何枚もの壁越しからでも聞こえてくる怒声

船が震動する何度も何度も繰り返される大砲の砲撃

指示を出す為に声を張り上げる少尉

何人もの友人と云って、差し支えのない海兵達が廊下を走っていく足音








今、この船は、海軍船なのにも係わらず








『海賊』から攻撃を受けていた























破片 14
























知り合いや、友人とまでなった海兵である彼等の口から何度も聞こえてくる懐かしい響き。








もう、二度と会えないと云う事を心の何処かで否定しながらも。
会う事を望み、帰る事を望んでいたけれど。

けれどこんな形で会う事なんて望んではいない……








確かに自分は『元』海賊で。
今、乗っているのは『海軍船』だけれども。
自分を望んでくれる人は『海軍大佐』だけれども。

確かに自分は『あの船』に帰りたいと望んだけれど。
もう一度『彼』に会いたいと望んだけれど。








けれどどうしてアタシの大事な人達がこんな風に争ってるの……?








会いたいと思ったのは嘘じゃないけど、……だけどこんな風に会いたかったワケじゃないのに………

























「二番の砲撃を準備しろっ!各自武器の所持を忘れるな!! 相手はあの『麦藁』の一味だぞ!!」

「分かりましたっ!!」

「了解しました!」





















『麦藁』の一味と呼ばれるのは。
幾らこの海が広いと云えどもルフィ達以外にその呼ばれ方はしない筈。























「左舷から迫って来てるぞ!! 何をしている、早く行け!」

「うわあっ!敵船から砲撃、被弾っ!!」

「くそっ、何て腕の良い狙撃手なんだっ!」






















あぁ……

懐かしい、…腕の良い……優しい心の持ち主の…





















「何て奴等なんだっ!砲弾を身体で跳ね返してるっ!!」

「そういう奴等なんだ!気をぬくな!!」





















あの船から降りる事を許してくれた貴方が……

最後に泣きそうな顔をした貴方が…







何で……来たの…?





















「何考えてんだっ!乗り込んできやがったぞっ!!?」

「大佐の指示だっ!! 船内には決して入れるんじゃないぞ!!」

「少尉!ダメです、侵入されました!奴等の強さは半端じゃないっ!」

「大佐は?スモーカー大佐は何処に…」

「大佐は火拳に手一杯です!」

「何で麦藁の一味に火拳まで一緒に居るんだっ!!」





















お兄さんまで引き出して、……この船を沈めにでも来たの…?

それとも……アタシを…




















「少尉!! 三番からも侵入されました!金髪の男ですっ!!」

「二十人そちらに回せ!絶対にそれ以上来させるなっ!」





















何時も美味しいご飯を作ってくれた貴方まで来たの?

みんな……何しに来たの…?





















「少尉、二番から麦藁が侵入っ!!」

「何っ?! 止めろっ!! 絶対に来させるなっ!!」

「ダメです、少尉!! 奴は直ぐソコまで……うわぁっ!!!」





















アタシはもう……あの船から降りた人間でしょう…?

もう、…関係ない人間じゃない








どうして……?








