「魔弾の射手」 後編
眼鏡も衝撃で飛んだのだろう。あたりがよく見えない。
ただ暗い影がぼんやりとこちらに近づいてくるのはわかった。
「ひ、ひぃ、、、」
思わず後ずさる。
「リップ、本名はリップヴァーン・ウィンクルだったかな」
アーカードの声が聞こえてくる。背中が扉に当たった。でも腰が抜けたように立てない。
「面白かったぜ。こんなに楽しいのは久しぶりだった」
陶然とした彼の声が近づいてくる。
「俺は強い奴ほど本気で叩きのめすことにしているんだ。敬意ってヤツでね」
アーカードはいつの間にかリップの前にしゃがみ込んでいた。
顔に何か金属製の堅いものがあたる。彼女の眼鏡だ。
リップは反射的に手を伸ばしてそれをうけとり、眼鏡をかけた。
「リップヴァーン。女の場合、叩きのめすっていえば…分かるよな?」
急にはっきりした視界と共に、はっきりした現実も襲いかかってきた。
*
「あ、あ、あああ、あああ」
言葉を発することもできず、ガタガタ震えている彼女をアーカードは片手だけでつるし上げた。
本来そこから逃げるはずだった屋上入り口の壁に、リップの体を押しつける。
もう片方の手で無造作に彼女のスカートの中に手を入れ、ショーツを引きずり降ろした。
「ぃやぁ,,,」
力無く呟くリップをアーカードは怒鳴りつけた。
「だったら何故撃ったんだ!? リップヴァーン!」
「ひぃっ」
その声にリップの体はまたガタガタと震え出す。
「楽しかったんだろ? たぎったんだろ? 最初は少佐に命じられたことでも、
最後はお前自身楽しんでいたんだろうが!!」
ちがうちがう、私はやらなきゃならないことに懸命だっただけだ。
やらなければ全てを失うから。どうしようもなかったんだ。
リップ自身嘘だとわかっていても、そう思わないと全てが崩れていきそうだった。
足が持ち上げられ、開かれた。まだ少しも湿っても潤ってもいない
堅く閉じたそこに、取り出されたアーカードのものが押し当てられる。
*
リップはもちろん処女だった。誰かとつき合ったこともない。キスの経験すらなかった。
しかし今、彼女の敏感な部分にはアーカードのそれが押し当てられている。
アーカードははゆっくりとリップの体を吊り上げている力を抜いていった。
自然と彼女自身の体重によって、リップの秘所はアーカードのものを受け入れていく。
「いやぁっ! いたいぃ! いたいぃぃっ!!」
泣き叫ぶ顔を、アーカードは愉快そうに眺めていた。
必死でばたつかせる足によりスカートがまくり上げられる。ポケットから何かが落ちた。
「あっ」
リップは一瞬何もかも忘れ、呆然とした顔でその定期入れを見つめた。
アーカードもその視線を追っていた。
しかし彼は気にせず、今や深々と入り込み密着した局部に手を伸ばした。
リップの背を壁に押し当て、太股を両手で持って激しく腰を突き上げる。
「ひっ! ひぃっ! いっ!!」
リップはただただ痛みに耐えかねて顔をしかめ、首を左右に振っている。
涙がぽろぽろとあふれ出していた。
接合部分からはトクトクと血が流れ出している。
激しく体を上下に揺さぶられ、挿入を繰り返されることで、
堅いコンクリートに押し当てられた背中もはげしくこすれ、セーラ服がやぶける。
その下のブラのホックもぷつんとはじけた。
そして薄い下着もやぶけ、背中が直にコンクリートに当たる。ざりざりとこすりつけられる。
今や局部と背中の痛みでリップは気が狂いそうだった。
必死にすがりつくように、地面に落ちた定期入れを見る。
アーカードは彼女の痛みも定期入れのことも全てを知りながら、
ただ一方的に挿入、陵辱を繰り返した。体で覚えさせるというのはそういうことだ。
*
「お前、俺たちを殺す気だったのか?」
答えはない。リップはそれどころではない。でもアーカードは問い続けた。
「たぶん最初はちょっとおどかすだけのつもりだったんだよな。
少佐にもそう言って説得されたんだろ。
でも実際に射ってみたら楽しかったんだよな? 血を見て興奮したんだよな?」
「あぁ、あああああ...」
泣き続けるリップを見て、アーカードは無造作に体を引き抜いた。
そして彼女の体をアスファルトの上に投げ出した。
セーラー服は背中からやぶけ、背中と足の間から血を流しながら、
懸命にリップはアーカードから逃げるように這った。その先には彼女の弓が落ちていた。
反射的につかむ。でももう矢はない。
ただ弓を手にしたことで、さっきの記憶がよみがえった。
リップは確かに楽しんでいた。血に酔っていた。自分の力に溺れていた。
少佐先生に利用されるしかなかった自分、インテグラ先生のようにはなれない自分、
大尉先生に気持ちを伝えることも、「どうして?」と聞くこともできなかった自分。
たった一つの特技である弓を撃つことで、その全ての現実から逃れようとしていた。
「ああ、ああ、ぅううう」
リップは大切な弓を抱きしめて泣く。そうしながら近づいてくるアーカードを前に震えていた。
「答えろ、リップヴァーン」
アーカードは月を背に、腕を組んで魔王のように問いかけた。
「そしてお前はこれからどうする?
