あぁ……
情けねぇな

高が女一人、死んだだけだって云うのに






あんなに自分の身は自分で守れって云っておいたのに。

何があるか分からねぇから。
絶対に気を抜くな、と。

死ぬな、と。

あれ程云っておいたのに。
それすらも守れねぇような女が。






が死んだってだけなのに、な……






なのに…何でこんな……

こんな…

身体が

頭が






動かねぇんだよ!!




















Never2




















寺院で育った俺に。
女の扱いなんて、まったく知らなかった俺に。





『そうじゃないでしょー?』





ゾンザイな言葉でソレを指摘して。
的確に自分のされたいように俺を動かし。

それこそ狡猾な位に心の中に入り込んできたお前。












何時の間に

こんなにも愛してしまっていたのか……













それまで自分は自分のしたいように生きてきたワケで。

女なんて生き物に、目もくれず。
それこそ他人の意見になんて動かされる事等皆無だった筈で。






なのにお前って存在が。
俺の中にゆっくりと入り込み。

浸透していって。

本人の気付かない間に。
己の中に眠るこんな激情を。
こんな感情が自分にもあるんだと。

ソレを気付かせたお前に。






そんな思いを。
三蔵法師である俺に、こんな思いを抱かせた罰だ、と。

言い掛かりのような言葉でもって。
その身体を拘束して。

初めて抱いたあの瞬間。






初めてお前を身近に感じて。
初めてお前の体温を感じられて。

こんなにも柔らかい身体で。
こんなにも細い身体で。

強行軍である俺達の旅に付いて来て。

悟空達にも引けを取らない程の腕を以ってして。
襲い掛かってくる妖怪どもを蹴散らして。

返り血を散々浴びたその姿が。

何時ものような。
華が咲いたかとも思える笑顔で俺達の所に。

俺の元に帰って来たお前が。







甘い夜を。
甘い睦事を。
甘い戯れを。

思考が溶けるような時間を教えてくれたお前が。







一度許してしまえば。
一度入り込む事を許してしまえば。

それは瞬く間に己の中に染み入ってしまい。
知る以前の自分には戻る事等出来なくて。






夜が来る度に。
周りの目も気にせず。
それこそ下僕どもがに同じ思いを抱いているのに気付いていながらも。

その身体を抱いて眠り。
その温もりを胸の中に感じる事で益々溶けていく頭の中。

他人の体温がこんなにも気持ちのいいモノだと気付かせてくれたお前。






呼べば直ぐに返事を返した。
俺の云う、無理難題も笑ってコナシテきたお前。















『いいか、お前はどんな事があっても俺の傍から離れるんじゃねえぞ』

『……はい?…何、…それってプロポーズなワケ?』

『……知るか、そんな位てめぇで考えろ!』

『あはは、そんな怒んないでよー』















どんなに酷い喧嘩をしても。
何時の間にやら俺の傍に戻ってきていて。


















『………何でてめぇが俺の横に居るんだよ……』

『やーだ、三蔵様ったらもうボケたの?自分の云った言葉位覚えてんでしょ?』

『………………』

『……ゴメンってば……アタシが悪かったから、そんな怒んないでよー』
















何も望まなかったお前。
全ての物事に対してシニカルな考えを持っていて。

















『人の思いなんてさー、結構脆い処とかあるよねぇ…』

『……それは俺の事を云ってんのか?』

『ううん、三蔵の事じゃないよ。……只、人の思いは変わったりするしさー……』

『そりゃ、生きている人間だったら変わりもするだろうさ』

『うん、でも……ううん、だったら死んだ人間の思いって何処に行くんだろうなぁ、なんて思っちゃってさ』

『そんなの残された人間の胸ン中に決まってんだろう』

『………あ、……そっか…』


















そうだよ。
だから今の俺がこんなになってんだろう?

先に逝っちまったお前が。

俺の云い付けを守れずに。
先に逝っちまったお前の所為で。

ザマぁねぇよなぁ……






動けやしねぇなんてな。


















『三蔵ってさ、温かいよねぇ』

『………アホか?』

『ひっどーい!! そう思っただけなのに、何で返事がアホなのよ!』

『俺なんかよかお前の方がよっぽど温かいっつってんだよ』

『……………』

『照れてんじゃねぇよ、この馬鹿が』

『五月蠅いわねぇ、でもアタシにとっては三蔵の方が温かいの!』

『ほう……何処ら辺がだ?』

『う〜……何処ら辺って言われてもなぁ…兎に角アタシにとっては三蔵が一番温かいの!』

『……………』

『って……何ヒトの服ン中に手ぇ突っ込んでんのよーっ!!』


















俺の方が温かいだと?
俺にとってはお前の方が温かかったんだよ。

なのに……

何でお前は
今のお前はこんなにも冷たいんだ……?

何でこんなに温めてんのに冷たい儘なんだ……?

















