今はまだ、都合の良い存在で構わないから







利用するのが目的だろうとも
偽りだろうと、今だけだろうとも

それで僕の手を取ってくれるなら







僕はそれで構わない





















流れ流れて…10





















泣き出してしまいそうなの手を取って。

僕へと伸ばされた手を取って。







例え、その伸ばされた手が一時の忘却を望むだけのモノだとしても。
それでも自分へと伸ばされた手を無碍に振り払うなんて事が出来る筈もなくて。







「えぇ、……。貴方がそう望むなら幾らでも」























この時に、既に心に決めていたのかもしれない







余りにも貴方が執着するから
僕に抱かれながらも、頭の中は彼に対する思いで一杯だったから








あの人に対する思いがソコまで深いのなら
貴方を自分のモノにするのには

思いが風化するのを待つなんて無駄なんでしょう?







だから、……多少荒療治でも

貴方の存在を
今の、この状況を彼に知ってもらって

そして彼の反応を見てみましょうね







彼がまだ貴方に思いの欠片でも残していれば、僕の負け
彼が貴方の事を忘れて、その思いを捨ててくれたなら、僕の勝ち







この勝負がどちらに分があるのかなんて聞かれたら
当然、思いを残されて、引き摺られている彼の方だけれど

どんなに分の悪い賭けだろうと、この勝負だけは止められないんですよ







ねぇ、三蔵

僕が彼女の残り香を移した儘で貴方の前に現れたとしたら







貴方、……どうします?













































散々にお互いの身体を貪るように掻き抱いて、快楽を共有しあって。
何度も果てながら男は女に溺れていって。

溺れられた女は己の思考の沼へと落ちていった…
























これだけ汚れれば、これだけ裏切れば。

申し開きもできないでしょう、と。







何処か自虐的な笑みを心の中で浮かべ。







それでも昔、感じていた。
今では夢だと思えるようなその一時へと縋るように手を伸ばし、意識を飛ばして。

八戒を受け入れながら、……意思を手放した。









































「………紫厭……」







名を呼ばれて、目を開ければ。
ソコは自分が八戒に抱かれた部屋だったけれど。

既に八戒の姿は認められなくて。

代わりのように傍に居たのは店の主人の龍隆で。
彼が帰ってしまったのを知った。








別に八戒が帰ったからどうしたと云われれば、それまでなんだけど。

何故か心が騒がれて。








あの人は何か云っていなかっただろうか……

共にした閨で、熱を分け合っている時に。
熱い楔を打ち付けられながら、あの人は何かを口にしてなかったか……








『……………アナタはどちらを選ぶんでしょうね……』

『…願わくば、…僕を……僕の手を掴んでくれませんか…?』








ダメだ……思い出せない。

とても重要な事を云われたような気がするのに。
どうしても、快感に流されてたあの瞬間が思い出せなくてイライラしてたその時。








「紫厭、もう目は覚めた?」








こんな時は優しい龍隆の言葉ですら、彼ですら八つ当たりの対象へと変わり得るのに。
彼だってそんな事は知っている筈なのに、何故?

目一杯、眉間に皺を寄せて睨みながら返事をする。








「五月蠅いわね……何?」








そんなアタシに彼はひとつだけ苦笑いを零して。








「いいの?君に会いに男の子が来てるんだけど」

「男の子?」

「そう、お客として通すにはちょっとお子様な感じの男の子だよ」








此処でこういう仕事をし始めてからと云うものの。
知り合いだの、昔の男だのを名乗って会いたがる男や女が結構な数、居た。

噂に名高い、男を狂わせる『紫厭』と云う女を一目見てみたいだの。
自分に狂った男を返せと云った、嫉妬に塗れた女。
妻子を持ちながらもアタシに入れ込んで。
妻が子供を使って父を返せと云わせに来たりとか。

今迄はそんな輩は店の若い子達や龍隆がが追い返してくれたんだけど。
今回はどうしたって云うの?








「そんな知り合い居ないわよ。帰ってもらって」








視線を外して面倒臭げに寝乱れた髪を掻き揚げた。
そうしたら。







「本当にいいの?その子の名前、……確か『悟空』だっけな。凄く紫厭に会いたがってたよ?」

「え……」







いま……なんて、…云ったの?








「ご…くう、………『悟空』って云ったの?その子」

「あぁ、金冠を付けて金色の目をした威勢の良い子だったよ。店の若い衆なんて一溜りもなかったね」








ごく、う……

…悟空、……悟空………何でアナタまでこんな所に来ちゃったの…?








「君に会うまで動かないって云い張ったから、取り合えずお店の中で待っててもらっている」

「………そう……」








何で皆して来るの?
どうして放っておいてくれないの?

アタシなんてあの旅の最中に、ほんのちょっとだけの時間を共にしてただけじゃないっ!

そんな風に探してもらえるような人間じゃなかった筈よ?








それに実際問題、今のアタシじゃ本当に彼に会わせる顔なんて持ち合わせていないんだから。








これ以上、辛くなるのなんてゴメンなのに……

なのにどうして悟浄も八戒も……寄りによって悟空までこんなトコまで来ちゃうのよ…








出来れば二度と顔を合わせたくなかった純粋な子供のようなアナタに。
今のアタシでは眩しくて、眩しくて……

キタナク、ケガレテ、ヨゴレたアタシなんかでは近寄れもしない。







あの人に最も近い悟空……

君がこんな所に来たのをお寺の僧侶達が知ったら凄い問題になるんだよ?
そんな事すら分かんないの?
それとも考えすら浮かばなかったの?







会いたくない、会いたくないと思いながらも。
昨夜の激しい情事の所為で重くて、怠い身体を押し進めて。

悟空が待っている、と云う襖へと向かって足を引き摺って。

会いたくないのに、脳ではそう判断を下しているのに。
身体は云う事を効かなくて。








あぁ……

もう、あの子の気配までが分かる位に近付いてしまった…








けれど、こんなになったアタシの気配に悟空は気付けない。

あの頃とまるっきり違ってしまった自分の気配に彼はじぃっと蹲ったまま、動かない。








震える手で襖のとって部分へと指を入れて。
気を抜けば倒れてしまいそうになる程、緊張してしまったアタシは。

今の状況を一辺に彼に知ってもらう為に、一気にその襖を引き開けた。








―――ガラッ……








大きな音と共に開けられた部屋の中。
見れば、通された部屋の中には見慣れた小さなテーブルと火鉢があって。
その近くに座布団があるのだけれど。

居る筈の悟空はソコには居らず。

何処に行ったんだろう、と部屋を見渡せば。








部屋の角で、足を両手で抱え込んで、とてもとても小さく身体を縮こまらせて。
酷く驚いた顔で、金色の懐かしい眼を真ん丸に見開いて、此方を信じられないかのように凝視して。








その、表情に。








本当に、会わなければ良かった……何て。








今更、遅いであろうその思いが駆け抜けて。








もう、感じる事なんてないだろうと思い込んでいた『罪悪感』が。








身体中に満ち、酷く心を痛めつけた……
























「………ご、くぅ………何で、…来たの……?」







己から発せられた声は。
自分でも信じられない位に震えていて、情けない程だった……
















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