アーカードxインテグラ先生 -傷心編-


「入院だけは絶対しないぞっ」
強硬にそう主張した結果、連れてこられたのはインテグラのマンションだった。
「看護士が1日1度包帯の交換と様子見に来る。それでいいだろ」
インテグラはベットに寝かされたアーカードの横で煙草を吹かしながら言う。
彼女自身、肩の傷は軽傷だったが、足の傷は15針も縫う羽目になったのだ。
しばらくは松葉杖の使用を薦められている。
一方アーカードの傷は腰、足、両腕、そして肩と五カ所に及んでいた。
特に最後に受けた肩の傷は矢が骨まで達するという重傷だ。
まあその肩の傷もしばらくギブスで固定することで済んだ。
あとは合併症を防ぐための抗生物質の服用。その薬も看護士が持ってくることになっている。

「お前には本当に悪魔が憑いているとしか思えんな」
インテグラは感心したようにアーカードの姿を眺めた。
「すべて重要な神経や関節、いわゆる急所は外れていると医者が感心していたぞ」
「当然だ」
言い切ったアーカードに向かってインテグラは不機嫌そうに眉を上げた。
「ちょっとは幸運に感謝しろ」
そのとき、ピーッとファックスの受信音が鳴った。
インテグラは立ち上がってびっこを引きながらその紙を回収する。
アーカードはベットの中で首をすくめた。
あれはリップのカルテだ。
インテグラがどこからともなく手を回して、入手するための電話をかけていたことを知っている。
カルテは守秘義務で厳重に守られているはずだが、やはり抜け道はあるらしい。

インテグラは厳しい目でそれを読んでいる。
喧嘩が日常茶飯事の学園の教師をしていて、カルテを読むのにもすっかり慣れてしまった。
それでリップの状況も、つまり彼女がどういう目にあったのかも理解できてしまう。
インテグラはアーカードの横にある椅子に戻ってきて、そのカルテをじっと見つめていた。
それから大きな溜息をつき、手で額をおおう。
アーカードからは背を向けた状態なので表情はわからない。それがまた重圧だ。

「怒っているのか、先生?」
アーカードは沈黙に耐えかねて自分から声をかけた。
「まあな」
返ってきた声は剣呑そのものだった。
「でもお前にじゃない。私は自分と少佐に怒っているんだ」
「どうして?」
インテグラはアーカードの方を向き直った。彼女が泣きそうになっている顔を見るのは初めてだ。
「私はお前にリップを止めろと命じた。だから責任は私にある。
 それにお前だってそれだけの傷を負ったのだろう。つまり、そういうことだったんだろ?」
頬を涙が一筋伝う。
「リップはお前に向かって矢を撃った。殺す気で。
 至近距離からの左肩の傷はそういうことだろう?」
アーカードは否定できない。ただインテグラの洞察力に舌を巻いた。
「なあ、私が止めろではなく私を連れて逃げろと言っていたら、
 彼女はここまでしなかったのかな?」
インテグラの泣き顔を見るのは初めてだった。アーカードは動揺しつつそれでも答えた。
「…俺はそれでも撃ってきたと思う。あいつは俺が校舎に向かっても逃げなかった。
 その時点で取り憑かれていたんだろう。
 そして、逃げようと必死になる姿ってのは嗜虐心をそそるもんだ。
 扉が開かないよう細工されていた時点で
 俺たちの逃げ道はリップの射程圏を突っ切るしかなかった」
言葉にこそしなかったが、アーカードには予感があった。
その時、リップは俺よりインテグラをもっと狙ったんじゃないだろうかと。
あいつは、まともじゃなかった。

「そうか」
インテグラは再びアーカードに背を向けて両手で顔を覆った。
背中が震えているのが分かる。
アーカードは思わずベットから出ようとして、点滴の針に気が付いた。無造作に引き抜く。
後ろからインテグラを抱きしめた。動かない左肩がもどかしい。
「お前、点滴はどうしたんだ」
こんな時でも冷静な声が返ってきた。鼻声だったが。
「抜いた」
アーカードはあっさり答えてより強く、右手でインテグラを抱きしめた。
「俺は謝らない。リップに対してやったことを後悔なんかしていない」
インテグラは無言だった。
「だから俺を憎めよ、先生。何もかも背負いこむなよ」
「そんなことはできない。責任は全て私にある。私は教師であり、私は命令したのだから」