『ねぇ、三蔵。アタシ幸せだね』

『……寝言は寝てから言え』

『どうしてそんな言い方しか出来ないのかなぁ、このお坊さんは』

『目ぇ開けたまんまで寝ぼけてんじゃねぇよ』

『あら、アタシ本気で云ってんのよ?幸せだなって』

『……そいつぁ良かったな』

『うん、すっごい幸せ!……だって三蔵の傍に居られるんだもん』

『……………』

『ねぇ、三蔵もアタシの事、離さないでね?ずっと傍に居てね?』

『……誰が離すかよ、お前は俺のモンだ』

『…うん…、絶対絶対離さないでね……』

















離れて逝ったのはお前の方じゃねぇか。
俺は傍を離れるなって云っただろう!?

なのにナンでお前が居ねぇんだよ!





























『ね、好きだよ…三蔵』

















懐の中にゆっくりと手を入れて。



















『大好き……すっごい好き、もうメチャクチャ大好き』


















馴染んだ冷たい感触のモノを掴んで。




















『こういうのを《あいしてる》って云うんだろうね』


















独りになる事を誰よりも嫌がったお前に。


















『《あいしてる》よ、三蔵……』



















寂しがり屋なクセに強がりで。

誰よりも独りを。
孤独を嫌うクセに突っ張って、意地を張って。


















『…愛してる……』




















独りが嫌だと云えなかったお前の傍に。




















『……三蔵…』








































逝くから



































愛しい女の骸を抱いて。

酷く安らいだ顔をして。

己の存在。

己の使命も。

何もかもを放棄して。

左手に持つ愛銃、SMITH&WESSON。

ソレの銃口を己のこめかみに当てて。

ロックを起こし。

















その音に。

眠れなかった八戒が。

気付いて首を回し。

視界に入ったその光景に我が目を疑うなれど。

そんな余裕すら無くて。






「…っ!!?…三蔵!貴方、何して」



















搾られていくトリガー。

八戒の怒声に飛び起きた悟浄、そして悟空。

閉じられていく三蔵の眼。

全てを拒絶するかのように閉じられていく、その様が。

身体を動かすのを一瞬、鈍らせて。































―――……間に合わないっ!!
















































ガウンッ!!










































