それは、まるで深い深い海の底へ囚われたかのような感覚だった






初めて貴方に会った時
アタシは一目で貴方に恋してしまいました






精悍な顔付きに太い筋肉の付いた身体
ギラついた眼に、口の端を上げたダケの笑み






そのどれもがアタシを捉えて離さなくて

アタシは貴方に逆らえない、馬鹿な女に、…なりました














破片
















会ってからそう間も無い内に、アタシの気持ちに気付いたのか。
ゾロは『お前、俺に惚れてんだろう』と確信を突いてきて。

恥かしかったが、彼の云っている事は真実だったので。
そうだ、と認めれば。

彼は何を思ったのか、アタシに付き合おうと云い出して。

そして早々に彼に押し倒されて、関係を半ば無理矢理に近いような状態で結ばされた。






でも、実際はアタシも彼に抱かれてみたかったので。
そんなに抵抗らしい抵抗をしなかった所為だろう。






ゾロは次第にその行為に要求をしてくるようになって。






段々とエスカレートしてくるその要求の内容に。
羞恥心に囚われながらも、逆らえない自分。

何処と無く情けないような気もしたが。

それでも彼の事を本気で好きだったから。
だから彼の要求には全て応えてきた。






ゾロとの行為は、はっきり云って今迄感じた事の無い、衝撃的なモノだった。






バージンと云うワケでは無かったアタシだが。
それでも経験の少なかった自分は、あっと云う間に彼とのセックスの虜になって。

羞恥心さえ燃える為のスパイスとなって。
アタシは彼との情事に耽っていた。






過去の男達とは比べ物にならない位の快感を身体に教え込まれて。
自分の身体はドンドンと彼の色に染め上げられて。

今では情事の最中は、彼専用の忠実な娼婦のようになっていた。






舐めろと云われれば、彼がいいと云うまで舐め続け。
足を開けと云われれば、おずおずとしながらも彼の前へと自分の秘所を曝け出して。
イってもいいと云われなければ、精一杯我慢して快感を押し殺して。

