見世物用の着物を脱いで
ソレ専用の着物に着替えて

アタシは自分の部屋へと行くの
懐かしい、『元』、仲間の彼が居る自分の部屋へ

愛した男の言葉を裏切る為に
悟浄に抱かれる為に






あぁ…分かっているのに

……苦しい、ね…




















流れ流れて…3


















大袈裟な迄の装飾品を片っ端から外していって。
苦しい帯を乱暴に解いていって。

肌に纏う、紫色の襦袢のみになってから。
今夜の男の為の薄い着物を着て。
重くなりがちな足を自分の部屋へと向け、歩き出す。






硝子と和紙で出来た薄い襖を静かに開けて。
頭を下げて、初見のお客様専用の決まり文句を喋り出す。

「今夜はご指名ありがとうございます。お客様にご満足できるよう、精一杯頑張らせて頂きますので、どうぞ可愛がってやって下さいませ」

その慣れた口調に、座って待っていた悟浄は苦しそうに、苦しそうに、顔を歪めた。
頭を下げていたは知るよしもなかったが…

来た時同様、彼女が静かに襖を閉める頃には何とか平静を保てる表情に戻したのだけれど。

それでも微妙に引き攣る悟浄の表情に、職業柄、敏感に気付いた
しかし何食わぬ顔をして彼の元へと歩み寄って。
傍らに優雅に座って酒の酌をする。

小さな徳利にそうっと透明な液を注いでやって。
悟浄はソレを静かに飲み干した。

お前も飲め、とでも云いたかったのだろう。
悟浄は自分の持っていた徳利をへと渡すとお返しとばかりに酒を注いでやる。
ソレに逆らう事無く、はゆっくりと飲み干して。

そんな静かな飲み交わしが少々過ぎた頃。
悟浄はやっと重くなっていた口を開いて。

「なぁ、。……さっきも聞いたケド何でこんなトコにいんだ?」

その問い掛けに。
は複雑な表情をして。

しかし返事は返さなかった。

「……云いたく、…ないのか」

悲しく微笑んだ彼女に連られたように悟浄も悲しそうな顔をして。

「自分の意志、なのか?ココにいんのは」

「…はい」

「………そっか…」

彼女の意思を確認して。
それは彼の望んでいた答えではなかったのだろう。

そして恐らく、自分が無理矢理に此処に囚われているのだったら。
力ずくで攫っていくともりだったのだろう。
アリアリとそれが分かって、自分も更に辛くなる。

「…今更かもしんねぇケドさ、……あの時の女な、紅孩児達の刺客だったんだよ」

悟浄がさり気無く発した言葉。
ソレは、悟浄との再会でささくれだっていたの心に更なる痛みを齎した。






………本当に……今更、そんな事を云われても、ね…






恐らく彼は、その女はもう居ないのだから、と。
自分達の元へと帰ってきて欲しいと云う意味を込めて次の科白を云ったのだろうけど。






「しかも笑い話しにもなんないんだけど、彼女とっくに所帯持っててな。今は旦那と子供と一緒に…」






―――幸せに暮らしてんだよ


















幸せに暮らして……

暮らしているんだ






アタシをこんなどん底に突き落としたクセに
アタシから三蔵を奪ったクセに
アタシから幸せを奪ったクセに

なのにその女はのうのうと自分の幸せを満喫してるの、ね…






アタシから三蔵を奪っていったその女を
今の今迄、一度も憎まなかったと云えば嘘になるけど……

けど、此処まで憎んだ事も無かったわよ…っ

そんな事実だったなら知らない方がマシだったわ!

だってソレじゃあアタシは一体、何なワケ?
あの女が三蔵を奪っていかなかったなら、今でも彼の隣に居る女はアタシだったかもしれないじゃない
今でも愛してくれていたのはアタシだったかもしれないじゃない
今でも隣で笑っていられたのかもしれないじゃない

なのに何でその女は三蔵から離れて自分だけの幸せを感じているの?
じゃあ、あの時感じたアタシの痛みはどうしてくれるの?


















