幾ら自分に優しい男だからって







他の男を忘れる為に、この俺を利用しようだなんて

お前って女は……






















破片 5
























憎からず思っている女に求められるのは、正直男として悪いモノじゃない。
その女が良い女であればある程、思いの度合いが強ければ強い程。

けれどその求められ方が気に入らねぇ。







縋り付く女の腕を振り払える程では無いにしろ。
未だ、彼女を抱いた儘とは云え。

それでもスモーカーがに手を伸ばす事は無くて。







それをいぶかしんだは、女として恥かしい部類の科白を吐いたのに叶えられなかった所為か。
不信と、信じられないかのような眼差しをスモーカーへと送って。







「……何で?…何でしないの?」







そんな言葉を吐いた。

その率直なまでの言葉に、スモーカーはこの女がどんな扱いを受けていたのかを知ってしまい。
益々、その眉間に深い皺を寄せた。







「悪いが、利用されるのは好きじゃねぇ」

「っ!!」







彼が云った科白で、彼自身が何を考えていたのかを粗方知ったは羞恥に頬を染め。
その腕の中から逃れようと身を捩った。

けれどスモーカーはソレを許さず。
更に彼女を抱く腕に力を込めた。







「確かに俺はお前に惹かれてる。それは紛れも無い事実だ」







だったら何で?







その疑問が表情に出たのだろう。
スモーカーは少し、苦笑いめいたモノを浮かべて。







「そんな女に抱いてくれと云われりゃあ、男としちゃ願ってもねえ事なんだろうが。お前の精神状態を考えてみろ。
 本気でお前が俺を求めてくれてるんなら幾らだって抱いてやる。けど、お前が求めてんのはそんなんじゃねぇだろ?」







落ち着いた仕草で頬を撫でられて。

今迄、そんな風に。
こんなにも優しく触れられた事なんて無いかのような、思いの詰まった撫でられ方に。

の心は酷く乱されて。







「お前を抱くんなら、お前が俺を本気で好いてくれた時だ。それ以外は手を出したくねぇ」






















今迄、それなりに数人の男と付き合ってきた。

ゾロと付き合う前の人達は、彼と違って普通の人で。
所謂『良い人』と云う部類に分けられる人達が殆どで。

ゾロに惚れて、彼と付き合うようになってから。
その感覚を丸っきり忘れてしまっていた自分に酷く驚いて。

けれど、それ程に彼に心を奪われていたのも事実で。







心底惚れた男に、女として最も酷い仕打ちをされて。

本来、在るべき恋愛の形を忘れ去っていたなんて。







それをこの男に云われる迄、気付かなかっただなんて。

惚れた男に云われたのなら、至福の時だったのだろうに。







なのに、云ってくれたのは海軍の大佐であるこの男で。







失礼なのは分かってる。
考えてはイケナイ事なんてのも分かってるつもりだ。

けれど、どうしても思ってしまうのは仕方がないのか。
それとも未練がましい自分の卑しい心の所為なのか。






















何でこの言葉をゾロが云ってくれなかったのか

ゾロが云ってくれたのなら、どんなにっ…





















そう思ってしまったら歯止めが効かなくなって。

如何に自分が酷い扱いを受けていたのかを知って。
本当に彼に玩具のように扱われていたのが良く分かって。

どうにも遣る瀬無くて。

だってアタシの思いに気付いた彼はホンの数分後にはアタシを押し倒していて。
新しい玩具を見付けたかのようにアタシを扱って…







悲劇のヒロイン振るのは大っ嫌いだけれど。







でも今だけは自分が可哀相だったと思っても、…良いだろうか。







破れてしまった恋心を悲しんでいた時よりも、寄り一層大きな悲しみに心を侵食されて。

女として、最もありがたい言葉を貰えた瞬間なれど。
思っていた相手に、そんな風に扱われていた事を知った事の方がショックが大きくて。







何で欲しかった言葉を、ゾロではなくて。
この男が云ってくれるのか、なんて。

酷い事を考えてしまって。
自分に更に嫌気がさして。





















「……ごめ、っなさ………ほ、んと……ごめんなさっ…い……」























軽々しく、そんな言葉を使ってしまった事に対しても。

その言葉を云ってくれたのは貴方なのに。
云って欲しかったのはゾロなのに、なんて考えてしまった事も。

何時の間にか、こんなにも擦れてしまった自分自身に対しても。






















本当ならば、謝罪の意味を分かっているだろうこの男に。
罵ってもらって、バカにするなと怒ってもらえた方が何倍もマシなのに。

なのに、この人は少しだけ苦い笑みを浮かべただけで全てを許してくれるかのように抱き締めてくれて。







その懐の大きさに、人間としての大きさに圧巻されながら。
それでも何一つ文句も云わずに、黙って抱き締めてくれるこの人に。

云ってはならない言葉を、無理に胸へと押し込めて。







だって、『愛した男が貴方だったら良かったのに』だなんて。
自分を少なからず思ってくれる人に対して、酷い侮辱もいい所なんだから。
























酷く相手を傷付けて。
酷く傷付いていた自分を知ってから。

アタシが落ち着くまで彼はアタシを抱き締めてくれていて。






そして強張った身体が彼に全て預けられる位になった時。

不意に抱き締められていた腕が外されて。
目の前に真剣な眼をした男が居て。







「自分で云っときながら何なんだが。……これだけさせてくれ」







ふわりと香ってきたのは、酷く安心出来る葉巻の香り。
彼自身に染み付いてしまった香りが、密着していた時のように香って、アタシを包み込んでくれて。

漸くその香りに気付ける程に冷静さを取り戻せたアタシは。
近付いてくる彼に、拒否する事等考え付かずに。

両手で頬を固定されて、その温かさにうっとりと目を細めれば。
狙ったかのようなタイミングで唇が触れ合って。







まるでファーストキスのような胸の高鳴りに。
身も心も、全てをこの男に預けて安心していられて。







自分も彼へと手を伸ばして求めて。
首へと両腕を回して引き寄せて。







それでも触れ合わせるだけの口付けは終焉を迎えて。

離れてしまった温かさに、物足りないような。
物寂しいような感慨に襲われて。

その思いを言葉に出さずに目で訴えれば。
スモーカーは眉根を下げて、困ったかのような顔をして。







「そんな顔すんじゃねぇよ。俺にだって我慢の限度ってモンがあるんだぜ?」







そんな言葉を云われてしまって。







「あ、……ごめんなさい。でも、もうちょっとだけ……」







けれどアタシはもう少しだけ温もりが欲しくて。
彼を引き寄せて。

再び、唇を合わせるだけの子供っぽいキスを繰り返し、強請った。















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