分かってた
本当は分かってた

この人が云った言葉がウソなんかじゃない事を……







アタシは飽きられて捨てられたバカな女で

醜態を晒し、海軍の高い地位にいるこの男に納得出来ない心を八つ当たりのようにして
認められない事実を、駄々を捏ねて無くしてしまいたいと願っている

どうしようもない、救いようのない







惨めな女なのだと……知っていた






















破片 3























信じたかった。
信じていたかった。

少なくとも、例え一時の遊びであろうとも。
アタシはあの人の腕に抱かれて、至福の時を過ごしていた筈で。

あの腕の中で乱れて、女である悦びを教えてもらって、同じ夜を何度も過ごして。

幾度も他の女を抱こうとも。
最後にはアタシの処へと帰ってきてくれるのだ、と。

信じていたかったのに……







なのに何で貴方は、同じ船に乗る、仲が良かった彼女と、航海士である彼女とキスしてたの?

二人してアタシをからかって嘲笑ってたの?

用済みになったアタシを二人して笑ってたの?

それより何より、ナミちゃんはゾロの事が好きだったの?

何時から好きだったの?







アタシは何も聞いてなかった。
何も云われていなかった。

気付かなければならなかったのかもしれないが。

浮かれていたアタシは一向に気付けなくて。
ゾロの浮気に手一杯になっていたアタシは全然気付けなくて。







どうして何も云ってくれなかったの?

何時から二人はそんな仲になったの?







どうして?どうして?どうしてなの?







