アーカードxインテグラ先生 -報酬編-


結局、その日の授業は散々なものだった。
幸い最後から二つ目の授業であったことを理由に、
インテグラは独断で生徒達に今日は下校するように命じた。
「いろいろあってショックだったと思う。すまない。このようなことは二度と起こらないよう誓う。
 …それからセラスのことだが、彼女はみんなを守ってくれたんだ。それを忘れないでくれ」
生徒達がその言葉を受けとめられたかは分からない。
しかしインテグラは自分の生徒は信じることにしていた。
自分がまず信じなければ、相手も応えてはくれないだろうと思うから。

それよりも少佐教頭には怒り心頭だった。しかしここで怒鳴り込んでは相手の思うつぼだ。
次の理事会で徹底的に叩いてやる。
そう決心して無表情のまま事情を手短に報告し、さっさと教頭室を後にした。
体育館地下に隠されている教職員専用駐車場に向かう。
愛車のエスプリの中でまず一息つきたかった。それから家に戻ってシャワーを浴びて…。
そう思いながら愛車に近づくと、横にアーカードが立っているのが見えた。
エスプリの車高は1mちょっとしかない。彼の姿ははっきり見えた。
戦いの余韻でシャツや髪が乱れたままなのも、返り血が白いシャツについているのも。
「アーカード…」
どう声をかけたものか迷ったのは、彼の目つきがいつになく鋭かったからかもしれない。
これは最初に出会った時以来のことだった。
さっき教室で後始末について話していた時はこんな様子ではなかったのだが。
「他の教師がきたらどうする、さっさと乗れ」
とにかくインテグラはそう指示して自分は運転席側に回り込んだ。
スペアキーは渡してあるから彼はいつでも乗り込めたはずなのだ。
スモークガラスを張ったエスプリの中で待つというのが、いつもの約束のはずだった。

インテグラはまず腰をかがめてエスプリの座席にすわり、
それから長い足をくるりと回転させてアクセルやクラッチの上に滑り込ませる。
その横にアーカードが、やはり猫のように柔らかな仕草で乗り込んできた。
しかしドアの閉め方はひどいものだった。バンッと激しい音がする。
「おい、これは20年物だぞ」
インテグラの子供じみた抗議にも耳を貸す様子はない。
こんなところで言い争っていてはまずいと思い、とにかく車を発進させた。

「ご苦労だったな、アーカード」
とりあえずいつもの台詞を口にしてみた。ちらりと彼の顔色をうかがう。
ひどく危険な顔つきだった。怒り、いらだち、行き場のない感情がうずまいている。
思春期の青年ならではの危うさを秘めた顔だった。最初に出会った時と同じだ。
しかし今とあの時とでは状況が違う。
「どうしたんだ、アーカード?」
問いかけは鼻であしらわれた。インテグラはひどく危険なものを感じながらも
愛車を一路自分のマンションへと走らせた。約束は約束だ。どんな時でも破る気はない。

地下駐車場からエレベーターに乗り込む。指示盤にカードを差し込んで、
余人の立ち入ることのない31階へ向かう指示を与えたところで、彼の視線に気が付いた。
アーカードは獲物をなめ回すような目でインテグラの姿を見ている。肉食獣の顔だった。
授業中もしょっちゅう卑猥な視線を向けてくるが、それはじゃれ合いのようなものだった。
インテグラだってこんな挑発的な服装をしていれば、男たちがどんな目を向けてくるかは分かっている。
それでもあえてこの姿をしてみるのが、彼女にとっては遊びだったのだ。
しかしこれはどうも遊びですむ雰囲気ではない。
なぜだろう。しかし深く考える暇もなく、高速エレベーターは31階へと到達した。

エレベーターを降り、ホールを進んでドアを開ける。アーカードは後ろからついてくる。
いつもと同じ手順だった。しかしインテグラは彼の視線をいやというほど感じながら扉を開けた。
玄関ホールでハイヒールを脱ごうと身をかがめた途端、廊下の上に押し倒される。
「お、おい」
後から入ってきたお前はドアだってまだ閉めてないだろうがっと思ったが、
アーカードはかまわずのし掛かってきた。
乱暴な手つきで彼女の上着をむしり開く。ボタンが飛んだ。
胸元を大きく開けているブラウスにも乱暴に手を突っ込まれ、
扉を開けるように左右に引きちぎられた。また派手にボタンが飛び散る。
「アーカードっ」
動揺半分、怒り半分の声を上げる口に、
今日首筋に巻いていた絹のスカーフがするりとほどかれて、突っ込まれた。
喉の奥まで乱暴に押し込まれたそれは、どんなに舌を動かしても吐き出すことができない。
アーカードは何かに取り憑かれたように、今度はインテグラのスカートを引きずり降ろした。
「ふぐっ」
抑えようとした手はやすやすと捕まえられ、ひねり上げられる。
アーカードはそのままインテグラの体を抱え上げて、勝手知ったるリビングへと進んだ。

