愛しい、愛しい貴方






どんなに辛い目に合わされても
何度も裏切られようとも
プライドをかなぐり捨てるような願いも叶えてくれなくても






それでも貴方が好きでした……






どんな酷い事をされようが
自分で夢見ていたような付き合いが出来なくとも

それでもアタシは貴方が好きでした







ゾロ…







アタシが愛した酷い、男……




















破片 2






















身も世も無く。
只、感じる儘に泣き続け。

自分から離れたにも係わらず。
行ってしまう彼の事で胸が一杯になって。







引き裂かれる胸の痛みに耐え切れずに、絶えず溢れてくる涙を堪えようともせず。

はこの世で一人ぼっちになったような絶望感を味わいながら涙した。







悲劇の主人公を気取るつもりはないけれど。
この世で自分が一番不幸だなんて思わないけれど。

それでも『失恋』の痛みは。

その相手を好きなら好きなだけ。
愛したなら愛した分だけ痛みが大きく重くなって。

実際問題、自分の村を出て来てしまったアタシには。

持ち金も無く、知り合いも居ない、誰も自分の事を知らないこの街で。
帰る手段も何も無くて。

本当に、数時間前に着いただけのこの島へと、独り残されて。







己が望んだ事なれど。
一人ぼっちだと云う事が、更に悲しみを煽って。

地面へと震える手を付いて。

ぽたぽたと、連続して留まる事を忘れたかのように流れ続ける涙。







そんな風に泣いている自分へと。
何処の誰だか知らないけれど、声を掛けてくる人物が居て。




















「……オイ、…お前」





















頭の中が、離れて行ってしまった彼の事で充満していたアタシは。
それが自分へと掛けられたモノだと云う事に気付けずに。

湿る地面を見続けながら泣き続けていた。







一向に気付かぬに業を煮やしたかのように。
声を掛けた男は彼女の肩を掴んで、無理矢理に意識を自分へと向けさせて。

泣き続ける女を顔を強引に自分へと引き合わせて続きを云う。







「……お前、…麦藁の一味の女だな?」







疑問系な質問口調ではあるが。
何処か確信めいたモノを含ませるその口調に。

半ば自暴自棄になっていたは、しゃくり上げながらも答えてやる。







「それっ……が、…どうし…たっ……ての、よ…」







見れば、その男は海軍の制服を来た男で。

大きな十手を背中に背負って。
二本の葉巻を口に銜えて煙を吐き出している、何処かで見たような奴だった。







でも、今の自分のはそんな事はどうでも良くて。







「捕まえ、たい…のなら……捕ま、えて…処刑する…なりっ、何なりしな、さいよっ!」







こんな気持ちのまま生きて行くのは辛過ぎると。
彼等を見送った後の今なら、彼等が無事にこの島を出れた今なら。

例え見世物のように死刑台に乗せられて、処刑されようとも一向に構わなかった。






















自分の人生を、何故か自棄を起こしたかのように他人任せに。
殺したいのなら殺せ、と。

逃げる素振りも見せないで。

部下の報告で、道端で泣いている女が麦藁の一味が居る方向を教えてくれたと知っていたスモーカーは。
何故、この女はこんなに泣きながら奴等と共に島を離れていかなかったのか、と思案して。

