何が彼女にそうさせているのか分からないが。

と云う女性は。
ヒトになるべく近付かないような。

他人と係わるのを嫌がる傾向がある事が分かった。

















接触

















自分と002のメンテナンスを終えてから。
彼女はメンテナンスルームから出て来ようとせず。

彼女の食事を003が運んでいたのを知っていたからか。
そんなにも心配はしていなかったが。

それでも一歩もその施設から出てこようとしない彼女を心配する自分に気付き。
我ながら苦笑いを禁じえなかった。





だって最初の印象。
話をしてみた時の印象では。

恐らく自分とはウマの合わない相手だと。
勝手にそう思い込んでしまったからで。





しかし初めてされた彼女のメンテナンスで。
その時の印象が吹き飛ぶ程のモノを見てしまい。

ソレが自分で自覚する以上に心の中に浸透してしまっている事を。
姿を見ない、この三日間で自覚したからで。













自分の腕を見て。
自分の腕を触って。

機械部分を触る度に。
接合部分を外す度に流れた『涙』。





それは自分を哀れんでいたのか。
こんな身体にされた事に同情したのか。





ソコは本人に聞かなければ分からないが。

それでもこの手を、腕を。
機械部分を見られて泣かれるだなんて。

002ではないが、本当に困り果ててしまったのは確かで。





それを証拠に。
あれから出てこない彼女の事を自分と同じように気にして。

五月蠅くて当たり前な002が大人しくソファに座ってコーヒーを啜っていて。
そして彼女の昼食を運ぼうとしている003を自然と目で追って。

また考え込むように片足を抱えて黙り込んでしまう。





きっと彼も聞きたいのだ、と。
あの時の様子のオカシイ彼女の原因を知りたいのだ、と。

そんな風に思えた。



























そして久しぶりに出て来た彼女を見て。
曇る顔色に、僅かに鈍る動作は。
まさか、と思っていた事実を。

確信に近いモノにさせてくれた。





自分の食べた食器を下げに来た彼女は。
キッチンに居た003と何か会話していて。

003にコーヒーの詰まったポットを受け取っている彼女に歩み寄り。
それを持つ彼女の背後に立って。





「Miss.。アンタこの三日間で何時間寝た?」





そう言い放った俺に。
物凄い驚いたような顔をして彼女は振り返って。

それは003、002も一緒だったのか。
彼女と同じ、とても驚いた顔をしていた。





「……今、…とても重要なパーツを開発中ですので」





そう返事にもならない返事を返し。

居辛そうに視線をさ迷わせて。
居間を出て行こうとする。





「ちょっと待て、そんな事は聞いてない。寝ているか、と聞いているんだ」

手を掴み。
避けようとする彼女を引き止める。

掴んだ左手から硬直した気配が伝わってきて。
引き止められる事を拒否しているのを感じさせてくれる。

「ちょっと待ってよ、アルベルト。それって彼女が寝ていないっていうの?」

信じられない、とでも云いたいのか。
003が自分へと問う。





あんな涙を流しておきながら。
今更、拒否するような態度を示す彼女に。
少々、イラつき。

「あぁ。多分この三日間、殆ど寝てないだろうな」

自然と言い方がキツクなった。





「そんな……何で…?」

「第一、何でそんな事がアンタに分かんだよ」

気になったのか、002も会話に加わって来る。

「彼女の様子を見ていれば自然と分かる。それよりお前さん、早く寝ろ」

「そういう訳にはいきません。私にはソレを完成させなければならない義務が有ります。
 高が三日、寝てないだけですから。どうぞお気になさらないで下さい」

「なっ…、アンタ本当に寝てなかったのか!?」





三日も寝ていないと云う事実が信じられていなかった彼等に。
自らの言葉で暴露してしまった後悔を露骨に顔に出して。

「Miss.アルヌール。コーヒー有り難うございます。それでは私は施設に戻りますから」

004の手を振り払うようにして、振り切って。

「って、ちょっと待てよ!何でアンタ寝ないんだよ、その研究がそんなに大事なのか!?」





勢い込んだ。
僅かに怒りを秘め、非難を込めたその002のセリフに。





「えぇ、とても大事なモノです。ですので私の事は放っておいて下さい」

「放っておけって……アンタなぁ!」





怒りの感情が直結で出来た青年は。
一気に頭に血が上ったのか、004と003に止められている。





「ソレは何の研究なんだ?何のパーツだ?」





頭に血の上った彼を引き止めながらも。
004が質問を口にすると。

彼女は聞かれたくない事を云われた、とばかりに。
戸惑って、立ち竦んで。

口を閉ざしてしまった。





それは弱点を曝しているようで。
彼女がウソを付けない事と。
ソレが自分達に云えない性質のモノだと公言しているようなモノで。

彼女が他人との接触、会話に馴れていない事を教えてくれた。





ヒトの弱みに付け込むのは、良くない事と知っていながらも。
それは時と場合によって変わって。





「それが何か、俺達に云ってもらえれば素直に施設へと帰してやろう」

「そんなっ…」

「云えないんだったら大人しく寝てもらおう」





004の会話の意図に気付いたのか。
残る二人も同意して。





「そうね、私達が納得出来る内容だったらアナタを解放してあげるわ」

「そうだな、俺も賛成」





ソレに本当に困ったような顔をして。
彼女は難題を突きつけられた子供のように思えた。






「いずれ分かりますから。だから今は施設に帰らさせて下さい」

「いずれではダメだな。今、云えないのなら帰さない」

「何も妙な研究はしてませんから」

「そう云う事を云っているんじゃない」

「お願いします。アレを明日中に完成させないといけないんです」





何をそんなに必死になっているのかは分からないが。
それでも彼女がソレに固執している事だけは分かって。





「お願いします。早くアレを完成させないと……」

「完成させないと?」





オウム返しに云った002のセリフに彼女はハッとして。






「兎に角、私にはソレをしなければならない責任があるんです」






頑なに主張する彼女に。
004は深い溜息を付いて。






「責任感に義務感。それは生きていく為にとても重要な、大切な事だと我々も分かっている。
 だがな、使命感に燃えるのは結構だが回りを心配させるのは頂けない、と。そう云ってるんだ」






呆れたように言葉を紡ぐ004に。
そのセリフの中に、何か引っかかった事があったのか。

彼女はとても不思議そうな顔をした。

それは004達にとっても不思議な事で。
だって004が云った言葉におかしな所は無かったのだから。






呆けたような顔で。
とてもとても子供っぽい顔で。






「………しん、ぱ…い……?」






引っ掛かったであろう言葉を吐いた。






不思議そうな顔の儘。
彼等に放った言葉は。

その言葉の意味を知っているのだろうか、と思わせる位に子供っぽいような。
危うい感覚を湧かせられて。






「……あぁ、俺達はお前さんが心配なんだ」






それに004が噛み砕くように。
僅かに低くなった声で。

静かに云えば。

不思議そうに彼等を見ていた彼女の顔が。





見る間に赤面していって。





見ているコチラも驚いてしまう。





それに彼女も気が付いたのか。
慌てたように。

「あ、……分かりました。二時間だけ睡眠を取りますから」

と云って、逃げ出すように居間を出て行ってしまった。





残された自分達に。

呆けたように彼女を見送ってしまった自分達に。
とても複雑な感情が生まれる。















「……あのヒト…、今迄どんな環境にいたの…?」
















苦しそうに云った003の問いに。
答えられる筈も無く。

それは002も同じだったのか。
苦虫を噛み潰したような顔をしていた。






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