そしてベットでもソファでもなく、リビングの床に下着姿のインテグラを落とす。
まったく、投げ落とすといった方が相応しいような乱暴さだった。
幸か不幸かリビングは全体に毛足の長い上質の絨毯が敷き詰められているので
頭を強く打つなどの事態にはならなかったが、インテグラは本気でまずいと感じ始めていた。
アーカードは自分をを凝視しているインテグラを、相変わらず暗い目で見つめながら
血の付いたシャツを脱ぎ捨てる。実用的な筋肉でおおわれた上半身があらわになった。
乱暴にベルトを外し、ズボンを下着と一緒に脱ぎ捨てる。
一糸まとわぬ姿になったアーカードはそのままインテグラの上に四つん這いになった。
「今日はひどかったなあ、先生」
声もとても危険な響きを帯びていた。まるであの乱入者達に対しているかのようだ。
それを思い出すとさすがに恐怖がこみ上げてきて、思わずインテグラは両手で
彼をはねのけようとした。無理なことはわかっていたが、本能的に怖かった。
その手は予期していたかのように(していたんだろうが)捕まえられて、
両腕をそろえて背中でねじり上げられる。片手だけで、手慣れたものだった。
本気で痛くて身をよじるインテグラの姿を、アーカードは薄笑いを浮かべながら見下ろしていた。
そしてブラジャーの背中のホックを外す。ブラの中央をもう片方の手で持ち、乱暴に
頭をくぐらせて引き抜いた。衝撃で眼鏡が傾く。そのままブラを使って両手を後ろ手に縛られた。

そして再びインテグラの体は床の上に投げ出された。
「俺が相手にしたルークってやつは、なかなかのもんだったぜ。
 少なくとも最初から一対一で、素手で俺と戦おうっていうだけのことはあった」
アーカードはインテグラの外れかけた眼鏡を直し、優しく金の髪をなでながら言った。
でも目の色は変わっていない。一時的な優しさが余計に怖かった。
「でもなあ、やっぱり俺の相手じゃあないんだよな」
その言葉は寂しげですらあった。インテグラも知っている。
アーカードほど強い人間はめったに居ない。彼にはそれがとても残念なのだ。
彼の中に潜む、原始的本能ともいうべき怒りを存分にぶつけられる相手には
なかなか出会えない。
ルークという奴には一瞬それを感じたのだろうだが、結局ダメだったのだろう。
だから、彼は行き場をなくしたその怒りを私にぶつけようとしている。
やっと分かった。

「約束だもんなあ、先生。もっと激しいことやらしてくれよって、俺は言ったよなあ」
アーカードの目は同意することを命じていた。
だからインテグラはうなずいた。逆らうと余計に危険だ。それに、私は確かに約束したのだ。
それを見て、アーカードは心底嬉しそうに笑った。嫌な奴を叩きのめした時と同じ笑顔だった。
腰をつかみ上げられ、ショーツが引き下げられる。
両腕を付くことも出来ず、顔で上半身を支えるしかない
インテグラの腰を両手でつかんで、アーカードは乱暴に侵入してきた。
「んっ」
スカーフの下でうめき声を上げる。痛かった。けれどアーカードは構わず挿入を繰り返した。
「んっ、くっ、、、うっ」
動くたびに頭が乱暴に絨毯にこすりつけられ、たまらず涙目になるインテグラに構うことなく
アーカードは動き続けた。そのうちインテグラの体も自らを守るため本能的に濡れてくる。

「いいなあ、インテグラ。俺はあんたが大好きだ」
アーカードは荒い息を吐きながら獣のようにささやいた。
「プライドが高くて、絶対にこだわりを捨てなくて、少佐やマクスウェル相手にも一歩も引かない」
官能が体の奥底から沸いてくる。スカーフの奥で、インテグラの息も激しくなってきていた。
「俺の住んでいる世界とは別の次元であんたは強いよ。
 その強いあんたをこうして組み伏せて犯しているなんて俺は幸せさ」
そういいながら、彼は延々と挿入を繰り返し続ける。
「んっ、ぅんっ。、、、、、、んんーっ」
インテグラはたまらず声を上げた。
「おやイっちゃったのかい、先生。俺に一方的に陵辱されてさあ」
そういいながらアーカードの動きも早くなっていった。
そしてインテグラの体の中に彼の欲望が吐き出される。
アーカードは満足そうに息をつきながら、やっとインテグラの体から手を離した。
インテグラは絨毯の上に崩れ落ちる。
柔らかい絨毯とはいえ、散々こすりつけられた頬は赤く腫れ、眼鏡もゆがんでいた。
とにかく深呼吸して気持ちを落ち着けたかったが、
絹のスカーフは濡れて口の中でしっかりとへばりついている。
インテグラが密かに気に入っていた、美しい赤を基調としたスカーフたっだ。
「口から血を流しているみたいに見えるぜ、先生。いや、インテグラ」
アーカードは今度は彼女の体を仰向けにして、その姿を楽しんでいるようだった。
彼の餓えはまだおさまらないらしい。