安易で、最も妥当な答えが簡単に弾き出されてきた。







何が理由かは知らないが。
この女はあの船を降りた、のだと。

奴等に置いていかれたのだ、と。







だが、幾ら海賊船を下りようとも麦藁の仲間であった事は確かで。

だからと云って、この女が云った通りに捕獲して本部に連れて行こうとも。
仲間になってからの時間が極端に短い事と、この女自身が何の犯罪も犯していない事実に。

所詮、尋問して軽い刑罰を与えられるのがオチだと。

これまでの犯罪者の裁判の経緯を知っているスモーカーは瞬時に判断を下して。
そして彼女の利用方法を思い付く。







そうだ。
この女は短い期間だったが、間違い無く奴等と共にいた女だ。

内部事情、人間関係、思考の仕方、寄りそうな島の選び方。
少なくとも、ほんの少しでも情報はあった方が良い、と。

それに最悪、何も聞き出せずとも『そういう風に』役にたつだろう、と。
スモーカーは彼女から視線を外し、再び自分の世界へと帰って泣き続ける女の腕を引っ掴んだ。







意思を手放したような、どうにでもなれと云ったような様子のその女は。
自分が云った通りに捕まって処刑でもされると思っているのだろう。

逆らう素振りも見せずに大人しく、スモーカーの良い様にされて。

連れられる儘に、少々足を絡ませるようにして早足で歩く自分に連行されて行く。







そしてスモーカーの乗る海軍船に引き摺られるようにして乗せられて。

大佐、直々に連れて行かれる彼女に、周りに居た海兵達が不信そうな目を向けるが。
彼の立場上、誰もその事に何も云えなくて。

彼等は彼女を見送りながら、大佐命令で麦藁の一味の乗るGM号を追うべく船を出航させる。







その間にはスモーカー個人としての大佐部屋へと連れられて。
乱暴な手付きで部屋の中へと入れられて、ソファへと座らせられ。

尋問を開始させられる。







「さて、お前に質問だ。麦藁の一味は何処へ向かった」







その質問で、自分が此処に連れて来られた意味を知ったは。
先程まで泣いていた顔を、一変させる。

強気な女の表情を作り出し。
睨むかのような視線をスモーカーへと向けて。

未だ涙声のクセに、未だ頬に涙の跡を残した儘なのに。







「バカなんじゃないの…。アタシがそれを海軍なんかに喋るとでも思ってるワケ?」







幾らあの船を下りたとは云え。
あそこにはまだ愛しい男が乗っているのだ。

誰が愛しい男を海軍へと売ると云うのだ。







「口が裂けたって云わないわ」







あの人がアタシを愛していなくとも。
アタシは愛していたのだから。

どんなにバカな女だと思われようが、云われようがそんなには関係ない。

全てはアタシが思う儘に事を進めるだけよ。







彼女の答えた内容に、スモーカーは口の端を上げるだけの笑みを浮かべて。







「ふん、そんな事だろうとは思ったがな」







全てを見通したような言い方をした。

それが気に入らなかったのか、の視線は更に嫌悪感を増して。







「短い期間でも麦藁の船に乗っていたお前だ。簡単に口を割るとは思っちゃいねえ」







どんな些細な情報でも聞いていたスモーカーは。
あの船の船長の特徴を良く知っていて。

彼が選んだ人間ならば、そう簡単に仲間を売るような性格はしていない筈だ、と。







「だがな、お前がどんな理由であの船を下りたかは知ねえが。お前は間違い無くあの船に乗っていた一員だ。
 そのお前が海軍船に乗ってるのを知ったら。……奴等はどうする?」