もう、……忘れたいのに…

思い出したくないのに…








幾ら癒され始めたとは云え、…傷口は未だにぱっくりと開いているのに……








聞きたくないのに…








アタシを裏切った男の声なんて聞きたく…














































「……っ!! …何処に居んだっ、…!!」











































嫌になる位、身体が覚えているあの人の声がした途端

硬直したかのように身体中が強張って

頭の中に、あの時の彼の声が木霊して……








『他の女を…』








アタシを裏切り続けたあの人の声が…








『他の女を抱いて帰ってきた時の…』








身体が震えだして、止められなくて…

脳裏に焼き付いた彼の、…彼の嬉しそうな……








『他の女を抱いて帰ってきた時のお前の顔が好きなんだよ』








意地の悪い笑みを浮かべた、この上なく嬉しそうにしていた

アタシの気持ちなんてこれっぽっちも分かってくれなくて
彼を、これ以上思っているのが辛くて、苦しくて、耐え切れなくて…








もう、二度と会わないと

会えない、と思っていたのに……


























………ゾ、ロ…っ……












































「何処だっ!出て来てくれっ、……っ!!」

























嫌よっ!!
もうアナタの傍には居られないのっ

見たくないのよ
アナタと彼女が一緒に居るのなんて

会いたいけれど会いたくないのよ…








何処か…、何処か隠れるところ……






















―――…ガタッ!……




















余りにも冷静さを欠いていた所為で、彼女は部屋にあったソファへと当たってしまって。
不自然な音を作り出してしまう。







背中に冷水を浴びたかのように、身体が凍り付いてしまって、動けなくて。







その音を聞き逃すような男でないのは、他でもない。
自分が一番良く知っていて。























早く、逃げなくては…

逃げなくては見付かってしまうのに








頭の中ではそう分かっているのに。
足に根が生えてしまったかのように、その場に縫い止められて。








本当は、自分は彼に会いたいんじゃないのか。
それとも会いたくないのかが分からなくなってしまって。








彼の気配が此方に向いてしまっているのが分かって。








此方へ足を向けたのが聞こえて。








彼の手が部屋のノブに。








手がノブを回して……
























―――…ガチャ……















































懐かしいピアスに、緑色の短い髪に、黒のバンダナ、三本の刀……

鋭いその眼差しに、大きな手、厚い胸板、温かい貴方のその腕は……アタシを裏切り続けて…

























あの時、別れを余技なく決定された、無理矢理決意させらられた時と
寸分違わぬ姿で現れたゾロの姿を視界に入れた途端








溢れ出してくる過去の記憶と云う名の悪夢のようなされた仕打ちが瞬時に甦ってきて

それ等を追い出したくて、思い出したくなくてはキツク、キツク目を瞑った








けれどソレは留まる事を忘れたように彼女を覆い尽くして

離れていた時間等、まるで無意味だったと嘲るように彼女の時はあの時間まで遡って行って…











































「…っ………、………ぃ、ゃ……」








何人もの他の女を抱いて

他の女の残り香を付けた儘でアタシを抱いて

残酷な笑みでアタシを縛り続けて

アタシを苦しめ続けて

最後に同じ船の仲間へと……








オレンジ色の髪をした彼女、と…













































「……っいやぁぁああああああっ……来ないでっ!…来ないでぇっ…!!」












































まるで狂ったかのように叫んで頭を振って。
見たくない現実を見てしまった夢遊病者のようにこの場面を否定して。

無闇に逃げ出そうとした所為で、傍らにあるソファに当たってしまうが。
それでもその事実に気付かないのか、彼女はもう一つだけある扉から逃げ出そうと走り出す。

だがココまで来たゾロがそれを許す筈もなく。

一瞬、彼女に否定された時こそ、その動きを止めたゾロだが。
次の瞬間には既にもう一つの扉を視界に入れて、其方へと身体を移動させて彼女の行き場を失わせて。








そして嫌がる、逃げたがるの腕を引っ掴んで自分へと引き寄せた。


























互いに感じる、懐かしい感触。

離れていた分だけお互いの身体の感触に戸惑って、甘い響きが、鼓動が甦ってきて。








けれど決定的なまでに違ったのはお互いが示した態度で。








片方は会いたがって抱き締めたがって。
もう一方は嫌がって逃げ出したがって。








っ……!」

「やっ、いやあっ、離して!アタシに触らないでっ!」








抱き寄せて、束縛して、二度と離すまいと力を込めて抱きとめて。
嫌なのに抱き寄せられて、逃げ出せなくて、それでも手足をバタつかせてどうにか逃げようとして。








「イヤよ、イヤだったら!離してよ!!」








身を捩って、悲鳴のような声を上げてゾロを否定して。








「もうアタシに構わないで!帰ってよ!帰ってってたら!!」








両の眼から涙を零しながらゾロを拒んで嫌がって。








けれど彼はそんな位は覚悟してココまで来たのだ。

己のした事の意味も理解し、自分の気持ちに気付き、どれだけ彼女を傷付けたのかも分かった今。
に否定される、拒否される痛みを黙って甘受して受け止めて。

再び自分の腕に抱けた事の幸運と、奇跡のようなこの現実を己の船の仲間に心底感謝していた。








そして……









































「……悪かった………俺がバカだった…」












































そう、彼女の耳元で囁いた。

途端、の動きが止まって。
それに勇気付けられるかのようにして再度、口を開いて。








「今更かもしれねぇ、もう遅ぇかもしれねぇ、許してもらえるなんて都合の良い事は思っちゃいねぇ
 ……けどな、………謝らせてくれ…」








抱き締めていた腕の力を抜いて顔を付き合わせるかのようにして。
お互いにお互いの目を見て。

ゾロは酷い罪悪感を伴った眼で彼女を見詰め。
は涙に濡れた眼で、たった今、囁かれた言葉が信じられない、と呆然とした様子で見返して。








過去、この男しかいない、と心身共に捧げた自分に。
惨い裏切りを続けて酷い仕打ちをした自分に今更謝った男を目の前にして。

有り得ない、と思っていた現実が今、自分の身に起こって何のリアクションも返せなくて。
事の成り行きが読めなくて、信じられなくて、只、目の前の愛した男しか見る事しか出来ず。

彼の発した言葉が脳内でリピートされ続けて。























「……お前が好きだ………頼む、…帰ってきてくれ…」























その言葉に、更に目を見開いた。









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