果ての無い疑問ばかりが頭の中に浮かんできて。
しかし当然ながらソレに対する答えは一つも返って来ず。

堂々巡りの悪循環のように。

終わりの無い嫉妬心と猜疑心に塗れた感情をどうする事も出来ずに。







自分の腕に回された、優しい腕に縋るようにして泣き喚いて。

何で海軍のお偉いさんのこの男が。
幾ら止めたばかりとは云え、海賊上がりのアタシへと手を差し伸べてくれるのかは分からないが。

それでも今は、この優しい腕に縋り付いていないと。
自分すらもを保てなくて。







縋って縋って、助けを求めるようにしてこの男を引き寄せて。

それに応えてくれる腕が嬉しくて、嬉しくて。







それでも絶対的に心を支配するあの人との別離が、裏切りが哀しくて…







どうしてアタシを抱いてくれる腕があの人じゃないのか

どうしてアタシはあの船ではなく、海軍船に乗って海軍の男に抱き締められているのか

どうしてこの男はアタシをこんなにも優しく抱いてくれるのか







どうしてこの男は海賊上がりのアタシなんかに謝ってくれたのか…







疑問が尽きる事が無いけれど。
でもその時のアタシには。

余計と云っては失礼だが。
今のアタシの心の中は裏切った愛しい男の事で一杯で。

アタシを抱いてくれたこの男の心情なんて考える余裕なんて破片程も残されてはいなかった。




















けれど、この時

この男の腕に

この腕の体温に、温かさに







救われていた事だけは、動かし難い事実で




















そしてその温かい腕の中に抱かれて

全ての事から守ってもらえるかのような安心感に

絶望感と緊張状態を強いられてきた心が、泣いて泣いて
泣かせてもらえた事に臨界点を突破したのだろう







まるで気絶するかのようにして意識が混濁して

この男の腕の中で眠りに付いた…
















































『俺が悪かった…』




















こんな言葉を他人に向かって云ったのなんざ何年振りだったろう







それに何でこんな海賊上がりの女に向かって
麦藁の一味の、剣士の女だったコイツに向かって







何で俺は謝ったりなんざ、……したんだろう…







胸の中に抱いた女は、俺が謝った途端に。
最初の嫌がり様では考えられない位に従順に。

細い肩を震わせて、コッチの胸が痛くなるような嗚咽を漏らして。

その白い手を、細い腕を…







俺へと伸ばしてきて







抱き付いてきた







その身体の華奢さと、震える肩に。
如何し様も無い程に保護欲を駆られてしまって。

自分へと助けを求めるようにして抱き付くこの女が、可愛く思えて。






















「悪かったから、……俺が悪かったから」























何度も柔らかい、手触りの良い髪を撫でてやりながら。

























「そんな風に泣くな……、頼むから……泣くな…」


























まるで壊れ物を扱うかのようにして。
優しく身体を拘束するかのようにして、抱く腕に力を込めれば。

益々、女はしがみ付いてきて嗚咽を漏らした。







自分とその女との体格差が余りにも大きなモノだったのも一因なのか。
ソイツは俺の胸の中にすっぽりと収まってしまって。

それは最初から、この胸はこの女の為に空けておいてあったようで。

そんな錯覚に陥る程に、俺はこの女の泣く姿に心を乱されていた。







何度も何度も髪を梳いてやって。

震える身体を抱き直してやって。

巻き付く女の腕を好きにさせてやって。







どの位、そうしていたのだろう。
その内に女は静かになり、力が抜けたようにだらりと身体を預けてきて。

余りにもショッキングな事が連続して起こって、興奮していた神経がぷっつりと切れたのだろう。
寝入ってしまったようだった。







泣きながら眠ってしまう等、まるで幼子のような腕の中の女。

しかし容姿、持てる雰囲気はまごう事無く『女』のモノで。

そのアンバランスなモチベーションがどうにも危なっかしくって。
長い時間、こうやって抱いていたにも係わらず。

それでも腕の中で眠る女を離そうとは思わなかった。







しかし、この船の指揮官は間違いなく自分で。
そろそろ次の指示を与えなければならない時刻が迫ってきてて。

そう長い時を、この女と過ごしているワケにはいかない事を知る。







そして彼女の身体を抱き直して、ソファへと歩いて行って。
其処に座ろうと思ったが。

何故か部下が常に出入りするこの部屋には居させたくなくて。
続き間の隣の部屋へと歩いて行って。

寝室になっているソコへと入っていき、自分サイズに作ってあるベッドへと彼女の身体を抱いた儘で座り込んだ。







体勢が変わった為に、腕の中の女の顔が改めて視界に入ってきて。
未だ涙の残る頬に指を滑らせて、ソレを拭ってやって。

そして改めて彼女の顔を見る。







あんな風に泣いた所為なのか。
彼女の顔色は酷く悪く。

そしてあの精神状態が続いていたのか。
腕の中の女の体重はとても軽いモノで。

やつれたような、疲れ果てたような彼女がどうにも可哀相で。







この一時だけでも良いから。
ゆっくりと休んでほしい、と。

そうっとその身体をベッドの真ん中へと横にして。
片隅に追いやられていた毛布を引き寄せて、彼女の身体へとかけてやり。







柔らかい女の感触、甘い香り。
久しく女を抱いていなかったのも原因の一つだろうが。

己の腕に残る、この感触に。

無防備に眠るこの女は、その時にどんな顔をするのだろう、なんて。







あんなになるまで一人の男に惚れて惚れて惚れ抜いて。
信じて疑わなくて。

全てをその男の為に捧げるような事の出来るこの女に。







愛されたのなら、一体どんな感じがするのだろう……



















せめてこの位は

泣き止む迄付き合ってやった礼として受け取ったって罰は当たらないだろう、と







彼女の眠る枕の横へと手を置いて。
覆い被さるようにして。

僅かに開いたその唇へと。







己のソレを重ね合わせた。







温かい唇の感触に酔いながらも。
スモーカーは直ぐに離れて。







しなければ良かった、とでも云いたそうな。
酷い罪悪感を感じたような、自己嫌悪に陥ったような顔をして。

そして彼女の髪を、もう一度だけ梳いてやって。
己の指に名残惜しむかのようにして絡み付く髪の感触に心残されながらも。

部下の所へ向かうべく視線を外し。
踵を返し、部屋を出て行った。












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