アーカードは再度インテグラの体を抱え上げて、ベランダへと続くガラス戸を開けた。
「うっ、んん」
外の風邪がひんやりと体に当たる。ここは31階でこのあたりに他に高層マンションはないが
それでも裸で外に連れ出されるのは人として羞恥心を刺激された。
インテグラは昼間滅多に家に居ないから、外に洗濯物を干すことはない。
広大なベランダはウッドデッキが敷き詰められ、所々に観葉植物のおかれた憩いの場だった。
普段は。

設置されていたリクライニング型の木製チェアの上に、インテグラの体が横たえられた。
椅子には肘掛けもついている。アーカードは無造作にインテグラの足をつかみ
肘掛けの上にそれを乗せた。もう片方の足も、もう片方の肘掛けに。
インテグラの下半身が露わになる。大きく開かれた下の口から、彼女自身の愛液と
アーカードが先ほどはなった白濁液が流れ出した。
「いい眺めだな」
アーカードはもう一つの椅子を正面にひっぱってきて腰掛けた。
自分自身は両足を組み、肘掛けには肘を乗せて、まるでこの場の主のように。
インテグラはただもう恥ずかしくてたまらなかった。
「足を降ろしちゃだめだぜ、インテグラ。そんなことしたら
 中からライトスタンド持ってきて、その姿がどんな遠くからでも見えるよう照らし出してやる」
今はまだベランダに明かりはない。
部屋の中の明かりが差してきて、薄い影を作っている程度だ。
すっかり普段の表情をなくし、悔しげにうなずいたインテグラに満足して
アーカードは彼女の口から赤いスカーフをゆっくりと引き抜いた。
それはまるで血を吐き出しているかのようだった。

アーカードはその口にそっと口づけする。そして舌をからませてきた。
インテグラはもうすっかり抵抗する気力をなくして、素直にそれに応じる。
「たまにはこういうのもいいもんだろ」
アーカードは口を離してそうささやいた。顔には笑みが浮かんでいるが、
先ほどのようなどう猛さはもうなくなっていた。
「よくはない」
インテグラは力無くつぶやいた。
「私はここまでしてやるなんて言ってないぞ」
けれどまだ足を降ろすことはできなかった。
アーカードは再び向かい合った椅子に腰掛けて、その姿をのんびりと楽しんでいる。
しかしいつまた先ほどのような凶暴さを見せてもおかしくない。
彼の心の中にはずっと獣が潜んでいるのだ。でもだからこそ、インテグラは彼を選んだ。
「空が綺麗だぜ、インテグラ」
言われて空を見上げた。星々が美しくまたたいている。無防備な私の上で。

「なあ、もう足を降ろしてもいいか?」
アーカードは目を細めてうなずいた。その姿を目に焼き付けておこうとするかのように。
インテグラは普通に座り直して、やっと息をついた。といっても全裸なのだけど
あんな格好をとらされた後ではこれも普通の姿に思える。
「疲れた」
ぽつんとつぶやいた。
「お前はひどいやつだ。
 私のことをプライドが高いなんて言っておきながら、それをズタズタにしてくれる」
アーカードは夜空の下、薄暗がりの中で褐色の肌をさらしているインテグラを見つめていた。
さっきまでの高ぶりはもう消え去って、今はただ美しい女性の姿態を楽しんでいた。
「あんたはこんなことじゃめげないだろ。どうせ」
「まあ、そうだけどな」
アーカードが危険な奴だなんて最初から知っていたことだ。それでも彼の力が必要だった。
それくらい学園内でのインテグラの立場は危険なのだ。彼女はただの一教師ではないから。
アーカードは危険だが、彼を手元に置くことでインテグラは安心していられるのも確かだった。
今日みたいな事は、そう、織り込み済みのリスクだ。…しかし大変だったが。
「部屋に入ろう。こんな格好では風邪を引く」
インテグラの言葉にアーカードは素直にうなずいた。
「じゃあベッドの中で暖め合おうぜ、先生」
すっかり調子のいいいつもの淫乱男の姿に戻っている。
まったく、若いっていうのは…と思いかけてあわててやめた。インテグラだってまだ若い。
ただアーカードは生徒で未成年で、インテグラはもう大人になってしまっただけのことなのだ。

二人は生まれたままの姿で立ち上がって、部屋の中に姿を消した。
それからまた改めて体を合わせたのだけど、今度は普通のセックスだった。
すべてが終わってからベットの中でインテグラは聞いた。
「なあ、アーカード。お前ちょっとはセラスにも未練があったんだろ」
「…あいつの胸には興味があったかな」
「あんまり見境なく手を出すなよ。彼女には相応しい相手がいたんだ」
答えはなかった。
ただ二人は互いに心の中で考えていた。
自分にとって相応しい相手は…なんだろうかと。

 


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