無理矢理に
否応無しに
そんな言葉が酷く似つかわしいような
その状態で俺は自分の気持ちに気が付いた。
無理矢理だろうが、否応無しだろうが。
それこそ、こんな気持ちになんて気がつかなかった方がマシだったのは。
絶対に確かで。
だってソレを認めようが、認めまいが。
彼女は既に他の男のモノなのだから……
知識2
夜中に起きて、あの現場を目撃して。
眠気等は綺麗にすっ飛んでしまって。
益々眠れなくなったアルベルトは。
本を読むにもまったく頭に入らないし。
酒を呑むにも身体は受け付けないように設定してある所為で役に立つ筈も無く。
結局、彼は一睡もせずに朝食のキッチンへと姿を現した。
彼等が口付けを交わしていたダイニングが目に入ると。
自然と目付きが険しくなっていたのだろう。
フランソワーズ達はとても怪訝そうな顔をしていた。
自分ですらコントロール出来なくなっていた己の感情。
こんな事は愛した女を失った時以来で。
本当にその時だけだったが為に。
アルベルトは己の感情がどれだけ彼女に惹き付けられているのを否応なしに感じていた。
そして突然に訪れた歯車の悪戯に。
この後、彼等は酷く踊らされる事になる。
でも今はまだ優雅な一時。
嵐の前の静けさが、彼の感情をささくれ立ったモノに変えるのは。
この直ぐ後の事だったのだけれど……
「怪電波がキャッチされた」
008の口から発せられたその言葉は。
妙に平和に染まり始めた自分達に、少々衝撃を齎すモノで。
久し振りに自分達の間に緊張感が走るのを。
この緊張感を何処か望んでいたかのような自分を。
アルベルトは酷く呪った。
定期的なメンテナンスを行なわなければならない身体。
人間離れした己の右手。
力加減をしなければ、普通の人間とハグも出来ない両腕。
多少の衝撃では凹む処か、僅かな破損もしない機械仕掛けの忌々しい肉体。
この中の誰よりも戦闘タイプに作られた自分の身体は。
平和の中には似つかわしくないのだと。
この話を聞いて心の何処かが嬉々としている己に酷く嫌気がさした。
しかし、よくよく008の話を聞けば。
只、可笑しな電波が有るだけで。
ソレがブラックゴーストの生き残りが何かをしているのかと云う確信も無く。
偵察の為に、と。
002と009、007と008が行くだけに留まり。
アルベルトは居残り組になってしまった。
あの緊張感の中に居れば。
少なくともこの心のざわめきを、例え一時であろうとも忘れる事が出来たのに、と。
俺も行く、と喉まで出掛かった言葉を無理矢理に押さえ込み。
早々に、目にも鮮やかな赤い戦闘服に着替えた彼等を見詰めていた。
「留守中の事は頼んだよ」
008の言葉に。
軽く頷いて、右手を上げて。
「何かあったら直ぐにでも呼んでくれ」
言葉、短くソレに返し。
後ろ髪を引かれるような002の仕草に更に心をささくれ立ったモノにしながらアルベルトは彼等を見送った。