セラス編:Lv3「神様、この願いを叶えてください」


僕はまだ涙の止まらないセラスの肩を抱きながら、視聴覚教室を後にした。
先生の指示したように教室に戻る気はなかった。
今のセラスにそれは酷すぎる。そして僕ももう少し二人っきりで居たかった。

でもどこに行けばいいんだろう?
学園内で絶対人の来ない場所っていうのはなかなか思いつかない。
あてもなく歩きながら一生懸命考えていると、目の前を用務員のウォルターさんが通りがかった。
「大変なようでしたな」
学園のことならなんでも知り尽くしているベテラン用務員のウォルターさんは
今回の事件のことももう知っているらしい。
その表情はいつもとかわりなく、むしろ少し微笑んでいるように見えた。
「この学園には礼拝堂がありましてな。ご存じですかな?」
知っている。このヘルシング学園はなぜか屋根に十字架が立っていたりするけど
別にミッション系というわけじゃない。キリスト教に関する話は一切聞いたことがなかった。
でも設立された当時はやっぱり何か関係があったらしい。
第二校舎の片隅に、扉に十字架の彫ってある礼拝堂といわれている部屋がある。
ただそこは開かずの間で、中に何があるのか生徒達の噂の的だった。
まあ、正確には怪談がらみがほとんどなんだけど。先代理事長の霊が出るとかなんとか。

「これはそこの鍵です」
ウォルターさんはあっさりとそう言って、銀色の重厚な鍵を僕に向かって差し出した。
「後日、用務員室まで返しにきてくださればよろしい」
「あ、ありがとうございます」
そのあまりに自然な態度に、僕も自然と鍵を受け取っていた。
それはずっしりと重く、古めかしい鍵だった。
ウォルターさんは鍵を渡すと何事もなかったかのように立ち去っていく。
僕はその背中を呆然と見送っていた。本当にこの学園は謎が多い。

ともあれ人の親切には素直に従うことにして、僕は礼拝堂に向かった。
幸い途中では誰とも出会わなかった。
今はまだ授業時間中だし、礼拝堂のある第二校舎は理科室や音楽室、資料準備室など
用のない人はよりつかない、普段から人の少ないエリアだ。
その中でもさらに奥に礼拝堂はある。
僕はその扉の前に立って、そっと鍵を鍵穴に差し入れた。
カチャッ 意外と軽い手応えで鍵はまわった。扉を開けると、中は確かに礼拝堂だった。
入ってすぐ横にある電灯のスイッチを入れると明かりがついた。

中央には祭壇があって十字架が立っている。蓋をされたオルガンらしきものもある。
横の壁には男の人の絵が掛かっていた。金髪の、どこかインテグラ先生に似た人だと思った。
部屋としては大きくなく、普通の教室より一回り小さいくらいの広さだ。
椅子が何脚もまとめて壁際に積み上げられている。
だから礼拝堂の中央部分は何もなくて、がらんとした空間だった。
床には隙間なく絨毯がしきつめられている。

いつの間にか泣きやんだセラスも驚いたようにこの空間を見回している。
僕は内側から扉の鍵をかけると、セラスと一緒に部屋の中央まで歩いていった。
セラスはそこで始めて力が抜けたように、へなへなと絨毯の上に座り込んだ。
僕もその横に座る。それで気が付いたんだけど、絨毯の上には埃が全然なかった。
他の十字架やオルガンその他の備品もきれいなものだ。
...やっぱりウォルターさんが掃除しているのかな。

「ねえ、○○くん」
そう、今大切なことはセラスのことだ。
彼女は放心したような顔で十字架のほうを見ながら僕に話しかけてきた。
「さっきはありがとう...」
「いや、お礼をいうのは僕のほうだよ。正確には僕たちのほうだ」
僕は自然とセラスの肩に手を回していた。
この礼拝堂の優しい空気が影響していたのかもしれない。