彼色に染められたアタシの身体は、もう以前の自分では考えられない位に敏感になり。
ゾロを求め、貪欲になっていった。






馬鹿な自分は、盲目のように彼しか見られなくなっていて。
















それが原因だったのかもしれない……
















ゾロは、……飽きたかのように…















アタシを抱かなくなった
















一晩に何回も求められ。
何回もイかされて。
彼自身も何度もイって。

そんな日々が突然途切れたら、どうなるかなんて。

火を見るよりも明らかで。






アタシはゾロが欲しくて欲しくて、仕方が無くて。






でも彼はアタシを抱こうとはせず。

次に着いた島で、他の女を抱いた……

















その事に気付かなかったアタシは。
久々のゾロのお誘いに、蜜に群がる蟲のように飛びついて。

いざ、行為へと縺れ込もうと服を脱ぎあった瞬間に飛び込んできたのは。
他の女との行為の残った彼の身体。






瞬時に背中に冷たい感情が走り抜け。






吐き気を催すようなソレに。
彼に抱かれたいとは思えなくなって。

それが嫉妬だと知ったのは。






その感情に理性を保てず。
嫌がるアタシを力尽くで蹂躙したゾロに教えられてからだった。






嫉妬に狂い、彼を初めて拒絶したにも係わらず。
彼の愛撫に慣れきっていた自分の身体は、信じられない位の反応を返して。

暫く放っておかれた所為もあってか。

今迄とは違った絶頂を感じたが。
その快感も凄まじいモノがあったが。






それでもアタシの心は確かに傷付いていて。






激しい情事の後だったけれど。
何時もなら嬉しくて、彼の胸へと頬を摺り寄せていたが。

抱き寄せてくれる彼の腕を、拒んだ。

そんなアタシの態度に、彼は別段気にする素振りも見せず。
何時ものように隣で眠りに付いた。















彼が……






ゾロが、何を考えているのか






分からなかった…


















そしてそれからも彼は昔のようにアタシを抱き続け。
島に着く度に他の女を抱いた痕跡を残して、アタシの元へと帰ってきた。






そんな事をされながらも、まだその男が好きな自分に呆れもしたが。
自分の心は裏切れなくて。






プライドをかなぐり捨てるような思いで止めてくれと頼んでみた。

何度も止めてくれと頼んでみた。
他の女を抱かないでと頼んでみた。

情事の最中でも、何度も何度も。

















でも、彼は…






止めてはくれなかった……


















『他の女を抱いて帰ってきた時のお前の顔が好きなんだよ』

アタシが心底惚れた男はサラリとそんな事を云ってのけ。

泣く、直前のような表情で。
それでも決して泣かないアタシに彼は何を思ったのか。

暗い笑みを浮かべながら、更にアタシを貪り続け、楽しんでいた。



















そんな事を頻繁に、何度も何度も繰り返されると。
感じていた胸の痛みは慢性化していって。

流石に慣れてしまったのか。

アタシは彼を拒む事をしなくなった。

そうしたら、彼は酷く詰まらなそうな顔をして。
お座成りに行為を終了させ、部屋を出て行った。

















何故、こんな男になんて惚れたのだろう

何でこんな酷い男を好きになったのだろう






最近、考えるのはそんな事ばかり。






何でアタシなんかに付き合おうと云ってくれたんだろう…

便利な女だったから?
都合の良い女だったから?
文句を云わない女だったから?

まさか…
貴方以外の男に興味を示せなくなったから、……同情しただけ?
















