最近、悟浄の様子がおかしい……
否、おかしい何てもんじゃない






何かに囚われてしまったかのように出掛けて行って
そしてその晩から帰って来ず






まったく

何をしているいんでしょうかね……あの人は





















流れ流れて…6






















ある日を境にして、一緒に住まわしてもらっている同居人の様子が一変した。

元々、金には執着していなかった筈の彼が。
家にあった有り金全てを持ち出してから連日のように。

毎晩のように賭場に行っては帰って来ない。






余りにも連日、帰って来ないので気になって。
街に居る、彼の知り合い(?)のお姉さんに聞いた所に寄ると。

悟浄は毎晩賭けをして、大金を持って何処かへ消えて行くと云う。

そこら辺をもっと詳しく聞きたいと思い。
彼女のお友達で、悟浄と特に仲の良かった女性を紹介してもらって聞き出せば。

彼女は酷くご立腹のようで。






何故なら、悟浄は全ての女関係を絶って、ある娼館へと通い詰めていると云うのだ。






以前からその娼館には、とても綺麗な女が居たとの事で。

何処か影を背負った、儚げな雰囲気が堪らなく男心の保護欲を誘ってくれるそうで。
飛び切りの売れっ子さんのようだった。

儚げなクセに滲み出るかのような彼女の艶やかな身体。
そんな彼女に、男達は街灯に群がる蛾か蟲のように吸い寄せられると云われている。






『アタシも何人もの男がその女に魅せられて狂っていくのを見たわ』

『でも、あの悟浄までがそうなるなんて、ね』






微量に含まれる嫉妬と悔しさの混じる口調で。
そう、教えてくれた女性達に礼を云って。

買い物を済ませ、彼の家へと帰ってみると。

何日振りだろう。
久し振りに悟浄が居て。

















そして、その彼の顔を見て





瞬時に覚った……











































女性に真剣に惚れた事の無い悟浄が





誰かに囚われた事を…








































「………久し振りに会ったと思ったら……何なんですか。その顔は」






普段の彼だったなら。
無断外泊をこんなにも連日でするとは良い度胸ですねぇ、と黒い笑みを浮かべて脅すのに。

悟浄の顔を見た途端に、ソレ等は綺麗に消え失せて。

代わりに、一人の女に囚われてしまった彼へと同情と、羨望と、僅かな喜びを持って迎え入れた。






「………八戒……、そんなに酷い顔しちゃってる?……俺…」

「えぇ、この世の終わりみたいな顔ですね」






遠回しに訳を話してもらおうと、キッチンに入ってコーヒーを淹れる準備をする。






狭い彼の居住には、その食器の触れ合う音と、お湯を沸かす音しかせず。
酷く静かな一時だった。
















和やかな一時に思えたソレは






所詮、『嵐の前の静けさ』…だった











































「とっても綺麗な人、なんですって?」






単刀直入に。
彼が外泊をし続けた原因を付いてやれば。

悟浄は、彼が淹れてくれたコーヒーの入ったカップを僅かに揺らした。






「ちょっと気になって聞いちゃいました。儚げな人とか云われてましたけど悟浄の守備範囲は相変わらず広いですねぇ」






八戒が放った言葉に、とても傷付いたかのような顔をして。
悟浄は酷く辛そうに口の端だけで笑って、ハイライトを一本出し、火を点けた。






深い、深い、溜息のように吸った煙を吐き出して。






「……あぁ…、すんげぇ儚げだぜ………今にも消えちまいそうな女だよ…」






煙草を持った手を額の横、米神辺りへと持ってって。
顔を傾けた悟浄の表情は。

長い髪の所為で伺う事が出来なくなって。






でもヒントは残されている。

キーワードは『儚い』。
悟浄を此処まで本気にさせて。
尚、その『儚さ』を消せない女性。

















………どんな、…人なんでしょうねぇ…

















ちょっとダケ湧いてきた興味。

だって彼は女性に関しては、とても慣れていて。

彼を本気にさせたなら、きっとその人は大事に大事にされる筈で。
情事も普段も日常も、彼は女性を喜ばせるのに長けていた筈で。

自分が知り得る友人の中で、最も女性を幸せに出来そうな人なのに。
きっとその女性と一緒に笑っている筈なのに。

なのに、何で彼はこんなにも辛そうなんだろう。






そんな素朴な疑問が。
自分の首を真綿で絞めるかのような行為に繋がるだなんて。

この時の八戒は思いもしなかった。



















「……お前も、…会ってくるか?」




















突然、云われたその言葉に。

彼が云った言葉の意味を理解するのに、少々の時間を要してしまった自分。






「……はい?」

「だから、お前も会ってくるかって聞いてんの」






自分にその惚れたであろう女性に会わせてどうするのだろう、何て疑問が湧いてくるが。
それよりも『娼館』の『女性』に会いに行くと云う行為の意味を理解して云っているのだろうか、この人は。






「……意味、…分かって云ってるんですか?」

「あぁ…、充分分かってるつもりだぜ?」






皮肉を込められたかのような卑屈な笑みを浮かべた悟浄は。
ポケットから無雑作に金を取り出して、八戒の前へとパラパラと落とした。






「こんだけありゃ、多分ヘーキだからさ……行ってこいよ」

「………本気で云ってるんですか?」






自分が姉しか愛せない事を知っていながら。
何故、彼はこんな事をするのだろう。






少々、怒りが湧いてこないでもない八戒は。
自分でも気付かぬ内に、その笑みを消していた。


















「大丈夫だよ。アイツを見ればそんな気ィ、失せるだろうしな」


















その言葉を聞いて、急激に覚ったのは。

もしかしたら顔見知りなのかもしれないと云う事実。






「もう……俺一人じゃ無理みたいなんだわ…」

「悟浄…?貴方、何を」

「お前を巻き込むのは本当に悪いと思う。でもなぁ……マジでイッパイ・イッパイなんだよ」






とてもとても辛そうに顔を歪め。
深く眉間に皺を寄せ。

本当にどうしたら良いのか分からない、と云った感じの悟浄に。
八戒は次の言葉が吐けなくて。






「でも、もしかしたら逆に……」






次の言葉を吐いたのは悟浄だったけれど。
その言葉も途中で切れてしまって。

そして乱暴に吸っていた煙草を揉み消した。






「逆に、…何ですか?」

「否、何でもない。気になるんだったら直に会ってこいよ」






そう云って、悟浄は久し振りに自分の寝室へと足を向け。
もう今日は何処にも行かないから、留守番しててやっから行ってこいよ、と。

ハイライトの煙だけを残して消えて行った。






乱暴に揉み消された煙草は消えきれず。
細い煙を吐き続けていて。

八戒はそれを黙って見続けた。






段々と細くなっていく煙。

『儚い』と云われた女性。

燃え尽きようとしている揉みくちゃの煙草。

途切れてしまった煙。






消えてしまった煙草は、何故か強烈な迄に八戒に『儚さ』を強調して。

そして彼に、『娼館』へ行こうと云う気を起こさせた。

















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