暗い暗い闇夜の森に。
一発の銃声が木霊した。































目を見開いた儘。
硬直したかのように、身体を強張らせて。

動けないのは誰もが一緒。




























そう。
それは三蔵にも当て嵌まる事。































だって




























彼の目の前には































死んでしまった筈の






























が居て





























酷い苦痛を感じているような怒った顔で





























透ける身体で
































三蔵が持っていた愛銃を































叩き落したワケで






























三蔵にはハッキリ見える彼女の身体。

しかし八戒達には淡い光でしかないその身体。






触れる事等出来ない筈の。
三蔵の身体を。






それだけ想いが強かったのか。
それだけ彼を死なせたくなかったのか。

有り得ない事を仕出かしたは。































『……こン…の……ン…の…、大バカ―――――っ!!!!』


































泣きそうな顔で。

透明な涙を零れそうな程目に溜めて。

怒鳴り散らして。
















「………………」

『こんなっ……こんな大バカ見た事無いよ!!』

「………………」

『アンタ、自分がナニしようとしたかわかってんの!?』

「………………」

『ちょっと!散々ヒトをシカトしときながら、この上聞こえない振りすんじゃないでしょうねー!!』

「………………」

『ナニよ、まだ聞こえないっての!? アンタ本当に三蔵法師なんでしょうねぇ?それともショックでボケちゃったの?』

「………………」

『ボケるにはまだ早いでしょー!? ねぇ、三蔵ってば…。さーんぞー!!』

「…………人が黙って聞いてりゃ好き勝手云いやがって……」

『は?ナニ?聞こえてんならサッサと返事くらいしなさいよねー、トコトン失礼な男よねー』




















「なぁ………アレってさ、やっぱなワケ?」

「………でしょうねぇ……」

止めようとした儘の格好でフリーズしてしまったのを。
やっとの事で修復して。

搾り出したような言葉は、信じられないようなモノだったが。
それでもソレを目の当たりにしている八戒達も同意してくれて。

だって自分達の目には。
光が三蔵の目の前に有るとしか認識出来ないワケで。






それでも三蔵の顔が、態度が。
人形のように木に寄り掛かっていただけの三蔵が。
あの光を目の当たりにした途端。

人間らしい動きを取り戻して。

ソレが尚更その事実を承認させるようなモノで。




















「てめえこそ何勝手に死んでやがんだ!! 間抜けヅラこいて死にやがって、俺の言い付けも守れねえくせに大口叩いてんじゃねえよ!!」

『んなっ!! ……ナニよー!アタシだって好きで死んだワケじゃないのよー!? 出てきてくれて《ありがとう》の一言くらい言いなさいよ!!』

「誰がそんな言葉を吐くってんだ!馬鹿も休み休みやれっつってんだよ!! この大馬鹿者がっ!」

『ヒドッ…コンナになってもわざわざ出てきてあげたアタシに向かって、それが言う言葉なのー!? 信じらんない!!』

「信じらんねぇのは俺の方だ!どうしてあんなヤツの攻撃くらい避けれねえんだよ!!」

『ショウガナイでしょー!! 気が付いたらもう目の前だったんだから!』

















「ありゃ間違い無くだな」

「そうですねぇ」

「何か…生きてる時と全然変わってないんだけど……」






残念ながら彼等が何を云っているのかは解らないが。
それでも三蔵の言葉から大体の想像が出来てしまい。

彼等の間に。
奇妙な空気が、雰囲気が流れていって。






本当は死んでしまったのだけど。
現実では、視界の端に彼女の遺体が見えるのだけど。
彼女の死ぬ瞬間も見てしまったのだけれども。

それでも今。

三蔵の目の前にある淡い光が。
汚い言葉でもって、言い合っているだろうあの光が。

だと云う事を物語っていて。






彼等の中に鉛のように滞っていた黒い、暗い感情を吹き飛ばしてくれて。






八戒も。
悟浄も。
悟空も。

無意味に笑みが零れてしまって。






先程の三蔵の行動を責める事も忘れて。
苦笑いのような笑みを浮かべて。

その光景を見続けていた。

















『ナニさっ!三蔵なんてー、ヒトが折角コンナになっても……会いたくてっ…会いたくって出てきたってゆーのにっ!』






溜まっていたさっきの涙が。
言い合いの最中に忘れてきてしまったような涙が。

ぽろりと零れて、落ちて。






「っ…!! ………だからお前は馬鹿だってんだよ!!」






本当は。
こんな姿であろうとも。
例え、どんな姿になっていようとも。






本当は成仏を願わなくてはならない立場なクセに。

こんな現実に留まっていてはいけないのに。

















なのに出てきてくれた事が嬉しいだなんて。



















それまで言い合っていた三蔵が。

乱暴に手を伸ばして。

八戒達には見えなかったのだが。

彼女の手であろう辺りを掴んだ瞬間。






ソコから生きていた頃の彼女の身体が。
の身体のラインが見え始め。

次第にその姿を見る事が出来てしまい。







引っ張られたは。

その儘、三蔵の胸に引き寄せられ。

抱き締められた……
































「………少しは…俺の気持ちも考えやがれっ……」

































搾り出すような三蔵の声に。
無意味に浮かんでいた彼等の笑みが強張って。






あぁ……
本当に、彼女は

は死んでしまっているのだと。






再認識させられるようだった。






























『………ごめっ……ごめん、ね…三蔵……』

「…うるせぇ……」






何故、自分が霊体のに触れる事が出来ただなんて。
そんなのは関係が無くて。

只、今触れている不確かな存在が全てであって。






『ごめ…んね……三蔵…ホン、ト……ごめ…』

「うるせぇんだよ!ちったあ黙ってろ!!」






抱き締める身体を更に強く抱いて。

その存在が。
この夢とも現実とも分からない、この存在を。

離したくなくて。

失いたくなくて。

消えてしまわないように。

もう、二度と手放したくなくて。

もっともっと力を込めた。


















から流れた涙が三蔵の服に染み込み。
彼は胸に温かい、濡れた感触を感じて。






思い切れない思いを。
有りっ丈の思いを込めて。






に口付けた。





























確かに見えていた

なのに。
三蔵とキスを交わすと、次第にその姿を淡いモノへと変えていって。

八戒達の目には、段々とその姿が薄れていって。
三蔵の手の中からは、彼女の存在が消え始めて。






「なっ……てめえ!何処に行く気なんだよ!!」

『何処って……』






悲しい笑みを浮かべながら。
少々、苦笑いを含んだようなソレ。

もう、八戒達には元の光のようなモノにしか見えなくて。






『ホントにごめんね。もう…行かないと…』






行く、即ちソレは逝く。

あちらの世界へ旅立てば。
もう二度と現世では会える事が無い。

同じ魂であろうとも。
記憶の一切を忘れ、生まれ変わった姿で自分の元に還ってきたって。

そんなのはでは有り得ない。
ソレはであってで無い者。






輪廻転生。
ソレは自分が唱えている仏道の教えなれど。

本来はソレを教え、説法を説き。
民に救いを教えるのが仕事な筈なのに。






だけど。
それだけど、コレだけは譲れねえっ…!!






























そんな事……

誰が許すってんだ…!!

































「誰が成仏してイイっつったんだよ!てめえは死んでも俺の傍に居ろ!!」

































その言葉に。

目を剥いたのはだけでなく。
聞いていた八戒達も同じく目を剥いて。

ナニをトチ狂った事をぬかしてんだ、とばかりに。
悟浄が喰って掛かろうとしたが。

ソレを八戒が止めて。
視線を合わせて首を振る。






止めてはイケナイ、と。

コレは彼等の問題なのだから。
自分達の意見を押し付けてはイケナイ、と。






だって答えを出すのは彼女なのだから。





























そしては……































『………この正直者……そんな告白されたら行くにも行けないじゃない…』































そう云って。

彼女は現世に残る道を選んだ。















現在の三蔵一行。

下僕が三人。
足が一匹。

浮遊霊が一人……






こうしては死んでも三蔵の傍に居る事を選び。
彼女が色々な面倒を起こすのは。

もう少し先の話………








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