さあ!! どうする!! どうするんだ。
リップヴァーン・ウィンクル!!」
ああ、ザミエルだ。魔弾の射手のザミエルだ。リップはオペラ「魔弾の射手」を思い出した。
私は彼らとは違う世界に住んでいたつもりだったのに、
今夜弓を射ることで彼らと同じになってしまった。
「亡霊を装いて戯れなば、汝、亡霊となるべし」 オペラの言葉が頭に響く。
*
かたん。リップの心のどこかが壊れた。
リップは弓を取り落とし、ふらりと立ち上がってアーカードに向かって歩いた。
そのまま彼の体にすがりつき、震えながら言った。
「お願い、抱いて」
私をもっと滅茶苦茶にして。
アーカードは黙って彼女の体をアスファルトの上に横たえた。
さっき散々陵辱したそこを開く。血と共に確かに透明な液も流れ始めていた。
先ほどと同じように挿入する。
「あぁ...」
リップの声は艶を帯びていた。
ゆっくりとした動きが気持ちよかった。現実からの逃亡なのか、自分への罰なのか、
とにかくリップはアーカードに犯されることで、確かに快感を味わっていた。
「ああ、ああああぁん」
もっともっとと自ら足を絡め腰を動かす。
どこまでも堕ちていきたかった。自分のすべてをさらけだして、崩してしまって欲しかった。
自らセーラー服のボタンを開き、薄い裸の胸を隠すところなく出す。
そしてアーカードの体にすがりついた。
熱い吐息でアーカードの胸や首筋にキスを繰り返す。
「はぁ、、、あぁああ、、、うぅん、」
快感は波のように押し寄せてきた。その波ですべてを洗い流して欲しかった。
リップは自分からどんどん深い場所へと溺れていく。
「あ、あああ、はぁあああっっ」
腰ががくがくと震えてくる。始めての絶頂を迎えた。体からすべての力が抜ける。
アーカードは無造作に自分のものを引き抜いて、リップの体の上に白濁した液を放出した。
*
まだ快楽の余韻に浸っているのか、正気に戻れないでいるのか、
とにかく呆然自失としているリップを放り出し、
アーカードは彼女が散々気にしていた定期入れを拾い上げる。
開くとそこには花の写真があった。真ん中にいくつも実を付けた白くて可憐な花。
大尉の写真、か。
アーカードはちらりとリップを振り返った。
哀れだとは思わない。これが現実なのだ。それに耐えられるかはリップヴァーン次第。
アーカードは無造作に定期入れをリップに向かって放り投げた。
それは彼女の顔のすぐ近くに落ちた。
それから体を翻し、非常階段を降りていく。当然だが振り向くことはなかった。
*
何時間くらい自失していたのだろう。
ともあれ、リップが最初に認識したのは夜空の白い満月だった。
「秋の夜半の み空澄みて…」
リップはいつの間にか口ずさんでいた。いつもの歌を。
「月のひかり 清く白く 雁の群の 近く来るよ
一つ二つ 五つ七つ…」
涙が止まらない。それでも心はどこかおだやかだった。
頭の近くに放り投げられた定期入れを開く。
エーデルワイス。
大尉先生。
私は、これからどうするのだろう。どう生きればいいのだろう。
きっと昨日までの自分ではいられない。ちゃんと変わっていくことができるだろうか。
もうザミエルになど捕らわれない人間になれるだろうか。
それから、利用されず、自分と自分の気持ちを大切にできる人間に。
わからなかった。ただ月の下で裸身をさらしたまま、リップは歌い続けた。
「家をはなれ 国を出でて ひとり遠く 学ぶわが身
親を思う 思いしげし 雁の声に 月の影に…」
おわり
ときヘルindex
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