「たぶんクラスのみんなも分かってくれるよ。今はちょっと驚いているだけで」
本当は別の話がしたかったんだけど、上手い言い方が見つからなくて
僕はそんな当たり前の話をした。でもセラスは頭を振った。
「ううん、私はやっぱり変わってしまったと思う。みんなとも以前のようには話せないよ」
「どうして? そんなことないよ。セラスはずっと前から優しくて強い女の子じゃないか」
僕は彼女を強く抱きよせた。自然と顔が近づく。彼女の息が僕の頬にかかるくらい。
「だって私、戦っている時...」
セラスはまた泣き出した。ぽろぽろ涙をこぼしながら小さな声で言った。
「楽しんでた。人を傷つけることを。相手を叩きのめすことを」
僕もそれは知っていた。だって幼なじみだから。分かっていたんだ。
「最後にあの黒服のヤンって人に向かう時、相手が恐怖していることを感じていた。
 私、それを感じてすごく...そう、気持ちがよかった。何かに取り憑かれていたみたいに」
実際に君は取り憑かれていたんだよ。僕は思った。
だってそうじゃないか。優しいセラスが人を傷つける時、そのままでいられるはずはない。
きっとどこかのスイッチを切り替えないといけなかったんだ。ただそれだけのことなんだ。
誰だってスイッチは持っている。残酷じゃない人間なんていないよ、セラス。

「もう大丈夫だよ、セラス。今の君はいつものセラスだよ」
でも僕はそれだけを言った。そして彼女の涙に口づけする。
彼女の悲しみをすべて飲んでしまいたいと思った。

僕はセラスの顔に口づけしながら、自然と彼女のほうに体重をかけていた。
あっけなく、そしてゆっくりとセラスは絨毯の上に倒れた。
僕はそのうえに覆い被さる形で彼女の顔に何度もキスを繰り返した。
「セラス。僕は君が好きだ」
セラスは驚いたように目を見開いた。
「君のことが大好きだ。今日気が付いたんだ」
「どうして...?」
私はあんなに残酷だったのに?って言いたいんだろ。
「君は強くて優しいから」

僕は寝転がったままセラスを抱きしめた。
彼女はやっぱりやわらかくて愛おしかった。そして今となっては僕はそれだけじゃすまなかった。
「ねえセラス。しようか? してもいい?」
耳元でささやく。息が熱くなっているのが自分でもわかった。
セラスは僕の顔を見つめて、コクンとうなずいた。
その時の僕たちにとっては、それが自然なことだったんだ。

僕はもどかしく彼女のスカーフをほどいて、セーラー服のボタンを開いていった。
現れた彼女の肌にキスをする。そうしながら自分の制服のボタンも外した。
セラスも自分でスカートのホックを外す。
「なんか恥ずかしいなぁ...」
今更何を言っているのやら。でも僕もそう思う。
というわけで、僕らは思いきって互いに自分の服を脱ぎ捨てた。その方が早い。
それから僕は自分の制服の上着を絨毯の上にひいて、その上に裸のセラスを横たえた。
そしてまた体を密着させてキスをする。そっと手で彼女の胸をさわった。
愛撫のやり方なんてよくわからない。でも僕には彼女がいとしい。
彼女の体すべてが愛おしい。じゃあそれでいいじゃないか...たぶん、きっと。
本能の赴くままにセラスの体を撫で、あちこちにキスを繰り返した。
セラスの胸が上下して、呼吸が早くなっていくのがよくわかった。

そうしているうちにたまらなくなった。
起きあがって脱ぎ捨てた制服のズボンを漁る。そこにはコンドームが入っているはずだった。
なんでそんなもの持ち歩いているのかはこの際聞かないでくれ。
セラスに背を向けて、慣れない手つきで一生懸命それをはめる。
うまくはまっているといいんだけど...不安だ。
「○○君」
後ろからセラスの声がする。
「あの、今更なんだけど、私も○○君のことが好きだよ。ずっと好きだった」
...その時の気持ちは言葉にできない。

僕はそっとセラスの足を持ち上げて開いた。自分のものを彼女のあそこにあてがう。
初めてだからきっと痛いんだろうなとは思ったけど、気持ちが止められなかった。
そっと入れようと思ったけど入らない、腰に力を入れて押し込んだ。
「...んっ」
セラスは苦しそうな顔をする。でも僕の背中に手をまわしてぎゅっと抱きしめてくれた。
それに勇気づけられて、僕は無我夢中で体をすすめた。奥まで入った、と思う。