酷い憎しみがの心を満たしていって。
しかし彼等から離れて、ずっとこの商売をしてきた所為で。
その感情を表情へと表す事無く、口を開いた。

「……悟浄様…」

目の前に居る男の名を呼んで。
紅い髪をそっと退けて。
同じ色の瞳と視線を絡み合わせて。

妖艶な迄の作り笑いを表情に乗せて。

唇を触れ合わせた。

手を伸ばし、彼の頬へと添えさせて。
長い髪を絡めるようにして角度を変えさせて。
舌を出して彼の唇を舐め上げて、甘噛みして。
口内へと侵入させようとすると……






悟浄の大きな手がの手首を掴んで、引き離して。






その儘、離れてしまった唇。
てらてらと唾液によって妖しく光るソレに、少々劣情を煽られる悟浄だったが。

相手が三蔵の『元』女で。
『今』の三蔵の気持ちを知る悟浄としては、手を出すにも出せないで。

それでも、かわそうとすればかわせた最初のキスを避けなかったのは。
今でも彼女の事を少なからず思っていた所為で。

後悔するのを知っていながらも避けなかったのは自分の我が侭の所為…






「……よそうぜ?…、……俺にはお前は抱けねぇよ」






とても辛そうな顔をして笑った悟浄。
それに対して、は表情を消していって。

「……私ではご満足頂けなかったのですね。では違う者を連れて来ますので少々お待ち下さいませ」

慣れたようにすり込まれたその科白を口にして。
しな垂れかかっていた身体を引き離す。

そして少しだけ乱れた着物の裾を直すと、おもむろに出て行こうとする。

「ちょっ…待てよ、!俺はお前に話しがあって来たんだぜ?!」

その彼女の腕を引っ掴んで慌てて止める悟浄。

「貴方は私をお買いになった。なのに貴方は私を抱こうとはしない。それではお金が勿体無いでしょう?」

「金なんざどうだって良いんだよ!それに何時までそんな口調で喋ってんだ、頼むから昔みたいに喋ってくれよ!」

「悟浄様…、それでは私の顔が潰れてしまいます。お客様相手にぞんざいな言葉使いは出来ません。
 それにもう誰に抱かれようが厭う程の身体ではございませんので。どうぞご理解下さいませ」

掴まれた腕に優しく手をかけて。
それでも有無を云わさず悟浄の手を引き離して。

「それに……高いお金を払って買って下さる他のお客様に示しが付きませんから…。ご勘弁下さい」

丁寧に頭を下げて悟浄を拒否して。

「じゃあ……、じゃあ他の女が来たとして……お前はどうするんだ?」

縋るような眼差しで。
本当はこんな所に居て欲しく無いのに。
一分一秒ですら居て欲しく無いのに。

けれどにその気持ちは通じる筈が無く。

「私は先程の店先へと戻ります」

事も無げに次の客を求めに、さっきの格子越しの部屋へと戻ると。
自分を売りに、ソコへと戻ると云い切って。

「…っんでだよ!! 何でっ…お前はっ…」

今度こそ、振り切れない位の力を込められて両の二の腕を掴まれる。

言葉に詰まるその悟浄の様に。
多少は残っていたのか、の中の良心が痛んで、痛んで。

苦しげな表情。
今にも泣いてしまいそうな悟浄。

今更ながらに昔、愛した男と共に過ごした。
同じ時間を共有した、その思い出を甦らせるその仕草、表情。

それに心が乱されて、掻き乱されて。

「……私は此処の女です。もう…、昔のようにはなれないんですよ…」

苦しいながらも笑みを模った顔をして。
苦痛に歪む悟浄の頬へと手を添える。

「穢れて、汚れて、地の底までも落ちていった女なんです。……忘れて下さい…」






何故、彼等に会いたいと。
悟浄に会いたい等と望んでしまったのだろう。

こうなる事くらい分かってた筈なのに。
辛くなる事くらい、分かっていた筈なのに……
そんな思いをさせる事くらい理解していた筈なのにっ

なのに、アタシは…

何て…、事を…しているんだろうね






不意に動いた悟浄。

離れた筈の唇を、再度重ね合わせて。
息も出来ない位に塞がれて、重ね合わされて。

後頭部を大きな手で固定されて、動けないようにされて。
一度は拒んだソレを、今度は悟浄の方から差し出して。
深く、深く、貪りあう。

粘着質な水音とリップ音、それとくぐもったの声にならない音が醸し出され。

ソレに助長されたのか。
悟浄の手が背中へと周り、少しずつ下へと撫でるように下がっていく。

その触り方に、彼の今までの女性経験の程度を知らされて。
コレを商売にしている、今の彼女ですらその手付きに感じるモノがあって。
相当、女馴れしていて、尚且つその女達を虜にしてきたであろう事が。
それだけで分かってしまう。

そしてゆっくりと着物の胸元へと侵入してくる彼の手。
キスをした儘で、決して乱暴な手付きでは無く。
酷く優しい動きでもって胸元を彼の前へと晒す。

当然のように現れる両の乳房に悟浄は手を添えて、優しく優しく揉みしだく。
先端に、たまに触れる指先が堪らないもどかしさを生んで。
だからこそ、不意に触れる指先からの感触が気持ち良くて。
彼のソレが掠る度にの喉元から、声にならない音が漏れていく。

襖の外から聞こえてくる他の客の声と、同じ境遇の女の声。

彼等の声は楽しそうに笑い合っていて。
ソレが切り取られたこの空間に妙に合わなくて。

悟浄はの手を自分の首に回させて、腰を折らせ、唇を合わせたまま彼女を抱き上げる。
そして彼女も同じ心境だったのか、別段文句も云う事無く、大人しく抱かれて。






煌びやかな障子を開け、少し大きめの布団へと二人して縺れ込んだ。












そして、この汚い世界へと

昔の輝かしい、過去のヒト達の一人だった悟浄を

巻き込んでいった……













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