だったら、違う理由でこの女の存在を利用するまでだ。

そのスモーカーの考えを理解出来たは。
途端に汚いモノでも見るかのような目付きになって。







「………最低ね……、海軍って奴等は…」







苦汁を嘗めたかのような顔をして。
怒りを押し殺したかのような声で、そう云った。







「でもね、やれるモンならやってみなさいよ。アンタ達みたいな奴等の好きには絶対にさせないから!」







幾ら、短い間しか海賊として生きていなくとも。
その気性は移っていたのか、それとも元々彼女が持ち合わせていたモノなのか。

さっき迄の泣き崩れていた女の破片すら残さない様子のに。
スモーカーは再び笑み、銜えていた葉巻を灰皿へと置いた。







「流石にあの船長が選んだ女だけあるな。度胸と口は逸品だ」























そう云って、ゆっくりと立ち上り、の傍まで歩んで来て。

自分を見る、その眼差しに何かを感じ。
彼が歩んで来る度には睨みながらも、ソファになんて座っていられずに立って後退りして行って。

己との空間を埋めるかのように近付いて来るスモーカーに。
女としての危機感か、それとも本能的に感じたのか。

彼女の脳内では物凄い勢いで警戒を知らせる音が鳴り響いて。

でも自分はこの部屋から逃げる事も叶わなければ、どうする事も出来なくて。
ただ、睨んでいる事しか出来なくて。







そして感じた危機感は現実のモノとなる。







ゆっくりと伸ばされる手。

その手にどうしようもない危機感と恐怖を感じて耐え切れなくて。
は咄嗟に身体を捻るようにして、その手から逃れようとした。

けれどそれは叶う事無く。

素早い動きでもって、スモーカーはの身体を拘束して。
そして壁へと乱暴に押しやって、張り付けるかのようにして。

拘束する為に彼は自分の身体を押し付けた。







「っや!……離しなさいよっ…」







20センチ近い身長差の為に見上げるようにして睨み付けるも。
上から見下げるようにして薄ら笑いを浮かべるスモーカーに、力で敵う筈も無くて。

押し付けてくる身体を離そうとして押しやるが。
どんなに押しても押しても、一向に動かなくて。







「嫌だって云ってんでしょう?! 退いて、…アタシに触らないで!」







嫌がる彼女の声に、スモーカーは更に笑みを深くして。

彼女の両手を掴んで拘束して。
その頭上で纏めて一つにして片手で括って。

そして低い声でくつくつと音を持った笑いを零した。







「なっ…にが、可笑しいのよ!!」







憤慨したかのように声を荒げるに。
スモーカーは見下した視線を合わせてニヤリと口の端を上げる。







「お前……、あの船の男共の慰み者だったのか?」

「なっ!!…」

「確かにあの船のクルー共は海賊らしからぬ奴等が殆どだがな。それにしてもお前の役割なんて他に無いだろう」







スモーカーの言い分に、余りに頭に血の上るその内容に。
顔を真っ赤にして、怒りの感情を露わにしたに。







「それに加えてお前は女の匂いが強過ぎるんだよ。それじゃあ海賊じゃなくて道端に立って身体売ってる娼婦だ」







連日のようにゾロに身体を預けて、快楽を貪った結果なのだろう。
彼女が持つ雰囲気は、GM号に乗る以前とは掛け離れてしまっていて。

海賊に襲われた時も、海軍に追われている時も。
戦闘らしい戦闘をした事が無かったには。

返す言葉も見つからなかったのか。

ただ、悔しそうに歯を食い縛るしかなくて。







その様を見たスモーカーは少しだけ目元を緩ませて。
そして拘束していた手を離してやる。







突然自由になった自分の両手に驚くも。
次いで押さえ付けていた大佐の身体もすんなりと引いていってくれて。

何故、自分が離されたのか。
ワケの分からないは離された自分の手首を掴むしかなくて。
不信そうな視線を向けた。

それに対してスモーカーは自分のデスクまで戻り、灰皿に置いておいた葉巻を再度口へと銜えて。







「お前……、大方あの船の誰かに惚れて遊ばれて捨てられたんだろう」







そう、云った。










































あの船の







誰かに

ゾロに







惚れて

惚れ抜いて







遊ばれて

付き合おうと云われた言葉さえ、偽りかもしれなくて







捨てられたんだろう…







す て ら れ た…の?






















何もかもが嫌になって、逃げるようにしてあの船を下りて
彼は結局、アタシの云う事等、何一つきいてはくれなくて

同じ船の仲間と、航海士と一緒に居て
仲、睦まじく、キスしてて……






















アタシは







彼に、捨てられたの?







もう、彼に飽きられて

子供が飽きたオモチャを捨てるようにして







呆気なく、物のように、捨てられた…の?























