あの後。

泣いた彼女は。
ソレに構う事をせず。





ポロポロと。

涙を流し続けながら。

自分のメンテナンスをしてくれた。





泣きながらソレを行なう彼女に。
直前まで感じていた嫌悪感は。

何処かに飛んで行ってしまっていた……
















何故


















身体の殆どを機械にされた自分のメンテナンスは。
矢張りと云うか。

相当な時間を食っていたようで。





一旦、機能を停止させられた自分に。
窓の無いこの部屋では時間の感覚が薄れると云うのもあってか。

ソレに気付いたのは全ての点検を終えて。
再起動させられ『終了しました』と云われ、外に出てからだった。





初めて彼女にメンテナンスされた自分の身体は。
気になっていた接合部分のフリクション(摩擦)が消えていて。

想いの外、動きやすくなっていた。





あの論文を信用していなかったワケではないが。
それでも自分の身体で体験すると。
彼女の優秀さが際立って。

これなら監禁してでも手に入れたいと思った教授の気持ちが。

少しだけ分かった気がした。
















メンテナンスルームを出る時に。
一言、礼を述べようと。
ローブから普段着に着替え。
しっかりと手袋をしてから。

彼女が居るメインルームへ行く。

扉のセンサーが004の陰を察知して。
当然のように開かれた扉の向こうには。





分厚い書類の束と。
膨大な情報を入力されたメインコンピューターの前で。
キーを打ち続ける後姿があった。





その姿は。

無理矢理連れて来られて。
他人の為に研究をさせられていた、と聞かされた。
昔の彼女とダブるような気がして。

知る筈の無い過去の彼女に。














酷い同情を覚えた。















そしてソレからは既に解放された筈なのに。
その陰を引き摺るような彼女に軽い疑問を持ち。

それでも簡単に口に出して良い類の質問では無かった為。

004はコチラを向かない彼女に礼の言葉を投げかけた。





「Miss.、ありがとう。大部身体の動きが良くなったよ」





その言葉に初めて彼女はキーを打つ手を止めて。
イスを回転させるとコチラを振り返った。





「いえ、お礼を云われる事ではありません。私はこの為に来たのですから」

「そう云うな。俺は素直にお前さんの腕を褒めてるんだから」

「……褒め、る…?」

「あぁ。あの戦いの後、どうしても違和感の残っていた所が綺麗になくなっている。凄いモンだよ」





自分でも驚きだが。
メンテナンス前にした時の表情とは百八十度違う顔をして彼女を見た。

それに彼女は少々、戸惑ったような。
困ったような顔をして。





「いえ……、本当に私は自分の仕事をしただけですから…。どうぞお気になさらないで下さい」

「そう謙遜するな。それにもう仕事は終わったんだろう?」

「アナタ達のメンテナンス作業は終了しましたが、そのデータを後々に活かす為に処理しなければなりません。」

「そう、か」

「後は普通の生活を送って大丈夫だと思います。でも何か変化が見られたら早急に知らせて下さいね。
 夜中でも構いませんので」

「分かった」














その会話を最後に。
次に彼女を見たのは三日も後の事だった。




彼女はメンテナンスルームから一歩も出ようとしなかったからだ。






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