もう……





イヤだよ………ゾロ…





お願いだから、アタシだけを見てよ

















この時はまだ間に合ったのかもしれない。

確かに自分の心は傷付き、ボロボロで、疲れ果てていた。
けれど、彼がもう他の女を抱かない、と云ってさえいてくれれば。

それだけで彼の元へと戻れたのかもしれない。



















けれど



















部屋を出て





















甲板へと歩を進め



















視界に飛び込んできたのは























仲、睦まじげに寄り添い合い





















口付けを交わす






















剣士と航海士の姿……














































高い高い上空から






硝子を落とされたような、甲高い、音、が…して






自分の心が、壊れて、砕けて














飛び散った……気がした…













































ダメだと思った

もうダメだと思った






クルリと踵を返して
丁度、都合良く島へと着いていたから

だから誰にも見られない死角の縄梯子を伝って地上へと降り立って






走って逃げた









































街の、知らない街の知らない女なら許せたんだ。

見ず知らずの女達だったから許せたんだ。






もしかしたらソレを商売にしている女かもしれない、と。
高々、一回ずつなんだから、と。
もう二度と彼には会わないのかもしれないのだから、と。

泣き叫ぶ自分の心を慰めて。
無理矢理に納得させて。
















でもさ……






幾ら何でも






同じ船の仲間に、手を出さなくても良いじゃない……



















どうして、と問う前に。
アタシの心は砕け散ってて。

そんな状態で会ったこの船の船長。






拭きもしなかった、止まらなかった涙を見て血相を変えて此方へと走って来て。






そんな彼へと涙声で半ば叫びながら頼んだ。
















『もう……耐えらんないっ…耐えらんないよ……』

『…オネガイ……ルフィ…』






『アタシを…この島に……置いてって…っ!』
















そんな事、出来る訳が無いだろう。

そう叫んだあの船の船長。






けれどアタシは自分の意見を変える事は無くて。

業を煮やした船長は。
幾ら彼が鈍いと云っても、アタシとゾロとの様子がおかしかったのを知っていたのか。

直に彼へと話しを付けると云い出して。






今度はアタシがソレを止めた。

















そんな事しないで
もしかしたらアタシが悪かったのかもしれないんだから

お願いだからあのヒトを責めないで
お願いだから黙ってアタシをあの船から降ろさせて……




















涙ながらに彼へと頼めば。

彼はギリギリと拳を握り締め、唇を噛み締めて。
何とかその場に留まってくれて。



















どんなに酷いヒトでもアタシが勝手に好きになったんだから
もしかしたら彼が同情してくれてソレに付き合ってくれてたのかもしれないんだから






それに……まだ、…好きなのよ……






どんな事をされてもあのヒトが好きなの

でもね、どんなに好きでも一緒に居られない時があるの
それが今なの

だからアタシをあの船から降ろして……






お願い……ルフィ…

















恋愛事に疎い彼には。
男と女の痴情の縺れなんて分からないようだったが。

それでもボロボロに泣く、アタシに。
それこそ同情してくれたのか。






此処には大きな海軍が居た筈だから

ソコに葉巻を銜えたオッサンが居るから

ソイツの所へ逃げ込むんだ






そんな事を云ってくれた。






さっきまで俺、追いかけられてたから
きっと直ぐ傍に居る筈だから

ちっとしたらソイツん所に行って俺達の事を知らせろ
そしたら俺達はこの島を出てかなきゃなんないから

お前が船を下りたのを知ってるヤツ、居ないよな






ポロポロと、ポロポロと。
幾筋もの涙を流しながら。

自分達を危険に晒してまでアタシ何かの我が侭を聞いてくれて。

本当に彼が船長である、GM号に乗れた事が嬉しかった。






良いんだな

本当に良いんだな

やっちまったらお前はもうあの船に帰れなくなるんだぞ






何度も何度も頷きながら。
最後の抱擁を交わして。


















『さよなら…ルフィ……それからありがとう……』

『少しの間ダケだったけど、…貴方の居る船に乗れて…』

『アタシは、とても……幸せだった……』



















絞め殺されてしまうんじゃないか、と思える程。
彼はアタシを抱き締めて。






そして、掠めるだけのキスをアタシの唇に残して。






彼も泣きそうに顔を歪めて。






走り去って行った……


















後から聞こえてきた、海軍が船長を捜す声。



















泣きそうに歪んだ船長の顔が目に焼き付いて。

それでもその船長の表情をも掻き消してしまう、離れて行ってしまう彼が愛しくて。

離れなければならなかった現実が憎らしくて。

そんな状況に追い込んだ彼が憎くて憎くて、でも愛しくて、けれど憎くて、心底憎らしくて。






それでも尚、愛しくて……






コントロール出来なくなった感情が暴走して。
それ等は涙となって溢れてきた。




















ゾロ……






ゾロ……






貴方はアタシと離れた事を知ったらどうしますか?






やっと別れる事が出来て清々する?
それとも便利な女が居なくなって、ちょっと不便な感じ?






あんなに毎晩アタシとシテたんだもの。
貴方が欲求を我慢するとは思えないの。

だから今度はナミちゃんをアタシの代わりにするの?






ちょっとは悲しいと思ってくれる?
少しだけでも淋しいと思ってくれる?
追い掛けたい、だなんて……

これだけは思ってくれないよね。






アタシは只の仲間で。
それでたまたま貴方のセックスフレンドみたいな存在だったんだもんね。

貴方程の男なら。
とっかえひっかえ、連日のように女が群がって来てくれるんでしょう?

そして直ぐにアタシの事なんて忘れるんでしょう?






でもね、……ゾロ…






少なくてもアタシは本気で貴方の事が好きでした。

あんな事を何度されても馬鹿の一つ覚えのように貴方に止めてと云い続けて。






昔の自分には帰れないけれど。
それでも貴方を好きになれた事。

後悔はしてない、つもりなの。

















直ぐ後から海軍の声が聞こえてきて。
何人もの足音がして。

その内の何人かがアタシに目を留めて。

こんな所で泣きじゃくるアタシへと不信そうな眼を向けるが。
彼等が捜している男達の情報を得ようと近付いてきた。






下りる予定の船の船長に云われてから。
相応の時間が経っている事に、呆然としながらもソレを覚えていて。

あっち…、そう云ってGM号が停泊している場所を教えた。






途端、怒号のような海軍兵士達の足音がして。
そして彼等の元へと走って行った。



















これで






これでゾロとはもう会えない……




















ココはログポースが無ければ航海出来ない特殊な海。

彼等はこの島のエターナルポースを持っていない。

即ち、一旦、海へと出てしまえば。

もう戻って来られない…



















さよなら、ゾロ……

こんなに愛した男は、きっと貴方が最初で最後だよ






さよなら…

アタシは貴方と離れて別の人生を選びます






ゾロ…






今だけだから

少しすれば直ぐに元に戻るから
だから今だけは…






思いっきり泣かせて下さい……













Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!