アタシは自分の意思であの船を下りたつもりだったけれど

頭の良い航海士に相談でもして

ウザクなった自分を切る為に







彼は、ああやって、キスするのを、アタシに







見せ付けた、…の?












































「……そ………うそよ……そんなワケないじゃない…」







そうよ、そんな筈ないじゃない







「ゾロはアタシと付き合ってたのよ……、ナミちゃんとじゃないわ…」







例え嘘でも彼はアタシに向かって、アタシに付き合おうと云ってくれたわ







「ゾロと付き合ってたのはアタシよ…、そんなのウソよ……」








































うそよ、うそ

絶対にウソよ!!







そんな筈ないわっ!











































「……んで………何でアンタなんかにそんな事云われなくちゃならないのよ!! 何も知らないクセに知ったような事云わないでよ!!」







呆けたようにして、現実を失ったかのようにして独り言を繰り返した後に。
は逆上したかのように、口調を荒くしてスモーカーへと食って掛かって。







「アタシがどんな気持ちであの船を下りたかなんて知らないクセに、全部知ったような口きかないでよ!!」







先程銜えた葉巻を口にした儘のスモーカーへと。
今度はの方が歩み寄って行って分厚いジャケットを掴んで揺す振って。







「アンタがアタシの何を知ってるってのよ!取り消しなさいよっ……今、云った言葉…取り消しなさいよぉっ…!!」







一旦、止まった涙が再び流れ出して。
昂った感情の儘に、スモーカーが初めて見た時とは全く違った印象で。

怒りを露わにしたその泣き方に。
しかし、自分が放った言葉を否定しきれない彼女の痛みに。

スモーカーは必要以上に自分の言葉が彼女を傷付けたのを知り、眉間に皺を寄せた。

不用意に人を傷付けてしまった事実に。
自分が彼女を泣かしてしまった事実に。

余りにも辛そうに泣く彼女に、流石に人として罪悪感が湧いてきて。







少なくとも、この女の方だけは。

掛け値無しで、本気で、その男に惚れていたのであろう…







こんな職業をしていれば。
自然と女なんて生き物とは縁が遠くなっていくのは仕方が無い事で。

自分が知る『女』と云う生き物は、どうしてもスレた場末の娼婦のような雰囲気を持つ者が殆どで。

彼女達は男をそういう目で見ないのが商売柄、鉄則で。
しかし、たまにその鉄則を破って刃傷沙汰を起こすバカな輩が必ず居て。

そういう女達だけが印象深く記憶に残されていた。







そして大抵そういう事件を起こす女達は、相手の男にベタ惚れで。

今の、この女のように、恥も外聞も持たずに感情を露わにして。
醜い迄の人間性を露わにした状態で。

そんな姿を見る度に、自分は係わらないでおこう、と。
この先、女に惚れる事があっても、こんな風な女を相手にだけはすまい、と。
こんなような醜態を晒すような女なんてゴメンだと思っていたのに。

そう決めていたにも係わらず。







何でこんなにも胸がザワメクのか……







自分が泣かせてしまった負い目なのか。
事実であろう事を、こんな状態の女につきつけてしまった後悔なのか。

どうにも心が落ち着かず。







そうこうしてる間に、は勢いを失って。
掴んでいたスモーカーのジャケットを離してその場へと座り込んでしまい。

止まらない涙を流し続けていた。

その様が、止められないであろう涙を流し続けているその様が余りにも不憫で放っておけなくて。







スモーカーは一旦、その場を離れて傍にあったタオルを引っ掴んだ。
そして着ていたジャケットを脱いで、泣き続ける女へとすっぽりと掛けてやり。

持っていたタオルを押し付けて。

そして細く震えるその身体を抱き締めた。







最初こそ嫌がっていただが。
抱き締められたまま、耳元で囁くように告げられた言葉にぴたりと動きを止め。

そして今度はスモーカーに抱き付くようにして泣き始めた。




















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