インテグラ先生の授業


いつものようにインテグラ先生は綺麗な文字で
教科書に書かれている英文を黒板に並べていく。
もっとも僕の視線はどうしても真後ろにスリットの入った
彼女のスカートに吸い寄せられていた。
他の男子生徒の多くもそうだろう。
しかしあまりそちらばかり見ていると、あとで痛い目にあうことになる。

「さて、」
インテグラ先生は振り向いて教壇に両手をついた。
今度は大きく開いたブラウスの隙間に目が吸い寄せられる。
かすかに見える黒いものはなんだろう…えーと、あまり深く考えてはいけない気がする。
「今から一行ずつ順番に訳していってもらうぞ」
そして眼鏡の奥の冷たい瞳でクラスを見回す。
大部分の生徒は自信なさげに下を向いていた。
「セラス!」
「ふぁ?」
可哀相に、いきなり当てられたのは僕のすぐ隣にすわっているセラスだった。
しかも彼女はまったく勉強は苦手ときている。
放課後の運動部にすべてをかけていて、授業中はもっぱら居眠りばかりだ。
「一行目を訳せ」
インテグラ先生はすべて知った上で、冷たい瞳でゆっくりと言葉をつむぐ。

「あ、あのー」
セラスはあわてて起立しながら、懸命に黒板の文字を目で追っていた。
…というより目が泳いでいる。
僕は可哀相になって、思わず自分のノートを彼女のほうに傾けて見せた。
セラスもそれに気が付いて嬉しそうな顔になる。
「えっとですね、Our Father who art in heaven, は…」
インテグラ先生は通路の間を歩いてきて、僕とセラスとの間に立ちはだかった。
「なんと訳するんだ、セラス?」
僕の目の前には先生の魅惑的なヒップが….
でもその向こうでは幼なじみが苦況に立たされている。辛い立場だ。
じーっと先生はセラスを見つめている。セラスはすっかり青くなっている。
「ちなみにartは祈りに使われる古語でareと考えていい」
先生は追いつめるだけ追いつめてからぼそっとヒントを出した。
こういうところが生徒の人気を失わないところだ。
「あ、「天国にいる私たちの父」ですね!」
さすがにセラスにも答えられる文章だったようだ。
それにしても、どうして祈りの文章を訳させられているのかは謎だけど。

「そうだ」
満足そうにうなずいたインテグラ先生は笑みを浮かべた。
普段厳しい人なだけに笑顔が凄く魅力的に見える。
ああやって笑いかけて欲しいと思うから、みんな勉強にも身が入るのだ。
僕も頑張ろう。そう思って次の文章を目で追った。

 


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