コックの言葉に、今迄感じた事が無いようなショックを受けて







今頃、居なくなったを好きだと気付かされて

しかし気付いたからといってどうにもならない現実がソコに横たわっているダケで







余りにも酷い事を繰り返してきてしまったから
信じられない位の屈辱と、侮辱と、裏切りを彼女に繰り返してしまったから

これなら気付かなかった方がマシなんじゃなかったのか、とすら思えたけれど







けれど、今、俺の胸の中にはアイツへの思いで溢れていて
感じた事のない熱い思いに戸惑いながらも

それは決して嫌な感情ではなくて







あぁ…

これが人を好きになる、って事なのか







と、実感していた







それと同時に途轍もない喪失感も感じていたのだけれど……




















破片 10





















人の温もりが、他人との係わりが欲しいと思った時には離れていたクセに。

どうして放っておいて欲しいと願う今。
次から次へと俺に会いに来る奴がいるんだろうか。







日頃の行いが悪かったんだろう、と云われてしまえばそれまでなんだが。

それでも、出来れば今は誰とも会いたくない、と。
そう思っていたのだけは真実で。

だからこそ、自分へと影を作るこの船の船長に。
視線を向ける事無く、俺は真っ暗な海へと目を向けた儘で黙っていた。







頭の何処かで謝った方がイイんじゃねえのか







と、そう思うが。
未だにこんがらがった頭の中では、昼間起こった現実を処理しきれていなくて。

どの言葉を選らんで謝罪したらイイのか、どうやって謝っていいのかも分からなくて。







口を開く事無く無視するような形になっているが。

今の俺にはどうして良いのかなんて。
分かる筈もなかった。

























暫く、船に当たる波の音だけが辺りを支配していたが。







そんな中。
唐突に船長は口を開いた。

























「……なぁ、ゾロ………」

「…あ?」

「お前さぁ………、の事…好き、だったんだな…」

「……あぁ…」







暫く振りに聞いた船長の声は。
普段のソレとは違っていて、とても落ち着いていて。

その中に、何処か悲しみのようなモノを感じて。







久し振りに至近距離で船長の顔を見れば。

何時もの元気さは何処へ行ったのやら。







眉尻を下げて、イキイキしている筈の目は遠くを見ていて。
芯の通ったような動きを繰り返すゴムの身体は、力無く俺の横へと座り込む。























どいつもコイツも
珍しくヒトが落ち込んでりゃあ、沈んだ面して傍に来やがって







情けなさ過ぎてこんな面ァ、誰にも見られたくねえのによ……
























内心でそんな事を思うが。
彼にそんな顔をさせているのは間違い無く己であって。

第一、彼がに持っていた感情を知っていて俺は何をした?

船長に大事にされていたにどんな扱いをした?







あんなに嬉しそうに傍に置いて。
何をするにもアイツに声を掛けて。
アイツも楽しそうにその後を追いかけて。

それだけで船長は満足気に笑っていて。
アイツも楽しそうに声を上げて笑っていて。







声を、…上げて……







笑って、いて…
























「………悪かったな……ルフィ…」
























そう、思い出したら自然と謝罪の言葉が出て来て。

云った自分も驚いたが、横に座っている船長も酷く驚いたような顔をしていて。







「……んな面すんなよ。…俺が謝ったらそんなに変か?」







至極、バツが悪そうな顔になってしまったゾロは。
そんな表情をした船長から顔を背けて。

顔を背けられた船長は、暫し固まってしまったようで。
ぴくりともしなかったが。

ゾロが居心地の悪さを感じ始めた頃。

突然抱き付いて来た。







「ゾロ―――――ッ!!!」

「どわっ!ンなにすんだよっ」

「やっぱお前は俺の仲間だよっ!」

「いっ、いてててっ!オイ、俺ぁ肋骨折れてんだよっ!!」







昼間の騒ぎの事を、ゾロのその言葉で思い出したのか。
ルフィはゾロを抱き締める力を抜いて解放してやった。

そして、ヤケに真面目な顔に戻って。







「俺、お前がの事、好きだなんて全然知らなかったからなぁ」







何処か自嘲気味な笑みを浮かべて視線を海へと持って行く。







「あぁ……。俺だって全然知らなかったぜ」







ま、あのクソコックのお陰だな…

本人には口が裂けても云えねえだろうけど。
本当は、この気持ちを気付かせてもらえて、少しだけ。

否、結構有り難いとさえ思っていた。







「アイツにも……悪りぃ事しちまったな…」

「……そうだな…」







ポツリ、ポツリと零されていく言葉達。







「今更だけどな…、アイツにはもう謝れねえんだよな…」

「……だな」







自分でも何でルフィ相手にこんな胸の内を語っているのかは分からないが。







「……良い、…女だったなぁ」

「……あぁ」







コイツにだけは本心を語っても良いのだろう、と。

アイツをあんなに大事にしていた奴なんだから。
アイツをこの船へと連れて来てくれた奴なんだから。







「俺ァ、あんなに良い女に酷え事しちまったんだな」







それに対する返答は無かったが。







「悪いとは思ってんだが、その一因を担ってたたのはお前なんだぜ」







その言葉を苦い笑みと共に伝えれば。
ルフィは不信げな、何を云ってるんだ、と云いたそうな顔をして。







「……お前がさ、…あんまりにもアイツと仲良さげにしてるもんだからさ。
 何だか悔しくてな。今更、言い訳にもならねえが俺はお前に嫉妬してたみてえだ」




















―――それだけアイツに惚れてたんだろうな…






















純真無垢な、何のかけ引きも知らないかのような。
まるで俺が初恋の相手とでも思えるような一途さで。

俺だけを見てたのに。
俺だけを愛してたのに。

他の誰もそんな風に見ていたワケじゃないのに。

己の中に浮かんでしまった、感じてしまったその感情は留まる事を忘れたかのように暴走していって。

自分の思いの気付けない俺は散々、悪行を行なって。
あんなにアイツを傷付けて。





















「………俺は……、何がしたかったんだろうな…」





















顔に片手をやって。
少しでも、その情けなくなったような顔を見せないように。

それでも苦々しく思っていた気持ちが表れていたのか。







発された声はとても、とても苦しそうで…







その声を聞いたルフィは無言で麦藁帽子を引き降ろした。

そしてそれ以上、そこに居た堪れなかったのか。
黙ったまま立ち上がり、ゆっくりと踵を返して傷心の獣をその場に一人にさせてやった。







その場に居る事で、ゾロの感情を、行いを煽ってしまった自分が傍に居る事で。
未だに心を整理しきれていないこの男を。







悪戯に傷付けないように…、と……




















あの声を聞いたなら。
彼が後悔している事なんて尋ねなくとも伝わってくるから。

取り返しのつかない事をした事実を受け止めようとして。
取り返しのつかいない現実を受け止めようとしているのが分かるから。







それ以上、自分が傍に居る事は無意味だから。

自分に出来る事はある筈だから…







それを行なった所為でこれから先、どう現実が転がるかは分からないが。







それでもルフィはソレをしようと決めていた。

















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