インテグラは涙を拭うために眼鏡を外して机の上に置いた。
それを見て、アーカードはベット脇にある救急セットから包帯を取り上げた。
くるりとインテグラの両目にそれを巻き付ける。何重にも何重にも。
「なにをするんだ、ヴァカ」
鼻をすすりながら、それでもインテグラは抵抗しなかった。
「悪いな先生。俺は女のなぐさめ方って他に知らないんだ」
包帯を結び終えしっかりと端を止めると、アーカードはインテグラの手を引いた。
「怪我人はベットで寝るもんだろ?」
そういって彼女をベットへと誘う。お互い足に怪我をしている上
インテグラは目隠しされた状態なので、かなり危なっかしい足取りだった。
それでもなんとかベットの上に倒れ込む。

目隠しの効果か、抵抗なく倒れ込んだままのインテグラの服を脱がしにかかった。
目にまかれた包帯に、血ではなく涙がにじんでいる。
今日の彼女はさすがにスーツ姿ではなく、足の治療がしやすいように
膝下のフレアスカートにブラウスという姿だった。ストッキングも履いておらず素足だ。
この姿だと普通のお嬢様に見える。資産家のインテグラにはそういう生き方だってできるのに。
アーカードはそう思いながらブラウスのボタンを外しにかかった。

怪我をしている肩から袖を抜く特はさすがに気を遣う。
しかしインテグラは自ら体を動かしてそれに協力してくれた。
柔らかな綿のスカートもするりと抜け、無地の白いブラとショーツが露わになる。
「いつもと感じが違うな」
アーカードはとまどいをそのまま口にする。
「こういう私は嫌か?」
インテグラは手探りでアーカードの顔に手をのばした。
「お前は教師の姿の私がいいのか?」
口には自嘲の笑みが浮かんでいる。
「そんなことはない。俺はインテグラが好きだ」
アーカードはあわてて否定した。
言ってから、こんなに素直に女に対して好きだなんて言ったのは始めてだなとふと思う。
「子供だな」
インテグラはフンと笑った。その言葉にむかついてアーカードは下着を脱がせにかかる。
彼自身は包帯だらけの上半身には服を着ておらず、下も病院着の薄いズボンだけだ。
たちまち二人は裸で抱き合った。

インテグラの体を抱きしめていると、リップのことを思い出した。
自分からすがりついてきた彼女。
俺は戦っている時と同じように自分の本能に従って彼女を抱いた。
あれでよかったんだろうか。カルテを見ていたインテグラの姿が目にちらついた。
アーカードの動きがとまる。
「なにを考え込んでいるんだ、珍しい」
体の下からインテグラの声が聞こえてきた。
「何も考えるな、アーカード。お前は私の命令に従っていればいいんだ」
そういいながらインテグラは自ら足を開く。
「舐めてくれ。命令だぞ」

「え…」
アーカードはとまどった。
「まだその気になれないんだ。だから舐めろ。命令が聞けないのか、アーカード」
包帯を巻かれたインテグラの顔は表情が読めない。しかしもう泣いてはいないようだ。
アーカードはおずおずと彼女の足の間に顔を近づけた。
ぷんと女性の匂いがする。本能的に興奮する。
そっと舌を伸ばした。陰毛とその奥にある生ぬるく湿った柔らかい部分を感じる。
一度舌が触れると我を忘れてむしゃぶりついた。
「かみつくなよ、アーカード」
挑発するような声が上から聞こえてくる。
アーカードはそれに応えるように、より奥深くへと舌をすすめた。
インテグラの匂いが口から鼻から侵入してくる。それに溺れた。
散々舌を振り回して舐め尽くした後、
呼吸をするために一旦顔を引き抜いて、今度は敏感な突起へと舌を這わせる。
「う、ん」
インテグラはいつものように抑えた喘ぎ声を出した。
もっと声が聞きたくて皮をむき中の身をすする。
「ぁあ、、、ふぅ、ん、、、、」
彼女の甘い声と共に、蜜が中からあふれ出してきた。

