ペンウッド校長も理事会もカンカンだよ。
私の方から随時説得してみるから、しばらく大人しくしたまえ」
『分かりました…… ご迷惑をお掛けしまして大変申し訳ございません…』
「まあそんなに悲観せずに、ドク先生。
校長の機転で学校職員でなく外部の変質者になってるからね。
ほとぼりが冷めれば戻って来られるよ。それでは私はこれで失礼するよ」
『なにとぞ宜しくお願い申し上げます…』

受話器を下ろして、少佐教頭はため息をついた。
これから理事会やペンウッド校長に陳情行脚しなければいけない。
そして被害?にあった女生徒のご両親にも。
「駄目な部下を持つと苦労しますね」
シュレディンガー生徒会長がへらへら笑いながらコメントすると、
「そうでもない。彼は大変優秀な人材だよ。
ただそうだね、ちょっと個性的過ぎるんだよ。科学者なんてそんなものさ」
ドク先生に輪をかけて個性的な少佐教頭はそうフォローした。

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