セラスは汗に濡れた顔で僕を見ていた。そしていつものように笑ってくれた。
少し痛みに引きつった顔だったけど、それはいつもの彼女の顔だった。
なんども見てきた笑顔。これからもずっと見ていたい笑顔。

僕は腰を動かした。セラスは苦しそうな顔をしながら、強く僕に抱きついてきた。
僕たちはお互い汗に濡れた体を密着させて、全身で相手を感じていた。
そしてそれはあっという間に終わった。だって僕だって初めてだったんだから。
出ると思った瞬間、抜かないとと思いながらも間に合わなかった。
ゴム付けていたからきっと大丈夫のはずだ、うん。
僕はあまりに早くいってしまったことが照れくさくて、彼女の顔を見られなかった。

「○○君、よかったよ」
セラスはまだちょっと苦しそうな声で、そんな嘘を言ってくれた。
「痛かっただろ? ごめんね」
僕はおどおどと彼女の顔を見ながらそう言った。
そしてゴムの付け根をもちながら、ゆっくりと彼女の中から自分の一部を取りだした。
もうすっかりふにゃふにゃになってしまっているそれを。ああ、男って情けない生き物だ。
「初めてってのは痛いものだからっ」
反対にセラスは元気だ。女は強い。
僕はそそくさとズボンからティッシュを取り出して、後始末をした。
セラスも起きあがってなにかごそごそやっている。
見ないようにした。僕も見られたくなかったから。

僕らは背中あわせの状態で、脱いだ時と同じくそそくさと服を着た。
「あーっ」
後ろからセラスの声が聞こえる。何かヘマをやってしまった時の声だ。
小さいころから何度も聞いた。彼女ってドジだから。
「ごめん、○○君」
そう言いながら、セラスは僕の上着を広げて見せた。
そこには小さな赤い点が付いている。...そういえばそうだよな。あれ下に引いていたんだから。
「いや、まあ、絨毯につくよりはよかったんじゃないかな」
僕は一生懸命フォローした。やっぱり昔からやってきたことだ。
しかし今回ばかりは...どうしよう。
家族には見せられない。クリーニングに出すのも恥ずかしすぎる。今は考えないことにした。

「なんか、すっかり元気になったね、セラス」
半分パニック、半分本気で僕はそう言った。
「うん」
セラスは笑ってうなずいた。まあ、いいいか。
僕は彼女が元気で笑っていてくれればそれでいいんだ。
いや、もう一つ。ずっと僕の傍にいてくれれば。

僕らは再び体を寄せ合った。十字架の前でキスをする。
「今日はこのまま一緒に帰ろう」
僕は言った。幸いお互いの家は近いんだし。
「ここの鍵は明日ウォルターさんに返しておくよ」
「ウォルターさんって不思議な人だね」
まったくだ。
「明日はちゃんと登校しないとなぁ」
セラスはちょっと憂鬱そうに言った。
「大丈夫だって」
僕は断言した。
「それに僕も一緒に行くから。何かあっても絶対に守るから」
神様の前で誓ったつもりだった。
「ありがとう。○○君」
セラスは笑顔を浮かべて僕の頬にそっとキスしてくれた。

僕は弱いし愚かな男だけど、できることもあるんだな。そう思った。
セラスは強いけど、僕が彼女を助けられる部分もあるんだ。
僕たちは一緒に歩いていこう。
それがいつまでかは分からないけれど、なるべく長い時間だといいなと思う。

僕らは幼なじみだった。それは一生変わらない事実だ。
その上に今日、もう一つの関係が付け加わった。
僕はそれを大切にしたい。僕はセラスを大切にしたい。ずっとそばに居たい。
神様、この願いを叶えてください。心の中でそう祈った。
僕は宗教なんて普段は全然信じていないんだけど、この礼拝堂の中でなら
なにか願いが通じるような気がしたんだ。
なんてったって、ヘルシング学園は不思議なところだから。

おわり


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