たまらず自分のものを入れようととして、彼女の足の傷に気が付いた。
どうすればいいんだと思いながら、体は本能的に動く。
インテグラの体をうつぶせにして、無傷の方の足を膝尽かせ、後ろから挿入した。
中はいつものように熱く柔らかく潤っていて、彼のものをしっかりと引き付けてきた。
「ん、、」
インテグラはうつぶせのまま顔を横に向けて枕を手で掴んでいる。
感覚はいつもと同じように素晴らしかったが、何かいつもとは違っていた。
二人の心だろう。
切ない快楽だった。背徳感もあった。けれどそれが官能的でもあった。

アーカードはインテグラの体を気遣いながらゆっくりと挿入を繰り返す。
「んっ、、くっ、、、ぁぁ、、、」
インテグラも声を上げながら、再び包帯に涙が広がっていた。
「インテグラ…」
声をかけようとしたアーカードをインテグラは途切れ途切れの声で制す。
「今は、何も、言うな。アーカード。ぁぁ、いいんだ、これで…」
だからアーカードは挿入を繰り返し、この感覚に身を委ねた。そして果てた。

がっくりとインテグラの横に身を横たえる。
さすがに傷が染みた。
インテグラがゆっくりと手を回してくる。頭を抱きしめられた。
彼女の首の下、胸の上のくぼみにアーカードの頭がおさまる。
「お前も私の大事な生徒だからな、アーカード」
「生徒なのか?」
不満そうなアーカードにインテグラは笑った。
「生徒だ。大切な。覚えておけよ、生徒でいられる期間はもう短いんだから」
また先生泣いているなとアーカードは思う。
「今のお前は窮屈だろ。けど、もうすぐ解放される。
 でもな、そうしたら今度はもっと厳しい世界が広がってるんだ」
今の先生みたいにか。そう思ってアーカードもインテグラの体に手をまわした。
「けど大人は楽しいぞ。やりたいことができる。なんだってできるんだ」
「だから先生は教師をやっているのか?」
ぎゅっと抱きしめられた。胸がかすかに顎にあたる。
「そうだ。お前やリップみたいな素晴らしい生徒と出会えるから」
「俺はどう考えたって素晴らしくないだろ」
「そんなことはない」
インテグラはきっぱり否定した。その後はもう言葉はなかった。
くーくーと安らかな寝息が聞こえる。それを聞いているうち、アーカードの目も自然に落ちた。
二人とも精神的にも体力的にも疲れ果てて、いつの間にか眠っていた。

次の日、アーカードが目を覚ますとインテグラはいつものようにスーツ姿だった。
いやちょっと違う。スカートではなくパンツスーツ姿だ。それに松葉杖を持っている。
「学校に行くのか、先生?」
「仕事だからな」
インテグラは眼鏡を調節しながら目をまばたかせる。
「お前が包帯なんか巻いてくれるから、今朝は目が腫れて大変だった」
がさごそと机の上の書類を分類し、鞄に持っていく書類を詰めている。
「食事はそこにある」
サイドテーブルには確かに朝食が用意されていた。
「昼には看護士が来る。食事も持ってきてくれるらしい。
 私はこの傷だから昼過ぎには早退してくる。それまで大人しく寝てろ」
キロッといつもの目で睨まれた。
「点滴は抜くな」
アーカードは思わず笑う。インテグラも口元をゆがめた。

「じゃあ行ってくる」
そういってインテグラは慣れない杖をついて、よたよたとした足取りで出て行った。
本当に大丈夫なのか?と思いつつも、
先生なら意地でもなんとでもしてみせるんだろうなという気もする。
アーカードは明るく安全な空間の中で、けだるい痛みにつつまれながら再び目を閉じた。
俺は平和なんて大嫌いだけど、たまにはこういうのもいいなと思いながら。

 


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