ジェットがを連れ出してから。
何かと彼と彼女は共に過ごす時間を増やしていった。
それが不自然で無い事が。
少々、照れくさそうに受け入れているが仲間達にソレを温かい目で見守る事に繋がり。
そういう目で見る彼等が。
彼女がソレを受け入れていると云う事実が。
自分でも思いも寄らずに感に触って。
何故、彼等の事を気にしてしまうのか。
彼等の事等、放っておけば良いモノを。
そんな風に気にしてしまう自分を。
認めたくない……
そう、この気持ちの根本に有る。
懐かしい、40年以上も封印していたソレを再び持つだなんて。
絶対に認めたくなかった。
知識
昼食の終わった一時。
午後のティータイム。
その後の恒例になった散歩。
夕食後の団欒。
寝る前の一時ですら。
彼等は一緒に居る事が多くて。
フランソワーズが話した事で。
二世代である、005以降の面々も。
彼女に対する態度が変わっていって。
ココに来た時とは比べ物にならない位に増えた彼女の表情。
中でもジェットに対する笑顔は、本当に良い笑顔で。
来た時には本当に彼女には感情があるのか、と疑える程だったソレ。
まるで乾いた土が水を吸い込むがの如く。
彼女は日々、違う表情をするようになって。
今では五分咲きの桜のようで。
初めて会った時。
生きた人形のように思えた彼女。
変わらない表情に感情。
それはまるで昔の自分を見ているようで。
最愛のヒトを亡くした時の自分のように思えて。
知らずの内に気になっていた彼女が。
過去の自分のように思えた彼女が。
感情を取り戻したのなら。
人間らしい表情を取り戻したのなら。
それが自分の手で行なわれた事で無いにしろ。
喜ばなければならないのに。
なのに何故か胸の中には滞るようなモノが有り。
その存在を否定できない自分が居て。
この感情の根本に有るモノを認めたくないのに。
そう、絶対に認めてはいけないのに。
それは昔、愛した女に対する裏切りのように感じるのに。
なのに理性と感情が真向から対立するように。
自分が彼女との時間を持ちたがっている事に気付く。
原因はちょっとしたアクシデントのようなモノ。
本当なら笑って見過ごせば良いような事で。
彼のお国柄を考えれば、他意は無いように思えたのに。
なのにアレはそうは思えなくて……
ジェットの影響を受けたのか。
彼女は彼と一緒に深夜番組を見る事が増えていって。
彼と夜遅くまで起きている事は少し前から知っていた。
幾ら遅くまで起きていても、次の日には何時も通りに起きてくる彼女とは違い。
何時までも起きてこないジェットに業を煮やしたフランソワーズが。
怒ってワケを聞き出した事でその事実を知って。
例えようもない醜い感情が心の底から湧き出て来るようだった……
そして妙に寝付けなかったあの日の夜。
見たく無い光景を、目に…してしまった。
僅かに漏れてくる光源。
ソレはリビングから発せられていて。
少し前には聞こえていたヒトの喋り声がピッタリと止み。
自分の気配に気が付いて止んだのかと思っていたソレ。
しかしそれは歩いて行った先で。
歩きながらチラリと見えてしまったリビングの。
ソファに座る二人の影が。
重なっていたのが目の端に映ってしまい。
機械仕掛けの己の身体が。
動くのを拒否するかのように。
軋む筈の無い関節が嫌な音を立てるかのような感じで、動かなくなって。
その光景を凝視してしまった……
逃げるかのように自分の部屋へと帰って行って。
早くなる鼓動を恨めしく思いながらも、ソレは一向に収まる気配を見せず。
動きの悪くなった錯覚を覚えた部分は。
益々ソレを酷くしたような感じがして。
鈍く動く右手で顔の半分を隠すかのようにして。
その場へと座り込んでしまう。
あれだけの時間を共有していたのだから。
あんな笑顔を向ける位なのだから。
そんな関係になるのも当然だろう、と。
頭の片隅ではソレを理解するも。
矢張り、感情はソレを認めたくないのか。
嫌が応にも黒い感情が身体を支配していって。
強制的にその感情を認めさせられてしまう。
彼女に。
に特別な好意を寄せている、と云う事を。