水泳のお時間


やっぱり高校生にもなると、体育は男女別で行われる。残念なことに。
上の方からは女子の華やかな笑い声が聞こえてくる。彼女たちは水泳の授業中だ。
反対に男子はこの炎天下の中ヤリ投げなんぞやらされている。
ヤリ投げ。どうしてそんなものが体育のカリキュラムに入っているんだろう。

ヘルシング学園は私立なのでいろいろと設備は充実している。
専用プールだってちゃんとある。
グラウンドの隅に、3mほどコンクリートの盛り上げられた四角い箱があって
その上にプールがある。高くしてあるのは覗き防止のためらしいけど
いくらだって方法はあるわけで。
屋上から除くのは特殊反射ガラスの屋根に遮られて無理だけど
木の上とか2階のトイレのすみっこにある窓とか、いろいろ穴場はある。
それどころか行くところに行けば接写生写真だって売っている。
当然撮っているのは水泳授業に参加している同じ女子。女の敵は女とはよく言ったもんだ。

プールを見上げながらそんなことをぼーっと考えていると、上からビーチボールが落ちてきた。
「あー、ごめんごめん、拾ってくれる? ○○くん」
顔を覗かせたのはセラスだ。身を乗り出した手すりから大きな胸がこぼれている。
スクール水着ってことは当然ワンピースなんだけど
彼女の場合胸が大きすぎて逆に苦しそうだ。きっとビキニのほうがいいんだろうなあ。
反対にリップ委員長はワンピース水着がよく似合う。
これは決して彼女が胸が小さいってことがいいたいんじゃなくて
あの人の清楚さに紺色のスクール水着はとても合っていると思っているってことだ。
ビーチボールをポンとはねあげると、セラスは身を乗り出してキャッチした。
それでまた胸が揺れる。ああ、なんていい光景なんだろう。

「なにやっているんだ、お前ら!」
横からゾーリン先生が顔をだした。まずい。
鬼の体育教師、ゾーリン先生は
体の半分は白、もう片方は黒に何か複雑な文字が描かれている派手な水着を着ている。
まったくこの学校の先生達はどうしてそろいもそろって個性的な服装なんだろう。
「セラス、さっさと試合に戻れ!」
ゾーリン先生はそう言ってセラスの背中をバンと叩いた。それでまた胸が…。ああ。
「はーい。ありがとね、○○君!」
セラスは気にした様子もなく、明るくそう言って僕に手を振ってから授業に戻っていた。
本当に、いい子だなあ。

「なんだ、○○。セラスの胸でも鑑賞していたのか?」
かわりに顔を出したのは、有名な女不良ハインケルと由美江だった。
うわー、まずい。合同授業ってこと忘れていたよ。
「ほら、今なら彼女の胸の谷間ばっちり写真、一枚500円ね」
ハインケルはニヤニヤ笑いながら手に持ったカタログをひらひらさせる。
「ほんと、男ってどーしよーもない生き物よねー」
由美江はその横で笑っている。
彼女たちもスクール水着なんだけど、なにかセラスやリップさんとは様子が違って見える。
ハインケルはサングラスをかけ、黒いバスタオルを肩から羽織っているし
由美江は色も素材も確かにスクール水着なんだけど、胸の切り込みとか
ビキニラインとかがなんか過激なような…もしかして勝手に改造しているのか!?
彼女ならやりかねない。先生達も彼女たちにはなんにも言わないんだろうし。
「買いたかったらいつでも図書室に来いよ」
文学部部長であるハインケルは人を馬鹿にしきった口調でそう言って姿を消した。
誰が買いになんか行くもんかっ。こ、心は揺れるけど。
「リップの全身写真もあるわよ。あの子いつも水の外ではタオルで体隠しているんだから
 撮るの苦労したのよー」
由美江が追い打ちをかける。ああ、だめだだめだ。苦悩する僕をあざ笑って、由美江も姿を消した。

「おーい、○○、女子の手伝いをしてやるのはいいけど、授業もちゃんとやれー」
放任型の臨時体育教師ベルナドット先生が、さすがにさぼり過ぎた僕を呼んでいる。
僕は華やかな歓声が聞こえるプールを後にして、灼熱のグラウンドへと戻っていった。

 


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