貴方が好きでした
とてもとても好きでした
自分の全てを捨てても良いと思える程に
自分の全てを捧げても良いと思える位に
貴方がアタシの全てで
アタシには貴方しかいないから
そう云ったアタシに貴方は『大馬鹿者が』と返したけれど
それでもアタシの存在を受け入れてくれたから
両手を広げて抱き締めてくれたから
だからこの恋はハッピーエンドな筈だったんだ
そう、貴方の前に
あの女が現れるまで、は……
流れ流れて…
彼等と、彼と最初に出会ったのは只の安宿で。
何故か西への旅を続けていると云うその一行が自分の泊まるその宿へと来たのが原因。
何かと騒がしい彼等に、つい笑みを零してしまったのがきっかけになって。
一行のグループの片方だけの変わった眼鏡をしているヒトが話しかけてくれて。
ニコニコ笑う彼につられて返事を返してしまったのが運の尽き。
その直後に紅い髪の男のヒトと元気の良い男の子がやってきて。
アタシの食事していたテーブルは何時の間にやら大騒ぎ。
でもそんな楽しい食事は初めてで。
本当に楽しくて。
もう一人連れが居たなんて思いもしなくて。
痛い程の視線を感じて振り返った瞬間。
アタシは神々しい迄のその金糸を持つ美しい僧侶に心を奪われてしまっていた。
それからアタシは無理を云って彼等の旅に付いて行くコトにして。
女の一人旅なんて危険なコトをしていた所為で。
襲われるなんて日常茶飯事になっていたアタシには。
彼等が襲われるコトですら不思議に思わなかったが。
ソレが重大な責務を担っているコトを知ったのは、ついこの間。
その話を惚れた男がしてくれたのは。
アタシが同行するようになってから、随分と時間が経っていた頃だった。
でも彼がその話しをしてくれたのは。
この旅が危険であるコトを云っているワケで。
そんなのは平気だから
自分の身は自分で守るから
怪我をしたって自分の所為だと思えるから
絶対に迷惑はかけないから
だからアタシを離さないで
惚れた男に。
ある意味、告白めいた言葉で詰め寄って。
どうしてもこの旅に同行したいのだと言い募って。
意見を曲げないアタシに。
彼はイヤそうな、辛そうな顔をして。
『惚れた女が危険に晒されるのは我慢がならねぇんだよ』
そんな言葉をくれたのは。
まだ最近の話だったよね。
初めて貴方の胸の中に抱かれて。
夢のような一時をアタシに与えてくれたのは、決してウソじゃないんでしょう?
細いけれども、それでも男のヒトなんだと感じさせてくれた貴方の腕の感触が消えないこの身体。
男のヒトと交わるのは初めてでは無い、穢れたアタシの身体だけど。
それでも貴方は良いと云ってくれて。
もう、俺以外の人間とヤるんじゃねぇ
なんて言葉も貰ってしまって。
嬉しくて嬉しくて夜も眠れずに。
一晩中貴方の寝顔を見詰め続けたのはまだ一月前。
本当に夢か現か分からないかのような幸せな時間が流れていって。
その時が幸せなら幸せな程
後に来たその現実が悪夢に思えて
だって
今
貴方の腕の中に居るのが
貴方の腕の中に居る女が
自分じゃないなんて……
そんなの信じられない…っ!!
あんなに大事にしてくれたのに
あんなに大切にしてくれたのに
何度も抱き合ったのに
何度も口付けを交わしたのに
少ないけれど、アタシだけにその言葉をくれたのに
アタシに向かって、アタシだけの言葉をくれたのに
なのに
なんで貴方は違う女を
その胸に抱いているの……?
アタシに飽きてしまったの?
もう大事じゃないの?
大切じゃなくなっちゃったの?
あの時だけ本気だったの?
もう
アタシのコトは好きじゃなくなっちゃったの……?
『…悪ィ……この女だけは、……コイツだけは特別なんだ』
耳を疑うような
聞きたくない
理解したくない言葉が
アタシの耳から脳に入って
貴方の声はアタシにとって特別で
口数の少ない貴方が喋る声は
アタシにとって、本当に特別だったから
その言葉も
聞きたくないのに聞こえてしまって
もう、何が現実で
何が夢なんだかの区別がつかなくて
止まらない涙の所為で
益々ソレは助長されて
それでも貴方がアタシを拒否した言葉だけは
ヤケにリアルに耳へと残って、こびり付いて
もう、ココにアタシの居場所は無いんだね
貴方と過ごせた、恋人として過ごせた時は
余りに幸せ過ぎて
自分が持てる、全ての幸運を使い切ってしまったような感覚が
足元から夢が醒めていくような感覚が
ガラガラと音を立てて崩れていくような幻覚さえ見えそうな
そんな感慨に襲われて
とてもじゃないが
立って、いられない……
泣きながら飛び出した今夜の宿。
道行くヒト達が好奇の目で自分を見ているなんて自分にとって意味の無い事で。
その中に、不埒な視線でアタシを見ていた輩が居たのなんて。
アタシの知る所じゃなくて。
無防備に裏路地で泣き崩れるアタシを。
その男達は追って来て。
下卑た言葉で慰めながらもアタシの身体を嘗め回して、喰らい尽くして。
抵抗すらロクにしなかったアタシの身体はそんなに酷い傷は出来なかったけれど。
無残な心の傷だけはハッキリと残って。
思いの他、アタシの身体がお気に召したのか。
男達は自分勝手な言葉をツラツラとアタシに向かって云っていたが。
当然、そんな言葉が耳に入るワケが無くて。
だって、アタシの心に入れる声はあのヒトだけだから……
こんな身体で戻ったら
少しは彼の気を引けるかもしれない、なんて
そんなアサマシイ考えを持つ自分に吐き気がした
もう、戻る気力も持てないアタシを。
一部始終見ていた男がやってきて。
誘いの言葉を投げかけた。
自分達のエモノだと、先程アタシを蹂躙した男達が騒いでいるが。
男は気にした素振りも無く。
懐から銃を取り出して。
酷く素っ気無く、そいつ等を。
殺した。
今の今迄、アタシを好き勝手にしていた男達の死に様が。
その死に顔が余りにも可笑しくて。
不謹慎にも笑いを零してしまったアタシに。
その男は変わらない言葉をくれて。
見るからに怪しい服装をしたその男は。
太陽の下をマトモに歩けないような。
そんな感じだったけれど。
それでもその男の持つ金糸に目を奪われて。
無意味に笑っていたアタシの顔から笑みが消える。
あのヒト程、キツイ金髪では無かったが。
それでも目に入ったプラチナブロンドは。
アタシの意識を全て奪っていって。
ヒトを殺した直後とは思えない笑みを湛えたその男が差し出した手。
その男の手を
藁をも掴むような思いで掴んで、誘いを受けて
アタシは一行から離れる決意をした